gravity bomb


リーネの部屋に呼ばれたエーリカ。
少しひりひりする頬をさすりながら、エーリカはノックしながらドアをかちゃりと開け、するりと中に入った。
「あ、お待ちしてました、ハルトマン中尉」
「お待たせ~遅れてごめんね」
「いえ。紅茶とケーキ、用意しておきましたから……って、その頬どうしたんですか?」
赤くなった頬を見つけられ、問われる。
「あー、これ。トゥルーデにひっぱたかれた」
答えに困ったエーリカは、少し迷った後、正直に答えた。
「ええっ!?」
「まあ、ある意味自業自得なんだけどね~」
あははと虚しく笑い、部屋の隅のベッドにどすんと腰掛けた。
「バルクホルンさん、手を上げるなんてひどいです」
「いやー、まあねえ」
エーリカは思い出した。涙を溜めて放たれた、トゥルーデの一発の張り手。
その後ぎゅっと抱擁し口吻を交わし話し合い、お互いの誤解を解いた事も。
ふと思い出にひたるエーリカに、そっと紅茶のカップが渡される。
芳佳のそれとは違い、流石本場ブリタニアの煎れ方だ。優しく広がる香りを楽しみながら、口を付ける。
「さて、リーネの用事って何かな?」
「……」
押し黙ってしまうリーネ。椅子に腰掛け、両手をぎゅっと握り、力が入っている。
うつむいたままのリーネを見て首を傾げる。そして一口紅茶を含むと、言った。
「ミヤフジの事。違う?」
びくりと身体を震わせるリーネ。当たりらしい。
「大丈夫、話して話して。私こう見えても口がカタイんだよ?」
「……本当ですか?」
「なにその目は。しかもミヤフジと同じ訊き方だし」
紅茶を一口飲む。
「いえ……あの」
「信用無いね私って。で、どうするの? そのまま黙り続ける?」
「ハルトマン中尉」
「ん~?」
「私……芳佳ちゃんに、酷い事しちゃったみたいで……」
「さっきの、トゥルーデとの奪い合い?」
「はい」
アチャ~こんなとこにも余波が。エーリカは内心苦笑しつつも、つとめて平静を装った。
「あれは事故みたいなもんだって。トゥルーデもさっき言ってたよ?」
「でも、バルクホルンさん……芳佳ちゃんの腰にまで腕回して、ぎゅっ、て。顔も近付けて、二人とも、顔真っ赤で……」
「してたね~。でも、あの舞い上がり方はスイッチ入っちゃった時だから大丈夫」
「何が大丈夫なんですか!?」
椅子から立ち上がるリーネ。言葉を続ける。
「二人が離れた後……私、芳佳ちゃんに聞いたんです、何故って。そうしたら……」
「そうしたら?」
「その先を言ってくれないんです。何を聞いても『胸が』『おっぱ…』としか言わないし」
アチャ~ミヤフジもスイッチ入ってたかー。エーリカは内心頭を抱えつつも、つとめて平静を装った。
「で、リーネは何て?」
「分かりません。芳佳ちゃん突き飛ばして……今、ここに居ます」
「ありゃ」
「私も気持ちの整理が付かなくて……でも、芳佳ちゃんに酷い事したって。多分芳佳ちゃん、部屋で。……でも」
芳佳の事を想像して涙をこぼすリーネ。
「可哀想だけど、何処か、許せないって気持ちが有って」
リーネの頬をそっとハンカチで拭くと、優しく抱きしめ、一緒のソファーに座らせる。
ちなみにこのハンカチはトゥルーデの部屋から持ち出したもので、エーリカの私物ではない。
「リーネ、純粋なんだね。私とトゥルーデみたいに、けがれてないんだね」
「そんな事無いです。でも……」
ふうと溜め息をつくと、リーネの顔をそっと肩に寄せた。涙が止まるまで、そっとさせてあげたい。エーリカの偽らざる気持ち。
じんわりと流れる、二人っきりの不思議な時空。迷い込んで、帰り道が分からなくなった童話の主人公達の様に。
エーリカは、そっとリーネの頭を撫でた。

