ほわいとでぃ
その日、芳佳がふわりと甘い香りに誘われて訪れた厨房には、予想外の人物がいた。
「……ん…っと、もうちょい…ダナ…」
「…あれ、エイラさん?」
「ん、ミヤフジか、…どうかしたのか?」
今日は非番であるからか、ラフなパーカーの上にエプロンを着けたエイラが、何やらオーブンを覗いていた。
集中しているのか振り向きもせず、ただ…じっ、とエイラはオーブンを覗いている。
「え、と…そのなんだかいい香りがして……」
「ム、ルッキーニに気付かれると面倒ダナ……」
「ルッキーニちゃんならリーネちゃん達と街に行ってますよ」
「ふーん、ならいいか……お、出来たかナ?」
エイラはチラリと芳佳の方を見てニヤリと笑う。
エイラがオーブンから出したソレを見て、芳佳は目を丸くして驚いた。
「わぁっ、エイラさんクッキー作れるんですか!!」
「あー。昔の同僚がよく入院する奴でナー。見舞いついでにちょっと、ナ」
くすくす、と当時を思い出したのか、エイラは笑いながら答える。
プレートの上には色鮮やかなクッキー達。
エイラはそれらを冷まし終えると、何やら小さな箱にクッキーを詰め始めた。
欠けない様に、割れない様にと一枚一枚丁寧に詰めていく。
「これで、よし。……ホレ、ミヤフジ。余り物だけど食うか?」
「え、いいんですか!?」
そんだけ、物欲しそうにされたらナー、とエイラはラッピングをしながら苦笑する。
「お、美味しいです!!サクッとしてて甘くて、あ、えと…とにかく美味しいです!!」
「フフン。サーニャにあげるんだから、美味しくない物渡す訳にはいかないダロ?」
普段とはまた違ったそのどこか誇らしげな笑顔に芳佳は一瞬、思わずエイラに見とれてしまった。
小さく視線を左右に反らし、サーニャちゃんにもそんな笑顔見せてあげればいいのに、と口の中で愚痴る。
そこで、先月のとある出来事を芳佳は思い出した。
「そうだ、エイラさん。バレンタイン、ちゃんとサーニャちゃんから貰ってたんですね。よかったです。ホワイトデーのエイラさんからの手作りクッキー。サーニャちゃん喜びますよ!」
実はバレンタイン前日、芳佳はサーニャから相談を受けていた。
内容は簡単で、エイラにどうやってチョコを渡せばいいか、と言う事でリーネも交ざって一緒に色々と話し合いを行ったのだ。
しかし、バレンタイン翌日、エイラに特に変わった様子もなく、サーニャは曖昧な笑顔を浮かべるだけであったのだが。
けれど、思い過ごしだったみたい、と内心ホッとした芳佳はエイラの言葉に思わず耳を疑った。
「……バレンタイン?ホワイトデー?何言ってんダ、ミヤフジ」
「へ、このクッキーはホワイトデーのプレゼントじゃ……」
「いや、私達非番だし、サーニャと部屋でお茶でもしようと思って。その時に食べようかと…」
エイラは惚ける風でもなく、本当に何の話しだ、と首を傾げてこちらを見ていた。
芳佳は不意に背中が寒くなった様に感じた。
「あの、サーニャちゃんにバレンタインのチョコ……」
「だから、バレンタインって何だヨ?」
背中に冷水を浴びせ掛けられた位の寒気。
芳佳は知らずの内にごくり、と唾を飲み込んだ。
自省の意を込め軽く深呼吸をした後、芳佳はエイラから思う疑問を片っ端から聞き出すことにした。
「……エイラさん、先月の14日。何してました?」
「14日?……あー、なんか基地中で凄い甘い匂いがしてた日か?サーニャと夜間哨戒に出るまでは部屋で寝てて……」
「サーニャちゃんにチョコレートは貰いませんでした?」
「な、なんか怖いぞ、ミヤフジ…?」
「答えて下さい!」
「な、ナンナンダヨ……貰ってないぞ。ただ…」
「ただ、なんですか?」
「う、いや…サーニャが何か言い辛そうにチョコが何か…って言ってたから、厨房にあったチョコ借りてチョコミルク作ってサーニャと飲んダ」
「その後は!?」
「夜間哨戒行って帰って部屋に戻って寝タ」
「……夜間哨戒中、サーニャちゃん…いつもとは様子が違いませんでしたか?」
「あの日は観測所から変な機影が一瞬見えたって連絡受けたから、いつも以上にサーニャは集中してたけど……結局何も出なかったけどナ……で、いきなりどうし……何、頭抱えてんだ、ミヤフジ」
話しを聞き終えた芳佳は、思わす頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
一体どこからどう言えばいいのか……
芳佳はとりあえずバレンタインとホワイトデーについて話してみることにした。
「…………まぁ、なんとなく言いたいことは分かっけど……サーニャが私に渡すつもりだった、とは限らないだろ?」
「此の期に及んで何言い出しますか!」
一度サーニャちゃんを含めて、キチンと話しをつけないと駄目なのだろうか?
