無題
朝目覚めると両隣にハルカとジュゼッピーナがいた。
「…また、私…」
なんで拒めないのかしら、私。
やっぱり私はレズなのか…。
穴拭智子は溜め息をついた。
「毎晩よくやるな、トモコ」
顔をあげると、ビューリングがいた。
「…ねぇ、なんで私拒めないのかな…やっぱり私…」
「話がある」
「え…何?」
「ちょっと来てくれないか」
智子はビューリングに誘われた。
ハルカたちを起こさないように抜け出そうとしたら…みごとにハルカに脚をつかまれた。というより抱き締められた。
「どこ、いくん…ですかぁ…」
半分寝ていた。意識あまりないのに、この反応の良さ。これがもっと空でいかせたらいいのに。
「ハルカ、トモコを借りるぞ」
「…口説いちゃ駄目ですよぉ…」
と言ってまた眠りに落ちた。
2人は廊下にでた。
「借りるぞって私は別にハルカのモノじゃないわよ」
「じゃあジュゼッピーナのモノか。とゆうか、本当にモノになったな」
「ちーがーうー!私はノーマルなの!」
言うと刹那、ビューリングの表情が悲しそうになった。
「で、話って何よ」
「…本当に、あいつらのモノじゃないのか?」
「しつこいわね。そうよ。私はなんでか拒めないだけなんだから…で、話って?」
「もう済んだ」
そう言うとビューリングは、去っていった。
残された智子は何が何だかわからずぼやいた。
「…はぁ?」
◇
ビューリングの様子は変だった。
ビューリングがいない間に、いらん子中隊のメンバーに智子は聞いた。
「ねぇ、最近ビューリングに何があったか知ってる人いる?」
「なんでですかー?」
エルマは答える。
「何か最近、変じゃない?ボケーッとしてるっていうか」
「いつも黙っているけど別にボケーッとはしてないねー。きっと気のせいねー」
「そうかしら…何かいつもと違う感じがするんだけど」
「ミーには普通に感じるがねー。ウルスラ、ユーはどう思うねー?」
「……別に変わらない」
気のせいなのだろうか、そう思っていると後ろから何やら妙なオーラが。嫉妬に満ちた、オーラ。智子は後ろをみると、ハルカを見つけた。
「智子中尉…私というものがいながら、他の人を気にかけるなんて!」
「いや、別に気にかけてもいいじゃない…」
「あれですか、ビューリング小尉の方がやっぱり姉系だからいいんですか!?」
「あーもう。何ですぐにそっちに持っていくのよ…」
「だってビューリング小尉は別に普段通りなのにぃ!そんなに観察ばっかするなんてぇぇ!!」
智子はハルカに言われ、ふと気付く。
確かに観察ばかりしていた。
言われるまで気付かなかったがそう言えば最近ずっと目で追っていた。
ビューリングが気になったから。
あの日の朝、意味の分からない呼び出しがあったあの時から、ずっとビューリングが気になっていた。
ずっと観察していた。
なぜ?だって元気がないから。
なぜビューリングに元気がないと気にかけるのか?
それはビューリングが元気ないと心配だから…
思考を巡らせた智子はあることにきづいてしまった。そして直後、顔を赤らめた。
「なんで顔を赤らめるですかー!やっぱり好きなんですかぁー!」
すると智子は、
「いいいいやだな、そんなことないったら、もう。わ私は…ねぇ、そんなことないんだからぁ…」
頬を赤らめたまんまなぜかもじもじする智子を見て、隊のみんなは瞬間的にわかった。
こりゃもうダメだ、と。
何がダメかって、いつかの智子に通じるものがあった。
あの恋する乙女だった智子に。
◇
「ねぇ、ビューリング。ちょっと来て」
その日の夜。智子はビューリングを呼び出した。
「…何だ?」
少しだけ、期待があるようなないような瞳のビューリング。
隊の皆は、これは告白か!?と期待した。当然ハルカは黙っていない。
「私も行きます」
「ハルカ、あんたは待ってなさい」
「嫌です」
「あのねぇ…」
そんなやりとりをしているとキャサリンはハルカの腕を掴んだ。
「まぁまぁ、2人だけにしてやるねー?」
「いやぁ、離してください!智子中尉は私だけのものなのにぃ~…」
そんなこんなで邪魔が入らなくなった2人。2人は外へ出た。月が2人を照らす。
「話って何だ?」
「…わたしね、やっぱりレズみたい」
ビューリングは智子の方を見ない。というより、顔をあわせたがらない。
「ねぇ、こっちむいて」
「……」
無視。ビューリングは聞こえないふり。
「こっちむきなさいよ」
智子むりやり顔をグイッとビューリングに近づけた。2人の顔は息がかかる程に近い距離で見つめあう形になった。
「……」
より一層沈黙するビューリング。頬が染まっているのは確かだった。
「あんた今…照れてる?」
「照れてない」
「だって今頬赤いし目が泳いで「話の続きは?」
無理矢理話を戻す。
「…ビューリング、あんたが好きみたい」
2人は物凄く近い距離でみつめあっていた。耐えられなくなり、ビューリングは顔を横にそらし後退り。
「前あんた私に妙なことを聞いたわよね。あれって、そういう意味…?」
「違う」
「じゃあなんで私があの2人の恋人かどうかなんて聞いたのよ?」
「………」
黙るビューリング。
「ねぇ、聞かせてよ。ビューリングは私のこと、嫌い…?」
顔がますます赤くなるビューリング。いつもの彼女からは考えられない。
そういう智子も顔は赤かった。
「……………嫌いじゃないさ」
「じゃあ……好き?」
「………………ああ…」
目はそらされたまま、智子にそう言った。智子は嬉しくなった。
「ちゅぅぅぅぅぅいぃぃぃぃ!!!!」
後ろから物凄いスピードで走ってくる音がした。もちろんハルカだった。
キャサリンは抑え続けることはできなかった。
智子に飛びつこうとするハルカ。だったが…ビューリングが智子の前に立ち、それを遮る。
「なんで遮るですか…智子中尉に愛の抱擁をさせてください」
「…済まないが、今日からはダメだ」
「…どうゆうことですか…」
するとビューリングは振り返り、智子の唇に自分の唇をつけた。スッと、音もなく。
「え……」
突然のことに智子はなにもできなかった。ただ、目の前には目を瞑り唇を押し付けるビューリングの顔を眺めていた。
少しして、離す。智子は今になって自分がキスをしていたことに気づき、顔が真っ赤に染まっていった。
ビューリングは振り返りハルカに、
「こういうことだ」
とだけ言った。
ハルカはビューリングの大人な様子に圧倒され、
「…負けました……」
とだけ言ってがっくりした。
「びびゅびゅーりんぐ、あんた、い今…」
顔を真っ赤にしたまま、自分の唇に指をあてて智子は言う。
「突然悪かった。…もしかして、いやだったか?」
不安げな声で聞くビューリング。
「い、イヤじゃないわよ…ただ驚いただけよ…」
「そうか…よかった」
そう言って、ビューリングは微笑んだ。