スピーディー・ワンダー


「お誕生日おめでとーーー!!!」
「おめでとーーー!!!」
「ありがと。 いやー、悪いね。 こんなパーティまで開いてもらっちゃって。」
祝ってくれるみんなに笑顔を返す。 日もとっぷりと暮れて、オープンテラスは即席パーティ会場と化していた。
2/13。 今日はあたしの誕生日。 おかげさまでxx歳になりましたよ! xxには好きな数字を入れてね! 女は年齢じゃないからな!
誰に依存するガラでもない。 人生は一期一会。 そんな生き方してるけど、たまにはこんな事があってもいいさ。

「えへへ! 今日は腕によりをかけちゃいました。 扶桑の料理はお休みです!」
宮藤の笑顔に私の顔も綻ぶ。 嬉しいね。 こんなに頑張ってご馳走を揃えてくれたリーネと宮藤に、感謝の気持ちで一杯になる。
テーブルを見渡せば、どれもこれも美味そうな物ばかり。 鳥のモモ肉。 ローストビーフ。 ポークソテー。
……ぶっちゃけ肉ばっかりだな。 なんだか女の子の誕生パーティっぽくないと言うか、あたしはそんなに肉好きと思われてるのか?

「シャーリー、誕生日おめでとう。 お前はウィッチとして今まさに花盛りだ。 今後一層の活躍を期待しているぞ!」
「ありがとうございます、少佐。 ん? これ……。」
「あぁ。 私からの贈り物だ。 受け取ってくれるか?」
「勿論ですよ。 開けていいですか?」
料理に手をつけていると、少佐からの祝辞とプレゼント。 きたきた! やっぱり誕生日と言えばプレゼントだよね。
勿論、そんな過度の期待や要求なんて抱いてたわけじゃないけどさ。 楽しみにしてなかったと言えば嘘になるや。

「うわ……。 こっ、これ…………。」
「美っ、美緒!? 一体どうしちゃったの!?」
「わわわわわ! きわどい! きわどいですっ!」
あまりに意外な中身に、周りまでがざわついている。 少ない布地に瀟洒な装飾。 大胆な透け方の予想されるレース。
少佐がくれたのは、ピンク色の物凄くきわどいランジェリーだった。 うひゃあー。 凄っ。 むしろ凄すぎる!
顔が茹で上がってるよね、あたし。 そりゃま、ネンネぶる気はないけどさ。
それにしたって、誰と付き合った経験も無いあたしに、こんな強烈なデザインは早すぎるよ!!
まさかあの少佐が、こんなオトナな感じのプレゼントをくれるなんてさ。 あまりに意外すぎて、少佐の方をぼんやり見やる。

「はっはっ! 気に入ってもらえたか? 私は洋服のプレゼントには疎いからな、店員の知恵を借りてみた。
 それは勝負下着と言うそうだ! 日々決戦の気持ちで臨む我々に、これ以上なくピッタリだと思わんか? わっはっはっ!!!」
あっあー。 なるほどね。 そういうわけですか。 ようやく得心がいって、豪快な笑い声に苦笑が漏れる。
少佐は勝負の意味が分かってないのだ。 分からずに、いつもの少佐の価値観で、質実剛健の意をこめてこんな物を贈ってくれたのだ。
みんなも溜飲が下がったような顔をしている。 いやー、いきなりのサプライズだったなぁ。 ちょっと違う意味で!
まぁね。 正直、意外だったけどこのプレゼントは嬉しい。
せっかく貰ったんだから、いつか使ってみようかね。 その時までに、バストが成長してなければいいんだけどね!

