All You Need is LOVE.


「…おーりゅにーでぃーずらーぶ…ふ~ふふふふ~ん…」
 リーネは上機嫌で本日の朝食をこさえていた。メニューは代わり映えしないものばかりだが、芳佳やリーネが一手間加えるのですこし豪華なものに見える。今日はボリューム満点のブリタニア式ブレックファストに一手間加えてある。ソーセージをカールスラントのものに換え、パンだけでなくご飯も選べる。しょうゆも完備だ。手絞りのフルーツジュースもたっぷり用意し、昼食をとりに戻ってこれない人のためにサンドイッチも作った。今日も完璧だ。ちょっと針が振り切れてる人はいるけれども。
「リーネちゃん、今日はどうしたの?…すごいご機嫌だけど」
「ん? えへへ、んふ~…えへへへへぇ~…」
 キモい。一瞬その単語が頭に浮かんで、芳佳はあわてて脳裏から追い出した。しかし芳佳がそう思うのも無理からぬ事で、えへへうふふと体をくねくねさせているリーネは、はっきり言ってキモかった。
「明日はね、ペリーヌさんの誕生日なんだよ! もうプレゼントも買ってあるの。ロンドンでみつけたきれいなペンダント! 喜んでくれるかなぁ~えへへ~…」
 だめだ、まだ前日だというのにすっかり妄想の世界にトんでしまっている。芳佳はリーネを現実世界に引き戻すことを即座に諦めた。
「おはよう宮藤。リー…ネはどうしたんだ、おかしくなってるが」
 やがて早起きのバルクホルンが食堂に顔を出した。傍目から見ても、言葉を選ぶことすらできないほどおかしくなってるらしい。
「おはようございますバルクホルンさん。リーネちゃんはちょっとほっといた方がいいと思います」
「そ、そうか…。今日の朝食はなんだか豪華だな。何かいいことでもあったのか? …リーネに」
「明日のペリーヌさんの誕生日…それで、あんなふうに」
「…気が早すぎだろう…」
 二人して呆れたように溜息をつく。続いてハルトマンが、ミーナと連れ立って現れた。芳佳は同様の質問を受け、同様の返答を返し、同様のリアクションを取られた。ついでにため息まで一緒だった。
「はっ…ああっ! もうこんな時間!? わたし、ペリーヌさん起こしてきます!」
 妄想状態から復帰したリーネは、あわただしくエプロンを外すと小走りで食堂を出て行った。
「あれがリーネの『通い妻』かぁ。初めて見た」
 エーリカが目を丸くする。ここ数ヶ月のあいだ、リーネは朝食の支度を終えると、まずペリーヌの自室に顔を出すようになっていた。少しでも長くそばにいたい、ペリーヌの役に立ちたい、というのが理由だそうだ。それを見たシャーリーが「こりゃ通い妻みたいだね」と評したのがはじまり。リーネは妻という言葉が大いに気に入ったらしい。
「妻というより召使いのようだな。身支度を手伝ったりしているんだろう?」
「はい、たまに手伝っているそうです。でも、リーネちゃんが食事の支度を終わらせる時間には、もうペリーヌさんはもう起きているので…寝顔も見せてくれないって愚痴ってました」
 バルクホルンの問いに、芳佳が答える。
「それに、半分ぐらいは私の責任かも…」
「どうしてだ?」
「リーネちゃんが、いいお嫁さんになりたいというので…『花嫁修業読本 扶桑撫子5月号』を貸してしまったんです。ちょうど『内縁の妻特集号』だったので」
「何なんだその雑誌は…。というか宮藤はそれを所持して一体何をするつもりだったんだ…」
 妹分の所持品に軽くショックを受けるバルクホルン。ミーナがなるほどねえと頷いた。
「扶桑のお嫁さんはね、「夫唱婦随」「三歩下がって夫の影を踏まず」っていって、妻は夫に従うもので、夫を立てて自分は出しゃばらないのが第一だと言われてるの。男尊女卑思想もあったから、扶桑の女性は夫に恥をかかせないよう、精神的なものはもちろん、学問や芸事、家事など厳しく躾けられたわ。それが世界一の良妻といわれるようになった所以ね」
 おお~、ぱちぱちぱち。いつの間にかシャーリーとルッキーニがギャラリーに混じって拍手していた。
「さすがミーナおねえさん、物知りだね!」
「だれがミーナおねえさんですか。…宮藤さん、エイラさんとサーニャさんを呼んできてくれる? 美緒はもうそろそろだろうし、ペリーヌさんたちが戻ってきたら朝食にしましょう」


「ペリーヌさん、リーネです」
