Make me Happy,Make me Joke.


あたしには秘密がある。あの日からずっと、誰にも言えずに胸の奥にしまい込んで隠し通してきた想いが。
この想いは叶わない。だから持っていても邪魔なだけ。
そんな当たり前のことはわかっているけど、それでも捨てられないのは多分、
心のどこかでまだ諦め切れていないからなんだろう。

いつか国に帰って普通の生活に戻れば、そのうちこんな感情は綺麗サッパリ忘れちまうに違いない。

そう思っていたっていうのに。

────────

何日か前から竹井大尉という人が基地に来ている。
どうしてロマーニャの統合戦闘航空団の人間がこんなところにいるのかは知らないが、
まあ坂本少佐も去年突然扶桑に行って帰ってきたりしているし、珍しいことじゃないのかもしれない。
だが問題はその竹井大尉だ。彼女ときたら、基地にやってくるなり坂本少佐にベタベタし始めたのだ。
最初は任務で同行しているのかと思ったが、すぐにおかしいことに気付いた。
まず、しきりに腕を組みたがる。肩に頬を擦り寄せて、まるで恋人気取りだ。
それに他の隊員に対する態度と坂本少佐に向けるそれが、明らかに別物だ。
前にあたしが廊下で出くわした時は、あの憎たらしい愛想笑いで
「おはようございます、イェーガー大尉」とだけ言って一瞥もくれずに立ち去ったクセに、
坂本少佐に出会った時は思い切り舞い上がった調子で喜色満面のハグと来やがる。
しかもあのいけ好かない扶桑語。母音の多い言葉なのはわかってるが、
それにしたってあの間の伸びようはどこからどう見ても媚びを売る喋り方だろう。
とか何とか考えている間にも、他の隊員たちの目の前で朝っぱらからサラダの食べさせっこだ。
させっこというか竹井大尉が一方的に食べさせているだけだけど、
それにしたってあの鼻持ちならない「はい、あーん」というのはそろそろ我慢の限界だ。

食後の僅かな隙を突いて、一人になった竹井大尉にあたしはさりげなく詰め寄った。

「なあ、扶桑の大尉さんよお。」
「何かしら?」
「坂本少佐とどういう関係なのか知らないけど、あんまり目立つことしないでくれよ。
 あんなにいちゃいちゃしてたらその、何だ、まずいだろ。色々と。
 こっちは13歳の子供まで抱えてんだ。少しは自重してくれ。」
「……。」

竹井大尉は聞いてるんだか聞いてないんだかわからないような顔でふんふんと頷くと、
とんでもない一撃を言い放ってきた。

「あなた、美緒の事が好きなの?」

なんつー非常識な洞察力だよ。

「そんな話はしてないっての。あたしも隊の中じゃ一応上の立場だからさ、こういう役が回ってくるわけよ。
 仮にも余所の隊の責任者代理にうちの隊長が自ら厳重注意なんてのはよろしくないってんで、
 こうしてふたつみっつ下のあたしがご指名ってわけ。わかる?
 これ以上うちの風紀を乱されると困るんだよ。自分の勝手でやってることなら尚更な。」
「あらあら、やっぱり怒られちゃったわね。」

悪びれる様子もなくウフフ笑いを返してくるこいつはもしかしてあたしにブン殴って欲しいんだろうか。
よっぽど怒鳴りつけてやろうかと思ったがあたしは一応温和なヤツということで通しているのでやめておく。
「怒ると怖い」なんてナンセンスなレッテルを貼られるのは御免だしな。

「……とにかく、見苦しいから必要以上にベタベタしないでくれ。みんなウンザリしてるんだ。それだけ。」
「Kuso namaiki na Riberian ga, Watashi no jama shinai de yo ne.」
「何だって?」
「独り言よ。わかったわ。どうせもうすぐ帰るし、大人しくするわ。」

ああ、そりゃいいことを聞いたよ。これ以上あたしがモヤモヤしないうちに、早くどこにでも帰ってくれ。

────────

コトが起きたのはその日の夕方だった。坂本少佐に「ちょっと」の一言で呼び出された私は、
肌寒い廊下で司令室へ向かうエレベーターを待っていた。
ただでさえテンションの下がるシチュエーションだってのに、
何でよりによってまたこいつと鉢合わせしなきゃいけないんだ。

「あら、あなたも司令室に?」
「……そうだけど。」

こんなやつとエレベーターに乗り合わせなきゃならないとは、今日はついてないな。
もちろんそんな思考はおくびにも出さず、なんでもない風を装うのが大人ってもんだけどさ。
仕方ないので意識を逸らすために階層表示だけをじっと睨む。ええい、遅い。

「ねえ、イェーガー大尉。」

だから何で話しかけんだよ!!

「何?」
「これは私がふと言いたくなって勝手に言ってることだから別に聞かなくてもいいけど……」
「じゃあ勝手に言っててくれ。」
「……私はね、美緒のことが好きよ。ずっと前から。」

チーン。

エレベーターの到着を知らせるベルと、あたしの脳の血管が切れる音がハモった。

「おいあんた、それは───!」



「誕生日おめでとう。」



───はあ?

────────

いつの間にかエレベーターのゲートが開いていて、そこに坂本少佐が仁王立ちしていた。
そういえば今ベルが鳴ったんだった。それで少佐、今なんて?

「お前たち、今日が誕生日だろう。ほれ、プレゼントだ。受け取れ。」
「えと……?」
「あの……。」
「んん?シャーリー、何で醇子に掴み掛かってるんだ?喧嘩でもしてたのか。」
「あ、いえ、何でもないです。しかし、これはどういう……?」
「だから、見ての通りだ。何だ、リベリオンには誕生日を祝う習慣がないのか?」

習慣も何も、それがなかったら"Happy Birthday"なんてフレーズは存在しない。
よくわかんないけど、今坂本少佐が差し出した2つの小さな紙袋が誕生日プレゼント……誕生日?

「あれ?今日って何日だっけ?」
「何を言っているんだ。今日は2月13日、つまりお前たち二人の誕生日だろうが。
 軍人が今日の日付も把握しないでどうする。というか、本当に忘れていたのか?」

ああ、なるほど!
今日あたしの誕生日だったのか!そんなことはすっかり忘れていたよ。

「まさか少佐からプレゼントをもらえるとは思わなかったよ!ありがとう!」
「どうした醇子、お前はいらないのか?」

急沸騰したテンションに変なところから穴が開いてシュワシュワと気が抜けた。
竹井大尉とあたしが同じ誕生日だって?冗談じゃない。
そう思って思わずヤツの方を振り返ると……ああ、最悪だ
あたしはこの目を知っている。ご主人様に思い切り褒められた時の、従順に諂う犬畜生の目だ。

「美緒、私の誕生日覚えててくれたのね……!」
「当然だ。お前と私の仲だろう。」
「♥♥ 美緒、大好き!愛してる!!」

抱きついた。というか飛びついた。
勢いで押し倒した。
さりげなく胸触った。


「あたしの少佐にべたべたすんじゃねぇーーーー!!!!」


その後、私の発言と行動の根拠について、
坂本少佐から散々問い詰められたことについてはあまり思い出したくない。


endif;


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