エイラさん=ヘタレからスオムス人=ヘタレの図式に変わる前になんとかして下さい、と何処か見当違いな文句も浮かぶ。
「というかミヤフジ。私はサーニャにお礼が貰いたくてこのクッキー作った訳じゃないぞ?」
「あの、いや、ですから…そう言うことではなくて……」
「私はサーニャが喜んでくれるならそれでいいんダ。ミヤフジもあんまりサーニャに変な事言うなよ?私が何かしてるからサーニャも何かしなくちゃいけない、なんてことはないんだからナ」
そろそろサーニャが起きる頃だから行くよ、とエイラは丁寧にラッピングされたクッキーを持って去って行った。
はぁ、と盛大なため息を落とす芳佳。
リーネちゃんが居てくれたらなぁ、と今は坂本さんやハルトマンさん達と街に買い物に出掛けているリーネちゃんを想う。
その時、カタン…と小さな物音が厨房に響いた。
見れば入り口とは反対側の物陰から、俯いた様子で近くの壁に寄り掛かるその姿を見つけた。
「……サーニャ…ちゃん」
位置からして先程までの会話は全て聞いていたのであろう。
サーニャは顔面蒼白といった様子で、頬をとめどなく流れ落ちる涙で濡らしていた。
「…………よし…か……ちゃん…わた…し…」
「サーニャちゃん!?」
サーニャは、泣き腫らした目で芳佳を捉えた瞬間、力無くその場に崩れ落ちた。
慌ててサーニャを受け止める芳佳。
サーニャは芳佳の腕の内で、何かを話せる訳もなく、そのままただ静かに涙を流した。
◇
芳佳と別れたエイラは、どこか陰鬱な気持ちで部屋へと歩を進める。
その表情は先程までとは打って変わった様に暗く、冷め切った様な視線だけを何処と言うことなく漂わせていた。
コンコンッ…
「サーニャ、起きてる…か……?」
自分の部屋なのだが、入る時にはノックをすることが半ば朝の恒例となっていた。
しかし、部屋の中には誰も居らず、畳んでおいたサーニャの服も無くなっていた。
小さなため息を一つ落とし、エイラはフラフラと部屋の中へと進み、クッキーを机の上に置いた。
そして、ボスン…と軋むベッドに身を投げ出し、力無く天井を眺めた。
「バレンタイン…ホワイトデー…か。知らない訳ないだろー……」
顔を押さえる手は気持ちを無視して流れ出す涙を抑える為だろうか。エイラはそのまま声も無く泣いた。
事は先月のバレンタイン前日。サーニャを探して基地内を探していた時に、談話室にてミヤフジとサーニャを見かけたのがきっかけだった。
見つけた時は、そのまま声をかけて話しに交ざろうと二人に近付いた。
しかし、エイラはそれ以上近付くことは適わなかった。
ミヤフジに、ついぞ見た事のない笑顔で小さな包みを手渡すサーニャを見てしまったからだ。
エイラはその小さな包みをサーニャが数日前から大切そうに持っていたのを知っていた。
その光景を見た後、サーニャ達の声の届かないその場所から、エイラは静かに立ち去った。
サーニャにエイラ以外にも親しい友人が出来た嬉しさと、サーニャに自分よりも大切な人が出来た事の悔しさに、視界を滲ませて……
「サーニャに貰わなかったのか、か……そんなつもりないんだろうけどナ……嫌味にしか聞こえねぇよ…ミヤフジ…」
ベッドに自分と同じ様に転がるぬいぐるみを抱き寄せて、エイラは何かを堪える様に強く強く抱きしめた。
あの日、前もって用意していたチョコレートは、結局そのまま渡せず終い。
それでもよく分からない言い訳までして、チョコミルクなんて作ってしまったのはサーニャへの未練からだろうか、とエイラは夜間哨戒中、ネウロイに警戒しながらも、素直にサーニャを祝福出来ていない自分に嫌気を感じ続けていた。
