無題
たまたま通りかかった食堂に妙な空気が流れていた。
というか、ある一名がその空気を放っていた。
その時食堂にいたのは三人。
キッチンで料理をする宮藤、坂本少佐。
そして二人を少し遠くから見つめるペリーヌ。
言わずもがな、ぴりぴりした空気を放っているのは彼女だ。
まぁ、気持ちはわからんでもない。
宮藤が少佐に料理を教えているらしく、二人の距離は物凄く近かった。
「このくらいか?宮藤」
「はい、あっもうちょっとお塩を入れたらいいかもしれないです」
「ふむ……うん、美味いな。料理の腕に関しては宮藤はエース級の腕前だな」
「えへへ…ありがとうございます」
穏やかに微笑みを交わす二人は、心の距離も近そうだ。
ペリーヌが嫉妬するのも無理はないだろう。
そろそろいつものようにペリーヌが爆発してしまうのではないか、と思いどうしようか迷っていると…
「……」
ペリーヌは、何も言わずにくるりと二人に背を向け、こちらに向かって歩いてきた。そのまま私の脇を抜け、食堂を出ていった。
「あ、…」
声をかけそびれてしまった。
宮藤たちはどうやら気づいてないらしい。
私は少し迷ったが、ペリーヌを追いかけた。
「ペリーヌ…」
「あ…バルクホルン大尉…」
ペリーヌは展望台にいた。少し風が強く、雲一つない満天の星空だった。
「先程は申し訳ありませんでした、挨拶も無しに…」
「いや、気にするな」
月明かりに照らされたペリーヌは、少し目が潤んでいるように見えた。
「…なんだか悔しさを通り越して、見ていられなくなってしまって…我ながら情けないですわ」
そう呟く姿は、普段の強気な彼女とは思えないほど寂しげで。
いじらしくて可愛らしく思えた。
貴族らしく上品に振る舞っている彼女も年下の少女、つまり私にとっては妹だ。
ここは姉として元気付けてやらねばならない。
「こんな所にいては風邪を引いてしまうぞ。少し私の部屋にこないか?何ももてなしはできないが…」
「え…よろしいのですか?」
ペリーヌは顔を上げると、微笑んでくれた。
なんだ、エイラの「ツンツンメガネ」という形容はなかなか合っていると思っていたのに、笑うととても可愛いじゃないか。
妹決定だ。リストに加えておくとしよう。
「ああ。では、行こうか」
顔がにやけないように注意しながら、私たちは展望台を後にした。
ペリーヌを部屋に入れベッドに座らせ、私は軍服の襟元だけボタンを外した。
本来ならこの時間はもう軍服を脱いでしまうのだが、客人がいる手前それは出来ない。
なんでも話を聞くぞと告げると、ペリーヌは少しもじもじしながらも口を開いた。
「大尉は、その…嫉妬ってされた事はおありですか?」
「嫉妬、か…」
そうだな、いつだったかクリスがミーナになついているのを見て……いやこれは何か違う。
ペリーヌが言う嫉妬とはつまり、色恋に関しての事だろう。
「…嫉妬、する事はあるぞ」
「え…本当ですの?」
「ああ。…あいつはわざわざ私が引っ掛かるような行動を取ったりするからな」
愚痴のようにそう溢すと、驚いた様子だったペリーヌがふわりと微笑んだ。
「大尉は、本当に中尉の事を想っているのですわね」
「!い、いや…その…」
うう、私が赤くなってどうする!相談に乗っているのは私だというのに!