 短く2回ノックする。しかし、しばらく待っても返事がない。もう一度ノックする。やはり、返事はない。扉を細く開けて、上半身だけ差し込む。布団はふくらんだまま、デスクの上に用意されている着替えもそのままだ。
「ペリーヌ、さ~ん…」
(決してやましいことはないんですよ? そう、この機会に寝顔を拝見してみたいなどという下心は持っていません、ええ)
 そろそろと足音を殺してベッドに近づく。ゆるやかな曲線を描く体、うっすらと上下する胸、波打つように広がる金髪、形のいいあごのライン、うすく開かれた輝く唇、通った鼻筋、伏せられた瞼と長い睫毛。閉じられたカーテンから細く光が差し込んで、透き通った横顔とやわらかな体の起伏を浮かび上がらせている。息をするのも忘れるほど、リーネはその横顔に見つめていた。ひどい、と思った。こんな美しいものを隠し持っていたなんて。ほんの悪戯心でのぞきこんだ場所は、天国への扉だった。それはすっかりリーネを魅了し、頭の中の何もかもを奪い去って真っ白にした。
 リーネはペリーヌのそばに跪き、息がかかるほど間近でその寝顔を見つめていた。距離が近づくごとにその美しさはいっそうリーネの胸を締め付けた。自分の胸が壊れそうなほど高鳴っているのに、今更のように気づいた。もっと近づきたかった。傍にいるだけでこんなに胸がどきどきするのは初めてだった。伝えたかった。どうすれば伝わるか霞がかった頭で考え、すぐにやめた。体の中を駆け回る血ではない何かに突き動かされるように、リーネはゆっくりと上体を乗り出し、枕に手をつき、ゆっくりと目を閉じ…ようとして、
「………っ!?」
 ばっちり目が合った。背筋にものを言わせて顔を引き剥がしその勢いのままごろごろごろーと部屋の中を転がった。端に行き当たったので振り返るとそこは壁で扉は遠くて、とてつもない絶望を感じてへたりこみ顔を覆った。あれで逃げようとしていたところをみると、明らかに頭が回っていない。
「ごめんなさい…ごめんなさい…魔が差しました…」
 なんともひどい言いようである。
(あなたは魔が差さないと恋人にキスのひとつもできませんの…?)
 ペリーヌは憮然としながら、ふたたび布団をかぶると目を閉じた。
「…ダメです。許しません。ちょっとここにおいでなさい」
 リーネはのそのそと床を這って、ふたたびベッドのそばにぺたんとすわりこんだ。
「ウィッチたるもの、一度始めたことを途中で投げ出すなどまかりなりません。…や、やり直しを要求しますわ」
 リーネはしばらくぽかんとしていた。ペリーヌの言葉が脳にしみわたるまで幾ばくかの時間を要した。やがてリーネが何を言われたか理解し始めた頃、ペリーヌは鼻の上まで布団にもぐりこんで、もごもごとくぐもった声を投げつけた。
「寸前でやめて放っておくなんて、ひどいじゃありませんの…」
 布団からほんのすこしはみ出した耳が真っ赤に染まっている。それがリーネのスイッチを入れた。
「あっ、んっ…ちょ、んむっ…ん…ちゅ…ぷはっ、っ…ん、んっ…ちゅ…ちゅっ…」
 唇に触れるあたたかさを感じながら、ペリーヌはリーネの首に手を回した。どうやら朝食の時間には間に合いそうにないようだ。


    * * *

(なんだかやっばいコトになってるナ、これ)
 私はペリーヌの部屋の前で硬直していた。妙な雰囲気を感じてすこし開いた扉から中の様子を確認してみたら、ペリーヌとリーネが濃厚なキスをかましていたのだから仕方のない話だ。私の頭の上には、愛用の枕をはさんで半分眠っているサーニャが、その上にはどことなくうらやましそうな顔の芳佳がだんごのように連なっている。少なくともサーニャに見せてはいけないものであることはわかった。寝ぼけてくれているのが唯一の幸いだ。ここは迅速に撤退するのが最善、物音をたてないようにそっと扉を閉じ、本格的に寝始めたサーニャをおぶって立ち上がった。私に全てを任せて眠るサーニャかわいい…とか感じながら、まだ扉の前にはりついているミヤフジのケツを蹴っ飛ばしてひきはがす。
「す、すごかったですね! いいなぁ、私も恋人ほしいな…」
 やたらきらきらした瞳でミヤフジが話しかけてくる。私はどことなく不穏な空気を感じ取って、ミヤフジと微妙に距離をとりながら(むろんサーニャをミヤフジから遠ざけるためだ)、
「そうだナー、ミヤフジも昇進すれば素敵な恋人が出来るかもナ」
