扉の奥では何が?


サーニャの部屋。
その扉の前で、エイラは片方の耳に手をあて、室内の様子をうかがっていた。
(サーニャのやつ、誰と話してんだ)
サーニャの部屋の前を何気なく通り過ぎようとした時、サーニャと誰かが会話をしている
ように聞こえたため、こうして会話の相手を確かめていたのである。
(・・・・この声は・・・ハルトマン中尉か)
サーニャと話をしているのはどうやらエーリカ・ハルトマン中尉のようである。
(あの人、意外とサーニャと仲が良いんだよなぁ)
エイラは胸の内に小さな嫉妬心が芽生えたものの、二人の会話の邪魔をするのもどうかと
思い、その場を去ろうとしたが、聞き逃せない言葉が耳に入ってきた。
「じゃあさ、横になってよ」
「・・・・はい」
(横?二人で何してんだ?)
エイラは離しかけた耳を再び扉に近づけた。
「いい?入れるよ」

(えっ!い、入れるって何をだよ・・・まさか・・・そんなことないよな)
エイラは自分の突拍子の無い考えに苦笑したが、
「大丈夫?痛くない?」
「・・・平気です」
「そう?じゃあ動かすよ」
!!!
エイラはその言葉を聞き、耳を完全に扉にくっつけた。
(ま・・・まさかな・・・ははっ・・・)
エイラは自分の頭の中のいかがわしい妄想を振り払おうとした。しかし、
「どう痛くない?」
「・・・大丈夫・・・少し・・・気持ちいい」
!!!!!!!
(う・・・ウソだろ?そんな・・・、えっ、ど、どうすりゃいいんだ?)
エイラは扉に耳をくっつけたまま、どうしたらいいのかを考えてみたものの、
頭の中は既に真っ白になり、
「よ、芳佳ちゃん・・・何をしているのか聞いてみた方がいいかな?」
「えっと・・・やめといた方がいいと思う。なんか、すごい殺気だってるし」
廊下を通る二人の視線や会話にも気がつかなかった。
(まっ・・・まさかサーニャが、そ、それもハルトマン中尉と?じゃ、邪魔しない方がい
いのか?で、でも・・・あぁ!!もう!)
エイラは目を閉じたまま、いきおいよく扉を開けた。


「そ、その・・・やめろ二人とも!」
エイラは部屋へと突入するなり、そう叫んだ。破れかぶれだった。
エイラは恐る恐る目を薄く開けていった。
「あれ?」
サーニャはベッドに横になりエーリカの膝の上に頭を乗せたまま、
不思議そうな目をしてエイラを見つめた。それと、二人とも服は着ていた。
「どうしたのエイラ?」
「えっ!えっと・・・はっ、ハルトマン中尉となにしてたんだよ・・・」
「耳かきだよ~」
エイラの質問にエーリカが明るい声で答えた。
手には確かに耳かきが握られている。
「サーニャがさぁ、なんか耳の中がゴソゴソするっていうもんだから、
耳かきしてあげてたんだよ、ねぇ?」
サーニャはのぞきこんできたエーリカの顔を見てコクリとうなずいた。
「で、エイラは何しに来たの?なんか、やめろって聞こえたけど」
エーリカの質問にエイラは戸惑った。
「えっ?えと・・・」
扉の前でのことを話せるわけがない。
「それに顔も赤いし、息遣いも荒くない?」
エーリカの容赦ない質問攻めが続く。
「そ・・・その・・・い、いまさぁ、占いをしてたら、なっなんかサーニャに
厄災が降りかかるって出たから、こ、こりゃすぐにサーニャのとこに行くしか
ないな~って、それで・・・」
「ふ~ん」
エーリカは指先で耳かきを器用に回しながら下手な弁解をするエイラを冷めた目で見つめた。
「まいっか、それじゃあ私は部屋に戻るよ」
それを聞きサーニャが半身を起こすと、エーリカは軽やかに立ち上がった。
「ああ、これはもういいか、ほい」
そう言って耳かきをサーニャに手渡す。
そのままエイラの横を通り過ぎようとすると、突然エイラの肩に手を置き
「ねぇ、本当はなんか変なこと考えていたんじゃない?」
そうエイラの耳元でささやいた。
(なっ!・・・まさかこの人、外に私がいるって気づいてて・・・)
「じゃあね~」
エイラが口を開く前に、エーリカは扉から出て行った。


エイラは夢心地の気分だった。
エーリカがサーニャの部屋から去り、部屋には妙な沈黙が流れていた。
居心地の悪さを感じたエイラも部屋を立ち去ろうとすると、
「する?」
というサーニャの声が耳に届いた。
「へっ?何を?」
エイラは慌ててサーニャの方を向く。
「何って・・・耳かき」
「あぁ・・・そうか、なんだ・・・って!いいの?」
頭をかいていたエイラは、まじまじとサーニャの瞳を見つめた。
サーニャはコクリとうなずいた。
(痛ッ!)
あまりサーニャの耳かきは上手とは言えなかったが、エイラは
サーニャの膝枕の柔らかさを、そのぬくもりを、そしてこの胸の
ドキドキをもうしばらくは手放せないと思った。

end


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