gravity circulation


トゥルーデの部屋。
腕組みし黙して話を聞いていたトゥルーデ。わなわなと震える芳佳。
トゥルーデは芳佳の肩をぽんと叩くと、頷いた。
「二人が揃って事情を全て話して、謝っているんだ。許してやれ。良いな」
「でも、私……」
「これは命令だ! 良いな。宮藤、元はと言えば、私達にも非がある。違うか」
「はい」
納得行かない表情だが、頷く芳佳。
「よし、事情は全て把握した。宮藤、リーネ、お前達もお互い話が有るだろう。下がって良いぞ。
あとこの話、他にはくれぐれも内密にな」
「はい。すみませんでした」
「失礼します」
ふたりは揃って部屋を出た。ドアが閉まる間際、リーネがエーリカに向けた視線を、トゥルーデは見る。

芳佳とリーネが部屋を出て、残されたトゥルーデとエーリカ。しばしの沈黙。
重い空気を何とか打破すべく、エーリカは覚悟を決めて、名を呼んだ。
「トゥル……」
言葉は続かなかった。予想通り、いきなりグーで頬を殴られたのだ。
口の中が少し切れたっぽい。ハンカチで唇を拭うと、微かに血が滲んだ。
エーリカはちらっと上目遣いでトゥルーデを見た。感情を必死に抑えようと、腕が震えているのが分かる。
でも予想とは違い、トゥルーデはそれ以上何もしてこなかった。
「もういいの? もっと、殴られるのかと思ったよ」
「そんな事をして、何になるっ」
抑揚の中に感情の高ぶりを隠せないトゥルーデ。
「私、イヤな女だよね」
挑発するかの如く言葉を発するエーリカ。
「最低だよね。リーネで遊んでさ」
「聞きたくない。そんな御託は聞きたくない」
「それだけの事したって、自覚してるから、言ってる」
「なら何故そんな事を? 私の、私の気持ちを考えたのか!?」
「当然。でも、私の気持ちも有るよ」
「……」
「勿論、分かってとは言わないし言えない。元は私が悪いのは事実だし。私は謝るしか、出来ないよ」
言葉の最後、弱気とも悲しさともとれる雰囲気が出る。目を伏せる。
トゥルーデは一歩踏み出すと、何かする訳でもなく、ただ、エーリカをそっと抱きしめた。耳元で呟く。
「いや。私も宮藤に対して、もっと冷静に対応すべきだった。咄嗟の事とは言え」
「トゥルーデの悪い癖だもんね」
「私で遊ぶな」
何故か涙目になって苦笑するトゥルーデ。笑みの中に、涙が溢れる。
「ごめんね、トゥルーデ」
名を呼び、言葉を繰り返すエーリカも何故か小さく嗚咽している。
「私こそ、すまない、エーリカ。一番大切なひとに二度も手を上げるなんて、最低だ」
「暴力亭主様だから」
「ホントだな」
二人の目から涙が流れる。お互い気付いて、優しく拭き合う。エーリカが呟く。
「何でだろ。何であんな気持ちになったんだろ。私、訳わからないよ」
「さっき自分で言ってたじゃないか、リーネと一緒の時に。『嫉妬』って。違うのか?」
「でも……」
「確かにお互い、いや、皆許される事ではないかもな。でも私はエーリカ、お前を許し、受け容れる。例えお前が私をどう思っていても」
「トゥルーデ」
「理由を知りたいか? それは、エーリカ、お前だからだ」
涙混じりの、トゥルーデの真摯な目に心貫かれるエーリカ。
「何故? どうしてそこまで、私を?」
真っ直ぐな瞳を見、震えるエーリカ。
「何が有ろうと、エーリカ、お前を愛するに値する。私はそう信じる!」
心からの、情念のこもったことば。抱きしめる力が増す。ふと、互いの目に留まった指輪の輝きが増した、そんな錯覚を覚えた。
「トゥルーデ、ありがとう。そして、ごめんね。私も許すから、ごめんね」
「もう良いよ、エーリカ」
エーリカもきつくトゥルーデを抱きしめる。

「エーリカ……」
トゥルーデがリードし、ゆっくりと口吻を交わす。絡まる舌は、僅かに滲む錆び付いた血の味を感じ取った。
つつと垂れる雫も、少し紅が混じる。
「済まない。さっきので、口の中を……」
「きっと、罰だよ。気にしないで」
「エーリカ……」
「改めて、分かったよトゥルーデ。やっぱり私にはトゥルーデしか居ないって」
「私もだ、エーリカ。さっきリーネの目を見て思った」
「どうしてリーネを見て?」
「お前を見てる姿を見て、私も何故か分からない、ヘンな気持ちになった。だからつい、出さないと決めていた筈の手が……」
「それも嫉妬じゃない?」
「かもな。すまない、本当に」
「ねえ、トゥルーデ。一緒に……」
ふたりはベッドに倒れ込み、絡み合い、お互い全身全霊で、愛し合う行為に耽った。その姿は酷く野性的で、
だけどとてもお互いを想ってのことで、何度となく甘い声で、名を呼び合った。

