あのひとごっこ


「ヒマ……。」
言葉にしてみても何も変わらない。 夜間哨戒に備えて眠らなくてはいけないのに、なぜだか今日に限って眠くない。
仰向けのまま首を頑張って逸らし、窓の外を窺ってみる。 抜けるような青空。 みんなは今頃何をやっている時間かしら。
わたくし、サーニャ・V・リトヴャク中尉はといえば、非常にヒマを持て余しているのです。

ころころ。 ころころころ。 転がる転がる。 何の意味も無い動作ではあるけれど、これはこれでちょっぴり楽しい。
二人で寝たって十分に余るほどの大きなベッド。 一人で寝ている今は、端から端まで十二分のスペースがある。
昼過ぎに目を覚ました、この部屋。 私の部屋のような。 私の部屋ではないような。

「ムリダナ。」
ぺけっ。 指と指を交差させて、部屋の主である少女の真似をしてみる。 ふふっ。 思わず笑みが漏れた。
我ながら中々似ていたような気がする。 あの独特のイントネーションを再現するのが結構難しい。
んっ。 ベッドの端っこに雑誌を発見。 ころころ。 ころころころ。 無事到着。
対象を速やかに回収。 これより帰還します。 ころころころ。 ぴらっ。 それはレジャー情報誌だった。 へぇ。
エイラ、どこかに遊びに行きたいのかな。 適当にめくってみようと思って、ページの角が折られた部分があるのに気付く。

「アルトンウィッチーズ。 話題のテーマパークを徹底解析。」
あぁ。 聞いた事がある。 確かブリタニアで一番人気のあるテーマパークの名前だ。
芳佳ちゃんやルッキーニちゃんが行ってみたいって言ってたっけ。 エイラも行きたがってるんだ。 へぇー。

……今、何時何分だろう。 思索を中断して、首を左右にゆっくり巡らす。 青白い石像。 透き通った水晶玉。
謎のインテリアはすぐに見つかるのに、ごく普通の時計が見当たらない。 窓の外に目をやる。 青空。 まだまだ日は高い。
私はちっとも眠くない。 ぼんやりともしていない。 ふぅ。 まだまだ時間を潰さなくてはいけないみたい。

「テーマパーク……行った事無いな。」
雑誌に目を戻して写真を眺める。 綺麗。 面白そう。 いいな。 エイラに私も連れてってくれないか、頼んでみようかな。
ムリダナ。 ぺけっ。 またもやエイラの真似をしてみる。 あんまり似なかった。 なんとなく理由も分かる気がする。

「水臭い事言うなって。 一緒に行こ、モチロン!」
くすっ。 今度は笑ってしまうほど似ていた。 エイラごっこ。 ヒマ潰しとして専らのマイトレンド。
想像の中のエイラは自分でも驚いてしまうくらいリアルで、私が考えるよりも先にエイラらしい結論を聞かせる。
そこを歪めれば、とたんに似てない物真似になってしまうのだった。
うん。 まだまだ日は高い。 このテーマパークに行くつもりになって。 エイラごっこ、してみようかな。

「エイラ……まだかな。」
ん。 一緒に行くという設定のはずなのに、何故だかいきなり待ち合わせの場面を夢想してしまった。 少し頬が赤くなる。
ちょっと乙女チックすぎたかな。 でも、エイラだったらコネを使った空路でテーマパークに行きそうだもの。
備え付けのホテルにチェックインして着替えないと、ここからおめかしして直行する訳にはいかないよね。
だから、エイラは準備に時間がかかって、ホテルから中々出てこないっていう設定。 うん。 おかしくない。
それに、幸せが来ると分かっている待ち合わせって。 本当に素敵だと思うから。

ネコペンギン像の前で、私はエイラを待ちぼうけ。 10分の遅刻。 まだ来る気配は無い。
いつもテキパキとしている彼女が、時間に遅れるなんて珍しい。 まだかな。 まだかな……。

ネコペンギン像の前で、さらに私は待ちぼうけ。 20分の遅刻。 エイラったら。 時間は守らないと駄目よ。
私と二人の時ならいいけれど、これを基地でやってしまったら全体の連携に関わるもの。 まだかな。 まだかな……。

