続きを言って


「ちょっといいかしら? 」

ある朝、サーニャと一緒に少し遅めの朝食をとり、
眠そうなサーニャを部屋に連れて行こうとしていたところで、
ミーナ中佐に呼び止められた、何か小包のような物をもっている、

「どうしたんだ~? ミーナ中佐」

私は今にも眠ってしまいそう……というより、すでに意識は無いだろうサーニャを、
倒れないようにしっかり支えながら、用件を聞く

「この間あなた達に録音してもらった、音声記録のサンプルが届いたの、後でサーニャさんと一緒に確認しておいてね」

そういえばそんな事もやったよな~と思いながら、小包を受け取る。

「でも、あれへんなインタビューだったよな~、というかまず名前からして怪しいよな~、秘め声って何だよ~」
「ごめんなさいね、記者の方からどうしてもって言われて、断りきれなかったの……」
「まぁ私は意外と楽しかったからいいんだけどな」

実際私は、好き勝手やってただけだ、
無理言ってサーニャの録音に同室させてもらって、サーニャが宮藤の事をどう思っているのか聞けたし、
それに、私のことをとっても大切な人だって言ってくれたしな

まぁ、その後、胸を揉むのはよくないって、サーニャに怒られたりしたけど、そんなことどーでもよくなるくらい嬉しかった
それにあれからは、隠れて揉んでるから問題ないぞ

そんなことを話してるとサーニャの頭がガクッとゆれた、
横にならずに寝ると大抵これで起きちゃうんだよな~
「う…んん……エイラ? 」
「起きたか? サーニャ」

まだ、寝たり無いのか眠そうに目をこすっている、

「うん……あれ……ミーナ中佐……? 」
「あらあら、ごめんなさいね疲れてるのに……長く引き止めちゃったわ、それじゃあエイラさんよろしくね? 」

そう言って中佐はさっさと行ってしまう、相変わらず忙しのかな……というか何をよろしくすればいいんだ?
そんなことを考えていると、まだどこか眠そうにしているサーニャが聞いてきた、

「ミーナ中佐と……何の話してたの? 」

「ん~? ああ、こないだ、インタビューみたいなのやっただろ? それのサンプルが届いたから確認しろってさ」
「そっか……じゃあエイラ……今から一緒に聴こう? 」
「いいけど……眠くないか? 」

夜間哨戒であまり寝てないせいか、眠そうだ、
今もどこか視点が定まっていないような気がする、

「大丈夫、それに……今日の夜はお休みだから……」

そうだった、連日の哨戒任務でサーニャが疲れている気がしたから
一週間ぐらい前に、ミーナ中佐にゴネ……もとい交渉をして、宮藤とバルクホルン大尉に代わってもらったのだった。

それにしても、宮藤はいいとして、よくあのカタブツ大尉が了承したよなぁ……
何でも、新人の面倒を見るのも任務のうちだ、とか何とか行ってたらしいけど……


まぁそんな訳で、サーニャと二人、私の部屋で鑑賞会となったのだ。


プレイヤーにディスクをはめ込み、再生する、
前置きも何もなく、スピーカーが私の名前を私の声で喋りだす。

「とっ…突然始まるんだな!! 」
「うん……」

私とサーニャは、ベッドの上で布団を被りながら聴いている、
眠いのか、それとも寒いからなのか、サーニャは私のすぐ隣、3センチもない所で転がっている
少しでも動いたら触れてしまうため、私は動くに動けずガチガチに固まってしまう、

そんな私の状況を、知ってるのか知らないのか、サーニャが私のほうを向いて訊いてきた

「ねぇ、エイラ? 」
「なっ…なんだ? どうしたサーニャ? 」

思わず大きな声を出してしまった、驚かせちゃったかな……

「えっと……エイラは……イッルって呼ばれたほうが嬉しいの? 」
「えっ? 」

一瞬、何の事だか解らなかったが、
そういえばインタビューでそんなようなことを、喋ったのを思い出す
今の状況でいっぱいいっぱいで、スピーカーに耳を傾けるどころではなかったから聴いてなかった、

「えっと……別に、サーニャの呼びたいように呼べばいいよ」

実際、私はサーニャに名前を呼んでもらえるだけで幸せになれるような女だ、

「じゃあ逆に訊くけど、サーニャは…えっと…アレクサンドラ・ウラジ……えっと、ウラジ……」

ウソだろ? 収録が終わったあと何度も言って覚えたはずなのに……


「ウラジミーロヴナ・リトヴャク……だよ」
「ご……ごめん……」

あぁサーニャが答えを言ってしまった……
私は、この忌々しいほど、記憶力の悪い頭を切って捨てたくなる、

「ううん……長くて覚えにくい名前だから……それで、私の名前がどうしたの? 」
「えっと……サーニャって呼ばれるのと、どっちが嬉しいかなって……」

サーニャはキョトンとしたような顔の後、天使のように美しく微笑んだ

「私は……エイラが必要としてくれてるだけで嬉しいの……エイラは……大切な人だから……だから……エイラの好きなように呼んで?」

「サーニャ……」

ああ…なんていい子なんだ…もう…幸せすぎて死にそうだ……


その後も、スピーカーから流れる私の声を二人で聞きながら、
サーニャの……二人の目標であるサーニャの両親を探すという将来について話しあい、

とても幸せな時間が過ぎていった、幸せな……幸せな………幸せな…………




………………………おかしいな、何か空気が凍ってるんだけど……さっきまでお花畑を二人で走ってウフフフフだったのに……

というかサーニャが怖い、凄く怖い、


二人の周りを囲んでいたたくさんの花々は凍り付いて砕け散る、
原因はなんだ? 思い当たる節は……


私は、スピーカーの音に耳を傾けた、どうやら隊員について話してるようだ、というか……胸の事しか話してない気がする………

「えっと……サーニャ…これは……」
「エイラは………女の子の胸しか………見てないの? 」



サーニャにそういわれて、首を横にブンブンふりながら思う、
もしかしたら私には、昔の相棒の亡霊でも憑いてるんじゃないか? と疑ってしまう、
いや、あいつはツイてなかったっけ……





