無題
アー、今日は誰も来ないナ。
相談がないってのは、みんなうまくやってるってことカナ。
それは喜ばしいことなんダけど、でもこうも暇ダとナー。商売アガッタリダヨ。
ついつい独り言も出ちゃうってもんダヨナ。
それにせっかく部屋に花まで飾ったのにナ。
そうそう、この花はムスカリって言ってナ、私の好きな花の一つなんダ。
まるで逆さにしたぶどうみたいダロ? 色も紫だしナ。
それにこの花の花言葉が……
ン? ムスカリの花言葉ってなんダったカナ。ウーン、思い出せないナ。
――ま、いいカ。
アー、それにしても暇ダナ。
ちょっとタロットでもやるカナ。
普段は自分のことは占わないんダけど、たまには占ってみるカ。
ウントコショドッコイショ…………よし、出た。
オ、これは【運命の輪の正位置】じゃないカ。
ターニングポイントを意味するカードで、それが正位置ダから、幸運の到来ってことカ。
今日の私はバッチコイってわけダナ。
その場の流れをよく読んで、チャンスを逃さないようにしないとナ。
――ア、今までの全部独り言ダから。そこんとこヨロシク。
ン? 誰に喋ってるのか、って?
アー、だからこれ、独り言ダから。だからあんまキニスンナ。
エ? 恋愛相談室とかやってるけど、お前はどうなのか、ダって?
ナ、ナンで私のこと話さなきゃいけないんダヨ! そんなの別に関係ナイダロ!
エ? サーニャとうまくやってるのか、って……?
ナッ、ナンでそこでサーニャの名前が出てくるんダヨ!?
ワ、私、サーニャのことなんて別にナンとも……
って、そもそも私、誰と喋ってるんダヨ?
そうダ、きっとあれダ。きっとオルターエゴみたいなものダから。
だからとにかくキニスンナ。
アー、それにしても誰も…………
ン? 今、ドアをノックする音がしたナ。
これはもしかしテ……。
ハイハイ、入っていいデスヨ。
――アッ! どうしたんダ、サーニャ!
私、今、仕事中で……
エ? 「エイラが恋愛相談室をやってるのをペリーヌさんに聞いた」ダって?
そ、それはもしかしテ……私に相談したいことがあるってことカ?
ア、でも、ここは恋愛相談室ダから。相談って言っても、恋の相談じゃないとナ……
エッ!? うん、って……。
もしかして今、うなずいたのカ……?
エッ!? うん、って……。
つまりそれって、私に恋の相談をしにきたってことなのカ?
――アー、そうカ。そうダヨナ。なんダ、サーニャは勘違いしてるんダナ。
「こい」って言っても川や池に生息する淡水魚じゃなくっテ……
エ? 「魚の鯉じゃない」ダって?
そ、そうカ……。
ア、じゃあ、アフリカ南西部のカラハリ砂漠に住む民族のことじゃなくっテ……
エ? 「コイ、別名ホッテントットのことじゃない」ダって?
そ、そうカ……。ていうかよくわかったナ、サーニャ。
エ? 「ふざけてるの?」ダって?
そ、そんなはずナイダロ! どんな時も全部本気ダゾ、私は!
本当ダって! 信じてクレ、サーニャ!
とにかくこれは故意じゃナイ!
エ? 「それで相談には乗ってくれるの?」ダって?
モ、モチロンダヨ。相談なんていくらでも乗ってやるヨ。
報酬ダっていらないサ。なんたって、私とサーニャの仲だからナ。
そっそっそっそれで、相談したいことってなんダ?
えーとナニナニ、「いくらアタックをかけても、一向にリターンがない」ダって!?
サッ、サーニャ! オマエ、そんなことしてたのカ!
それも、私の知らないところで……
エ? 私も知ってるって?
……どういうことダ?
いや、ホントに知らないゾ。ていうか、なんで私が知ってるんダヨ。
そ、それで、サーニャ。
その……す……じゃない……気になる人っていうのは……ダッダッダッ誰なんダ?
名前は……いや、やっぱりイイ! 言わないでクレ!
――じゃあこれだけ教えてクレ。
その人は、私の知ってる人なのカ?
うん……って……。
もしかしてこの隊のヤツカ?
うん……って……。
そっ、それは誰ッ……いや、やっぱりイイ! 言わないでクレ!
――ちょつと待テ。ひとまず落ち着こう、サーニャ。
エ? 「落ち着くのはエイラの方」ダって?
と、とにかくダ――ここで一度整理しないカ?
そもそもそれが本当に恋かは、まだわからないじゃナイカ。そうダロ、サーニャ?
ただの思い違いかもしれないじゃナイカ。
サーニャはその人のことを思うと、なんだかこう、胸があったかくなったりするカ?
うん……って……。
名前を呼ばれると嬉しくなったり、いっしょにいるだけでなんだか楽しい気分になったりするカ?
うん……って……。
――で、でも、それだけじゃまだ恋カどうカわからないナ。
恋ってなにも、楽しいことばかりじゃナイんダゾ!
その人のことを思うとサ……なんだか切なくなるんダ。そういうこと、サーニャはあるカ?
