無題


はやく、はやく。
もっと速く飛んで、私のストライカー。
この言葉、早く伝えたい。

はやく、はやく。





「…ヘルマ!」
「こ、こんにちは!突然の訪問失礼致します!」

力なく敬礼する私を、皆さん……ストライクウィッチーズ隊の皆さんはびっくりしたように見つめた。

「ヘルマさん、大丈夫?魔力が残ってないんじゃない?」

不安そうに声をかけてくれるヴィルケ中佐。

「だ、大丈…ふぇ~…」

もう一度敬礼しようとするも、足がふらついた。

「っと…!レンナルツ、しっかりしろ」
「ふわっ!ば、バルクホルン大尉…!」

倒れそうになった私を支えてくれたのは、バルクホルン大尉だった。
ああ、やっぱり大尉はお優しいです。細いのに力強い腕もふかふかの胸もあったかくて……

「レンナルツ?」
「……はっ!す、すみませんです大尉!」
「いや、かまわないが…一体どうしたんだ、魔力がなくなるまで飛ぶなんて」
「あの…実は、近くまで別件で来ていたので、無理を言って少しだけ抜けさせていただいて…なるべく早くと、最大出力で飛んできました」
「なっ…途中で完全に魔力が切れたりしたらどうする!今後は気を付けろ!」
「りょ、了解しました!」

うう、怒られてしまった…

「でもどしたの?そんな急いでくるなんて」

ハルトマン中尉が首を傾げてそう言った。

「そ、それは…あのっ…」

私は未だ体を支えてくれている大尉を見上げた。なんとか背筋を起こし、姿勢を正す。

「大変遅くなり申し訳ありませんっ!ゲルトルート・バルクホルン大尉、お誕生日おめでとうございます!」
「…え…」

大尉は驚いたように目をぱちぱちさせる。
それはそうだ、今日は3月27日。大尉の誕生日は本当は3月20日なのだから。

「すみません…本当は当日にお伝えしたかったのですが、新しい試作機の実験が終わらず連絡できずにいて…一週間も遅れてしまって、本当にすみませんでしたっ!」

一気にそう言って、深く頭を下げた。

「あの…レンナルツ、頭を上げてくれ。謝る事なんか何もないだろう」

少し戸惑い気味の大尉の声に、ゆっくりと顔を上げる。

「嬉しいよ、わざわざ祝いの言葉を言いに来てくれるなんて。ありがとう」
「バルクホルン大尉…」

大尉の優しい笑顔に思わず見とれてしまう。
はぁ…なんて綺麗な人だろう…

…はっ、うっとりしてる場合じゃないです!

「大尉、これ…プレゼントです。対した物じゃないのですけど…受け取ってください!」

私は懐に大切にしまっていた包みを差し出した。
大尉はまたありがとう、と微笑んで受け取ってくれた。

「開けてもいいか?」
「はいっ」

中身は、小さい黒猫の置物。少し前に買い出しに出掛けた時、見つけた物。

「可愛いな。ふふ、レンナルツに少し似ているな」
「そ、そんな…」

実は、少しだけ自分を意識して選んだ物だから、大尉の言葉がとても嬉しかった。
私の一部でもある黒猫が大尉と一緒にいてくれれば、離れててもいつでも側にいるような気がして…
恥ずかしくて大尉には言えませんけど!

「大事にする。ありがとう、レンナルツ」
「いえっ!気に入っていただけて光栄であります!」

大尉の素敵な笑顔が見れただけで、本当に来て良かったと思う。


それから私は魔力がある程度まで回復するのを待ち、日が暮れる前に軍に戻った。



―――


「お帰りなさい、ヘルマ」

軍に戻ると、シュナウファー大尉が出迎えに来てくれた。

「ただいま戻りました、シュナウファー大尉」
「トゥルーデにプレゼント渡せた?」
「はい!喜んでもらえました!」
「良かったわね」

ふふ、と笑ったシュナウファー大尉は、ちらりと時計を見た。

「そろそろいい時間ね。ねぇヘルマ、少し私の部屋にこない?」
「え?あ、了解しました大尉」
「軍務の時間は終わったでしょ、ヘルマ」
「ぁ…はい、ハイディ」

何故か楽しそうなハイディに、私はついていった。


少し薄暗いハイディの部屋に入る。リトヴャク中尉もそうだったけど、ナイトウィッチの部屋は夜の闇に慣れるためにいつも暗くて、ちょっとだけ怖い…

「ちょっと待ってね」

ベッドに座ったハイディは、魔力を解放した。
羽根と尻尾と共に、頭部に魔導針が出現する。
そのまま目を閉じじっとしている。

「…?」

ハイディが何をしているのかわからず、私はただ見ているだけだった。

「…ん、見つけたわ」
「どうしたんですか?ハイディ」
「ヘルマ、魔力を解放して私の手を握って」
「はい…」

言われるまま私も魔力を解放しハイディの手を握った。
すると、頭の中に何か声が聞こえてきた。この声は…

「バルクホルン大尉の声…」
「そうよ」

大尉に続いて、ヴィルケ中佐とハルトマン中尉の声もした。三人で何か話しているような…

「三人で飲み会でもしてるのかしら」
「あの…ハイディ、これは一体…」

何もわからないままの私に、ハイディはにこっと微笑んだ。

「ごめんね。ヘルマがトゥルーデにあげた置物に、ちょっとマイクを仕込んでおいたの」
「…へっ…?」
「トゥルーデが向こうでどうしてるか気になるじゃない?」

くすくすと笑うハイディ。
あの、ハイディ…それは、盗聴って言うんじゃ…

『うわっ!こら、エーリカ!』

大尉の声が頭に響いて、言いかけた言葉を中断した。

『なんだよ、嬉しいくせに~』
『う、嬉しくない!…ゃ、ばか…どこ触って…』
『あら、フラウったらいきなりね。じゃあ私も…』
『やっ、ミーナ…ぁ、あ…』

こ…
これは、まさか…!

「ひゃあああ!ちょ、中尉に中佐!何をやって…!」
「トゥルーデ、相変わらず夜は被撃墜王ね…」
「そそそんな事言ってる場合ですか!音声止めてくださいハイディ!」
「手をしっかり握って離さないのはヘルマの方だけど」
「だ、だってそんな…あ、大尉…こんな声出して…ううぅ、可愛いです!綺麗です!羨ましいです~!」

大尉の甘やかな声が頭の中いっぱいに響いてきて、私はバタバタ暴れながらもハイディの手を離さなかった。

「まぁ、こうやってたまに二人でトゥルーデに想いを馳せましょう」
「で、でもこれって盗聴…あぁっ大尉ったらそんな声…!」

ああ…あの黒猫は本当に、離れた私たちを繋いで(?)くれました。

「色っぽすぎます!ダメです大尉ーっ!」

刺激の強さにくらくらしながらも、黒猫からの通信をしっかりと聞いてしまう私でした…
ごめんなさい、大尉…


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