幸せのおまもり


{どうせ一週間後のわたくしの誕生日なんてどなたも、でも今日はエイラさんにとって特別な日ですものね}

ちょっとしたお祭り騒ぎのみんなとは対称的に、今朝のペリーヌさんはちょっぴり物憂げな表情でした。

「ねえリーネちゃんバターのやわらかさってこのくらいでいいのかな?」
「え~っと、うんじゃあ次はお砂糖を少しづつ混ぜていってね芳佳ちゃん」

通常任務の隊長と坂本少佐を除いた私達はエイラさんのお誕生日会の準備で大忙しです。
サーニャちゃんがエイラさんの足止め係。
シャーリーさんとルッキーニちゃん、そして私と芳佳ちゃんはお料理担当。
残りのバルクホルンさん、ハルトマンさん、ペリーヌさんは飾り付け担当のはずでした。

「ねえペリーヌ来てない?」
「んにゃ、きてないよ」
「やっぱりここにもいないか、あいつさぼりやがったな」

それからペリーヌさんが帰って来たのは日も暮れかけた頃になってからでした。

「なにやってんだよペリーヌあんた飾り付けの担……どうしたんだその格好!」

ハルトマンさんは言い淀みます。
ペリーヌさんは左肩に猟銃、右手には一羽のうさぎ、そして全身泥だらけになっていました。

「ペリーヌ気が効くじゃないか、何か華やかさに欠けると思ってた所なんだメインディッシュはコイツで決まりだな」
「あっそれは……食材ではなくて……その……」
「心配すんなって、あたしがとびっきりの丸焼きに仕上げてやるからさ」

シャーリーさんはうさぎをひょいと取り上げるとステップを踏んでキッチンに向かいます。
違いますシャーリーさん!きっとペリーヌさんは幸運のお守り「ラビットフット」を作ろうとしてうさぎ狩りに出掛けたんです。
誰か気付いて、早くしないと、なぜ誰も気付かないの、今私が言えば間に合うかも。
ごめんなさいペリーヌさん、いいえ私に謝る資格なんてない事わかっています。
既にグリルからはセージの香が漂って来ています。私は黙って気付かないふりをしていたのでした。

お誕生日会が始まりメインディッシュのうさぎの丸焼きを芳佳ちゃんが運んで来るとみんなから歓喜の声があふれだしました。

「ペリーヌさんがさっき獲って来てくれたばかりなんですよ」
「アリガトナ、ペリーヌ」
「別にお礼を言われる筋合いは在りませんわ」
「じゃー礼は言わねーケドありがたく頂くヨ」
「そんなの勝手に召し上がったら結構でしてよ」

せめてペリーヌさんの思いを少しでも届けなきゃ。
私はエイラさんのお皿に前脚の部分を切り分けようとナイフを入れました。
あれ?前脚がない?
私はもも肉をエイラさんとペリーヌさん、それぞれのお皿に切り分けました。
するとシャーリーさんが席を立ちました。

「なんだリーネも気付いてたのか、気付かないふりとは役者だねぇ~プレゼントの本番はここからなんだ、なぁペリーヌ?渡してやりな」
「これは……ラビットフット!いつのまに」

シャーリーさんは初めから気付いていたんですね。
ペリーヌさんって動物の革を剥いだりした事なさそうだし、もしうまく出来なかったらせっかくのプレゼント渡すのやめてしまう。
そんなペリーヌさんの性格まで考えていたんですね。

「一人で仕上げたいってガリア貴族のお嬢様のプライドもあるだろうけどさ、少しはあたしらを頼ってくれよ」
「ですからわたくしは!……もういいですわ、エイラさん早く受け取りになって下さいます」
「もいちどアリガトナ、オマエの泥んこ顔拝めただけで十分すぎるプレゼントダヨ」
「全くあなたって人は一言も二言も(ガルルルル)」
「アレ?ペリーヌなんかコレ、二つあるケドどうやって使うンダ」
「あ~それね、おまえの大切な人に片方渡してくれ、ペリーヌじゃそこまで気が回らないだろうとシャーリーお姉さんからの気配りだ」

シャーリーお姉さん……気を配りすぎです。
みんながにやにやし始めています、私はどきどきし始めちゃいました。
サーニャちゃんはそわそわと、そしてエイラさんはかちかちに固まっています。
どうする?どうするエイラ?そんな視線がエイラさんに注がれています。

「ンギャー!」

エイラさん……壊れました。

「ペリーヌ、ワタシからの少し早いバースデープレゼントダ!クレテヤル」
「何ですの!人に向って物を投げ付けるなんて、しかも差し上げたばかりのプレゼントを!」

エイラさんサーニャちゃんに渡せなくて結局また逃げたんですね。
幸せのチャンスはきちんと自分で掴まないと、せっかくのラビットフットも台無しになっちゃいますよ。

「ウルセー、オマエが厄除けしてくんねーとコッチまでトバッチリ来るんダヨ」
「そのお言葉そっくりそのままお返し致しますわ、このプレゼントにお誕生日を祝う気持ちなんてこれっぽちもないんですからね」

エイラさんとペリーヌさん、掴み合いつねり合いの喧嘩始めちゃいました。
そんな二人はほおっておいてみんなはサーニャちゃんに詰め寄るのです。

「これで良かったの?これじゃこの一年、エイラはヘタレのままだよ」
「このままじゃペリーヌとエイラ、お揃いのお守り付けて歩く事になるんだぞ本当にいいのか?」

うんうん、芳佳ちゃんとバルクホルンさん、二人がお揃いのお守り付けてるなんて私だったら耐えられないよ。
サーニャちゃん取り戻すなら今しかないよ。

「あの……さっき……エイラからとても素敵なお守り、もらいましたから……私のお守りはエイラですから……」

サーニャちゃんは顔を赤らめながら両手で顔を隠してしまいます。
誕生日なのにプレゼントあげてばかりですね、エイラさん。
人前ではまだ無理でも、エイラさんやる事やってました。
二人きりの時間にいったい何があったのか、私達はそれ以上問い詰める事はなく、ただ声をそろえてこう言ったんです。

「ごちそうさま」


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