「私からはこれ。 香水ですわ。 あなたも年頃の女性なんですから、少しはオイル以外の匂いもさせた方がよろしくてよ?」
「おぉー、サンキューペリーヌ! 嬉しいよ。 えっと……ボルドニュイ? って読むのか?」
「えぇ。 ガリアの言葉で、夜間飛行、という意味なのですけれど。 この小説にちなんで付けられたものですわ。」
おっと! 差し出されたのは優しい絵柄が表紙の小説。 ペリーヌのプレゼントはなんと二段構えだった。
いいねー、こういう段取り。 こんなの何でもありません、みたいな顔しちゃってるけど、あたしのために演出まで考えてくれたんだ。
やっぱいい奴だね、ペリーヌ。 しばらくはからかい方も手加減してやろっかね!
にしても、これが世界的に誉れ高いガリアの香水か。 これをつければ、あたしもレディに化けられるかもねっ。

「えへへー。 私とリーネちゃんはちょっぴり一セットっぽい内容ですよー。」
「割れ物だから、開ける時注意してくださいね。」
今度は宮藤とリーネか。 一セット? 一人が一つずつ箱をくれたけど、中身が一セットって事なんだろうか。

「リーネのはドルトンのティーセットか。 可愛いね。」
「シャーリーさんは部屋でお茶ってタイプじゃないかなぁ、とも思ったんですけれど。 道具があれば違うかもって思ったんです。」
「いや、ありがと。 まぁティーカップ片手にストライカー整備ってわけにはいかないよな! なはは!」
食器関係は地味に嬉しいね。 あたしが自分で食器買うなんて絶対に無いし! でもやっぱり味って器で全然違ってくるんだよな。
気分って重要だよ。 リーネがくれたのは、とてもリーネらしい温かみのある絵柄で。 うん。 大事にしよう。

「で、宮藤は……おぉ。 ひょっとしてこれ、扶桑のティーセット? なるほどね。 ブリタニアと扶桑。 一セットってこういうわけか。」
「やはは。 古伊万里って言うんですけど、どうですか? ブリタニアの美術にも負けてないでしょ?」
宮藤のお国自慢に半ば本気で頷き返す。 や、凄いわ。 ものすごく綺麗だ。 繊細でオリエンタルなデザインは、まさにアート。
これは結構ショックだよ! 扶桑のティーセットって、なんだっけほら、キュース?
あんな感じのもっと渋い一式だと思ってたけど。 どうやら陶器の文化も只事じゃなかったみたいだね。

「ティーセットばかり二つもあってすみません。 他のプレゼントは次のイベントや来年の誕生日にって事で!」
くすり。 来年ってさぁ。 あたしたち外人部隊がそんなに長く必要だったら困るんじゃないの?
ま、そんな事まるっきり考えないで、何も疑わず来年もみんな一緒だって思ってる辺り、すっごく宮藤らしいけどさ。
来年か。 ま、今からそんな先の事考えててもしょーがないね! 今はパーティを楽しまなくっちゃ!!

「うにっ。 そいじゃ次はあた……。」
「とっとっと。 待て待てルッキーニ。 次は私らにやらせろヨ。 エースは最後に出てくるもんダロ?」
「ルッキーニちゃんごめんね。 私たちが先でいい?」
ルッキーニの順番かと思ったら、エイラとサーニャが割り込んできた。 ? 何慌ててるんだ? そんな先を争わなくてもいいんじゃない?
ま、あたしはどんな順番だろうとみんなからプレゼントを貰えるだけで嬉しいけどね。
……とか思ってたら、さ。 貰えるだけで嬉しいとは限らないとすぐに思い知らされたね。 嫌と言うほど……。

「んじゃ私らの番ダナ。 これ、私とサーニャでうんうん考えて選んだプレゼント。 おサルのサルバドルくんなんダナ。」
「さ、サルバドルくん……?」
エイラとサーニャは二人で一つのプレゼントか。 本当に仲がいいね。 がさがさ。
包装紙を引っぺがすと、現れたのはサルのぬいぐるみ。
……いや。 サルじゃない。 せめてサルならよかった。 サルであってほしかった……。

「き…………きもい……。」
サルバドルくんとやらは、ゴリラとオランウータンと近所のオヤジを掛け合わせて、しこたまぶん殴ったような恐るべきツラをしていた。
異常なほどにリアルで無駄に八頭身あるそのぬいぐるみは、リベリオンのコミック・ヒーローのような劇画マッチョ。
類人猿? 激怒するゴリラ? 気合に満ちみちた面構えは、あまりに濃すぎて吐き気がしそうだ。
なんだこの目! 怖すぎて合わせられないぞ! うぐぐ……。 い。 いらねぇ…………。

