無題


「…なんなんですのよ……まったく」

ペリーヌはつむじ風と戯れる草花に身を預けながら呟いた。
チラリと横を見れば、すぅすぅと気持ちの良さそうな寝息を奏でる輩が一人。

「……………はぁ」

本当に気持ち良さそうな寝顔をしている彼女を起こすのも忍びなく、ペリーヌは今日何度目かになる溜め息を吐いた。

―――――

「ペリーヌッ」
「ハルトマン中尉?」

朝のミーティングの終わった後、午後の訓練までどの様に時間を費やそうか考えていたペリーヌに、意外な人物から声がかけられた。
実の所、彼女ほど掴み所のない隊員は他にいない、とペリーヌは考えていた。
不思議ちゃんと名高いエイラの方がまだ分かり易い様に感じる位だ。

「一緒に散歩に行こう」
「………は?」

はい決定、と勝手に宣言され、あれよあれよと言う間に、基地から少し離れたなだらかな丘へと連れて行かれた。

丘一面に広がる草花の群生。
501に配属されてからこれまで、この様な場所があるなんて気付きもしなかった光景。
日に照らされ色鮮やかな花弁を広げる花々、風と戯れ青々とした葉を泳がせる草葉。
普段何気なく見ていた自然を、改めて目の当たりにしたこの気持ち。

そんな感動に浸っていたペリーヌは、ふと頬を突つかれる感覚で我に返った。

「どう?凄いでしょ」
「……ええ…、本当に…」

見ればどこか得意気なエーリカがほがらかに笑っていた。
そして私達は、どちらともなくその場に腰を下ろした。

「ペリーヌも、さ…気を張り過ぎなんだよ。たまにはこうやって…心をリフレッシュさせなきゃ」
「……心を…?」

エーリカはごろりと寝転がり、軽く息を吐いた。

「…トゥルーデのこと、まだ気にしてるでしょ?」
「…ッ!?」

やっぱりねー、とエーリカは小さく笑う。
やはりこの気難しいシャルトリューは、相方のジャーマンポインターと同じ位に感情の処理が下手な様だ。
そのくせ、無駄に思い込みが激しかったりするからなー、と口の中で一人ごちる。

「ペリーヌーッ」
「な、わっ!?」

ポスン、とペリーヌの頭がエーリカの身体の上に落ちる。
何か言いたそうなペリーヌの頭を、エーリカは髪を梳く様に撫でる。

「もしかしたら、だけど…取り返しのつかない失敗をしてしまうことだってあるよ」

顔を赤くしていたペリーヌがハッとしたように押し黙る。
エーリカは少し横に転がり、ペリーヌを抱きしめる様にして囁く。

「でも、今回…トゥルーデは無事だったよ。……ミヤフジが居たからって言うのもあるけど……」

エーリカは顔を少し離し、ペリーヌの正面から顔を合わせて言った。

「治療の間、二人をペリーヌがしっかりと守ってくれてた。だからトゥルーデは助かったんだ。ありがとう、ペリーヌ」
「…でも…も、元はと言えば…わたくしが……」
「次からまた気をつけよ。トゥルーデもペリーヌに余計な思いを背負わせたって落ち込んでたしね」

はらはらと涙を流すペリーヌをエーリカは頭を撫でてやりながら抱きしめる。
一つ年下の彼女は、自分同様やはり歳相応の少女でしかないのだ。
積み重なさる重圧を時には解いてあげないと、私達はきっと気持ちに潰される。
頼りになる友人にして上官である二人を見ていて、エーリカはよくよく思っていた。

「……シュトルム」

サンサンと照り注ぐ太陽と、小さく起こしたつむじ風。
柔らかな風に身を任せ、腕の中の彼女をさっきより少しだけ強く抱きしめた。
どのくらい時間が経ったのか、腕の中で眠りについたペリーヌに習い、エーリカも静かに眠りについた。

―――――

「………はぁ」

数刻の後、目を覚ましたペリーヌは眠りに落ちるまでの経緯を思い出し溜め息を零した。
人前でああまで泣いたのは幾年ぶりか。
生来の負けん気の強さも手伝い、他人に弱味を知られることを嫌うペリーヌにとって、エーリカは確実に苦手な部類に入っていた。

「………不思議な人ですわ……」

やはり彼女は¨シュトルム¨だとペリーヌは思った。
遠慮も確認もなく自分の心に入っては、なんでもかんでも掠って行ってしまう優しい嵐。

繋いだままの右手に感じる彼女の温もりを確かめる。
何故だか…今だけは、この温もりを手放したくなかった。

「まったく……どんな顔をして話せば………はぁ…」

ペリーヌは、起きてから何度目かになる溜め息を吐いて

「……起きてから考えればいいですわよね……」

隣で安らかに眠るエーリカに寄り添う様に眠りについた。


余談だが、気持ちよく熟睡していたペリーヌ達は訓練時間に遅れ、坂本少佐の喝を貰う事となったとさ。

おーわれ


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