無題


「ねー、ビューリング」

「なんだ?」

「あんた私に隠してることあるでしょ」

智子は日頃思っていることを言った。今は恋仲なのだから、何を言うのも普通でしょ、なんて智子は考えていた。

ソファに腰掛けていたビューリング。煙草を吸おうとしていたが、智子が来たのでやめた。

「…ないぞ?」

「…隠しっこはなしだからね」

「トモコには何も隠さないさ」

2人は約束していた。たわいのない、約束。お互い本音で付き合うということ。
特にビューリングはスオムスに死にに来た経歴があるわけで、無論今そんなことはしないだろうが、ビューリングは寡黙だから。智子は時々不安になってしまうことがあった。

「ならいいけどさ」

そういってビューリングの隣に座る。
頭をビューリングの肩に預ける。

「…私って駄目だよね」

「そうだな」

「って、否定しなさいよ否定!」

クスリと笑ってビューリングは智子の頭を優しく撫でる。智子も自然と微笑んでしまう。バカップルである。

「…トモコは駄目なんかじゃないよ」

「…不安になっちゃうのよ…なんでかな、ビューリングが突然どこかに行っちゃう気がするってゆうか…好きだから不安になるのよ」

面と向かって好きと言われて頬を赤らめるビューリング。ビューリングの頭も、智子にもたれ掛かる。

「どこか行くときは道連れだ」

そう言い肩を抱いて智子を自分に引き寄せる。智子は心を射抜かれた。

「…流石ね、撃墜されたわ」

そう言って智子はビューリングに口付けた。



「智子中尉、お手紙です」

訓練のあと、夕食を食べにゆく前の時だった。
エルマが手紙を持ってやってきた。

「誰から…って、武子から!」




宛 穴拭智子様

久しぶり、智子。元気でやってますか。
頑張りぶりは国を越えて伝わってくるようです。
久しく会っていなくて寂しいです。あなたとまた共に訓練したいな、なんて思ったりしてしまいます。智子、あなたはどうですか。
いつの日か、共に飛べる日が来てほしいです。この空を、二人で並んで…


手紙にはそんな感じの内容で綴られていた。
智子は久しぶりの親友からの手紙に大変喜んだ。

「あとで返事書かなくちゃね」



「何を書いているんだ?」

夜遅くまで灯りをつけ、ペンを動かす智子。
もうみんな寝ていて、そんな中一人でなにやっているのか、ビューリングは気になった。

「戦友への手紙♪」

「ふぅん…」

煙草を吸おうとしたが、智子が近くにいたのでやめた。
かわりにコーヒーを飲もうとする。

「お前も飲むか?」

「……」

無言。集中して書いているためか、聞こえなかったようだ。

「おい。飲むのか、飲まないのかはっきりしろ」

「…うん、そうね………」

上の空の返事。やれやれと言いつつ、結局自分の分だけ用意した。

カリカリカリ、そんな音しかしない。
ビューリングはひたむきに書き続ける智子をみて、あんまりこんな表情の智子をみたことないと思う。
そう、まるで…愛しい相手への手紙を書くようで。
思うと刹那、ビューリングは手紙をのぞき込もうとする。

