第29手 肩にもたれる 茜さす 帰路照らされど
夕暮れ時だというのに車内には誰も居なかった。
荷物を網棚に乗せて、4人掛けの席に座ると、ゆっくりと列車が走り始めた。
ガタン・・・ゴトン・・・ガタン・・・ゴトン・・・。
規則正しい車輪の音が何とも眠気を誘う。
案の定、窓際に座った彼女は直ぐに寝息を立て始めた。
今日は朝が早かったから仕方ないカナ・・・。
そんな事を考えながら、着ていたコートを脱いで彼女に掛けた。
穏やかな彼女の寝顔を眺めていると、不意に"あの言葉"が脳裏を過ぎる。
ありがとう、エイラ・・・ずっと、友達でいようね。
欲しがっていたぬいぐるみを買って上げた時、彼女は笑顔を浮かべながら私にそう言った。
あんまり感情を露にしない彼女が喜んでくれて、人見知りな彼女が私に心を開いてくれて、私は嬉しかった。
嬉しかったけれど・・・胸の奥が凄く痛くなった・・・。
こつん・・・。
肩に何かが触れた。
顔を向けると、ちょっとクセのついた灰色がかった髪の毛。
無邪気で穏やかで少し幼い可愛らしい寝顔。
「ずっと、友達でいようね、か・・・」
私と彼女は友達の関係・・・あくまでも"友達"の関係・・・。
「チクショウ・・・こんなに・・・こんなに近くにいるのに・・・友達なのカヨ・・・」
肩にもたれる彼女を見るのが辛くなって、思わず目を逸らす。
窓の外は綺麗な夕焼け空のはずなのに・・・。
真っ赤な太陽が涙で滲んで、ぐしゃぐしゃの目玉焼きみたいに見えた・・・。