エイラたちのプレゼントは怖い、きもい、イライラするという三拍子揃ったとんでもない代物だった。
い、いや。 これが気にくわないのは、あくまで私の価値観にすぎないよな。
あたしの誕生日を祝うために選んでくれたんだ。 ちょっとくらい常軌を逸してるからって、それが何だって言うんだ?
大切なのは真心だ。 その気持ちを無碍にするなんて、あまりに心無いじゃないか。

「ふ、二人ともありがとう。 なかなか刺激的なプレゼントだな。 は、は。 魔除けになりそうで丁度いいや。」
「……シャーリーさん、笑いが引きつってる。 だからやめようって言ったのに……エイラったら。」
「やめようって思ったのかよ!!!!!!」
怒りを大爆発させてサルバドルを投げ飛ばす。 自分が嫌なもんを人に贈るんじゃねー! 我慢しようと頑張ったのが馬鹿みたいだよ!!

「なんダヨ。 この圧倒的な存在感。 たかだか市販の量販品でこんなクオリティの物は滅多に無いんだぞ。」
「こんなもんが世間にゴロゴロしててたまるか!!! こいつ怖すぎんだよ!! 人にも猿にも滅多に居ない怖さだよ!!!!!」
「ウム。 人でもない。 猿でもない。 近くて遠い存在。 ぬいぐるみって奴は友達以上恋人未満なんダナ。」
「こいつと恋を育める気がしないんだが??」
「ジュテ~ム……。」
「うぜえ!!!!!!」
すっかり忘れていたが、そう言えばエイラはこういうエキセントリックな物を好む奴だった。
こいつ自身は割と本気でこれがいいと思ってるわけで。 だからサーニャも強く言えなかったんだろうな。

「まぁ普通に考えたらこんなもん要らないよナ。 きもいし。」
「きもいって分かってるんじゃんかよ!!! ブッとばすぞ!!!!!!」
「まぁまぁシャーリー落ち着きなよ。 こーゆーのって、一つくらいはネタっぽいプレゼントがあった方が楽しいもんじゃない?」
ハルトマンに諌められて何とか矛を収める。 うぐぐ。 ま、まぁ言ってる事は分かるんだけどさ。

「次はミーナ、トゥルーデ、私、三人で作ったプレゼントだからね。 安心していいよ。 今出すね~。」
そう言って満面の笑顔からぽやーんとマイナスイオンを振りまくハルトマン。 アロマの力にあてられて、私もようやく落ち着いた。
さてさて。 ハルトマンがごそごそと取り出したのは、ちょっと大きめの箱。 おぉっ。
作ったとか言ってたし、これ、ひょっとしてケーキかな? 見当たらないと思ってたけど、なぁーる。 こういうタイミングなわけね。

「ありがとう、中佐、ハルトマン、バルクホルン。 手作りってだけで嬉しいよ。」
「まぁ、何の変哲も無いケーキだ。 リベリアンの舌に合うかどうかまでは分からんがな。」
バルクホルンのつんけんした物言いも丁度良いスパイスさ。 うんうん。 たまにはこういうアットホームなのも悪くないね。
おっとっと、いけない。 他のみんなを待たせてちゃ悪いよな。 早速箱から出して、ケーキを等分するとしよっか!

「あっ。 まだ開けるのは待って。 ちょっと準備するから。」
準備? 不可解な事を呟いたハルトマンが、足元にうずくまって何かをごそごそ取り出している。
がちゃ。 がちゃ。 すくっ。 再び立ち上がったハルトマンは、物々しいガスマスクを装着していた。

「お待たせ。 開けてもいいよ。」
「開けられるわけねーだろ!!!!!!!!」
ドカンと机に拳を振り下ろす。 どこの世界にガスマスクを装備しなきゃいけないような箱を開ける馬鹿がいるんだよ!!!
何なんだ? こいつらにとって誕生日は持ちネタを披露するイベントなのか!? えぇ!!?

