無題


ネウロイの巣の壊滅、ガリアの解放……
これにより、ストライクウィッチーズは解散が告げられた。
ミーナの口から全員に解散が伝えられた夜。皆が故郷へと帰る、前の夜。
ウィッチーズは、それぞれの大切な人と過ごしていた。



――エイラの部屋。

ベッドの上には北国の白い肌が二人並んでいる。

「明日で、解散なんだね…」

寂しげに呟くのは、エイラに寄り添っているサーニャ。

「そうだなー…サーニャ、あの…ほんとに一緒にスオムスに来てくれるのか?」
「うん…エイラと一緒がいいの…」
「そ、そーか…」

微笑むサーニャに、エイラは頬を染めて笑った。

「スオムスの人と、仲良くなれるかな…」
「大丈夫だって。変な奴ばっかだけどみんないい奴だし。ちゃんと紹介してやるかんな」
「ありがとう」

笑い合うと、エイラはサーニャの肩に布団をかけ直してやった。

「でもあれだな、またここのみんなでも集まったりしたいよな」
「うん。…芳佳ちゃんや、他のみんなとももっとお話したい…ミーナ中佐の伴奏も、またしたいな」
「そうだなー、向こうの奴らってちょっと揉むにはボリュームがなー」
「………」
「うっ、嘘!じょーだんだってサーニャ!」
「ダメよ、エイラ…」

サーニャはそっとエイラの頬に口付けた。
その頬は薄暗い中でもわかるほど紅く染まり、それを隠すようにサーニャを抱き締めるのだった。




――シャーリーの部屋。

「落ち着いた?ルッキーニ」
「ぐす…うん…」

ベッドの上に突っ伏しているルッキーニ。
シャーリーはいつも部屋に散らばっている工具を片付けていた。

「びーびー泣いちゃって、まだまだ子供だな~」
「子供じゃないもん!みんなの前では我慢したじゃん!」
「あたしの前では無理だったけどね」
「う~…だってぇ…」

一通り片付けたシャーリーはベッドに腰かけた。その腰に小さな腕がよじよじと絡みついてくる。

「みんなに会えなくなるのは寂しいけど、シャーリーに会えなくなるのが一番いやだ」
「…ルッキーニ」
「やだやだ、やだよぅ…うぅ、ひぐっ…」

また肩を震わせ始めたルッキーニを、シャーリーは優しく撫でる。

「なぁ、ルッキーニ。それぞれ国に戻ったらさ、派遣志願しようよ」
「…はけん?」
「そ。どっか、同じとこに志願してさ。そしたらまた一緒にいられる」

シャーリーの言葉に、涙に濡れた瞳が輝いた。

「うんッ!するする!そーする!」
「またロマーニャ離れる事になるかもしれないけど。それでもいいのか?」
「アタシ、シャーリーと一緒が一番いいもん!」

ぱふっと胸に飛び付くルッキーニ。シャーリーはまるで母親のような眼差しで微笑んだ。

「アタシ達が一緒にいられるんだから、またみんなにも会えるよねっ」
「そうだね。またみんなでわいわいやりたいな」
「芳佳はおっきくなるかにゃ~?」
「お前もにゃ~」

くすくすと笑い合う。涙はどこかにいってしまっていた。


――トゥルーデの部屋。

「今夜でここも最後か~」
「長いようで…短かったな」

エーリカは大きく伸びをし、傍らのトゥルーデの肩に頭を預けた。

「クリスもカールスラントに帰れるんだっけ」
「ああ。一旦帰国して準備をしたら、病院へ迎えに行く」
「そっか。運転手は任せといて」
「…ありがとう」

どことなく寂しげなトゥルーデに、エーリカは悪戯っぽく笑った。

「もう一人の妹と離れるのは寂しいか」
「なっ…なんだ、もう一人って」
「そりゃ宮藤でしょ」
「べ、別に寂しくなんかない!私には可愛い本当の妹が…」
「はいはい」

指でトゥルーデの唇を押さえるエーリカ。
トゥルーデは赤くなった顔のままそっぽを向いた。

「ま、みんなと離れるのは私も寂しいけどね。トゥルーデが一緒だから、じゅーぶんだよ」
「そ、それは……私だって…」

ますます赤くなるトゥルーデ。エーリカも嬉しそうに頬を染め、きゅっと抱きついた。

「ミーナは、ちょっと可哀想だけどね」
「…ほう。そう思っているなら、向こうに帰ったらベタベタするのは控えたらどうだ」
「それは無理。だって帰ったら、ヘルマとかハイディもいるしさ」
「…?そりゃあいるだろう。それがどうした」

