無題


「むぅ……冷えたか……?」
 坂本美緒はドーバー海峡の半ばあたりで端正に整った眉をひそめた。
 下腹に違和感を覚えたかと思ったら、猛烈な便意が襲いかかってきたのだ。
「むぅぅぅ……」
 美緒の食いしばった奥歯の隙間から呻き声が漏れ出してくる。
 直ぐにでも個室に入りたかったが、それはできない相談である。
 今はガリア奥地への強行偵察に向かう途中であり、列機としてペリーヌを連れている身であった。
 更にやや上方、10時の方向にはミーナとエーリカのペアが飛んでいる。
 4機編隊はガリアに集結しつつあるネウロイの戦力を見極めるべく、本早朝極秘の任務に就いたのであった。

 長丁場の強行軍となるため、昨夜美緒は早く寝て、ベテランらしく水分の摂取も控えていた。
 朝のお通じも快調で、しかも自分が納得できるまでしゃがんでいたはずであった。
 それだけに今の腹痛は想定の範囲外にあり、美緒としては二重に不快を感じていたのだ。
「私としたことが……うむぅぅぅっ……」
 脂汗が美緒の額を伝い、顎へと流れ落ちていく。
 全身の筋肉を締めているため、体のあちこちが不本意な痙攣に支配される。

 先は長く、この分だとドーバーは越せても、ガリア奥地にある敵の拠点まではとても辿り着けそうになかった。
 と言って、自分の離脱が仲間の生還率を下げるとあっては、引き返すことなどできない。
「くっ……しかし……くぅぅぅ……」
 美緒は少しでも腹痛を緩和させようと、排気圧を絞りながら腹内ガスを漏らそうとした。
 だが、気を抜いた途端に肛門が緩み、いきなり中身が噴出しそうになる。
 背後では何も知らないペリーヌが澄まし顔で飛んでいる。
 故郷のガリアに飛ぶと知った彼女は、一も二もなく作戦参加を志願した。
 その勢いは、一番に手を上げた宮藤芳佳を弾き飛ばしたほどであった。
 そんなペリーヌだから、あたかも美緒をせっつくように正規の2番機の位置よりかなり前に食らいついている。
 この位置で粗相してしまえば、ペリーヌに気付かれることは疑いない。

「だ、駄目だぁ……」
 美緒はガスの放出を諦めると再び全身を緊張させた。
 しかし一旦出口に近づいた内容物は二度とは元の位置に戻せない。
 美緒は小細工しようとしたことを後悔したが、だからといって今更どうなるものでもなかった。

 そうこう我慢して飛んでいると、いよいよ美緒に限界が訪れた。
 顔は真っ青になり、ブルブルという下半身の震えは止まらない。
「ほ、ほんとに……もう……あうぅぅぅ……」
 仮に今から反転したとしても、もう基地まで保ちそうにない。
 途中で下品な爆撃を行うことになるのは確実である。
 こんなことならミーナに事情を話して任務を離脱すべきだったと、美緒は自分の優柔不断を呪った。

 その時であった。
 美緒の眼が直下の海に浮かんだ廃船を捉えた。
 すかさず眼帯をずらして魔眼を露出させる。
「ガリア籍の漁船……操業中にネウロイの攻撃を受け漂流……」
 美緒は船体のあちこちにある破損状況から判断を下す。
「生存者は……なし……」
 次の瞬間、美緒はユニットに多量の魔力を送り込んでいた。
 パパンッという乾いた音と共に零式艦上戦闘脚から白煙が上がった。
 一時にブーストが高まったため、焼け付き現象が起こったのだ。

「美緒っ」
「少佐っ?」
 ミーナとペリーヌが同時に悲鳴を上げた。
「だ、大丈夫だ……無理はできないが、なんとか飛べそうだ」
 美緒は弱々しい笑い顔を見せて無事を告げる。
「しかしガリアの奥地までは飛べそうにない。ミーナ、すまないがペリーヌを頼む」
 一個小隊になっても、3機編隊なら互いにカバーすることで任務は達成できるであろう。
「ええ、分かったわ。あなたも絶対に無理しないで」
 ミーナは心配そうに美緒を見詰める。
 作戦を中止しようかとも思ったが、それは無用の時間を敵に与える利敵行為に他ならない。
 心を鬼にして強行偵察の続行を決意した。

「ダメです少佐。この空域で単独飛行は危険すぎますわっ」
 ペリーヌが心配したとおり、ドーバー東側の制空権は既に敵の手に落ちている。
 いつ、どこからラロスの編隊が逆落としに降ってきてもおかしくないのだ。
 ペリーヌとしてもガリアの大地を見たかったが、大事な少佐を危険に晒すことはできない。

「バカ者ぉっ、お前もウィッチなら任務を優先させろ。そんな軟弱に教育した覚えはないぞっ!」
 美緒の怒りは真に迫っていた。
 その迫力に押されてペリーヌの肩がガックリと落ちる。
「ペリーヌ。ミーナを任せたぞ」
 美緒は満足げに微笑むと、身を翻して緩降下に入った。
「少佐ぁ……ご無事でいらしてくださいましね……」
 高度を落としていく美緒を見守りつつ、3人になった強行偵察隊は東へ向けて進撃を再開した。

「ふぅぅぅ~ぅっ、バカもんが。危うく漏らすところだったではないか」
 額の汗を拭い、美緒は大きく溜息をついた。
 ペリーヌに付きまとわれては折角のチャンスが不意になる。
「おぅっ……き、来てるぅぅぅ……ひぐっ」
 もはや一刻の猶予もないと判断した美緒は、Gの高まりを承知で背面ダイブに入る。
 そしてそのまま急降下爆撃の要領で廃船目掛けて突っ込んでいった。