そこまで思い出して、一層憂鬱な気分に落ちるエイラだった。
◇
「…落ち着いた?サーニャちゃん」
「うん……ゴメンね、芳佳ちゃん」
サーニャは泣き腫らした顔を静かにあげた。
けれど、サーニャの視線はどこか虚ろで芳佳と視線を合わせようとはしなかった。
芳佳は決心したように、口の中でよしっ、と一声を入れた。
「サーニャちゃん。どうしてエイラさんにチョコレート渡さなかったのかな?」
諭す様に、宥める様に。
芳佳はサーニャの髪を撫で下ろしながら問い掛ける。
「………わたし、あの後エイラの部屋に行ったの。けど――」
サーニャの心臓はうるさいくらいに高鳴っていた。
実を言えばエイラに対してサーニャから進んで何かをしようとしたのは初めてのことで、その事実に気付いたサーニャは密かに落ち込んだりもした。
だからか、ちゃんと渡せるかという不安と、エイラの笑顔が見れるかもという期待に、サーニャはいっぱいいっぱいであった。
ごくり、と生唾を飲む音が頭に響く。
立ち止まった部屋のネームプレートには愛おしいあの人の名前。
ノックをしようとあげた手は信じられないほど震えていて、サーニャは緊張に押し潰されそうになり視線も徐々に落ちていく。
その時、落ちた視線の先にエイラに渡そうと準備をしたプレゼントが視界に入った。
一生懸命頑張って選んで用意したエイラへのプレゼントとチョコレート。
弱気な私の練習相手になってくれた芳佳ちゃんとリーネさん。
それに、エイラにちゃんと気持ちを伝えたい。
いつもありがとう、私はエイラが大好きです、と伝えたい!
むん、と小さく気持ちを入れ替え、深呼吸を一つ。
そしてサーニャはノックを忘れ、エイラの部屋に突入した。
「――けど、エイラはベッドで膝を抱える様にして寝てたの。傍まで行ってみるとエイラ泣いてて……」
「エイラさんが、泣いてた…?」
芳佳は思わず耳を疑った。
エイラさんが泣いている様子なんて全く想像出来ない…と思うのは仕方ないだろう。
「…うん。だから私、どうしたらいいか分からなくなって…前にエイラにしてもらったみたいに、抱きしめて頭撫でてあげたの…そうしたら…エイラ、泣きやんでくれて……私安心しちゃって…」
「……そのまま寝ちゃった?」
「………うん。起きたら夜間哨戒直前だったし、私寝ぼけてたから結局渡せず終いで……私……」
哨戒中は、終始警戒体制。気を緩めてエイラに何かあっては本末転倒だから、とサーニャは何時も以上に気合いを入れての捜索。
おかげで基地に戻る頃にはバレンタインの事などすっかりと忘れ去ってしまっていた。
思い出したのはその翌日。
目が覚めて衣服に袖を通している時に、ベッド脇のテーブルにちょこんと置かれたままのプレゼントを見つけたからだ。
今更どう渡せばいいのだろうか…と悩み、結局は未だにサーニャの部屋に置いてある。
「芳佳ちゃん……私、エイラに何も返せないよ……」
話していて自己嫌悪の泥沼に落ちてゆくサーニャ。
芳佳はサーニャの肩に手をおき、目線を合わせると、静かに口を開いた。
「サーニャちゃんは、どうしたいの?」
「………え…?」
最終的にはそこに戻るのだ。
エイラに甘え続けるならば何もしなくてよいのだから。
変わりたい、と…今までとは違った関係を築きたいと決めて行動して初めて結果は変わるのだから。
「サーニャちゃん。サーニャちゃんはどうしたいか決めてるんだよね?だけど、後一歩が踏み出せないんだよね?」
「…………うん」
つまり、やるべき事なんて一つだよね?