 スオムスにはかつてアホネン中隊というのがあってナ、とミヤフジの興味を別の方向へ逸らしてみる。
「僚機が…ぜんぶ…そんな…でも…ユートピア…?」
 どうやら成功したらしい。頼むからシミュレーションは501以外の部隊でしてほしい。すごくいい笑顔が逆に恐ろしい。よだれ拭け。くねくねすんな。
「スオムスに派遣されてた扶桑のウィッチもすごかったらしいナ。毎晩のように僚機を”撃墜”してたから味方撃ちって呼ばれてたらしいけどナ」
「やぁん…そんな、撃墜…エイラさんのえっち…」
 やばい、やりすぎたかナーと内心反省しながら食堂への道を歩く。芳佳の興味はすっかりペリーヌとリーネから離れたようだ。あの二人にはいつか甘いものでもおごってもらおう。
 やがて食堂の扉をくぐると、朝食はとっくに始まっていた。おおかたロマーニャとカールスラントのマイペース組に丸め込まれて食事を始めたのだろう。私とサーニャの分もちゃんと用意してあった。
「たーいちょー。ペリーヌはちょっと体調崩したみたいで、リーネはその看病するってサー。朝食は後でいいっテー」
 サーニャを椅子に座らせると、その隣に腰を下ろした。ミヤフジはさっそくバルクホルン大尉とハルトマン中尉に、どうすれば大尉に昇進できるか聞きに行っている。そういえばミヤフジに言い含めておくのを忘れたが、どうせ当分ハーレム計画で頭がいっぱいだろうと判断し、そっとしておくことにした。
「あら、珍しいこともあるのね、ペリーヌさんが…。わかったわ。リーネさんがついてるなら心配ないでしょう。美緒、シフトを組み直すから、後で手伝ってちょうだい」
「うん、了解した。…しかし残念だな、明日はペリーヌの誕生日なんだろう?」
 坂本少佐がちらりと厨房内の冷蔵庫に目をやる。その中には、明日のパーティで使う予定のホールケーキの材料が納められていた。芳佳は洋菓子が得意でないため、リーネの手作りになる。きっとものすごく甘ったるくなるに違いない。
「ん~、ケーキだけわけて、解散ー?」
 お前明らかにケーキだけが目的だろう、という意見をルッキーニが提案した。イェーガー大尉が苦笑しながらたしなめる。
「こら、ルッキーニ。年に一度の誕生日なんだから、せめてちゃんとおめでとうを言わないとダメだぞ」
「うにゃーい」
 それは否定なのか肯定なのかどっちなんだ、というツッコミを我慢して口を開く。
「ペリーヌも明日には元気になってるかもしれないケド、病み上がりであんまり無理させるのも可哀想だからナ。短く切り上げるのもアリじゃないのカ?」
「そうだな、盛大に祝ってやりたいところだが、病気では仕方ない。本来ならパーティも中止すべきなのだろうが…せっかくのリーネの手作りケーキがもったいないしな」
 バルクホルン大尉が追従する。なにかと部下の面倒見のいい大尉だから、ペリーヌに無理をさせない方向で落としどころを探ってきた。おおむね計画通りだ。後の不安要素はハルトマン中尉だけど…
「トゥルーデがそう言うなら、それでいいんじゃないかな? 明日はペリーヌの誕生パーティのために時間あけておいたけど、ヒマになっちゃったね。何しようか、トゥルーデ」
 にやにやとバルクホルンのほうを流し見るハルトマン。どうやら私の真意を読んだらしい。にやにや笑いをこっちにも向けてくる。やっぱり油断できない。
「ん…そうだな、宮藤も成長してきたし、ロッテ編成と戦略を一から考え直してみるか。そうすれば今回のように病気などで戦場に出られない時にスムーズに対応出来るしな」
 まずい! 堅物大尉が余計なこと言った! いまミヤフジに現実世界に戻ってきてもらうと、致命的な一言を漏らしかねない!
「大尉~、たまののんびり出来る時間なんだカラ、自分の恋人をほっとくのはどうかと思うナ~。ちゃんと構ってやらないと、愛想つかされるゾ? なあミヤフジ、そう思うダロ?」
「はいっ! 恋人は大事にしないとダメです! わたしもゆくゆくは素敵な恋人を作りたいです! できれば部隊いっぱい!」
「ば、ばかもん! …こほん、でも、まあ、悪い案ではない…な」ミヤフジの後半の言葉はスルーされたらしい。
 ほっと胸をなで下ろす。まだ意識はむこうにあるようだ。ちらりとハルトマン中尉を見ると、ちろっと舌を出していた。まったく、自分の恋人の思考回路ぐらいちゃんと把握しとけよ!
