2.1秒


12日。明日は久しぶりに休みだしプレゼントを探そう。
サーニャが喜んでくれそうなものは何だろうな……と考えていた時だった。
コンコン。
ああ、声を聞かなくても分かる。こんなに優しくノックできるのはサーニャしかいないからな。
「どうぞ。」
静かにドアを開けて顔を除かせたのはやはりサーニャだった。
「サーニャおはよう。」
「こんばんわ、エイラ。」
「どこに座ル?椅子でもベッドでも好きな所に……」
部屋に入ってから、何かをためらっているように一歩も動かない。
「どうした?サーニャ、気分でも悪いノカ?」
「ううん、違うの。あのね、お願いがあって……」
「おう、サーニャの頼みならなんでも聞くゾ。」
「……じゃあ、明日私に付き合って欲しいの。」
プレゼントを買いにいくから、なんて言えるはずがない。
そもそもサーニャを喜ばせる為なんだ、ここで頼みを断るのは本末転倒じゃないか。
私は即答した。
「もちろん。」
「本当?ありがとう!」
ああ、笑ってるサーニャ可愛いなあ。
「じゃあ、明日ね。おやすみ。」
「あ、うん。明日ナ。」
とても嬉しそうにパタン、とドアを閉めて行ってしまった。
もうちょっとおしゃべりしたかったな……
そういえば明日何をするんだろうか。

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「ほらよっと、こんな感じでイイカ?」
「うん。ありがとうエイラ」
私を誘ったのは一緒にお菓子を作りたかったからのようだ。
ウィーンのチョコレートケーキでザッハトルテというらしい。
今スポンジ(サーニャがジェノワーズっていうのよ、と教えてくれた)を作っているのだが結構疲れる。
これからサーニャがお菓子を作る時には手伝わないとな。
「じゃあ焼くよ。」
「な、なあ、この型ちょっと大きいんじゃないカ?」
それは2人で食べるには明らかに大きい丸い型だった。
「これは皆の分よ。」
サーニャはくすっと笑って言った。ああ、そういえば生地が多いよな。
今までサーニャに夢中で気付かなかったけど。
「私たちの分はこれなの。」
可愛いハートの型。

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「なあ、溶けたチョコって珍しいヨナ。」
本日二回目。さっきのと何か違うんだろうか。
サーニャが色々入れてたから違った美味しさなんだろうな。
「普通は溶けないようにするもんね。ちょっと食べてみる?」
「おお、いいなそれ。」
サーニャが指でチョコをすくった。熱くないのか?
「はい。」
はい……ってこれは私にどうしろと言ってるんだ?
…………いやいや、そんな事できるはずないじゃないか!
断ろうか、でもそんな事したらサーニャが傷つくよなぁ。
そりゃあサーニャの指の1本や2本なめてみたいけどさ……
って何を言ってるんだ私は。
サーニャはチョコの味見をしてって言ってるんだぞ?
それなのに……私のバカ。
ごめんよサーニャ……こんな私を許してくれ……
サーニャ、どっちにしろ私にはできそうもないよ……
どうすればいいんだこの状況を。
「さ、さーにゃからさきにたべてくれ?」
「?うん。」
サーニャの手が動いた瞬間、私は神速でチョコをすくった。そして、
「うん。おいしいナ。」
良かった。これで全部丸く収まったぞ。
「どうしたのエイラ……大丈夫?顔が赤いし汗も……」
と、サーニャが顔を覗きこんできた。サーニャ、近い!近いぞ!
「イ、イヤ、全然大丈夫ダゾ!」
そう?と言ったが気になるようだ。心配させたかな……
「今から仕上げね。」
溶かしたチョコをスポンジに綺麗に塗っていく。
「上手ダナ。」
「グラサージュっていうの。エイラもやってみる?」
「いや、私は見ておくヨ。」
ああ、お菓子作ってるサーニャ可愛いなあ。
夢を見てるみたいだ。世界で一番素敵だな。

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「今日はありがとね、エイラ。」
「ああ、楽しかったゾ。」
今日は私の部屋で一緒に寝る事になった。
ベッドの上で今日の事を話していた。
「私ね、今日のあれで指、やけどしちゃったかも。」
向かい合っていたサーニャの声が急に真面目になった。
「な、大丈夫なのかサーニャ?どうしてもっと早くいわなかったん……」
「エイラが食べてくれなかったからだよ。責任……とってね。」
サーニャの指がスッと私の顔の……唇の辺りまで伸びてきた。
触れるか触れないかという距離。
反射的に目を閉じてしまった私には、サーニャが今どんな顔をしているかを知る術は無かった。
「さ、さーにゃ」
「……」
空気が重たくなっていく。時間が止まる。思考が限りなく薄められていった。
私はこの雰囲気に耐えられなかった。
どうしたらいいのか分からなくなって、後ろにパタン、と倒れ込んでしまう。
「ごめん、サーニャ。私……私には……」
「えへへ、ごめんねエイラ。いじわるしちゃった。」
今までの空気を一気に弛緩させて、ベッドに仰向けになっている私にサーニャが抱きついてきた。
「サーニャ……?」
「ねえエイラ、私のわがまま、聞いてくれる?」
サーニャは私の胸の下に腕をまわしてピタリと寄り添っている。
「さ、サーニャ、一体どういうこと……」
「だめ?」
少し潤んだようなキラキラした綺麗な瞳。上目遣い。
サーニャ、そんな目で私を見ないでくれ!
「だめじゃないゾ!何でもきいてやるゾ!」
よくまわらない頭で答えた。
「ありがとうエイラ。」
サーニャにギュッと抱きしめられた。サーニャの温かさがよく伝わる。
ああ、呼吸が上手くできないし声も出ないよ。
サーニャ、もうちょっと離れてくれないと明日まで生きていられないぞ。

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「おいハルトマン、アレは何だ?サーニャは何をしてるんだ?」
「さあにゃー」
「エイラで遊んでるのか?あいつ倒れそうだぞ。」
14日。昨日作ったケーキが皆に振舞われた。
「はい、あーん。」
「だ、大丈夫だってサーニャ。自分で食べられ……」
「私じゃダメなの……?」
「い、いや嬉しいけど……」
「じゃあ、食べて。」
サーニャはエイラに異常に近づいて(甘えて)限界が来たらまた離れて、という事を繰り返していた。
エイラはそのたびにメルトダウンしそうになっていたが、ぎりぎり持ちこたえているようだった。
「微笑ましい光景……ではないよな」
「フォークが1本って時点でだめよね、エイラは。あ、トゥルーデもやって欲しい?」
「ってなんで私にフォークを持たせるんだ。自分で食べろ、自分で。」


「サーニャ、もうちょっとはなれ……」
「昨日いいって言ったじゃない。今日はずっと、いっしょだよ。」
エイラのプレゼントはなかなか大変な物になったようだ。


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