「やだなぁ。 本当にただのケーキだってば。 私はともかく、流石にミーナまで悪ノリするなんて無いと思わない?」
「そんな格好で言われて納得できるか! そもそもあんた、料理は壊滅的に駄目じゃなかったかぁ?」
「まぁね。 白状しちゃうけど、レシピ考案、調理、味見の三役に分担したんだ。 だから一応三人の共同作業ってわけ。」
……なるほど。 実際に作ったのはバルクホルンってわけか。 それならまぁ安心できるけど……。

「ううん。 実際に作ったのは私。 レシピがトゥルーデで、味見がミーナだよ。」
「 な ん で そ う な る ん だ よ !!! 考えられるパターンの中で、一番やっちゃいけない配役じゃねーか!!!!」
傍らのサルバドルをタコ殴りにしながら全身全霊で叫ぶ。 こいつら本当にもう! 本当にもう!
調理はバルクホルンにしかできないだろ! 味見は中佐にさせたら駄目だろ!! 配置に悩む余地なんて何処にも無いだろ!!!
一体あたしに何の恨みがあるんだよぉぉぉぉーーー!!!!!!!!
かぱっ。 へっ? 一人でじたばた煩悶していると、中佐があっさりと箱を開けた。 ちょっ、ちょっ、ちょっと!
思わず鼻と口をガードして刺激臭に備えた、けれど。 あれ? 何の匂いもしてない……よな。 にっこり笑う中佐。

「そんなに怖がらないで。 フラウ、本当に頑張って作ったのよ。 照れ隠しでこんな事してるだけ。」
「大体、私が傍についていたんだ。 異物を作らせるわけがないだろう。 まぁ、苦労が無かったと言えば嘘になるが。」
それ。 恐る恐る覗き込んだ箱の中に収まっていたそれは。

「……苺の…………シャーロット。」
母親が作ってくれた事もある、あたしと同じ名前のケーキ。 パッと見は均整とは言えないけれど、なんて素晴らしいんだろう。
苺の間に差し挟まれたプレートにはチョコレートでイラストが描いてあって。
あたし。 ルッキーニ。 宮藤。 間違いない。 これは、あたしたちみんなの顔が描いてあるんだ。

「ごっ、ごめん。 あたし……。」
「ややや、謝らないでよ! さっき、私はともかく、って言った通りっていうか。 悪ノリしすぎちゃった。 ごめんね。」
ガスマスクを外すと、ちょっと恥ずかしそうに舌を出すハルトマン。
考えれば、三人の内で一番まともに料理ができるバルクホルンだって、宮藤やリーネほど料理が好きなわけでもない。
この三人でこれだけの物を作るなんて、どれだけの苦労があっただろう。 目頭につんと熱い物が込み上げる。

「そんなに驚く事ないダロ? 私たちは家族なんだからな。 ジュテ~ム……。」
「お前は真剣に反省しろ。 マジで。」
エイラにサルバドルを押し付けつつ、中佐が切り分けてくれたケーキにフォークを突き刺す。

「……美味い。 本当に美味しいよ。 中佐。 バルクホルン。 ハルトマン。 ありがとう。」
「気にするな。 感謝の気持ちはこれからの勤務態度で表してくれればいい。」
「もう。 トゥルーデもフラウも素直じゃないんだから。 でも、喜んでもらえて良かったわ。」
……誰に依存するガラでもない。 人生は一期一会。 それは今でも変わらないけどさ。 こんなに居心地が良いならさ。
宗旨替えしちゃうのも悪くないかもね。 もっとも、それは今よりずっとずっと年食ってからだけどね!

「さて。 最後はルッキーニか。 って、あれ? ルッキーニは? さっきまですぐ隣にいたよな?」
「こっこだよー、シャーリーーー!!!」
建物と反対側から声がする。 ギリギリ明かりが届くその位置に立っていたのは、確かにルッキーニだ。
あぁ、ルッキーニだ。 そこまではいい。 だけど、あいつ。 あいつが手に持ってるそれは。

「ちょっと待てルッキーニ! それ、あたしのストライカーユニットじゃないか!! なんであんたが持ってんだ!!」
「さーねぇー、なんでかにゃ~。 ほーら、ぶーんぶーん。」
「おっ、おい、よせ!! 振り回すんじゃない!!」
そりゃいつもあたしだって乱暴に扱っちゃいるよ。 でもさ。 流石に人の手にストライカーの命運を委ねた事は無いよ!

