プレゼントの意味


チョコレート、ヨシ。
メッセージカード、ヨシ。
花、ヨシ。
大丈夫。全部ある。準備は万端。忘れものはナシ。
出発する直前に机の上に並べられたプレゼントをもう一度確認する。
そして、深呼吸を一つ。
緊張するナァ。初飛行のときより緊張してるんジャナイカ?
初飛行のときのことなんかもうほとんど忘れちゃったケド、そんな気がする。

サーニャと過ごす初めてのバレンタインデーだ。
緊張しないわけがない。
だって、バレンタインデーっていうのは、
一番大切な人に自分の気持ちを伝える日だから。
サーニャに私の気持ちを伝えられる日だから。
どんな気持ちかッテ? 言うまでもないダロ。

「エイラ、そろそろ行くよ……?」
気持ちを落ち付かせていると、ドアをノックする音と一緒にサーニャの声が飛んできた。
私の心臓が身体から跳び出さんばかりにはねる。
「いっ、今いくヨ! 先に行っててクレ!」
私は服の中にプレゼントを押しこんで、格納庫に走っていった。


頭上には星と丸い月。眼下には白く光る波と船の明かり。
そして、目の前には月明かりに踊るサーニャ。
とても幻想的で、綺麗で、まるで夢の中みたいダ。
想いを伝えるのにこれ以上のシチュエーションなんてない。
バレンタインデーの夜間哨戒なんて最初は断わろうと思ってたけど、
やっぱり私たちには夜の空が一番似合う。
「なぁ、サーニャ」
「なに? エイラ」
振り向いたサーニャがまっすぐに私を見つめている。
ストライカーのエンジン音よりもはるかに大きな音で、心臓がバクバクいっている。
勇気を出せ、エイラ。ヘタレだって、やるときはやるんだ。
「コッッ、コレッ! バッ、バレンタインデーのプレッゼントッ!!」
チョコレートと花をサーニャに突き付ける。
サーニャはびっくりしたような顔をしたまま、プレゼントを受けとった。
「ありがとう、エイラ。すごく嬉しいよ。
でも……

バレンタインデーってなに?」
「……え?」





ええっと。サーニャさん、それはつまり、どういう意味ナノカナ?
「ごめんね、エイラ。でも、オラーシャにはバレンタインデーっていうのがないから……」
あぁ、そういうコトカ。つまり、サーニャはバレンタインデーを知らない。
だから、私のチョコレートと花がどんな意味かを知らない。
つまり――。
「エイラ、どうしたの?大丈夫?」
サーニャが不思議そうに私を顔を覗きこんでくる。
大丈夫ダヨ、サーニャ。ちょっと目の前が真っ白になっただけダカラ。
「ほ、他の奴らから聞かなかったノカ?」
サーニャは小さく首を横に振る。
「ハルトマンさんに聞いたんだけど、エイラに直接聞きなさいって」
……エーリカ・ハルトマン。今度、絶対仕返ししてやるカラナ。覚えとケ。
「それで、エイラ。バレンタインデーってどんな日なの?」
サーニャがいつも通りの笑顔のまま尋ねてくる。
そんな風に無邪気に聞いてこられてもナ……。
「バッ、バレンタインデーっていうのは――」
「いうのは?」
「その……、プレゼントを贈る日ダ……」
「そうなの?」
「ソウダ」
本当はちょっと違うケド。
「どうしよう……。私、知らなかったから、みんなへのプレゼントなんて
用意してないよ。ミーナ中佐にも、坂本少佐にも、芳佳ちゃんにも……」
「ちっ、違ウゾ、サーニャ!」
ドウシテそこで宮藤が出てくるんダヨ!
「バレンタインデーはみんなにプレゼントを贈る日じゃないんダ」
特に、宮藤に贈る日なんかじゃ絶対にないゾ。
「じゃぁ、誰に贈る日なの?」
「誰って……」
それは、その……。
「その、つまり……、特別な人に贈る日ダ」
サーニャは私の言おうとしていることがよくわからないのか、
まだ不思議そうな顔をしている。
「でも、それならみんなに贈ってもいいんだよね?
私にとっては、みんな、特別な人だから……」
あぁ、違う。違うんだよ、サーニャ。そういう意味じゃなくて……。



「その……、この場合の特別っていうのは……そういう意味じゃなくテ」
「じゃ、どういう意味?」
ヤメてくれ。そんな無邪気な目で見ないでクレヨ、サーニャ……。
「エイラ?」
あぁ、もう!
「大好きな人! バレンタインデーは一番大好きな人にプレゼントを贈る日なんダヨ!」
「大好きな人?」
「ソウダヨ! バレンタインデーは、一番大好きな人に、大好きっていう気持ちを込めて
プレゼントを贈る日なんダヨ!」
あんまりに恥ずかしくて、思わず怒鳴るみたいに答えてしまった。最低ダナ、私。


夜の空はとても静かだ。聞こえるのはただ、エンジンの音だけ。
眩暈がしそうな沈黙。涙が出そうになる。人生最悪のバレンタインデーだ。
「ねぇ、エイラ」
「ナンダヨ」
先に沈黙を破ったのはサーニャだった。
すごく可愛い顔をしてすぐ近くにいる。
「あのね、エイラが私にプレゼントをくれたっていうことは、
エイラは私のことが一番大好きってことだよね?」
「ばっ、ナ、ナニ言ってんダ!?」
サーニャ、何恥ずかしい事聞いてきてんダヨ!?
「違うの?」
「――///」
「ありがとう、エイラ」
サーニャの温もりがゆっくりと近付いてくる。
そして――。

頬に感じる、やわらかな感触。



「ばっ、サ、サーニャ!?」
真っ赤になってあたふたしている私を、サーニャはふふっと小さく笑った。
「うれしいよ、エイラ。私のこと大好きになってくれて。
私もエイラのこと大好きだよ」
そしてサーニャはポケットから小さな箱を取り出した。
きれいにラッピングされて、リボンもかけられて、これじゃまるで――。
「ほんとはね、エイラ。私、バレンタインデーのこと知ってたんだよ。
ウィッチになる前はオストマルクにいたから」
「え?」
じゃ、今までのは全部……。
「嘘ついててごめんなさい。でも、エイラの本当の気持ちが知りたかったから」
そういうとサーニャは悪戯のばれた子供みたいにぺろっと舌を出した。
もう、何ダヨ、ソレ。結局私はサーニャにからかわれただけなのカ?
私はよく人をからかうケド、からかわれるのにはあんまり慣れてない。

私が憮然としているうちに、サーニャは私の用意したチョコレートの
包みを器用に開けてしまった。
「ねぇ、知ってる?オストマルクでは、バレンタインデーのチョコレートは
贈る相手にこうやって食べさせてあげるんだよ」
小さく割ったチョコレートを一かけつまんでサーニャが言う。
今度こそ本当ダナ?
私がそう尋ねると、サーニャは悪戯っぽく、また小さく笑った。

fin.


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