すると、智子は手で手紙を覆ってしまった。

「みちゃだめ」

「な…」

なぜか裏切られた感が残ったビューリング。

「いいじゃないか、見せてくれても」

「嫌よ」

「…隠し事なしと言ったのはお前じゃないか」

黙る智子。見せてあげたいのだけれど、しかし中身が中身だった。智子は恥ずかしくて見せられなかった。

「…私とお前の仲でもか?」

「…あんたには見せらんないわ」

グサッと。智子の言葉は、彼女の心に突き刺さった。
ビューリングはショックだったようで、悲しい表情になった。

「…ビューリング?」

黙ったビューリングをみて智子は聞く。

「…寝る」

それだけ言って、ビューリングは行ってしまった。
テーブルには、書きかけの手紙といれたてのコーヒーが残った。



翌朝。

「おはよう、ビューリング」

智子は挨拶をするが、ビューリングは俯いたまま返事をしない。無視。
カチンときた智子は、大きな声でビューリングの耳で叫ぶ。

「おーはーよーおーー!!」

「…朝からうるさい」

さらに腹が立つ智子。

「あーそー、わるーございましたね!」

そう言って智子は、ビューリングのもとから去っていった。
そんなやりとりをみていて、ハルカはすぐに智子に近づく。

「中尉!!」

「…何?ハルカ」

「私が代わりになりますから…!」

突然言われ、智子は頭に?をたくさん浮かべた後、聞く。

「…何の?」

「恋人です!!」

盛大にこける智子。

「あのねぇ…私たちはまだ、というか永遠に破局しません」

「じゃあ今さっきのやりとりは?喧嘩していたじゃないですか」

「たまにはあるわよ、喧嘩ぐらい。今はビューリングが頭冷やしてくれるのを待つだけ…」

「私がなんだって?」

ビューリングが後ろにいた。
軽く驚いたあと、智子は言った。

「ねぇ…ビューリング、仲直りしようよぉ…」

「…お前が謝ったらな」

「…あんた何にそんなに怒ってるの?」

カチンときたビューリング。それもそうだ、智子は自分のしたことを忘れていたからだ。
昨日の智子の発言は、ビューリングを傷付けたのは紛れもない事実だった。

「…自分で考えろ!」

とだけ残して、ビューリングは朝食にむかってしまった。
残された智子は呆然としてしまった。

…もしかして、嫌われちゃった…?
そう思うと涙が零れそうになる智子。

一方横では、ハルカは一人考えていた。
これ、もしかして…私と中尉がよりを戻せるチャンスかしら。

別にもともと恋人じゃないのに、そんな感じの内容を、頭に巡らせていた。



朝食後。

キャサリンはエルマ、ウルスラと話していた。

「うーん、おいしかったねー。1日のパワーを摂取できたねー♪」

「沢山たべましたもんね」

「朝は1日のはじまりね。沢山食べた者勝ちね」

クスクス笑うエルマ。無言のウルスラ。
三者三様の、いつもの振る舞い。
そんな中へ、智子が死んだようなオーラをまとってやってきた。

「…あんたたち、助けて…」

「きゃぁぁぁ!どうしたんですか、いったい何が!」

「トモコー、ミイラみたいな表情ね~!!」

「……むしろゾンビ」

何気に酷いことを言うウルスラであった。



「つまり、なんでビューリングに怒られているのかわからなくて落ち込んでる、そうゆうことねー?」

コクリと頷く智子。今にも泣きそうだ。

「泣かないでください~」

エルマが頭を、ウルスラが背中を撫でる。

「…このまんまじゃ、別れることになっちゃうよ…」

「大丈夫。私がなんとかするね♪」

「…どうやって…?」

「まずは思い出すね。昨晩、何かビューリングに酷いこととかしなかったかねー?嫌がるのにチョイチョイ、とか」

「しないわよ、失礼ね!」

「でも智子中尉、ライオンさんだから…」

「……獣」

「だーかーらー、私はしてません!」

「よく思い出すねー。自分が何をしていて、何を言ったのか」

智子は思い出す。昨日、手紙を書いていて。それで、ビューリングが覗いてきて。思わず隠して…あいつは確か…

はっとなる智子。

「…私、酷いこと言った」

「おぉ、思い出したねー?」

「…確か、手紙の内容をあんたには見せられないって言って…多分、それかな…」

「でも手紙の内容だけでそんな怒りますかね?」

エルマが疑問に思い言った。

「確かにねー。どんなに近い存在でも、みせたくないものくらいあるしねー…」

「……嫉妬」

ぽつりとウルスラは言った。

「嫉妬?」

「…親しそうな間柄と彼女はとった。それで多分…」

「自分以上の相手なのだと思って不安になり、ヤキモチをやいた、つまりそういうことねー?」

コクリと頷くウルスラ。
智子は合点がいったようだ。

「つまり、ビューリングは…武子に対して妬いた、と?」

「…多分」

智子はみるみるうちに顔を赤らめて、嬉しげな表情を浮かべた。

「よかったですね♪原因がわかって」

「…ありがと、みんな!」

智子は隊の皆に礼を言った。

「さぁさ、早く仲直りするねー。礼はそれからね♪」

智子は思った。
やっぱり仲間っていいな、と。



「ねぇ、ビューリング」

ビューリングは外で煙草を吸っていた。
彼女は智子が来たのがわかると、直ぐに吸うのをやめた。

「…わかったわ、私が手紙を見せなかったからよね。それで、私があんたには見せたくないって言って…不安にさせちゃったんだよね」

「……」

ビューリングは黙っていた。
そんな彼女に、智子は近付き抱き締める。

「…ごめんなさい」

腰に手を回し、謝る智子。
そんな智子に対し、ビューリングの返事は…強く抱き締めることだった。

「…私こそ、すまなかった。誰にでも見せたくないものはあるのに、辛くあたってしまった」

2人はしばらく抱きしめあっていた。
智子が口を開いた。

「…ちょっと、痛い」

「あ…すまない」

ビューリングは腕を解いて、智子を離した。智子は名残惜しげに離れた。

「実はね、手紙を見せたくなかったのには理由があるの」

「…?」

「宛先はね、私の一番の相手なの。あ、一番ってゆうのは友達としてよ?」

フォローをいれる智子に嬉しくなるビューリング。

「…ありがとな。それで?」

「…実はね、あんたのこと書いたの」

「…私を?」

「うん。大切な人ができた、って」

顔が赤くなるビューリング。カァ~っと、効果音が入るかのようだった。

「それで恥ずかしくって、ついつい見せたくないなんて言っちゃった」

「…そうだったのか…」

「だからって、あんなこと言っちゃってごめんね…」

「いや。私の方が悪かった。ごめん」

「何よ、私の方が悪いって」

「私の早とちりが原因だ。悪かったのは私だ」

「だから私が悪かった…って、何これ。バカップルみたいじゃない、これじゃ」

顔を赤らめて言う智子。少し笑って、ビューリングは言った。

「…トモコとのバカップルは悪くないかもな」



後日。
加藤武子の元に一通の手紙が届いた。

「スオムスに行って、仲間だけじゃなく恋人まで見つけるなんて…変わったわね、本当に」

嬉しそうに友人の変化を見守る武子だった。




宛 加藤武子様

久しぶりね、武子。元気ですか。
武子のことだから、仲間を大切にしながら更なる戦果を挙げてることでしょう。
私も大切な仲間と共に、負けじとやっています。

さて、武子に一つ報告があります。
実は大切な人ができてしまいました。
しかも相手は女です。私は女色ではないと思っていたけど、恋してしまいました。今ではもう恋仲となりました。
変なことを、しかも突然書いてごめんなさい。
でも、一番の戦友で親友である武子には知ってもらいたかったから書きました。

またいつの日か、武子とこの大空を翔たいです。だから、その日まで絶対に怪我なんてしないで、お互いに頑張ろう。
遠い空の下、あなたの無事を願い、私も頑張ります。それでは、また。

いつまでもあなたと共に戦う 穴拭智子


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