無題


「宮藤さんっ、あなたって人は何度同じことを言わせれば気が済むの」
 ある朝の食堂でのこと、ペリーヌは額に青筋を浮き上がらせて怒っていた。
 小鉢を持った左手は少しでも自分から遠ざけるように一杯に伸ばされ、
右手は顔の下半分を覆ったハンカチにそえられている。
 そして彼女の怒りの矛先は、今朝の食事当番である宮藤芳佳に向けられていた。
「ひょっとしてあなた、私への嫌がらせでわざとやっているのではなくって?」
「えぇっ? だから納豆は体にいいんですって」
 芳佳は誤解を解こうと切実な表情で首を横に振る。
「納豆とやらの栄養価について、レポートの提出を求めた覚えはありませんわ。ひょっとして──」
 ペリーヌの表情が意地悪く歪む。
「あなた和食、というより納豆以外に料理ができないんじゃありませんこと?」
 痛いところを突かれ、芳佳の顔色が一変する。

「どうやら図星のようですわね。そういう役立たずには別の仕事を言いつけますわ」
 ペリーヌの眼鏡がキラリと光り、芳佳がギクリと身を固くする。
 と、次の瞬間、ペリーヌが芳佳に飛び掛かっていた。
 芳佳が身を翻すより早く、ペリーヌの足払いが決まる。
 倒れ込んだ芳佳の右足首が踏みにじられ、左の足首が握り締められる。
 そしてガバッと残酷な大股開きの姿勢を強いられた。
 スク水のクロッチが荒々しく掻き分けられ、無毛の秘所が露わになる。
 ペリーヌの口元が歪み、目はいよいよ爛々と輝を放つ。

「こうして差し上げますわっ」
 ペリーヌは芳佳の股間に小鉢の中身をぶちまけると、腐敗した大豆を広げたその部分に押し込んでいく。
 そして人差し指を突き入れると、円を描くようにグニュグニュと掻き回し始めた。
「いやぁ~ん」
 さして嫌でもないような声で、形だけの抵抗をする芳佳。
 湧き出した分泌液が納豆に混ざり、頃合いよしと見たペリーヌはいきなり芳佳の股間にかぶりついた。
「これで腐敗した臭いお豆も少しはマシになるってものですわ」
 ジュルジュルと音を立てて納豆の愛液和えを啜る姿は、とても貴族の子女とは思えない。

「あらあら、朝から仲のいいこと」
 ペリーヌの豪快な朝食を横目にミーナがみそ汁のお椀を傾ける。
「しかし、納豆が臭いってのは事実だな。いや、今ではあまり気にならなくなったが」
 バルクホルン大尉が器用に片手で卵を割りながら呟く。
「納豆の臭さは世界一ってね」
 ハルトマン中尉も臭いなど気にならないように納豆掛けご飯をかっ込んでいる。

「いや、この程度で世界一というのは語弊があるナ」
 黙って聞いていたエイラがボソッと呟いた。
 が、周囲にいるカールスラント組は話題を拾わず、押し黙って納豆ご飯をかっ込む。
 ムッと来たエイラは荒々しく小振りの缶詰をテーブルに叩き付けた。
 その音にビクッとしながらも、やはりカールスラント組は顔も上げない。
 エイラは構わず、やけっぱちじみた物言いで説明を始める。
「世界一臭い食べ物と言ったら、これに勝るものはないんだナ」
 その缶詰は内側からの圧力で歪に膨らんでいた。

「それってシュール・ストレミングじゃないですか?」
 エイラを可哀想に思ったリネットが、仕方なく話に加わってやる。
「ニシンの塩漬けを缶詰にして発酵させたものダ」
 我が意を得たりとエイラが説明してやる。
 納豆が臭いと言ってもアラバスター値でいえば352Auにしかならない。
 それに比してシューストの臭さたるや、実に8070Auに達する超絶ものの臭さなのだ。
 自慢するようなことでもないが、北欧の製品が世界一との評価を得ているとなるとやはりエイラも嬉しい。

 エイラがカールスラント組をチラ見すると、バルクホルン大尉が横目で缶詰を一瞥し、軽蔑したように鼻で笑うところだった。
 頭に来たエイラは目にもの見せてやろうと缶切りを取り出した。
「ダメェッ、それって水を張ったタライの中で……」
 リネットの叫びも間に合わなかった。

 缶切りが最初の切れ込みを入れた途端、炸裂にも似た勢いで内容物が吹き出した。
 同時に形容しがたいくらいもの凄い腐敗臭が部屋中に立ち込める。
「ギャアァァァーッ」
 毒ガス同様の威力を示す臭気は、501の隊員たちを恐慌に陥れた。
 さしものカールスラント組も悲鳴を上げて逃げまどっている。
「ざまーみやがれダ」
 まともに飛沫を浴びたエイラがガックリと崩れ落ちた。

 そこに遅れて食事にやってきた坂本美緒が入ってくる。
「さ、坂本さん……に、にげ……」
 芳佳が最後まで言い切れず、白目を向いて卒倒した。
 状況を飲み込めないでいる美緒は、不思議そうに後輩の寝姿を見詰めるばかり。
「ん……」
 流石に異臭に気付いた美緒が、臭いを嗅ぎ分けるように鼻をクンクンさせる。
「わっはっはっ。なんだ、ミーナも好きだな。こんなところでオナッたのか」
 豪快に言い放った言葉が、意識を保っていた全員を凍りつかせた。

「わぁぁぁ~っ」
 泣き喚きながらミーナが食堂を走り出ていった。


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