ネコペンギン像の前で、なおも私は待ちぼうけ。 30分の遅刻。 エイラ……? 幾ら何でも、こんなに遅れるなんておかしい。
途中で何かあったのかな? ホテルでキーロックのトラブルにあったとか。 ううん。 それならまだいい。
ここに来るまでに事故……? まさか、そんな! そうよ、テーマパークの敷地内だもの。 でも、だったらどうして……。

「だから園内放送で呼んでくれって! 時間を守る娘なんだヨ! こんなに遅れるハズないんだ! こ、ここに来るまでに事故とカ……!」
湧き上がる不安を抑え切れなくて、堂々巡りする思考にオロオロしていると、後方から聞き慣れた大声がした。
……。 後ろを振り返ってみても、巨大すぎるネコペンギンが視界を塞いでいて分からない。
とととと。 小走りに反対側に行ってみると、切迫した顔で職員さんをギリギリ締め上げるエイラがいた。 慌てて二人に駆け寄る。

「いいか、もしサーニャに何かあったら……ア! さっ、サーニャ!!! 無事だったんだな!!」
ぱぁぁっ。 険のある表情が嘘のように消え、エイラの笑顔が光を撒き散らした。 あぁっ。 やめてエイラ。 周囲の視線が痛いのっ。

「……ねぇエイラ。 ひょっとしてずっとここで待ってた? その……ネコペンギンの、背中側で。」
「そりゃモチロン! 一歩も動かないでジーッとサーニャが来るのを待ってたゾ! こんなに遅れるなんて心配したじゃないカ!」
正面側と背中側! なんて初歩的なミスだろう。 シーツにくるまってジタバタともがく。
穴があったら入りたい。 実際に行く時は気をつけなくっちゃ……。 でも。 エイラが無事でよかった。
ただの想像なのに胸を撫で下ろしている自分がおかしい。 待ちぼうけさせちゃったけど。 許してね、エイラ。

「今日だけだかんナー。」
エイラがふて腐れたフリをする時のお決まりの文句を真似てみる。 くすくす。 自画自賛だけど、本当に似てる。
もしエイラ検定みたいな資格があったとしたら、私は間違いなく一級を取れるに違いない。
窓の外はまだまだ青い。 テーマパーク巡りもここからが本番。 気を引き締めてかからなくっちゃ。

「よーっし、次はホラーハウス行こうぜ! 迷路になってるからそう簡単には出られないらしいぞ! ヒヒ!」
「……私は怖いのやだな。 こんなに綺麗な所なんだし、観覧車に乗ろうよ、エイラ。」
「え、えっ? サーニャと観覧車!!? いや、でも、ホラーハウスも見てみたいし……サーニャが私の腕に、もにょもにょ……。」
「?? じゃあ、ホラーハウスが終わったら観覧車乗ろ。 約束だよ。」
「すっ、する! 約束する!! 心配するなサーニャ! お化けなんて私が未来予知で蹴散らしてやるからナ!!」
「……ふふ。 頼りにしてるね、エイラ。」
擬似体験アトラクション・アフリカの星、ウォーターライド、絶叫マシン……エイラの好みは過激な物が多い。
楽しくないわけではないけれど、やっぱり私は穏やかな時間が好き。 これが終われば観覧車でゆっくりできる。 うん。 頑張ろう。

「ヒィアアアアア!! よっ、寄るんじゃねーヨ!! うああ、今度は右斜め前方から!!」
「エイラ、落ち着いて! まだ出てきてないよ! それにお願いだからベルトを掴まないで! ずり下がってきてるから!!」
パニック状態で腰にしがみつくエイラをなだめながら、必死でベルトが落ちないよう手で押さえる。
お化けが出てこない内から未来予知で見えてしまって怖がるエイラ。 おかげで予測がついてしまって全く怖くない私。
これじゃあ入る前に言ってたのと丸っきり逆だよ、もう。
前を見るまいと背中にしがみつくエイラは、よりにもよってベルトを掴んでくれている。 気を抜けば、ズボンごと脱がされてしまいそう。
真っ赤になりながら、私達はほうほうの体でホラーハウスを抜け出した。