やがてリーネの息が少し落ち着いてきた。
震え気味の涙声で、リーネは思わぬ言葉を口にした。
「私……、そんなに魅力が無いんでしょうか」
「魅力? どう言う事?」
「言った通りです。私、芳佳ちゃんに好きになって貰う程の魅力が無いんでしょうか?」
「どうしてそう言う結論になるかな? 先走り過ぎてない?」
「バルクホルンさんに夢中だったから……」
「あれは事故だって。大丈夫、トゥルーデの婚約者の私が言うんだよ?」
「そんな事、どうやって信用出来るんですか? バルクホルンさんも、実は芳佳ちゃんが好きかも知れないじゃないですか?」
「それは無いって。有り得ないよ」
「じゃあさっきの二人の様子、あれは?」
「だからちょっとしたアクシデントだって」
リーネの執拗な追及に繰り返し弁明しながらも、エーリカは心の片隅にしまい込んでいたひとつの疑念が膨らみかけるのを感じる。
トゥルーデの、ミヤフジへの接し方。
もしかして。
自分で“事故”の切欠を作っておいて言うのもヘンだが、本当にトゥルーデは……?
まさかね。エーリカは瞬時に答えを導き出した。
でも、リーネはすっかりナーバスになってる。
これは流石に私の責任か、と内心呟くと、リーネをそっと抱き寄せた。
それに。
エーリカの心の中で消した筈の嫉妬の心、悪戯な心の炎がちろっと混ざり、燃え盛り、瞳に宿る。
「リーネの魅力、ミヤフジは分かってないかもね」
「えっ」
「リーネの魅力、具体的に教えてあげる」
「そ、それって……」
リーネは口答え出来なかった。エーリカにいきなり押し倒され、唇を塞がれたから。
「あ、や、やめ、て……」
抗うリーネを押さえつけ、無理矢理シャツを脱がし、胸を見る。
「おっきいなあ。前よりおっきくなってない?」
エーリカは思った事を口にしていた。
「そんな事、ないです」
「ここに痕ついてる。ここにも。首にも。鎖骨にも……そりゃ、なるよね」
「ち、ちがっ……ああっ」
舌を這わせ、耳を舐る。ぴくっと小さく反応するリーネ。
「良い匂い……甘い香水付けてるんだ。ミヤフジのお気に入り?」
「そ、それは……二人で……んんっ」
「この匂い、ミヤフジもしてた事あるよね……仲良いんだ」
首筋を舐め、鎖骨に唇を這わせる。リーネが何か言おうとすると、唇で抑え込む。息が上がる寸前まで、キスを止めない。
自然と舌が絡まり、涎が絡み、つつと流れる。熱い息が二人の頬を艶めかしく撫で回す。
「は、ハルトマン中尉……」
リーネはドアの方を見る。今誰か入って来たら……そんな目をしている。
エーリカは当然織り込み済みと言った感じでお構いなし。
「まだまだ、リーネの魅力、知ってないね」
エーリカはリーネの太腿を絡め、ズボンの中に指を忍ばせる。びくっと強く反応するリーネ。
「私が教えてあげる……リーネの、ステキなところ。いいよね」
「い、いやぁ……」
言葉で反抗するのが精一杯。リーネは大蛇に巻き付かれ絞め殺される小動物の様に、エーリカの身体に埋もれ、小さく震えていた。
「答えは聞いてない」
エーリカは、リーネの身体を本格的に味わい始めた。締め付ける“大蛇”の動きは蠱惑的で、リーネもいつしか溺れ、もがく。
ノッてきたエーリカも服を半分脱ぎ、お互いの腰を絡ませ、脈動させる。本能的に受け入れてしまうリーネ。
どんどん声がうわずる。
「あっ……ああっ……はあっ、もう、だめ……」
「まだ、まだ、終わってないよ。まだ」
「いやぁ……ああ、芳佳、ちゃん……」
びく、びく、と身体を震わせて、リーネはエーリカの胸の中で果てた。
ぐったりと身体を横たえ、エーリカに身体を預ける。
「あ……」
吐息とも喘ぎともつかないリーネの一言を濃厚なキスで封じるエーリカ。リーネの目から涙がこぼれ、つつと頬を伝う。
ぺろりと雫を舐め取り、もう一度キスを交わした。

ソファーの上でした行為に、弁解の余地は無かった。エーリカがリーネに言う。
「ゴメン。やりすぎた」
二人一緒の毛布にくるまりながら、冷めた紅茶をちびりちびりと飲む。
無言のリーネ。
「ちょっと遊ぶだけのつもりだったんだけどね……リーネが可愛くて、つい」
「ホントですか?」
「え?」
「私が可愛いってだけですか?」
苦笑いして答えを濁すエーリカ。確かに、トゥルーデに対する妙な気持ちもトリガーのひとつだった事は否めない。
「ハルトマン中尉って……」
「ん?」
「そうやって、『つい』ひとを襲うんですか?」
「とんでもない。私は……」
リーネに唇を塞がれる。思いもよらぬ行為を受け止め、ぴくりと身体が硬直する。
驚いた表情を浮かべるエーリカに、リーネは頬を染め、小さく笑い、言った。
「私も、拒むならもっと、頑として拒めば良かったんです。でも、拒めませんでした」
「……」
「なんか、ハルトマン中尉に、……色々されて、頭の中で、芳佳ちゃんの顔浮かべて」
黙って続きを聞くエーリカ。
「私達見たら、芳佳ちゃん、どんな顔するだろうって。……私、最低ですよね」
うつむいて、自嘲の笑いをするリーネ。エーリカはリーネの肩をそっと抱き、言った。
「もっと最低なのがここに居るじゃん。私、今度はグーで殴られるね。何回で許して貰えるかな。それで許して貰えるかどうか」
「その時は、私が止めます」
「え?」
「私も一緒に、横にいます。そして説明します。バルクホルンさんにも、分かって欲しいから」
「度胸有るね、リーネ」
「だって。ハルトマン中尉、可哀想だし。私も、悲しいです」
「それって、リーネ……」
「心配しないで下さい。私、芳佳ちゃんが好きな事、変わりません。むしろ、もっと分かりました。色々と」
微笑むリーネ。何故か痛々しさは感じず、どこか吹っ切れた印象だ。
「でも、今だけ。今だけ、良いですか?」
リーネは、エーリカの肩と腰に腕を回した。潤む瞳。
エーリカは、彼女がこれから何をしたいか分かっていた。
拒むつもりは無かった。
頭の片隅で、トゥルーデに対する罪悪感、背徳感が鈍く疼いたが、リーネの濃い口吻で、瞬間的には消え去った。
「ミヤフジは幸せ者だよ。こんなステキな子に愛されてさ」
エーリカは唇を離し、素直な感想を告げた。リーネの顔がほころんだ。

end



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