 ともあれ怪我の功名か、みんなの意識に『空いた時間に恋人と過ごす』という意識を植え付けることが出来た。これでほぼ詰みだろう。あとは中佐の決定を待つだけだ。
「こほん。そうね、病み上がりのペリーヌさんに無理をさせるわけにもいかないし。明日のパーティは早めに切り上げるということで」
「ごほん、そうだな。それがいいだろう! 無理はいかんな!」
 わざとらしい咳払いを一つずつくっつけて、中佐たちが落ちた。ふたつある凸凹コンビからも反対意見は出ない。
 チェック・メイト。にひひひひ。かたわらでサーニャがそっと頭を寄せてくるのを感じた。

   * * *


 ペリーヌはゆっくりと目を開けた。ぼやけた視界の大半をあどけない少女の寝顔が占領している。
「リ、」
 名を呼びかけて、やめた。起こしてしまうのはすこしもったいない気がした。寝顔を見たのは初めてなのだ。リーネの朝が早いので、どちらかの部屋で夜を明かすことはいままでなかった。そうしてしまうと際限なく甘えてしまうような危惧がペリーヌにはあった。それほどまでにリーネは温かく、心地よかった。いつまでも好かれていたい。側に居て欲しい。格好悪いところなど──すでにいくつか見せてしまったかもしれないけれど──もう見せたくなかった。今朝の件はちょっと失態だったけど、口が裂けても「明日の誕生日が楽しみで眠れなかった」なんて言えるわけない。体調不良だったと言うことにでもしておこう。自分の知らぬ所ですでにそうなっているとは知らず、ペリーヌはそんなことをつらつらと考えていた。
 それにしても今朝のリーネはなんだったんだろう、ふとそう思った。ずいぶん積極的だった気がするが…。つい唇を注視して赤くなってしまう。おっとりしたところのあるリーネから、あんなに情熱的なキスをされたのは初めてだった。いろいろと初めてづくしの朝ですこと、とおかしくなる。
「悪い人、ほんとに」
 おでこをくっつけ、呟く。ほとんどキスをするように、鼻と鼻をこすり合わせる。その感触でリーネが目を開けた。
「…わたしですか?」
「ええ、そうよ。わたくしをすっかり弱くしてしまった」
 唇が押し当てられる。熱く、甘く、柔らかく、心まで痺れるような感触。
「弱くなってください。その分わたしが強くなります」
「ん…嫌ですわ。立っていることも出来なくなってしまう、んっ…」
「っ…、そのときは、わたしが支えます。ずっとそばにいます」
「…ちゅっ…、ふふ、もうなっているかも知れませんわね、あなたがいないと立てないほどに」
「そうしたらずっと抱きしめていられます」
「もう…ずっとベッドから出ないおつもり?」
「今日はそうしてもらうことになるナー」
 突然掛けられたエイラの声に、二人は飛び上がらんばかりに驚いた。実際ちょっと飛び上がった。揃ってみごとにベッドの向こう側に転がり落ち、その後を布団が追いかけてきた。けらけらと笑うエイラ。
「ペリーヌは体調を崩して朝食を欠席、リーネはその看病ってことになってるカラ、今日はのんびりしてるといいんダナ。隊長の許可は取ってあるシ」
 エイラが入り口でにやにやしながらほおづえをついている。ベッドの向こうから顔だけ出して、ものすごい形相でペリーヌが怒鳴った。
「い、いつから覗いてらしたの!?」
「ナニ言ってるんだ、オマエらが鍵をかけないのが悪いんダロ、いろいろシてたくせニ」
「し、質問に答えなさいっ!」
 ペリーヌが真っ赤になって威嚇する。リーネは頭から布団をかぶって、ペリーヌの体をなんとか隠そうとがんばっていた。見せたくないらしい。
「にひひ、マァ、ほんのチョット前だから気にするナ。ペリーヌが『もう立てな~い』とか『ベッドから出な~い』とか言ってたあたりダナ」
「そっ、そんなこと言ってませんわっ! あ、あ、あなたという人はっ!」
 立ち上がりかけたペリーヌを必死で押さえる。布団を掴んでくるむように抱きしめると、すこしだけおとなしくなった。
「朝食はまだ残ってるカラ、後で食べろヨ。昼はミヤフジが作るから心配すんナ。そんじゃ、お大事にナ~」
 手をひらひらさせて、エイラは扉の向こうへ消えた。ほっと安堵するリーネと、憤懣やるかたないといった風情のペリーヌ。抱きしめたまま、肩をぽん、ぽんと叩いて、ベッドに押し戻す。脱ぎ捨てられたペリーヌのネグリジェを拾い上げ、「はい、ほーるどあっぷ」「自分で着られますわっ!」「ほーるど・あーっぷ」「……。」素直に着せ替え人形になるペリーヌ。
「わたしのブラがない…」「わたくしのズボンは…」
 しばらく半裸でうろうろした後、ペリーヌは再び布団の下に押し込められた。
「こうなったら、今日は徹底的に面倒みちゃいますからねっ」
