第7手 膝枕・顔の向きが逆


天地無用天地無用、どう考えたって天地無用。
天地無用は上下の話だというのは今の私には関係のない話で、通常と逆という事実があまりにも強い影響を与えるということのみが頭を席巻していた。
ただただひたすらに目の前の光景が私には信じられなかったのだ。
どうしてこうなったのか。現在の状況は、過程がすっぽりと抜け落ちて結果だけが与えられた格好になる。
側頭部ではとてもとても柔らかくてとてもとても暖かい感触だけが主張していて、それがなにから与えられているものなのかを思うだけで私の心臓は壊れてしまったみたいな音を立てた。
いや、ただそれだけならば以前にも体験したことのある事象だ。以前のものも私には過分な刺激だったがそれでも今回ほどではない。
問題なのはやはり「逆」というものが与えてくる結果なのだった。

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目を覚ましてからもいつも通り、うつらうつらと現実と夢の世界を行ったり来たりしようと考えていた私は、ベッドではない温もりに現実へと引き戻された。
パチリとしっかりと目が開いてしまって、さっきまで夢の世界へと戻ろうとしていたなどとは信じられない。
しかし、開いているはずの目が捉えた景色は黒一色で、頭には疑問符がうかんでしまう。
ぽかんと浮かんだその疑問には、自らの記憶がすぐに答えを用意した。
あまりにも近すぎて、そしてあまりにも自分に都合が良すぎたから一瞬理解ができなかったが、その色はよく知っているものだったからだ。

「あのー…もしかしなくてもサーニャさんですカ?」

どうしてかいつも通りに問いかけができなくて、自分で聞いても呆れるほどうろたえているのが分かる。
私の身体は返事を待つ間もすっかりと硬直してしまっていて、視界は相変わらず黒一色だった。
目の前の黒に少し皺が入ると、耳元に風が吹きつけてきてくすぐったさがはしった。
あぁ、私は知っている。それは風ではない。風でなければなんなのか?
その答えはクスクスという笑いが彼女から漏れてきているのだから簡単で、彼女が私の耳に息を吹きかけたということだ。

「どうしてこんなことになっているのでしょうカ?」

文字通り目と鼻の先にサーニャの細い腰があり、鼻腔を彼女の匂いがくすぐるものだから頭の中がサーニャ一色に塗りつぶされてしまう。
視界も頭もサーニャ一色という今の状況は私にとっては死に致る病。死に到る病は絶望なんかではないよ幸せだよ、と私は頭の中で誰か知らない人に語っていた。
なぜなら今私は死にそうなのだもの。幸せは人を死に追いやるよ…間違いなくね。
どうせ死んでしまうのならこのままサーニャのお腹に顔を埋めて深呼吸でもしてやろうか…と私の中の悪魔が囁くが、天使は胸に顔を埋めろと主張する。
究極の2択とはまさしくこのことではないだろうか。とりあえず私はなにもしないこととした。

「エイラったらひどいんだもの。皆でおしゃべりしてる途中で眠っちゃうんだから。」

あぁ、ぼんやりと思い出してきた。
もう既に恒例となったティータイムの後に、やはり恒例となった雑談に花を咲かせていたのだ。確かにそこまでは覚えている。

「それでね、シャーリーさんとルッキーニちゃんが面白がってエイラを私の膝にね…。」

あぁ、確かにあいつらならやりそうだ。けどあいつらだったらこの状態にはならないような気がする。
どうしてか頭には鮮やかな金髪がちらちらと思い浮かんでしかたがない。

「あと一人ぐらい関与してるやつがいるよーな気がスンナー。」

私の問いにサーニャは笑い声をもらす。
この反応は間違いなく、推測が正しいという事を示していた。

「あのね…ハルトマンさんがエイラの身体をひっくり返していったの。」

やはりというか案の定というか…あのぺたんこの金髪はろくなことをしない。
この言い方だと2人ほど候補がいるが、もちろんツンツンしていないほうだ。
黒い悪魔はずっと空を任せているのが一番平和だ。あいつのせいで私の心臓はもう別の生き物みたいになってしまっている。
あぁもう…たまった言葉を吐き出す場所がなくて胸が痛い。
とりあえず私は、胸の中でハルトマンに文句と礼を叫ぶと、もう少しだけサーニャの温もりを味わうこととした。

Fin.


『ストライクウィッチーズでシチュ題四十八手』応募作品

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