dynamite
ハンガーでひとしきりストライカーをいじり倒したシャーリーは、機械油まみれのまま自室に戻り、
部屋のど真ん中に鎮座する試作のエンジンをぽんぽんと撫でると、さあ次とばかりに工具を持ち出した。
ドアが控えめにノックされる。
「開いてるよ~、どうぞ~」
そっとドアを開けたのは、リーネだった。
「シャーリーさん」
「おう。どうしたリーネ」
「悩みがあるんです。聞いてもらえませんか?」
「何だ何だ? どうしたよ? ちょっと散らかってるけどここで話すか? それともミーティングルーム行く?
今なら誰も居ないと思うけど」
「ありがとうございます」
シャーリーは油まみれの手をこれまた油が染み付いたタオルでぞんざいに拭いて、一緒に部屋を出た。
ミーティングルームの片隅に腰掛ける二人。
「あの……悩みなんですけど。その」
「うん? 何?」
「胸、なんです。どうしたら小さく出来ますか」
「はあ!? お前は何を言ってるんだ?」
あまりに唐突な質問に、呆気に取られるシャーリー。
「おま……そんな事他の奴らに言ってみろ。呪い殺されるぞ」
「だからなんです! シャーリーさん以外に相談できる人いなくて」
「あー、確かに、そうだよな」
並居る隊員達の顔(と胸)を思い浮かべ、あははと笑うシャーリー。
「どれ」
試しにリーネの胸をもんでみるシャーリー。
「ひゃっ! いきなり何するんですか!」
「ふむ……なんかまた少し大きくなってる気がするな!」
「気がするだけです! ……て言うか、そういう事にしておいて下さい」
「ホントはどうなのよ」
「その……少し」
「大きくなったんだ」
「はい」
「成長期だからいいんじゃない? 中には成長期なのに全っ然大きくならない奴も居るけどな」
あはは~と笑うシャーリー。
くしゅんと大きくくしゃみをしてしまうペリーヌ。
「どうした? 風邪か?」
「いえ、失礼しました少佐。お気になさらず」
訓練の最中、首を傾げる美緒を前に、何故鼻がむず痒くなったのか自分でもよく分からないペリーヌだった。
「分けてあげたいです」
「まあ、確かに大き過ぎるのもなあ。ブラのサイズが違って来ると買い替えも面倒だしなあ」
「シャーリーさんは、その、まだ大きく?」
「うーん、ぼちぼち?」
「そうですか……」
「でもなんでだ? ここに来てから暫くはそうでもなかったと思うけど、ここ最近急だよな」
「それは……」
「うーん」
シャーリーはリーネの横に来ると、おもむろにリーネの上着を脱がし始めた。
「ちょ、ちょっとシャーリーさん!?」
「調べたい事がある」
「ええ?」
あれよあれよと上半身素肌を晒してしまうリーネ。シャーリーはお医者様宜しく、リーネの胸やら
背骨やら筋肉やらを観察したりつんつんとつついてみた。つつき方が妙に怪しげで、思わず声が出る。
「特に病気って事でもなさそうだなあ」
「あ、あの、服を……」
「あー待った。ちょい試してみるか?」
「はい?」
シャーリーはリーネの胸をもんで、乳首をぺろっと舐めると、吸ってみた。
「ひゃん! シャーリーさん、何を……」
「おまじない」
「お、おまじないですか……聞いた事ないです、そんなやり方……ああんっ」
「うん。だって今あたしが思いついた」
「ちょっ!」
がばと身を起こし、脱ぎ散らかされた上着で胸を隠すリーネ。
「まあまあ、あたしに任せてみなって」
「逆効果な気がするんですけど」
「試してみないと分からないって。ほらほら」
迫るシャーリー。やや怯えた表情で後ずさるリーネ。
「リーネちゃん!?」
「リーネに…リベリアン! お前っ!」
そこに現れたのはトゥルーデと芳佳。二人の姿と様子を見て、驚愕の表情を浮かべた。
「よう、二人とも。何驚いてんだ?」
気さくに返事するシャーリー。
「きっ貴様リベリアン! 皆が出入りする公共の場で、よくもそんな破廉恥な真似を!」
「リーネちゃん、シャーリーさんと、そんな関係だったの?」
拳を握ってわなわなと怒りに震えるトゥルーデ、半裸姿のリーネを見て呆然とする芳佳。
「ち、違うの芳佳ちゃん、これは……」
「そうだ、堅物もちょっと話聞いてくれよ。リーネの胸どうやったら小さく出来るかな?」
「なに訳の分からん事を! 白昼堂々と部下を襲ってどうする!?」
いつの間に背後に来たのか、リーネの耳元でひそひそと囁く人影。つんつんと背中を押して「GO!」と言った。
「助けて……、お姉、ちゃん」
その言葉が耳に入るなり猛然とダッシュし、リーネをぎゅっと抱き寄せてシャーリーとの間に入る。
「もう大丈夫だ。お前の姉として、私がお前を守る」
「おいおい堅物、話聞けって」
「リーネ、すまんがもう一度言ってくれないか? さっきはよく聞こえなかった」
「えええ? あの、ちょっと……」
囁いた人影を見る。短いショートの金髪の「悪魔」は、OKサインを出してにやにや笑ってる。
芳佳は芳佳で、ふらふらと三人を見比べて……自然と手が彷徨っている。
「あら、何してるのみんな? ……ちょ、ちょっと?」
通りがかったミーナが異変に気付き、血相を変えた。
結局その場に居た全員がミーナの執務室に連行され、事情を聞かれた。
「……そう。そう言う事だったのね。デリケートな問題だから、もう少し、真面目に考えないと」
「すいません」
「医学的には、脂肪分を減らす様に運動をすると良いって聞くわね。ダイエットかしら」
「扶桑ではサラシを巻いて胸のサイズを隠すが……根本的な解決にはならんな。きついし」
遅れてやってきた美緒が扶桑の習慣を話して聞かせる。
「はあ」
「まあ、とにかくこれは内密に。いいですね」
「了解」
しかし「内密に」と言っても、隊の半分以上が居るとなっては意味が無かった。
「なんか、悪かったな、リーネ」
「いえ」
「あんまり気にしない方が良いぞ? ありのままの自分を受け入れるんだ」
「でも、私」
「それに、お前を受け容れくれる人だって居るはずだぞ? もし居なかったら、あたしが受け容れる」
「シャーリーさん」
「いつでも言ってくれ」
シャーリーはリーネの肩をそっと抱いた。何とも頼り甲斐の有る姉、隊随一の持ち主とだけあって、
とても頼れる「姉貴」に見えた。故郷に居る姉妹達を一瞬思い浮かべる。
二人で見る、夕暮れの空。海に沈むオレンジ色の太陽。
ストライカーの軌跡が、ふたつ空に描かれた。
end