放送日は何月何日?


「起きろ、ハルトマン!」
 その言葉を言い終わるか終わらぬうちに、私はハルトマンの部屋のドアを開け放っていた。
 普段なら入る前にノックは欠かさないのだが、今はそんな悠長なことをしている時でもない。
 案の定、ハルトマンのヤツはまだ寝ている。ベッドのすぐ横の床にごろんと転がって。
 寝相が悪くて落ちたのだろう。落っこちても、そのまま気にせず寝ているのだろう。
 部屋の惨状も案の定、いつものとおりだ。
 私は床に散乱した脱ぎ散らかした衣服や、空いた瓶や、それに勲章(!)を踏まないように、
 ハルトマンの元までなんとか歩いていった。これじゃまるで千鳥足だ。
「おい起きろ、ハルトマン!」
「……………………」
「貴様、いったいいつまで寝ているつもりだ!」
「……………………」
「ほら、さっさと起きろ!」
「……………………」
 私が懸命に呼びかけるも、ハルトマンからの応答はない――いや、気持ちよさそうな寝息だけ。
 いくら体を揺すっても一向に不毛。
 たしか扶桑ではぬかに釘とかのれんに腕押しとか言うんだったか。そういう状況だ。
 私は深く息を吸いこんで――

「おー! きー!! ろー!!!」

 そう叫ぶと同時に、私はハルトマンの全身を覆っていた毛布を剥ぎ取った。
 現れたのは、あらわになったハルトマンそのもの。
 ――つまり、なにも身につけてはいない。下着すらも。
「わっ!」
 私は思わず声をあげてたじろいでしまった。
 その声でか、重く閉じていたハルトマンのまぶたがようやく持ちあがる。
 私のそれと目と目が合う。
「おはよう、トゥルーデ」
 寝ぼけた声でハルトマンが言う。
「おっ、おは――」
 私は挨拶を返そうと言葉を作ったが、どもってしまって、口がそれをうまく発してはくれない。
「――おはようにはもう遅い時間だ」
 なんとかそれだけ言って、私は手にした毛布を再びハルトマンの体にかけた。
 こんな状況じゃ、おちおち会話もできん。
 それに、私ばかりが意識しているようで嫌だったからだ。
「じゃあ、おやすみ」
「寝ろとは言ってないだろう!」
 まったくコイツは、いったいどれだけ眠れば気が済むんだ!?
 私は、今度は毛布を剥ぎ取らず、ハルトマンの耳元まで顔を近づけて叫んだ。
「大変なんだ、ハルトマン!」
「なにがぁ……?」
「実はストライクウィッチーズの――」
「2期が決まったんでしょ?」
「!」
「違うの?」
「いや、あっているが……」
 なんだコイツ、知ってたのか。しかも私よりも先に。

「じゃあ、おやすみ」
 そう言ってハルトマンは再び寝息をたて出した。
 私はつかの間、それを見惚れた。
 コイツ、黙ってれば結構可愛いくせに……って、そういうことじゃない。
「だから、起きろ!」
「あと7ヶ月……」
「さっさと起きろ!」
「あと4ヶ月……」
「ただちに起きろ!」
「あと1ヶ月……」
「いますぐ起きろ!」
「………………うー、んっ」
 ようやく私の声が届いたのか、ハルトマンは重い身をなんとか持ちあげる。
 というより、なんで何ヵ月単位で寝ようとするんだ、お前は?
 私が起こしにこなかったら、本当に寝てるんだろうから怖い。
「なんで? 別に予定ないのに……」
 心底嫌そうな顔を私に向けてハルトマンは言った。
「だって放送日までずっと先でしょ?」
「お前は放送日まで寝ているつもりか! 現在、誠意制作中だが、私たちにだってやることがあるだろ」
「たとえば?」
「たとえばって、ええとその……」
 あれ? 私たちはなにをすればいいんだろう?
 でも、こう言った出前、引き下がるわけにはいかない。
「お前にだって2期への抱負とかあるだろ」
「ほうふ?」
「そうだ。なにかあるだろう?」
 妹100人できるかな、とかそういうのが。
「抱負ねぇ……」
 と、ハルトマンは寝ぼけまなこで首をかしげて、しばし考えこむ。
 そして、言った。

「じゃあ私、今度こそエンディングはトゥルーデと歌いたい」

 なっ、なにを言い出すんだ、こいつは……!?
「前は私、ペリーヌとだったもんね」
「あ、ああ。そうだな」
「トゥルーデは宮藤とでよかったよね」
「べっ、別にそんな……」
「でも今度こそ私と歌ってくれる?」
 私の瞳をじっと見すえて、ハルトマンはそう問いかけてくる。
 ……なんだお前、もしかして妬いているのか?
「そ、それは……」
「それは、なに?」
 ハルトマンは身を起こし、顔を私に近づけてくる。
「それは、私が決めることじゃないし……」
 なにを言っているんだ、私は?
 言え! ほら、もっと別の言葉があるだろう。
「わ――」
 と、私は言おうとした。
 ――が、それはハルトマンの唇によって遮られた。
 つまり、キスされた。

「うんって言って」
 ようやく私の唇を離して、ハルトマンは言ってきた。
 けれど、まだ顔と顔が近い。その息が、私の顔にかかってくる。
「いや、その……」
 さっき私、言おうとしただろう。「わかった」って。
「『いや』?」
 そうしてハルトマンはまた私の唇を塞いだ。
 お前の勘違いだ。そう言おうにも、絡めとられた舌に自由はない。
「うんって言ってくれる?」
 ようやく唇を離して、ハルトマンはまた問いかけてくる。
 が、私はぜえぜえと息を乱すばかりで、なかなか声が出てこない。
「…………いやっ、だから……」
「うんって言って。じゃないと――」
 ハルトマンは立ちあがって、私に取っ組んでかかってくる。
 その際、毛布がはだけて床に落ちた。なにも身につけていないハルトマンの肌があらわになった。
 私は思わず、それから顔をそらして固まってしまう。
 その隙にハルトマンは私をすぐ傍らのベッドへと押し倒し、そうして仰向けになった私にハルトマンが馬乗りにのしかかってくる。
「おい、ハルトマン! 朝っぱらからなにをするんだ!」
「おはようにはもう遅いんでしょ?」
 ハルトマンは私の服に手をかけ、そのあと私はメチャア! クチャア! に――
 いや、このあとなにが起こったかは語りたくはない。

 ――とにかく、だ。
 まあそんなわけで、ストライクウィッチーズの2期が決定した。
 現在誠意制作中とのこと。
 放送日などはまだ私にもわからない。
 さらなる詳しい情報は続報を待て!


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