きょとんとするトゥルーデに、エーリカは心の中で呟いた。鈍感、と。

「まーいいや。とりあえず、このベッドでのヤりおさめー」
「うわっ!ちょ、こら…!」

二つの影は一つになり、ベッドへと沈んだ。



――ミーナの部屋。

スタンドライトだけを付けた仄かな灯りの中、ベッドの上には生まれたままの姿で抱き合う二人がいた。

「寒くないか?」
「大丈夫よ」

ミーナと美緒はぴったりと寄り添い、お互いの温もりに包まれていた。

「ようやく終わった、という感じだな」
「ええ…でもまだいまいち実感が沸かないの」
「…実は私もだ」

ミーナは自分の頬に添えられた美緒の手をきゅっと握る。

「…私達がブリタニアにいなくてもよくなったのは、良い事なのよね」
「…ああ。そうだな」
「そう、わかってるんだけど……このまま、ずっとここにいられたらいいのに、って…思ったりしてるの。…軍人失格ね」

そう言って苦笑するミーナに、美緒はそっと口付けた。

「…私も、心の隅でそう思っていた。平和なのが一番だが、お前と離れるのは辛い」
「美緒…」

顔を隠すように抱きついてきたミーナを、美緒はしっかりと抱き締める。

「…扶桑に戻ったらどうするの?」
「ウィッチ養成所の教官をやろうと思う。まだ戦いは終わっていないからな」
「そう……ちゃんと連絡してね。浮気したら許さないから」
「はっはっは、心配症だな」
「上官命令です、坂本少佐」
「了解した。ヴィルケ中佐」

ミーナは抱き締められたまま、微かに肩を震わせた。

「…やっぱり寒いわ。暖めて、美緒…」
「…わかった、ミーナ」

濡れて冷えた頬に、美緒は自分の頬を優しくくっつけた。



――ペリーヌの部屋。

「うわぁーっ!すごーい!お姫様のベッドみたい!」

豪華な天蓋付きのベッドを見た芳佳は、目をキラキラさせた。

「全く、田舎者丸出しですわね。私の実家のベッドは、もっと大きく豪華ですのよ」

ペリーヌは自慢気に髪を掻き上げる。

「これなら三人簡単に寝れそうだね、リーネちゃん」
「う、うん。…でもペリーヌさん、私達も一緒に寝ていいんですか?」

芳佳の後ろにいたリーネは、おずおずと尋ねる。
するとペリーヌはぱっと顔を赤くし、視線をさ迷わせた。

「か、勘違いしないで欲しいですわ!最後の日だから、あなたたちを私の部屋に寝かせてさしあげるだけであって、別に寂しいとかそんなのではありませんわよ!」
「私も一人じゃ寂しかったから、嬉しいです。ありがとう、ペリーヌさん」
「なっ…宮藤さんあなた人の話を聞いてらっしゃるの!?」
「私もです。ありがとうございます」
「~っ、リーネさんまで…!」

耳まで真っ赤になってしまうペリーヌだったが、にこにこと嬉しそうに笑う二人を見て自然と笑みが溢れる。

「ほら、明日も早いのですから。さっさと寝ますわよ」
「はーい」

ペリーヌを真ん中に、三人の少女は横になった。芳佳の言った通り、ふかふかのベッドは窮屈にはならなかった。



「ねぇ、リーネちゃんは…解散したらどうするの?」

少し体を起こし、芳佳が声をかける。

「一度家に帰ってから、ガリアに行こうと思ってるの。ずっとネウロイに支配されてたから、復興活動のお手伝いをしようと思って」
「ガリアを、1日でも早く…元の美しい大地に戻したい。だから、私からもお願いしましたの」

ペリーヌがリーネをちらっと見た。お礼を言うように、小さく頭を下げる。

「二人とも、落ち着いたら扶桑にも遊びに来てね」
「うん、絶対に行くよ」
「宮藤さん!坂本少佐にご迷惑をおかけしたりしたらただじゃおきませんわよ!」
「あう、は、はい~…」

ずいっと指を突き付けられ戸惑う芳佳。
その目に、涙が浮かびぽろぽろと溢れ落ちた。

「ちょ、ちょっと宮藤さん?」

ペリーヌは驚き顔を覗き込む。

「しばらく、こうやって…お喋りもできないんですね…うぅ…やっぱり、寂しいよぉ…」
「み、宮藤さん…」
「芳佳ちゃん…泣いちゃダメ、だよ…ひっく…」
「リーネちゃぁん…」
「ちょっとお二人とも、情けないですわよ!そんなに…泣いたりして…」
「ペリーヌさんも泣いてるじゃないですかぁ…」
「わ、私は…泣いてなんか…ぐすっ…」
「ぅ…うわあぁん…リーネちゃん、ペリーヌさぁん…!」

ぎゅっと抱き合った三人は、子供のように泣きじゃくった。




翌朝。

「では、私からの最後の命令です」

一列に並んだウィッチーズ。ミーナが一人一人の顔を見つめ、朗らかに笑った。

「全員、必ずまた会いましょう。それまで元気でいる事!」

「了解!!」

みんなの声が一つに揃った。


離れていても。

みんなの心は、いつでもここにある。


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