 リーネが満面の笑みで言う。ペリーヌは仮病でサボりというばつの悪さと、不意に転がり込んできた幸運を喜ぶ思いが混じった微妙な表情で、
「ばか。…本当に立てなくさせるおつもりですの?」
 答えはキスで返ってきた。


「ペリーヌさん、誕生日おめでとう!」
 ミーナの挨拶を皮切りに、全員が口々に祝いの言葉を上せる。今日は2月28日、ペリーヌの誕生日だ。食堂のテーブルには、リーネの監督の下芳佳が腕によりをかけた料理が並び、その中心にリーネ渾身のケーキが鎮座している。つまみ食いしようとしたルッキーニがリーネに雷を落とされたり、同じくつまみ食いしようとしたハルトマンが「殺気がするからやめとく」と言い出すというささいな事件こそあったものの、すべてはつつがなく調理され、食卓を彩っている。ただしルッキーニはまだ震えている。
「ありがとうございます、みなさん。とても嬉しいですわ」
 すこしはにかみながらペリーヌが応える。芳佳が全員のグラスにシャンパンを注いでまわり、ルッキーニもひとくちだけ、という約束で許可された。だいじょうぶほとんどノンアルコールみたいなやつだから、と供給元のシャーリーが手をひらひらさせる。美緒が立ち上がり、
「では改めて…誕生日おめでとう、ペリーヌ。これからもよろしく頼むぞ。乾杯!」
「かんぱーい!」
 全員が唱和し、グラスの澄んだ音が重なる。
「おっ、隊長いける口だね?」
「美味しい…シャーリーさん見る目あるのねぇ」
「先週ちょっと遠出してロンドン行った時にいいの見つけてね」
「ん、いい香りだ…扶桑酒の大吟醸と通ずるものがあるな…」
 ミーナとシャーリーは飲み慣れているようで、グラス1杯をさらっと干している。美緒は几帳面に香りや色を楽しんでから、ちびちびと味わっていた。
「ヴぁ~~~~」
「ふわ~~~~」
 芳佳とルッキーニは案の定、ほとんど口をつけていないにもかかわらず真っ赤になっている。
「あら、これもしかしてガリアの…懐かしい香りですわ」
「美味しいです、このシャンパン。香りもいいしすっきりしていて飲みやすいですね」
 意外にもペリーヌとリーネは平気な顔してくいくいと飲み続けている。ガリアは昼食にすら出るほどのワインの国、ブリタニアはウィスキー発祥の国だ。酒に強いのも頷けるかもしれない。エイラはもっぱら食べることに集中し、サーニャは顔色ひとつ変えずに飲み続けていた。サーニャの異常なまでのアルコール耐性にツッコむ者は誰もいなかった。
 ハルトマンは1杯空けてから「ビールの方がいいな…」と飲むのをやめてしまった。一番ヤバかったのはバルクホルンで、そう強くないはずなのに口当たりの良さにつられて何杯も空けてしまい、恐ろしいスピードで出来上がっていた。すわ誰が絡まれるか、と緊張が走ったが、バルクホルンは隣に座るハルトマンにしなだれかかり、ハルトマンの髪をくんくんしたり耳をはむはむしたり、ありていに言うと一方的にいちゃついていた。ついに上着を脱ぎだすに至って、上官から危険物撤去命令が下され、おさんどん芳佳と相棒ハルトマンの手によって自室に引き上げられたが、食堂に戻ってきたハルトマンの着衣は乱れ息も絶え絶え、芳佳はそのまま戻らなかった。遠くで誰かの悲鳴が聞こえたが、ハルトマンは静かに首を振るだけにとどめ、周りの皆は空気を読んだ。
 宴は小一時間続き、やがて食卓にケーキを残すだけとなった。ミーナと美緒が目配せし、席を立つ。ペリーヌの傍までやってくると、ミーナは小さな包みを取り出して、
「はい、誕生日おめでとう。美緒と私からのプレゼントよ」
「まあ…ありがとうございます、ミーナ中佐、坂本少佐。開けても…?」
「ああ。もちろんだ」
 包みを開くと、シンプルなケースに収められた小さな銀のブローチが現れた。形は小さいが作りは精緻で、柔らかな髪の美しい女性が透かし彫りされている。通った鼻筋に眼鏡をちょこんと乗せたその横顔は、ペリーヌにそっくりだった。
「これ、わたくし…?」
「むかし銀細工の工房に勤めていた整備兵がいてな、事情を話して作ってもらった。なかなかの出来だろう?」
 聞けばガリアの出身だというその整備兵は、デザインから作成まですべて一人でやり遂げたという。同じ故郷の開放を願う者として、整備以上に力が入ったと笑っていた。リーネは言葉が出せずにいるペリーヌの腰をそっと抱きしめる。
「あーあー隊長、そんなスゴいもんは大トリにとっといてくださいよ、あたしたちのが出しにくくなっちまう」
 シャーリーが席を立って、ルッキーニを抱き上げた。いつのまにかルッキーニの手には薄い包みが抱えられている。
「おめでと、ペリーヌ」