「ほりほり。 取り返したかったら、こっこまでおーいでー!!」
「待てコンチクショーーーーー!!!!!」
たとえそれが自分の足でも、走る以上は最速を目指す。 いかにルッキーニがすばしっこくても、あたしからは逃げられないよ!
滑走路の方へ逃げたルッキーニを追って、茂みを越えて建物の角を曲がる。 そしてあたしは、その光景に気付いた。

「シャーリー! お誕生日おめでとーーー!!!」
ルッキーニがその言葉を読み上げた。 そう、読み上げた。 光、光、光。 ライムグリーン、スカイブルー、オレンジイエロー。
そこには巨大な電装で、あたしへのバースデーメッセージが組み上げられていた。
光が美しく幾何学的に揺れて、幻想的な輝きを作り出す。 でも、それは機械の力ではなくて。
人、人、人。 それぞれのライトを持っていたのは、いつも影ながらあたしたちをサポートしてくれてるスタッフのみんなだった。
もう、足は完全に止まっていて。 その輝きに目を奪われたまま、あたしはそこに立ちつくしていた。

「うわー! 実際に見てみると、すっごーい!!!」
「ふふ。 上に知られたら大目玉ね。 草案を聞いた時はどうしようかと思っちゃった。 うまくいってよかったわ。」
「ルッキーニが途中で名乗りをあげた時は焦ったけどナ。 やっぱこれはラストじゃなきゃ締まんねーヨ!」
後ろからみんなの声が追いついてくる。 上の空で聞きながら、あぁ、みんなは知ってたんだな、と薄ぼんやり理解した。
ルッキーニが駆け寄ってきて、あたしの胸に跳び込む。

「どう、シャーリー! すごいでしょ! すごいでしょ! あたしが考えて、スタッフのみんなと企画したんだよ! それで……。」
あたしの方を見上げたルッキーニがぷつりと言葉を切る。 その顔が、初めて見る柔らかさで微笑みを形どった。

「……好きだよ、シャーリー。 かっこよくても、悪くても。 いつでも本当のあたしを見せるよ。 だからさ。 シャーリーもあたしに甘えてね。」
ルッキーニの頬に涙の粒が当たっては弾けていく。 その様子で、あたしは自分が泣いているのだと自覚した。
自分を知ってるつもりだった。 でも。 こんな気持ちは知らなかった。 愛しさ。 その気持ちが、こんなにもあたしを芯から揺さぶるなんて。
一人だけの力で、どこまでも速く生きたかった。 そんなあたしの目の前に、あたしを想ってくれる人たちの力で、この光景がある。
それがあまりに信じがたくて。 それがあまりに眩しくて。 それがあまりに愛しくて。 気がつけば泣いていた。

ルッキーニ。 あんたがこれを作ったのか。 あんたがこれを見せたいと思ってくれたのか。 あたしは。 あたしは、なんて。
泣き続けるあたしの背中を、目の前の小さな少女は、いつまでも優しく撫で続けてくれていた。

夜中。 まどろみが少しだけ晴れて、おぼろげに意識を取り戻す。 傍らにはルッキーニ。 ルッキーニとあたしの間にはサルバドル。
今日は誕生日だからって。 ルッキーニはあたしと一緒に寝ると決めてたらしい。
昨夜のパーティを思い出しながら、少女の頬を優しく撫でる。 出会ってからずっと。 あたしの方がお姉さんなつもりでいたけどさ。
ひょっとしたら、あたしの知らない色々な素敵を、この子は知ってるのかもしれないね。
見守るだけじゃなくって、この子と一緒に肩を並べて歩く日だって。 もうそこまで来てるのかもしれないや。

ルッキーニを抱き寄せながら、もう一度目を閉じる。 ミルクのような甘い香りが、私を再び安らかな眠りへ誘っていく。
なぁサルバドル。 あんた、そこにいていいのかい? 逃げた方がいいんでない。
どうやら、あたしたち。 まだまだ近付きそうなんだよね。

おしまい


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