 甲板に降りてユニットを脱ぎ捨てるや、美緒はトイレを探すため駆け出した。
「うむむむっ……どこだ……どこなんだ」
 固く締めた肛門からはガスが漏れ出し、事態は切迫している。
 しかし空襲で破壊されたトイレなど、最初から見つけることは不可能だったのだ。
「あむぅぅぅ~ぅぅっ……も、もうダメだぁぁぁっ」
 美緒は制服とスク水を脱ぎ捨てると、手近の木箱を足場として甲板にしゃがみ込んだ。

「……うむっ……むむぅ」
 気張るほどもなく肛門が全開になる。
 ブリ、ブリリリリッ、ブパパンッと豪快な音がした。
 痺れるような快感と解放感に目が眩みそうになる。
 だがおかしなことに下痢状態だと思っていた大便は、実際に出してみるとそうではなかった。
 むしろ、何やら普段とは違う不思議な排泄感すら覚えた。
 不思議に思った美緒は、体調チェックを兼ねて、自らの排泄物を目視で確認することにした。

「…………はぅっ?」
 その途端、美緒の体が硬直してしまった。
 全身の産毛がザワザワと総立つ。
 肛門から放り出されたのは大便などではなく、なんと白くて細長い体を持った線形動物であったのだ。
 踏み台にした木箱の間に、長さ20センチほどのうどんのような虫が10匹ほど。
 それが体を嫌らしくうねらせて蠢いていた。
 しかも、虫たちは後から後から、連なるように肛門からひり出されている。

「ひぃぃぃっ?」
 美緒は半狂乱になって狼狽えたが、寄生虫の排泄は止まらない。
 今や美緒の両足の間には、寄生虫がてんこ盛りになって蠢いていた。
 行き場を失った何匹かが木箱を這い上がり、美緒の足へ迫ってくる。
「わ、私の体の中に……こ、こんな虫がぁぁぁ……」
 呆然となった美緒の膀胱が緩み、自然と小便が漏れてきた。

 ウネウネとくねりながら我先に出口に殺到する虫たちは、無理やり肉を押し広げて肛門を苛む。
「ひぐぅっ?」
 ミーナの舌先や芳佳の指責めなど比較にならない快感が走る。
 アヌスで生じた電流が、脊髄を駆け抜けて脳を掻き回す。
 目から火花が散り、呼吸が止まり掛ける。
「虫に……虫なんかにイかされるぅ……」

 いつの間に彼らの侵入を許したのか。
 知らぬ間に、体内に卵を取り込んだのに違いない。
 既存の寄生虫ではないから、駆除の方法も直ぐには見つからないであろう。
 だいたい、不気味な寄生虫に冒されているなどと、たとえ相手が軍医としても申し出るわけにはいかないのだ。

 幾らひり出してもたとえ一匹、いや、卵の一個でも体内に残っている限り、虫を完全に駆逐することは不可能であろう。
 虫どもは体内で数を増やし、再び便意の形で襲い掛かって来るに違いない。
 基地での訓練中に、実戦中の大空で、そして仲間たちとの憩いのひとときに──。
 美緒は真っ暗な絶望感の海に沈んでいく自分を感じていた。

 全身から力が抜けると同時に、狂おしいまでの快感が襲いかかってくる。
 美緒はあっというまに快感に溺れ、何度も何度も登り詰めた挙げ句に半狂乱になる。
「おぉぉぉ……し、死ぬぅぅぅ……」
 半開きになった口からはヨダレと悲鳴が止めどなく漏れ出す。
 もうどうなってもいい──美緒が完全に堕ちそうになった時だった。

「しょ、少佐……」
 背後で上がった小さな悲鳴が美緒を我に帰させた。
 美緒が肩越しに見たものは、ガリアへ飛んだはずのペリーヌであった。
 やはり美緒が心配になったペリーヌは、ミーナが止めるのも聞かずに反転してきたのである。

「ひっ……」
 恍惚となっていた美緒の表情が俄に掻き曇る。
「み、見るなぁーっ」
 真っ裸で踏ん張ったまま列機を怒鳴りつける美緒だったが、その間も虫の排泄は止まらない。
「お終いだ……こんなところを見られたのでは……私はお終いだ……」
 美緒の全身が今までとは違った震えに包まれた。

 ところが、ペリーヌの様子がおかしくなってきた。
 最初こそ真っ青になっていた彼女だったが、愛しの少佐の排泄行為を見ているうちに頬が上気してきたのだ。
「憧れの少佐が、私の目の前であられもないお姿を晒していらっしゃる……」
 恐らく自分以外には誰にも見せたことのない姿であろう。
 自分だけが知る少佐のお姿を目撃している。
 それだけでペリーヌは幸せな気持ちになれたのだ。

「見るなっ……頼む、見ないでくれぇ……」
 羞恥心の余り、美緒の目には涙が滲んでいた。
 しかし逃げ出すことも叶わぬ美緒にできるのは、その場でペリーヌを睨み付けることだけ。
 そんな美緒が、ペリーヌにはたまらなく愛しくなってくる。
「あぁぁぁ……少佐のアヌスがあんなに開いて……白いウンチが……」
 ペリーヌはタイツの前が湿ってきているのを自覚していた。
 それを気にもせず、ペリーヌは恐る恐るといった足取りで美緒に近づいていく。
「来るなぁっ……来ちゃいかん」
 美緒の叫びが、舷側に虚しくこだました。


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