 ルッキーニはシャーリーにだっこされたまましゃきっと包みを差し出した。
「ありがとうございます、シャーリーさん、ルッキーニさん。…これは、マフラー?」
「わぁ、ペリーヌさん、これカシミヤですよ!」
 ブループルミエ――ペリーヌの二つ名にちなんだ青のカシミヤマフラー。発色の難しいとされる青色染色であるが、それはプルミエの名を冠するに相応しい見事な群青だった。
「まー、ルッキーニと外出たついでにな。偶然見かけて、これでいいや、って」
「ウソだよペリーヌ。シャーリーそれ見つけるのにロンドン中のお店はしごしてた」
「わ、バカ、ルッキーニそれは言っちゃダメだってば…」
「ありがとう…」
 顔を赤くして目をそらすシャーリーと、照れくさそうに笑っているルッキーニ。ペリーヌはせいいっぱいの感謝をこめて微笑んだ。
 「これ、私とトゥルーデから。なんのへんてつもない香水だから、変に感謝しなくていいよ。…ちょっと、疲れたから、部屋に戻らせてもらうね…おめでと、ペリーヌ」
 ハルトマンはよろよろと千鳥足で食堂を出て行った。いったい何があったのかは定かではないが、『バルクホルンに酒を与えるな』はこの部隊の暗黙の了解になりつつあった。プレゼントの中身は、やはり香水。しかし、
「ラベルがありませんわ。とてもいい香りですけれど、どこの製品かしら…」
 瓶の内容を示すはずのラベルがなく、首の部分にそっけなくまきつけられたタグにはただ一言「Perrine」とあった。
「まさか、特注品…?」「むしろ自作したんじゃないかしら…フラウにそんな趣味なかったはずだけど」
 のちにペリーヌは香水の出所を尋ねたが、はぐらかされて終わったという。
「ペリーヌさん、お誕生日おめでとう」
 サーニャがしずしずと近寄ってきた。その身長と同じぐらいの大きく長い包みを抱えている。「わたしたちのプレゼントは、ちょっとすごい」
 いつも物静かで控えめサーニャが、自慢するように包みを掲げた。重量はそんなにないようだ。
「何でしょうか、とても大きいですけど…あ、ふかふかしてる」
 ペリーヌの代わりに包みを受け取ったリーネが、感触を確かめている。サーニャはうすい胸をそらしながら、
「等身大リーネちゃん抱き枕」
「エエェェェェェェェイラさぁぁぁぁぁぁぁん!?」
 ペリーヌが悪鬼のような形相で振り返ると、エイラはすでに逃げ出した後だった。ちゃっかりケーキも1/4だけなくなっている。
「表は着衣、裏は全裸。リバーシブル」
「そんなどうでもいいことに凝らないでください! っていうか全裸って何ですか!? いつのまに私の裸を!?」
「半脱ぎのほうがよかった…?」
「サーニャあんた酔ってるだろ!?」「シャーリー! いつのまにかシャンパンが全部空になってるー!」
「酔ってないって言う人ほど酔ってるよね。ちなみに私は酔ってないけど」
「酔ってるんじゃないの! 美緒、撤去!」「りょ、了解!」
 妙に饒舌なサーニャが「坂本少佐…わたしずっとこうしたかったんです…」と美緒の胸にすがり、ミーナがキレるなどさまざまな騒動を起こしながらも撤去完了され、501の暗黙の了解はまたひとつ増やされた。いわく、『サーニャに酒を与えたものは、最後まで面倒を見ること』。


「とんだプレゼントでしたわ…」
 自室のテーブルの上に8等分されたケーキが二つ、そしてペリーヌが手ずから淹れた紅茶が載っている。大きなソファに肩を並べて座りながら、ペリーヌは怒りと呆れとほんの少しの感謝を混ぜて嘆息した。あの後、戦死者2名(バルクホルン・サーニャ)、行方不明者1名(芳佳)、逃亡者1名(エイラ)、負傷者1名(ハルトマン)という大損害を被った501部隊はうやむやのうちに解散となり、残ったケーキを分け合って自室に引き上げてきた。窓際のデスクの上にはブローチとマフラー、香水の瓶が並べられ、リーネちゃん等身大抱き枕はベッドの上にぞんざいに投げ出してある。
「最後はまあ、アレでしたけど、でも楽しかったです。みんな普段はからかったりしてるけど、心の底ではペリーヌさんのことを大事に思ってるんですね。…も、もちろん一番はわたしですけど!」
 あわてて訂正する様子がおかしくて、ペリーヌはくすくすと笑みをこぼした。わかってますわよ、という風に肩を預ける。リーネが幸せそうに笑う。
「ええと、皆さんからはプレゼントを頂いたのですけれど、その、まだ頂いてない人がいる、なぁ、とか…」
「芳佳ちゃんですか?」
「誰が豆狸の話をしましたかっ! …うぅ、リーネさん、意地悪しないでちょうだい…」
 真っ赤になってリーネの肩に額をこすりつけるペリーヌ。どことなく甘えている猫っぽい。
