大人になっても
「シャーリーさん、お誕生日おめでとうございます」
「おめでとうございます、シャーリーさん」
ラウンジに呼ばれた私は、みんなの笑顔とクラッカーの嵐に迎えられた。
いつ準備したのか知らないけど、ラウンジは紙テープや風船で
綺麗に飾りつけられている。
リベリオン人として、こういうパーティー会場を見ると思わず興奮してしまう。
原隊にいたときは仲間の誕生日に祝砲がわりの大砲ぶっ放したっけ。
打った奴らと一緒に営倉送りになったのも今じゃいい思い出だ。
みんなに促されてテーブルに付くと、目の前には大きなケーキ。
リーネのお手製かな。こいつ、戦うのはダメだけど、
こういうことは本当に上手だからうらやましい。
私なんかはストライカーいじるしか能がないからね。
リーネが慣れた手付きでケーキを切りわけている最中に部屋を
ちょっと見まわして、私は嫌な違和感と胸騒ぎを感じた。
あいつがいない。
パーティーをやってて、ケーキがあって、みんなが集まるところに
あいつがいないなんて、今まで1度もありえなかったことだ。
今朝は元気そうだったのに、なんで?
「おめでとうな、リベリオン」
そんなことを考えていた私に声を掛けてきたのは、
あのお堅いカールスラント軍人だった。
「ありがとう。堅物でもこういう会には出るんだね」
「隊員の誕生日を祝うのも、副官の努めだ」
「義務で祝われてもあんまり嬉しくないんだけど」
あいかわらず堅いなぁ、堅物は。
堅いうえに口下手なんだから救いようがないよ。
「ところで、ルッキーニ見なかった?」
「ルッキーニか。そういえば見てないな」
カールスラント人でもルッキーニがいないのは不思議に思うんだね。
やっぱり、この場にルッキーニがいないってのはそのぐらい異常なことなんだ。
「ルッキーニちゃんなら部屋にいますよ」
宮藤が割りこんできて、私にケーキを渡した。
「部屋に?」
「声は掛けたんですけど、出たくないって。具合でも悪いのかな」
「そうか……」
元気が取りえみたいなルッキーニにしちゃ珍しいな。
朝は元気そうだったから余計に不安だ。
「みんな、悪い。ちょっと様子見てくるよ。
リーネ、ルッキーニの分のケーキ……」
「はい、バルクホルンさん。ちゃんと用意してありますよ」
あらためて私がいうまでもなく、リーネはちゃんとルッキーニの分を
用意しておいてくれたみたいだ。本当、気がきく奴だな。
「ありがとう。悪いけどちょっと行ってくるよ」
「あ、待って」
ルッキーニの分だけ持って席を立った私に、リーネが私の分のお皿を渡した。
あんまり怒らないであげてくださいね、ってどういう意味なんだ? リーネ。
「ルッキーニ、入るぞ」
ノックをして部屋に入ってみたけど、中には誰もいなかった。
具合が悪いというから部屋にいると思ったんだけどな。
ひょっとしたら、悪いのは身体の具合じゃないのかもしれない。
それだったら、ルッキーニがいるのはあそこしかない――。
広い格納庫のすみ、私のストライカーの前に見慣れた小さな子猫がいた。
「やっぱりここだったんだ」
「シャーリー……」
なぜだかちっちゃくなっているルッキーニのとなりに腰を下ろす。
「どうしたんだ? なにか嫌なことでもあったのか」
「なんでもない……」
私の顔も見ずにルッキーニが答える。
「そっか。じゃ、ラウンジ行こうよ。みんなが待ってる」
「やだ。行かない」
「どうして」
「やだやだ! 絶対行かないんだから!」
「ルッキーニ、どうしたんだよ」
「やだ! 絶対行かない!
シャーリーの誕生パーティーなんて絶対行かない!!」
そういってルッキーニは大声で泣きだしてしまった。
「ルッキーニ、どうしたんだい。何があった?」
ぐずるルッキーニを抱き、優しく頭を撫でてやる。
「……シャーリーの誕生パーティーなんてやだ。
シャーリーの誕生日なんてやだ」
「どうして?」
「だって、シャーリーが大人になっちゃうもん」
「大人に?」
ルッキーニは小さくうなずく。
「だって、誕生日が来たら、シャーリー、大人になっちゃうもん。
大人になったら私みたいな子供なんかと遊んでくれなくなるもん……」
ルッキーニの目にはまた涙がたまってくる。
「嫌なの! シャーリーがどっか行っちゃうのなんて絶対嫌なの!
ずっとずっとシャーリーと一緒にいたいの!
ずっとずっと遊んでもらいたいの!」
そういってルッキーニはまた泣きだしてしまう。
あぁ。いくらロマーニャの天才ウィッチだって、いくら少尉だって、
この子はまだ12歳の女の子でしかないんだ――。
「バカだな、ルッキーニ。誰が、私がどっか行っちゃうなんて行ったんだ?」
「だって……」
「私はどこにも行かないよ。大人になっても、おばあちゃんになっても、
ずっとルッキーニのそばにいる。ずっとルッキーニと一緒に遊ぶ」
「シャーリー……」
「この戦いが終わって、ウィッチじゃなくなって軍隊をやめても、
私はずっとルッキーニのそばにいる。ずっと、ずっと」
気がつけば、私の目にも涙がたまりはじめていた。
大きな体して情けないなぁ、私は。
「ルッキーニこそ、私が大人になっても、おばあちゃんになっても、
一緒にいてくれるか?」
「いる! ずっとずっと一緒にいる! 大人になっても、おばあちゃんになっても、
ずっとずっとシャーリーと一緒にいる! 大好きなシャーリーと一緒にいる!」
ルッキーニは私に抱きついて顔をぺろぺろとなめてくる。
今泣いたカラスがもう笑うってのはこういうことを言うのかな。
あぁ、もう。そんなに舐められたらもうみんなのところに行けないじゃないか。
まったく、本当にこいつは。
いつでもすごくお子様で。みんなを振り回して。自分勝手なことばかりして。
そして、自分で勝手に悩んで……。
でも、そんな君が、すごく可愛らしくて愛おしいんだよ。
そうだろ、私の大事なガッティーノ ――。
Fin.