無題
2月8日。
今日は私にとって何よりも大事な日。
そう、私の可愛くて可愛くて可愛く(略)仕方がない妹、クリスの誕生日だ。
ミーナが気を利かせて休みをくれたので、その日は朝から病院へと向かった。
「クリス、誕生日おめでとう」
病室に入り、用意した小さな花束を差し出すと、クリスは可愛らしい顔を更にキュートに綻ばせ笑った。
「ありがとう、お姉ちゃん」
あああ…
なんっって可愛いんだ…!
「…お姉ちゃん?大丈夫?」
「あ…あぁ、すまん。少し考え事を…」
いかんいかん、余りの愛らしさに我を失いそうになってしまった。
私はベッド脇の椅子に腰掛け、荷物からカメラを取り出した。
「クリス、誕生日の記念に写真を撮らないか?」
「わぁ!うん、撮る撮る!」
私が体を寄せると、クリスはぴったりとくっついてきた。
ああ…クリスはちっちゃいなぁ。子猫のようだ…
そのままレンズをこちらに向け、シャッターを押す。
「写真ができたらすぐに持ってくるからな」
「うん!楽しみにしてるね!」
嬉しそうに頷くクリス。
またも意識が飛びそうになるのをこらえ、荷物を再び開けた。
「まだまだプレゼントがたくさんあるぞ」
「え、ほんと!?」
私がクリスの誕生日の事をウィッチーズの皆に話したら、プレゼントを用意してくれたのだ。
持つべき物は友…だな。
リーネはバースデーケーキを焼いてくれ、ペリーヌは小さいが豪華な手鏡。
少佐と宮藤は、扶桑の「オニギリ」という料理を作ってくれた。
エイラからはお守りになるという綺麗な石、サーニャは音符の形をしたブローチ。
ミーナはカールスラントから取り寄せた本。エーリカは…「中身は内緒」とか言っていたが、見た目は薄めの本だ。
ルッキーニはたくさんのキャンディ。
リベリアンは有り物がないから、と先程使ったカメラを整備してくれた。
「これ…みんなプレゼント?もらっていいの?」
「ああ。どうだ、気に入ったか?」
「うんっ…嬉しい!」
クリスは頬を真っ赤にして満面の笑みを浮かべた。
なんて素晴らしい笑顔だ。この笑顔を見れただけで皆に感謝しなければな。
「今日は休みだから、夕方までお姉ちゃんと遊ぼう」
「うん!」
ああっ…!
クリス、お前の笑顔はカールスラント一、いや世界一だ!
それから私は、ウィッチーズでの生活を話したり、クリスのお気に入りの絵本を読んであげたりとクリスとの時間をたっぷり楽しんだ。
ケーキをあーんして食べさせてあげると、クリスも「あーん」を返してくれた。それだけでこのケーキは夢のケーキへと化した。
味もさすがリーネだ、とても美味しかった。
「ねぇねぇお姉ちゃん」
使っていたフォークを片付けていると、クリスが可愛らしい上目遣いで見つめてきた。
「わんこやって、わんこ!」
「ああ…久しぶりだな」
クリスは、使い魔の耳と尻尾が好きらしい。
たまに出してやって遊ぶのだが、とても楽しそうに笑うので私にとっても天国だ。
私は魔力を解放し、耳と尻尾を出した。
「わあっ!わんこわんこ!」
クリスはぱっと飛び付いてきて、私の頭を撫でる。
「可愛い~、ふわふわ~」
「ふふ…くすぐったいぞクリス」
「だって気持ちいいんだもんっ」
きゅっと抱き締められ、私を取り巻く空間が虹色に染まる。
ああ…いかん、私は姉だ、立派な姉なのだ。でれでれしてどうする…
しかし駄目だ、頬の筋肉は締められても尻尾がぶんぶん動いているのが自分でもわかってしまう…
耳に頬擦りする頬の柔らかさに、思わずぎゅっとしたくなるのを堪えるのも必死だ。
じゃれるクリスは可愛いが、魔法の性質故抱き締めるのを我慢しなければならないのがネックだな…
「お姉ちゃん、すごい尻尾振ってる~」
う、クリスに気付かれてしまった。
「尻尾も触りたい!見せて見せて!」
「う…わ、わかった」
私はくるっと後ろを向き、ベッドに腰掛けた。
「だめ、わんこみたいに手ついて!」
「ぅえっ!?だ、だがそれは…」
「いや…?」
ううう、そんな泣きそうな顔で見ないでくれクリス!そんな顔も可愛いが。
仕方なく私は、ベッドの端に四つん這いになった。クリスを泣かせる訳にはいかないからな。
「わあ、可愛いっ」
クリスは耳と同じように私の尻尾に触れ……ん!?
「お姉ちゃんのお尻可愛い!」
「!く、くくくクリス!?」
小さな手は、尻尾ではなくそれが生えている臀部へと触れた。
「ぷにぷにだね!さっき食べたケーキみたい」
なな、何ということだ…!
まさかクリスの皮をかぶったエーリカじゃあるまいな。いやエーリカがこんなに癒し系で可愛い筈がない!!
クリスの手は、感触を楽しむかのように臀部から太ももまで行き来する。
「く…っ…」
駄目だ…触っているのはクリスだというのに、変な気分になってしまいそうだ。
「く…クリス、くすぐったいから、もう…」
「えー、お姉ちゃんこんなに尻尾振ってるよ?」
「…!」
首を向けると、自分でも恥ずかしいくらいパタパタと左右に動く尻尾が見えた。
「お姉ちゃん、なんか可愛い」
ああ、いたずらっ子の顔をするクリスも可愛い……
じゃない!い、妹にこんな事をされて喜ぶなんて姉としての威厳が…!
しかし下手に止めさせようとしたら、怪我をさせてしまうかもしれないし…どうしたら…
「わ、尻尾ぴくぴくってする」
「あっ!だ、駄目だ…引っ張るな、クリス…んんっ」
尻尾は弱いんだクリス、そんなにしたら…ああしっかりしろ、ゲルトルート・バルクホルン!
うぅ…でも、だんだん体に力が入らなくなってきた………きもちい……
「トゥルーデ、クリスの調子は………」
その時、病室の扉が開きミーナが入ってきた。同時に私達を見て固まった…
「…何…してるのかしら?」
――――
「で、どしたの?」
「どうしたも何も…説明はしたが、ミーナは帰り道ずっと笑顔だったよ…」
「こわー」
基地に戻ってきた私は、恥ずかしさやら情けなさやらで精神的にとても疲れていた。
「ま、トゥルーデとしてはクリスが楽しかったならいいんじゃないの」
隣に座ったエーリカはけらけらと笑いながら言った。
くそ、他人事だと思って……間違ってはいないが。
「…そういえば、お前があげたプレゼントは何だったんだ」
ふと思い出して尋ねると、エーリカはにっと目を細めた。
「トゥルーデの写真集」
「……は?」
「いろんなトゥルーデの写真を撮ったの。そんでアルバムにした」
いつの間に。
それは盗撮というんだ…と咎めようとしたが、まぁ…許してやるか。
「さっき撮った写真も…アルバムに貼ってやらねばな」
クリスと二人で撮った写真の出来を思い浮かべ、あたたかい気持ちになった。
きっと、それはそれは可愛い笑顔で写っているのだろう。
私の大事な妹、クリス……
数日後、出来上がった写真の私が、他人には見せられない程だらしない表情で写っていた事は、この時は知るよしもない……
その頃の病室
「わあ、お姉ちゃんの寝顔可愛い~!あはは、これりんごみたいに真っ赤!あ、お尻のアップ…これは胸かな…」