無題
『お姉ちゃん、誕生日おめでとう!』
ああ、クリス。私の誕生日を覚えていてくれたんだな。
『私からプレゼントがあるの。気に入ってもらえるといいな…』
お前から貰う物なら私は何でも嬉しいぞ!インクが出ないペンだろうがその辺の雑草だろうが、世界一の宝になる!
『えへへ、じゃあ……』
「トゥルーデっ♪」
「うわっ!!」
突然のしかかってきた重みで目が覚めた。
ぅ…部屋が明るい。電気がついているのか?
眩しい視界にクリスの残像がふわふわとしている。しかし目の前にいるのは…
「…エーリカ?…クリスはどこに……」
「なに寝惚けてんのー?クリスなんかいないよ」
…夢だったというのか!
軽くショックを受けていると、エーリカがにこっと笑った。
「誕生日おめでとう、トゥルーデ」
時計を見ると、0時を過ぎていた。そうか、3月20日。今日は私の誕生日だ。
「起こしてごめん。一番に言いたかったんだ」
そう言って頬を染めるエーリカ。
…素直に嬉しい。心がじんと温かくなった。
クリスの夢をぶった切られたのはアレだが…
「ありがとう、エーリカ」
「へへ、どういたしまして」
頭を撫でると、エーリカはくすぐったそうに笑った。
…その時に気付いた。見慣れない、赤い色の何かに。
エーリカの首に巻き付いた、大きな蝶結びになっている帯状の赤い何か…
「…エーリカ、なんだこれは」
「何って、リボンだけど」
リボン?
首にこんな大きなリボンを巻き付けて何をやっているんだ、こいつは。
「これの意味、わかる?」
「…いや」
私が首を振ると、エーリカはやれやれと肩をすくめた。
そして急に、体をくねっとさせると上目遣いでこう言った。
「誕生日プレゼントは……わ・た・しっ☆」
………
「……はぁ?」
思考回路が停止しかけたが、なんとか声が出た。
「なんだよトゥルーデ、ノリ悪いなぁ。もっと喜ぶかまっかっかになって恥ずかしがってくれなきゃ」
エーリカはぶーぶー言いながら口を尖らせた。わからん。こいつの発想は私の理解の範囲を越えている。
「つまり、今日一日私はトゥルーデの言う事何でも聞くよって事」
「…ほう。ならやってもらいたい事がある」
「なになに?」
「部屋の掃除を徹底的にやれ」
「ちーがぁうー!そういう色気のない事じゃなくってさ」
ぶんぶん首を振ったエーリカは、ぐっと顔を近付けてきて囁いた。
「私だったらこう言うよ。“トゥルーデを私の好きにさせて”って」
「…!な、っん…!」
その言葉の意味に気付いた瞬間、エーリカに口付けられた。
「ん、ふ…ぁ…」
唇を割ってきた舌が、口内をじっくりと掻き回す。
その間に布団が捲られ、剥き出しの鎖骨をつぅっと指がなぞる。
「ひゃ…ぅ…」
「ふぅ…」
銀の糸を引き口を離したエーリカは、そのまま首筋に甘く噛み付いた。
「あっ…」
「ね、トゥルーデ」
少し顔を上げ、エーリカが呟いた。
「どこを可愛がってほしいか…ちゃんと言ってね。ん…じゃなきゃ、ずっと痕付けちゃうから」
間近でくすっと微笑む顔は、天使のように愛らしいのに彼女の通り名“黒い悪魔”そのもの。
こいつはわかってるんだ。私がこの笑顔に勝てない事を。
「ぁ、あ…っ、エーリカ…」
震える声で呼ぶと、首筋に埋められていた金の頭がひょいと上がった。
「……っ、その…」
口ごもっていると、それはまた視界の端へ消える。
「ひゃ、エーリカっ…」
「なんでしょうか、ご主人様」
うう…何が「ご主人様」だ白々しいっ!
「命令がないなら続けます~」
「や、ちがっ…む、むね…」
「うん、胸を?」
「…さ…さわって…」
ぽそっと告げると、エーリカはいやに楽しそうににやっと笑った。
「了解」
完全に布団を剥ぎ、露になった私の胸に手が伸びる。
「う…」
「別のとこ弄って欲しくなったら言ってね」
つまり「言わなきゃ触らない」という事か。
…私とした事が、まんまと罠にはまってしまったようだ。
「っ…ぁ、…」
エーリカは本当に胸だけに愛撫を続ける。
「あ…ん…くぅ…」
あぁ、焦れったい。
目を向けると視線がかち合った。あの、悪魔の微笑み。
「っ…エー…リカ…」
「ん?なぁに?」
恥ずかしい。触ってくれなんて言えない。
そう頭では思っているのに。
すぅっと細められた青い瞳に吸い込まれるように、唇が言葉を紡いでいく。
「…さわっ、て…」
「どこを?」
「っ…こ、こ…」
僅かに、脚を広げた。これが私の精一杯だ。
「ん、仕方ない。許してあげる」
エーリカの手がゆっくりと下に降りてきた。
「誕生日だもんね」
「ふあっ、あん!」
ぐち、と音を立てて指が私の中に入ってきた。急な刺激に腰がびくんと跳ねる。
「どこがいい?」
「ぁ…う、もっと…奥…」
「こうかな~」
「ッ、ひあぁっ!」
「お、当たり?」
「やっ…エーリカ、だめだっ…ぁ…」
私が漏らす“だめ”が、止めろという意味ではない事をエーリカはよく知っている。内部を弄る指が更に早くなった。
「や、だめぇ…!エーリカぁっ…」
「いいよ、トゥルーデ」
「あっ、…あぁぁッ…!」
瞬間、全身を快楽が駆け巡り、大きく仰け反った。
一気に力が抜け、溜まっていた息を吐き出す。
「お気に召した?私のプレゼント」
「ん…はぁ…何か、違う気が…」
「気のせい気のせい」
まだ呼吸の整わない私に、エーリカはぎゅっと抱き着いてきた。
「今日はパーティーしないとねー。宮藤とリーネにケーキ焼いてもらお。あとたっくさんご馳走を…」
「…食べたいだけじゃないのか、お前」
「失礼しちゃうな~。今年もトゥルーデの誕生日を一緒にお祝いできて、凄く嬉しいんだからね」
「…エーリカ…」
「来年も祝わせてね。その先もずーっとさ。そんで、私の誕生日も祝って」
そう言って笑うエーリカは、屈託のない無邪気な微笑みを浮かべた。
「あぁ…もちろんだ」
私も笑い返す。
大切な人と、お互いの誕生日を祝い合える。なんて素晴らしい事だろう。
「今日は言う事を聞いてくれるんだったな」
「うん」
「…キス、してくれないか…?」
「了解っ」
唇に、優しい口付けが降りてきた。
「トゥルーデ、だいすき」
その言葉が、何よりのプレゼントだよ。
ありがとう、エーリカ。