「私…宮藤さんが来てから、初めて嫉妬というものを覚えましたわ。少佐は中佐とも仲がよろしいですけど、そこは佐官同士ですしと割り切れました。私も中佐のような立派なウィッチになれるように努力すればいつかきっと、と…」
私は黙って話を聞いていた。ペリーヌがこんなに内面まで話しているのを見たのは初めてだ。
「宮藤さんが悪い子じゃないのはわかっているのですけど…少佐と一緒にいるのを見てしまうと、つい…はぁ、本当に情けないですわ」
ペリーヌは頭を垂れてしまったが、私は暖かい気持ちになった。
良い子じゃないか、ペリーヌ。ただ少し不器用なだけで、優しい少女なのだ。
「嫉妬するのは恥ずかしい事ではない。それだけ想いが大きいという事だ。情けないと自覚しているのなら、無理せずゆっくりその想いと向き合っていけばいい」
「大尉…」
「しかし今夜くらいは甘えてもいいだろう。なんなら私をお姉……いや、少佐と思ってくれて構わない。彼女程の人物ではないがな」
そう言って微笑むと、ペリーヌは頬を赤らめながらも私に抱き付いてきた。ふわふわの金髪を撫で抱き締め返してやる。
よしよし、お前はいい子だなペリーヌ。お姉ちゃんがついててやるからたくさん泣くといい。
……ん?
なんだか背中が柔らかいぞ。あぁ、ベッドか。いや待て、私たちは体を起こしていた筈だ。
というか、何故天井が視界に入っている?少しお腹が重いのはなんだ?
軽くパニックになりかけたが、つまり…私はペリーヌに押し倒されたようだ。
……ってちょっと待て!!
「ペリーヌ、どうし…」
「私…私、少佐とずっとこうしたかった…」
ペリーヌはそう呟き、私の首筋に顔を埋めた。
思わず「えぇぇーっ!!?」と叫びたくなるような衝撃だ。てっきりペリーヌは…その、少佐の「姫」的存在になりたいのだと思っていたのに。
「少佐…ん…」
「ぁ、ペリーヌっ…」
ちろちろと首筋を舐められ、右手が私の胸に伸びてくる。空いた左手は器用に軍服のボタンを外していた。
予想外の展開すぎる、一体どうしたら…!
しかしここで寂しがっている妹を突き放す事などできない。…でもこのままされるがままというのも…
「んぁっ、う…!」
考えてる間に前がはだけさせられ、まだ小さめの手が直接胸をまさぐった。
「ペ、リーヌ…ぁ、だめだ…」
「はぁ…坂本少佐ぁ…」
どうやら私の声は届いてないらしい。
ついに片手が下腹部に降り、ズボンの上から秘部を擦り始めた。
「うぁっ…」
ひゅっと息を飲み喉が仰け反る。ペリーヌの指使いは、まるでピアノでも弾くかのように滑らかで繊細だ。そこから生まれる快感に、私の体は言うことを聞かなくなっていった。
「ぁ、あ…っ…」
つん、と指先が肉芽をつつき、思わず高い声が漏れた。
ペリーヌはそこには直接触れようとせず、薄い布越しに適度な力で刺激してくる。まだ、(彼女の中では少佐に対してだが)躊躇いがあるのだろうか。
…しかし、恥ずかしい事に私は…
「や、あっ…いや、もっと…」
ダイレクトでない刺激にもどかしさを感じ、自分でズボンを脱いでしまった。
散々慣らされているせいだ。私は悪くない、悪いのはあいつだ。そう自己暗示をかけながら、ペリーヌの手を取り秘部に触れさせる。
「あ…」
「んあぁっ、ぃ…あぁ…!」
ペリーヌは驚いた様子だったが、すぐに我慢が切れたように私のそこを愛撫し始めた。
「少佐、少佐…はぁっ…」
「やっ…だめ、もぅ、あ…あぁんっ…!」
―――
「…はっ!」
私が気が付くと、まだ夜中だった。
隣ではペリーヌが、脱げかけた私の軍服を掴んで眠っている。
「…さかもと…しょうさぁ…むにゃ…」
幸せそうなあどけない寝顔。先程までの事が夢のように思えた。
「…おやすみ、ペリーヌ。良い夢を」
そっと額に「少佐から」のキスを落とす。
全く、仕方のない妹だ。
…翌朝、エーリカに「浮気だ」と言われ酷い目にあったのは別の話だ。