「あっ、あの、わたしももちろんプレゼント用意したんです。でも、あの…ちょっと、恥ずかしくて」
「何をおっしゃるの、ずっと、楽しみにしてたんですのよ?」
 リーネはちょっと迷った後、ごそごそと紙袋を取り出した。
「お誕生日おめでとうございます。ペリーヌさん」
 リーネの手ごと掴み、引き寄せ、くちづける。「開けてもよろしい?」答えは首肯で返される。
 シンプルな臙脂の紙袋に、細長い紙のケース。ケースを開けると紺のベルベットが敷き詰められ、涼しげな銀のチェーンにペンダントトップが輝いている。その中心に澄んだ黄色の宝石が象嵌してある。琥珀だ。
「綺麗な色…リーネさん、つけてくださいます?」
 リーネはペンダントを受け取って、しかし顔を伏せてしまう。
「やっぱり、変ですよね、みなさんは手作りしたり、ロンドン中を探し回ったりしてるのに、私だけがこんな安っぽいペンダントなんて。ペリーヌさんもがっかりしましたよね、ごめんなさい…あの、もっといいのを後で、」
「つけてくださらないの?」
 リーネの言葉を途中で遮って、目を合わせて言う。髪を持ち上げてじっと待つ。リーネはおずおずと手を伸ばし、留め具をかみ合わせる。手を戻そうとすると、急に腰を抱かれた。ペリーヌの顔がうっとりと潤んでいる。
「嬉しい…」
 額が合わさり、鼻が触れ合い、瞳が閉じられ、吐息が混じり、唇が重なる。リーネの豊かな胸が押しつぶされるのも構わず、きつく抱きしめる。熱い溜息が唇の端から零れ、その隙間を埋めるようにまた深く唇を重ね合う。心臓がどきどきと高鳴っている。やがてそれも溶け合い、どちらの鼓動なのかわからなくなる。意識はとうに白で塗りつぶされ、触れあっている部分のぬくもりだけがすべてになる。
 どれだけの時間そうしていたのかわからない。どちらともなく唇を離し、肩にあごを預ける。
「わかっていただけまして?」
 右肩の上でリーネがもぞもぞと頷く。
「わたくしの愛する人が、わたくしのために、わたくしだけを想って選んでくださったものが、嬉しくないはずないじゃありませんの。たとえ1ペニーの価値すらなくったって、他のどんなものより大切ですわ」
 ふたたびもぞもぞと頭が上下させて、リーネはそろそろと身を離した。ペリーヌの手を取り指を絡ませる。
「ごめんなさい。ちょっと自惚れてました。わたしが一番ペリーヌさんのこと好きなんだって。わたしのプレゼントが一番だって。でも、ちょっと違いました。みんなペリーヌさんのことが好きでした。多分わたしと同じくらい好きなんだと思います」
「そ、」
 そんなことはない、と言いかけて、リーネに目で制された。
「どんどんすごいプレゼントが出てきて、なんだか負けた気がして…悔しかったです。悲しかった。わたしはなにをしてるんだろうって。もっとするべきことがいっぱいあったような気がして、頭がぐるぐるして…」
 ペリーヌはつないだ手をぎゅっと握りしめた。リーネが微笑んで、軽く首を振る。
「でも、ペリーヌさんはちゃんと喜んでくれました。私が一番だって言ってくれました。本当に、ほんとうに嬉しかったんです。この気持ちはほんとうだって。その時の気持ちだけはほんとうだってわかりました。だから、」
 腕を引き寄せて、ペリーヌを胸に抱く。
「わたしはペリーヌさんのことを、いちばん好きでいようと決めました。いつまでも一番好きでいられるように、がんばろうと決めました。今度は胸を張って、わたしが一番ペリーヌさんのことを好きだって言えるように。…好きです、ペリーヌさん。これからもずっと好きでいさせてください」
 ペリーヌは背を反らして、雛鳥のようにリーネの唇を求めた。つないでいない左手がペリーヌの頬に添えられる。唇の感触、頬に当たる手のぬくもり、繋いだ手の暖かさ、胸に当たるやわらかなふくらみ、すべてが甘美だった。唇を離すとため息が漏れる。
「断る言葉なんて、持っていませんわ」
 ゆっくりと体重をかけて、リーネをソファの上に押し倒した。首筋に顔を埋めて、リーネの香りをいっぱいに吸い込む。リーネの手がふとももを伝って上衣の中へ侵入してくる。深く、暗く、熱く、そして甘い夜が始まる。


 明くる3月1日、早朝。リーネは食堂で朝食の準備をすすめていた。芳佳に借りた雑誌で和食の勉強もしているが、やはり朝食は洋食になりがちだ。扶桑人が少ないというのも理由のひとつだが、一番大きな理由はペリーヌがいまだに納豆を食べられないからだ。特に今日は芳佳が手伝いに来ていないため、あまり手間のかかるものを作ると時間が足りなくなってしまう。リーネは手早く用意を済ませると、一番に食堂に顔を出したミーナに後を任せ、ペリーヌの部屋に戻る。
「えへへ…ほんとにお嫁さんみたい…」