うん……って……。
その人の前だと急に口ベタになっちゃったり、さりげないしぐさにドキドキしたり、
手をつながれたりしただけでもう胸が張り裂けそうになるとか、そんなことはあるカ?
うん……って……。
そ、それは、恋かもしれないナ――
エッ? 「エイラもそんなことを思うことがあるの?」ダって?
そ、それは、その……ある、けど…………
ところでサ、サーニャはその人のどんなところが好きなんダ?
エ? 優しいところ?
そ、そうカ。優しいのは優しいのはいいことダヨナ。
――じゃ、じゃあサ、サーニャ。
たとえば、あくまでもたとえばダけど、私と比べてみたらどっちが優しい?
…………なんダヨ、その顔は。
もしかして悩んでいるのカ?
……そうでもナイのカ?
なんだかなにを言ってるのかわからないって顔ダナ……
ア、今の質問は忘れてクレ。
そ、それでサ。サーニャとその人はどっどこまで進んでるんダ?
ナニナニ……「夜間哨戒のあとに部屋を間違えたふりをしてその人の部屋で……」ダって!?
そっ、そんなことしてたのカ、サーニャ! 私の知らないところデ!
エ? 私も知ってる? なんで私が知ってるんダヨ?
――そ、それより、そのあとどんなことが……?
エ? 何もないって?
いや、そんなはずナイダロ。サーニャはその人のベッドでいっしょに寝たりしてるんダロ……?
じゃあなにかあるはずダ。怒らないから正直に話してみてクレ。
ひとつのベッドに女ふたりが寝て、なにもないなんてことがあるはずナイダロ?
エ? 本当に何もないのカ?
……ウン、そうなのカ。どうやら本当みたいダナ。
それはヨカッタ…………いや、サーニャ的にはヨクナカッタ。
エ? 「どうしてないもしないのかな」ダって?
きっとソイツ、そういうことに興味がないんじゃナイカ?
エ? そうでもない、って? どういうことダ、サーニャ?
エッ!? 「他の女の子の体はベタベタ触るのに」ダって!?
なんダヨ、それ! 最低なヤツダナ、ソイツ!
でもなんで、サーニャだけは触らないんダロ……?
と、とにかく、そんなヤツのことなんて、好きになることナイゾ!
そんなヤツよりワタ…………いや、なんでもナイ。
エ? 「わたしって女として魅力ないのかな」ダって?
そ、そんなことあるはずナイダロ! サーニャはスッゴク魅力的ダヨ。
だからサ、そんなに悲しい顔するナヨ。
きっとソイツはとんでもない甲斐性ナシなんダナ。ヘタレなんダヨ。
どうでもいい相手にはベタベタできるけど、本当に好きな人とはそういうことができないんダ。
私ダってそうダし。きっとそうダヨ。
それにしても、まったく。いったい誰ダヨ、ソイツ。
…………ン? どうしたんダ、サーニャ。どうして私のことじっと見つめてくるんダ?
元気出せヨ、サーニャ。
サーニャにそんな顔されると、私まで悲しくなってきちゃうじゃナイカ……
――そうダ。
ほら、サーニャ。そこに飾ってある花でも見てみろヨ。
その花はムスカリって言ってナ、私の好きな花の一つなんダ。
ン? 知ってる、って? そうカ、サーニャも知ってたのカ。
まあとにかく、綺麗ダロ、その花。なんだか見てるだけで元気が出てこないカ?
それで花言葉がたしか……
アレ? なんだっけナ、ムスカリの花言葉。一向に思い出せないナ。
エ? 「ムスカリの花言葉は『黙っていても通じる私の心』」ダって……?
そうそう、そうダった。よく知ってたナ、サーニャ。
なんだか意味深ダヨナ。
ン? ばか、って。
なんダヨ急に、なんてこと言うんダヨ、サーニャ。
そろそろ元気出てきたカ?
……うん、そうカ。出てきたカ。ヨカッタ。
私は逆にちょっと、元気なくしちゃったけどナ。まあ、サーニャが元気ならイイサ。
そろそろ相談はおしまいでイイカ? これ以上は私の心臓に悪いしナ。
じゃあ最後にタロットでサーニャのこと占ってやるヨ。
ウントコショドッコイショ…………よし、出たゾ、サーニャ。
こっ、これは【恋人の正位置】じゃナイカ!!!!
今日のサーニャは恋愛運が絶好調ダヨ……
その人との仲がより進展するだろうナ……
ヨカッタナ、サーニャ。ホント、ヨカッタ……
イイカ、サーニャ。
恋は気合いダ。ぎゅっと抱きしめて好きって言えばイイんダ。
……その人とうまくいくとイイナ。
グスッ……。
ワッ、私は、サーニャの、ことッ、応援、して、る……
――ウウン、やっぱり違うヨナ。
ゴメンナ、サーニャ。やっぱり応援できネーヨ。
サーニャ、聞いてクレ!
実は私、ずっとサーニャのことが――――
ウワッ!?
ど、どうしたんダヨ、サーニャ! 急に抱きついて来テ!
人が一世一代の告白をしようとしている時ニ……
――――――――――エッ!!!?