「ということで……サーニャちゃんは今からエイラさんの部屋に行きます」
「………え?」
悩んだ時にはまず行動。~恐怖の扶桑行動術~
とにもかくにも、まずはこの二人で話し合わなければ何もならない。
芳佳はサーニャの手を引くと、ずんずんとその歩を進めた。
「よ、芳佳ちゃん…でも、私……」
「あ、サーニャちゃん。プレゼントは部屋なんだよね……あ、でもチョコレートって一月持つのかな……」
「えと…チョコとプレゼントは別々だから……」
「よぅし、到着!ささっ、とりあえずプレゼント取って来て」
部屋の前にまで移動すると、次第に小声にな*
しかし、エイラはベッドに倒れており、左腕でぬいぐるみを抱きしめ、右腕は目を隠す様に乗せられていた。
恐る恐る近付くと、サーニャはホッとしたような、それでいて落胆したような気持ちになった。
エイラは眠りに落ちていたのだ。
「エイラ……エイラのこと、大好きなんだよ、私」
聞こえていない、と分かると途端に大胆になれる私がいて軽く憂鬱になる。
だけど、こんなきっかけでも溢れ出した気持ちは止まらず、恥ずかしさという名の堤防はこれでもか、という程あっさりと決壊したのであった。
後はひたすら溢れ出すばかり。
「エイラ。私ね、エイラに渡したいものがあるんだよ?伝えたいことがあるんだよ?ね、エイラ。どうして私を抱きしめてくれないの?私はエイラのなんなのかな?私は、エイラの傍に…一番傍に居たいよ……。エイラ。私はエイラのことが大好きなんだよ。ううん、愛してる。……エイラ…」
一方的な独白。
貯めに溜め、貯まりに溜まったエイラへの気持ちをただひたすらに激白する。
けれども眠りに浸るエイラには届かない。
エイラには私の気持ちが届かない。
なんだか、そう感じてしまったサーニャは徐々にムカついてきた。
そうだ。元はと言えば、エイラが悪い。
何が悪いのか分からないけどエイラが悪い。
エイラが悪いんだからお仕置きが必要だよね、と薄く笑う。
色々考え過ぎたせいでサーニャは少々暴走気味かもしれない。
「エイラが抱くのはぬいぐるみじゃなくて、私なの!」
「痛…?へ、な、なななな、さ、さーにゃ!!?」
エイラが抱きしめていたぬいぐるみを奪い、エイラに抱き着く様に寝転がる。
衝撃でエイラが起きた様だけど気にしない。
だってエイラが悪いのだ。
「エイラ、今日が何の日か……知ってる?」
「へ、今日?そ、それよりなんでサーニャあの」
ほら、やっぱり悪いのはエイラだ。
私の質問をはぐらかして答えてくれない。
だけど、それがエイラなんだって分かってる。
一瞬バツの悪そうな顔をした理由は分からないけど、きっとそれが話し合わないといけない事なんだよね?