 結局昨晩はペリーヌの部屋で過ごしてしまい、起きたときには夜が明ける寸前だった。ペリーヌを起こさぬようそっとベッドを抜け出し、なんとなく寝顔を眺めて幸せに浸っていると朝食を作らなくてはいけない時間になっていた。後ろ髪をひかれながら部屋を後にしたが、用意を済ませてしまうと非常に心躍る帰路となった。
「ペリーヌさん、リーネです」
 短く2回ノックする。しかし、しばらく待っても返事がない。もう一度ノックする。やはり、返事はない。なんだか既視感をおぼえながら、リーネは扉を細く開け、顔半分だけ差し込んで部屋の様子をのぞき見る。布団はふくらんだまま、デスクの上に用意されている着替えもそのままだ。しかし布団のふくらみが大きすぎるような気がして、さらにベッドの上を凝視する。誰か居る。いや、ペリーヌが浮気なんて。いやしかし。でも。まさか。恐怖と不安と期待を推進力にして、視線の弾頭がにっくき浮気相手の顔を射抜く。

 ペリーヌが等身大リーネちゃん抱き枕を抱きしめてベッドの上でごろごろしていた。

「ペリ――――――――――ヌさんっ!!」
 思いがけずものすごい声が出た。扶桑撫子5月号一〇四頁、『亭主が浮気をしたときの心得…泣かず、怒らず、徹底的に』の教えを思い出し、リーネは満面に笑みを浮かべてすばやく部屋に入ると、扉の鍵を後ろ手でかけた。
「おはようございますペリーヌさん。ちょっとそこへ座りなさい。…枕は置きなさい」
 ペリーヌはがくがくと小刻みに震えながらベッドの上に正座した。無条件で謝意を表明できるこの体勢を考えた人って偉いですわ…、とペリーヌは思った。リーネはあいかわらず不気味に微笑みながら、
「何をなさってたんですか? …その枕は処分するはずでは? むしろ満喫してらっしゃるように見えたんですけど」
 リーネは被告人に対する検事のような面持ちで、ペリーネの隣に横たわるリーネちゃん抱き枕を指差した。枕に描かれたリーネは、脇を締めて胸を強調しつつ、片膝立ててズボンを丸見せ。衣服がちょっと乱れたりして胸の谷間が見えている。なんという破廉恥な!
「あ、あの…起きたら隣にいらっしゃらなかったので、寂しくなって…つい…」
「ついじゃありません! そ、それならわたしにしてくださいよっ! 枕なんか相手にしてないで!」
 扶桑撫子の一〇四頁はあっというまに頭から吹っ飛び、かわりにシンプルな怒りがそれを埋めた。頭の隅の冷静な部分が、扶桑撫子は遠いなあ、とぽつりと呟いた。
 ペリーヌは一瞬毒気を抜かれたような顔をし、次にくすっと微笑むと、膝に置いていた手を軽く広げた。一瞬の迷いもなくそこに飛び込むリーネ。勢い余ってペリーヌを押し倒して布団に埋もれる。
「ペリーヌさんのばか。鈍感。おたんこなす」
「おたん…? 何ですの?」
「わかりません。そう言えって書いてありました。…ぐすっ」
「あぁ、ほら、泣かないで。よしよし」
「こ、子供扱いしないでください…」
 ペリーヌの胸に鼻先をぐりぐりこすり付ける。それはまるっきり子供のようだったが、ペリーヌは不思議な愛しさに包まれたまま、リーネの髪を指で梳く。
「…好きよ、リーネさん。あなたが一番わたくしを好いてくださるのと同じぐらい、わたくしもあなたを好きでいます。…いえ、好きでいたいの。誰よりもあなたを、好きでいていいかしら?」
 背に回された腕にぎゅっと力が込められる。やがて押し殺した嗚咽が胸の中からこぼれてきた。ペリーヌは黙ったまま、リーネの髪と背中を泣きやむまでずっと撫でていた。

「遅くなりましたっ」
「おはようございます、坂本少佐、ミーナ中佐…あら、他の皆さんはどうなさったんですか…?」
 食堂には美緒とミーナ、ハルトマン、そしてエイラしか集まっていなかった。リーネが泣きやむまで10分、顔を洗って食堂へ着くまで10分、計20分ほどかかっていた。朝食の時間をすこし過ぎたころだ。美緒が腕を組んで眉間にしわを寄せ、まったく弛んでる、とこぼした。ミーナが呆れたようにかぶりを振って、
「サーニャさんは今夜の夜間哨戒のためにまだ寝てるわ。トゥルーデは二日酔い、宮藤さんは…腰痛ですって。ルッキーニさんとシャーリーさんは朝寝坊ね…。理由は察して頂戴…」
「気合いが入っていない証拠だッ、復帰したら一から鍛え直してやるッ」
 美緒はたいへんご立腹の様子だ。ハルトマンは首をすくめ、エイラはひきつった笑いを浮かべ、ミーナはもういちど溜息をついた。ペリーヌとリーネは顔を見合わせ、二人揃って天を仰いだ。

 空は今日も高く、青く澄み渡っていた。


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