「芳佳ちゃん」
芳佳の部屋では、リーネが黙ったままの芳佳に何度も声を掛けていた。
しかし、ベッドに腰掛けた芳佳はうつむいたまま、何の返事もない。
「ごめんね、芳佳ちゃん。私……」
何度謝っても、何を言っても、答えが無い。これ以上何と言えば良いか、分からない。
「ごめんね。芳佳ちゃん、聞いて。私……芳佳ちゃんの事、嫉妬してた。だから、ハルトマン中尉の事、拒めなかった」
「……」
「でもね、分かった事も有るんだよ? 芳佳ちゃんが、やっぱり好きだって事。世界で、一番好き」
「リーネちゃん」
ぽつりと、久し振りに聞く芳佳の言葉。
「芳佳ちゃん?」
「私……リーネちゃんを、苦しめてたんだね」
言いながら、じわりと涙が溢れる。慌ててリーネがハンカチで抑えるも、止まらない。
「私の方こそ、謝らないと。リーネちゃん」
顔を上げる。涙がつーっと頬を伝い、床に落ちる。
「ごめんなさい」
芳佳の純粋な一言が、リーネの涙腺を緩めた。
「芳佳ちゃん、良いの。私が」
「私こそ、誤解させて、苦しめて。ごめんなさい、リーネちゃん」
「芳佳ちゃん、泣かないで。私まで……涙が」
「リーネちゃん」
二人は抱き合った。力が緩んで、ベッドに倒れ込んだ。
ゆるゆると抱きしめながら、二人はどちらからとなく唇を重ねる。
「私も、リーネちゃんが好き。この世で一番。リーネちゃんが苦しむなんて、私、イヤだ」
「芳佳ちゃん」
「リーネちゃん、私、リーネちゃんを守りたい。もっと知りたい」
「私も同じ気持ちだよ。芳佳ちゃん」
もう一度、キスを交わす二人。
自然とベッドの上で二人は生まれたままの姿になり、肌を重ねる。
ゆっくりとお互いの身体を確かめ、触れ合い、心を通わせる。お互い心に溜まった負の感情を洗い流し、心を通わせる。
絆は前よりもずっと強く深くなる。吐息が弾み、身体も弾む。
「芳佳ちゃん、聞いて?」
「なぁに?」
「ハルトマン中尉がね、言ってたの。『ミヤフジは幸せ者だ』って」
「そうなんだ。……言われてみれば、その通りだよ」
「ホント?」
「うん。私、嘘は言わない。幸せだよ、リーネちゃん」
「私も」
「リーネちゃん、好き」
「芳佳ちゃん、私も好き」
お互い言葉で、そして触れ合う唇で、返事とする。そんな行為が、次第にエスカレートし、時が流れた。

夜の自由時間、浴場に現れたトゥルーデとエーリカ。
お風呂一番乗りと思ったが、先客が居た。芳佳とリーネだ。
「おお。お前達か。早いな」
「あ、バルクホルンさん、ハルトマンさん」
二組は湯を浴び身体を清めると、それぞれ石鹸でごしごしと洗いっこして、身についた色々なもの……
それだけでなく、心にこびりついた垢も落とし……いつしか皆、笑顔になった。
泡を綺麗さっぱり流して、湯船に浸かる。心地良い湯が、身体の張りや疲れをほぐしてくれる。
そして、身体についた痣や秘め事の痕も、じわりと浮き立たせる。
「何だ、お前達、随分増えたな」
トゥルーデが二人のそんな姿をを見て、冷やかす。
「お二人だって、そうじゃないですか」
芳佳が言い返す。湯煙の中に見える、トゥルーデ達の姿も確かにその通りだった。
ふっ、とトゥルーデが微笑んだ。
芳佳もリーネと肩をくっつけて、くすくすと笑った。
「トゥルーデ、からかえる程になったんだ」
「悪いか?」
「“堅物”の渾名が泣くよ、トゥルーデ。もうぐにゃぐにゃ」
「そうしたのは誰だ? エーリカ」
「そう、私だよ、トゥルーデ」
「臆面もなくよく言えるな」
「だってこの二人の前だし」
「そう言う問題……」
ふと湯船の中でキスされるトゥルーデ。軽い挨拶程度のものだったが、芳佳とリーネが見ている前でされると、
流石にこのタイミングでは、少し照れる。
「顔、赤いよ」
「風呂のせいだ」
「ホントかな~」
リーネがトゥルーデ達に向かって微笑んだ。
「本当に素敵ですね、お二人は」
「リーネ達程でも……いや、二人にも負けないよ?」
「勝負するもんじゃないだろう」
「それもそうだね」
そのやり取りを聞いて、微笑む芳佳とリーネ。つられて笑うトゥルーデとエーリカ。
「お、なんだなんだ? 二組揃って入浴とは珍しいね」
「ウジャー 四人ともはやーい」
やって来たのはシャーリーとルッキーニ。適当に湯を浴びるとざばっと飛び込んだ。
「ウニュー」
ルッキーニはシャーリー、トゥルーデ、リーネをじっと見比べてる。
「ルッキーニ、どうかしたか?」
「ウニャ シャーリー、負けちゃうかもよ?」
「は? 何の話だ?」
何故か同時に笑う二組。それを見てシャーリーはますます不思議に思った。
間もなく、他の隊員達もぞろぞろと入ってきて、答えは聞けず終い。
こうして、501の夜は暮れていく。

end



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