でも、今はそんなことより……
「エイラ、頭撫でて?」
緊張が解けて襲ってきた睡魔が広まりきるまで、この甘美で至福の時を満喫することにした。
◇
あー、そろそろ夜明けだナー、と誰に言う訳でもなく話す。
というのも、ふて寝しているとサーニャが突然抱き着いてきて、眠りに落ちるまで普段からは考えられないくらいに甘えてきたのだ。
お陰で目もギンギンに冴えてしまい、しかも眠りについた後も、抱き枕よろしくと言った感じに抱き着かれている。
しかも、抱きしめるように腕を回しておかないと寝ていてもサーニャが泣き出すのだから、エイラは嬉しいやら恥ずかしいやらで大混乱だ。
そんなこんなを一晩中続け、時刻はようやく朝を迎えようとしていた。
「……エイラ」
「うおっ!?お、起きてたのか、サーニャ」
サーニャは腕の中から顔だけをあげ、エイラを見つめる。
「今度はちゃんと答えてね……昨日は…何の日?」
「……ホワイト、デー」
そう、結局夕食もほったらかしで眠気に完敗するまで、一晩中エイラに甘えた結果、夜が明けた今日は3月15日。
「日付変わっちゃったよ、エイラ」
「…そう…だな」
サーニャはベッドから下りると横の机に置いたままの物をエイラに差し出した。
もうなんだっていいよね。エイラにあげたいんだもの、と呟きながら。
「エイラ、コレ。開けてみて?」
「…これは…サーニャがミヤフジに渡してた……」
「え、芳佳ちゃん?………あ、え、エイラ見てたの!?」
思いっ切り思い当たる節があるので慌てるサーニャ。
というか、見られてたのかぁ、となんだか今までのかかっていた余計か力が抜けていく気がしたサーニャだった。
「え、あ…あの、その偶然に…だから、えと……」
「…ゴメンね、エイラ……こんなに遅くなって」
「そう、ゴメンッ…………って…え、何?」
溜め息を吐いてから、改めてサーニャはエイラに包みを差し出した。
「え、と…チョコレートはないけど…はい、ハッピーバレンタイン」
「………これ、私に…?」
目をぱちくりと瞬いて驚くエイラ。
開けてみて、とサーニャに奨められるまで呆然としていたのは仕方ないだろう。
「……ネックレス?お、アクセサリーがトランプなんだ…あ、ダイヤのエース…」
シルバーのチェーンに、シルバーの小さなトランプがついたネックレス。
ダイヤのエースはエイラのシンボルだ。
「うん。ずっと渡したかった。でも、勇気がなくて…」
「え、と…そんなの気にしなくていーヨ。それより、その…似合ってるかナ…?変じゃない?」
知らずか気付いているのか頬が緩みきっているエイラ。
こんなに喜んでもらえるとサーニャまで嬉しくなってくる。
「似合ってるよ、エイラ」
「本当?…あ、そのこんな立派なのとじゃ釣り合わないけど……コレ」
エイラは思い出した様に、机の上に放っておいた包みを開いた。
「わぁ…クッキーが沢山…」
「上手に出来たとは思うんだけど……」
「エイラが作ったの!?」
本当にエイラはズルい。
どうしてここぞ、というときにはしっかり決めてくるんだろう。
何より本当に美味しそうなんだもの。
まったく、エイラには敵わない。
「ウン。え、と…ハッピーホワイトデー…でいいのかナ?昨日だけど」
「……ぷっ。エイラったら、くすくす」
「な、なんで笑うんだヨー?」
水平線から昇る朝日が、ゆっくりと部屋にも明かりを燈す。
暗い部屋が次第に明るく、白く染まってゆく。
「ハッピーバレンタイン、エイラ」
「ハッピーホワイトデー、サーニャ」
どちらともなく私達は笑いあう。
私達はこれからもきっと、色々な事に怯え、不安に戸惑い、恐れていくのだろう。
自分に自信がもてなくて、どこまでも臆病な私達。
だけど、一歩は進めたんだ。
きっと私達はどこまでも行けるよね?
だから、ね…エイラ。
ネックレスのトランプの裏に刻まれてる私の告白、早く気付いてね?
おわり