とにかく、私は逃げ道を探すべくスピーカーを聴く、
今ハルトマン中尉が終わったから、次は確かサーニャだ……これでっ起死回生を!! 逃げ道を!!





………………………私何もしゃべってねぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!


何か喋れよ!! 頼むから誰か!! 、逃げ道を創ってくれよ~!!

私は、顔面蒼白、心も凍った……もう落ちるところまで落ちた気がする……



「………切なくなるような………話せないような………そんな胸………」



だけども極寒の中を、マイナス思考で驀進中のサーニャには、まだまだ凍らせたりない様で、
今、私の部屋はスオムスさえ凍るであろう、絶対零度に達しようとしていた。
スピーカーの私は、スオムスは寒いとか抜かしている……
スオムス? そんなもの!! この部屋に比べれば、暑いくらいだよ!!


あれから、どれほどたったのだろう………
いや……スピーカーから私の声が聞こえるから、まだ数分しか経ってないのだろう

だが、私には永遠ともいえる時間が経ったように感じる。
サーニャに嫌われた……その事実が、私を思考の迷宮に誘い込む


今、私はベッドに腰掛けている、こんな状況の中一緒の布団に入っていられるほど、私は強くない……
サーニャは私の後ろ……ベッドの上に座っている、ここからじゃ表情は見えない……


スピーカーの私は、大きいとか小さいとか言ってる、
記者に言わされたやつだ、何でも、買ってくれた人への特典とか言ってたな


さっきから無音だったサーニャの方から、すすり泣くような音が聞こえる……


つららが胸に突き刺さったような……そんな衝撃を受ける


私……最低だ、何が胸だ、そんなに揉みたいなら自分のでも揉んでればいいんだ!!
そんなくだらない事でサーニャを傷付けて……泣かせて……

なのに…まだ、どうやって許してもらおうか考えてる……

謝らなきゃ、そして伝えるんだ私の思いを!!
私は、すくっと立ち上がり、振り返って言う


「サーニャ……あの……ホントにごめん……私は……胸を揉んで喜ぶようなバカだけど……サーニャを傷つけるつもりなんてなかったんだ……」

サーニャは私に背を向けたままだ……
でもそんなこと関係ない、言うんだ!!

「ホントは……私は……サーニャに、ずっと……ずっと……笑っていてほしいだけなんだ……だって……私はサーニャのことが……」


言うんだ!! 私の思いを!!


「サーニャ!!!! 大好きだ~」 サーニャ!!!! 大好きだ~



あれ……? 何か声が被った気がする……


私はスピーカーの方を見る、
スピーカーは、 好き~好き~好き~ と音を吐き出し続けている……
これは……記者にサーニャの事が好きなら告白の練習しよう、とか何とか言われてやらされたやつだ……
取られてたんだ……何か、せっかく覚悟きめて告白したのに、台無しな気がする……


するとサーニャは、ベッドからスッと立ち上がると、私の方へと真っ直ぐ歩いてくる、うつむいていて表情が読めない
ぶたれるのか? それで丸く収まるのなら……だけど……許してくれなかったら……


「あっ……」


サーニャは、そのまま、私の真横を通り過ぎていった、表情が見えない……いや、見れない……


そりゃそうだ、丸く収まるわけない……私は、サーニャを傷つけたんだ……泣かせたんだ……
せれを許してもらおうなんて……虫が良すぎるじゃないか……


声がでない……たぶん今、私は真顔のまま泣いているのだろう、鏡で見なくたって分かる……



ちょっとだけっ じゃなく、もう…これは!!

スピーカーの私が叫んでる……やめてくれ……むなしくなるだけだ……

すると、プチッという音と共に、プレーヤーの作動音が消えた、

無音の部屋……



近づく足音……



突然だった、サーニャが突然、私の背中に抱きついてきたのだ


「続きを……言ってよ……」

私は、お腹に回されたサーニャの細く美しい腕を見ながら言葉の意味を考える……



「ごめんねエイラ……私ね……高慢なの」



「エイラは……いつも、私のわがままを許してくれるのに……私は……」



「でも……いやなの……エイラには……私だけを見ててほしいの……」



「おっきくないけど……物足りないかもしれないけど……でもがんばるから……だからっ!! 」



「ちょっとだけじゃなくて……何なの? ねぇエイラ……」




私は、お腹に回された腕をゆっくり解き、ふり返る、
ずっと泣いていたのだろう……サーニャの目が腫れている、
改めて、私は何をやってたんだろうと思う……

私は、サーニャの両肩に手を乗せ覚悟を決める……


「サーニャ」


ゆっくりと……一言一言に、気持ちを込めて……


「ちょっとだけじゃなくて、ずっと一緒に……側にいてください。」


「はい……」



私は、サーニャの………


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