「面目無いんダナ……。 こんな格好悪い所を見られて、もう私はシスターになって隠遁する以外に道は無いヨ……うう。」
「もういいよ、エイラ。 元気出そ? 私はちっとも格好悪いなんて思ってないよ。 どちらかって言うと。 可愛かった。」
「かっ、かわっ!? こ、こら、サーニャ! からかうんじゃねーヨ!」
「ふふ。 ほら、エイラ。 アイスクリーム選ぼうよ。」
観覧車に乗る前に、お茶をいっぷく。 エイラの叫び声を熱演しすぎたせいで、喉が痛い。 本当にお水欲しいかも……。
ベッドの上からもそもそと起き上がり、アイスティーを淹れる。 窓の外の飛行機雲を眺めながら人心地。
あの飛行機雲、エイラかな。 颯爽とした軌跡。 迷いの無い、綺麗な飛び方。 ふふふ。 こっちのエイラは元気いっぱい。
目を閉じれば、想像の中のエイラは、まだ少し肩を落としたまま。 できるだけの明るさを込めて喋りかけてみる。

「エイラのアイスおいしそう。 一口、もらっていい?」
「エッ? そそそれって間接……ひっ、ひ。 一口だけだかんナー。」
間接? ぺろっ。 かじ、かじ。 ……美味しい。 かじり過ぎちゃったかな。 垂れそうなクリームを、慌てて舐め取る。
ん。 目を上げてみれば、私が食べる様子を、エイラが固唾を呑んで見守っていた。
も、もう。 そんなに見られたら食べにくい。 ぺちっと軽くエイラの手を叩いて、私の持ってるアイスを差し向ける。

「ごめんね、かじり過ぎちゃったかも。 はいエイラ。 私のも、ひとくち。 それで許してくれる? 美味しいよ。」
「エエエエ!!?? さっ、サーニャの……。 う、うん。 いただきマス……。」
おずおずと食べるエイラを微笑ましい気持ちで見ていた時。 突然物凄い悲鳴がジェットコースターの方からあがった。

「ヤバイ、サーニャ! あれはジェットコースター型ネウロイだ! 乗ってる人が危ない!!!」
え。 えーー!? 何その設定!? いきなりの急展開。 私の頭の中なのに、完全に想像力を上回った事態が発生した。
ジェットコースター型って。 乗る前に気付かなかったの? 悲鳴をあげてる余裕があるの?
ネウロイもネウロイだわ。 何で普通にジェットコースターとして走ってるの? とても突っ込みきれないよぉ!

「サーニャ。 私は何とかあいつを足止めする。 サーニャは民間人を非難させてくれ!」
「え。 ね、ねぇエイラ。 私が間違ってた。 もうこの方向で想像するの止めよう思うんだけど……。」
よじよじ。 えーー!? エイラがジェットコースターの鉄柱を登り始めた。
何もかもがおかしい。 普通だったら私たちがすべきは、ストライカーを取ってきて戦う事のはず。
どうしてエイラがそんな事をしなくちゃいけないの? 今ネウロイに突っ込んでもできる事なんて無いのよ、エイラ!

でも頭の隅っこで、私はなんとなく納得していた。 エイラだったら。 ううん、私たちの部隊のみんななら。
たとえ、自分に何の力が無いのだとしても、目の前で苦しんでいる人を見過ごしたりしない。

エイラが魔力をこめたカバンでネウロイを殴打、殴打。 その間に私は園内のみんなを避難させていく。
よし。 こっちはもう大丈夫。 エイラ! 今助けに行くからね。 そう思って振り返った瞬間、私の頭は真っ白になった。
私の想像が毛色の違ったものになったと自覚した。 ネウロイの放った熱線がエイラを貫いたのだ。 うそ。 うそ!

「エイラ!!!」
「来るなサーニャ! ……私はもう駄目だ。 でも、最後に一つだけできる事がある。 私の体は魔力の塊。
 シャーリーがやったみたいに、体でぶつかる。 ありったけの魔力を込めた自爆で、こいつを仕留めてやるからナ!!」
自爆。 エイラは何を言ってるのだろう。 嘘だよね? そんな魔法使えないよね?
そんな魔法、聞いた事も無いし、エイラにできるはずは無い。 ねぇ、何してるのサーニャ。 今すぐこの想像をやめなくちゃ。
窓の外を見ればほら。 青い青い空が広がっていて、私はまだまだヒマを持て余しているはずだよね。

辺りを見回す。 どこにも窓なんて無い。 なんで? どうして!!!
おかしいよ。 これ、私の想像だったはずじゃない。 他愛もないエイラごっこだったはずじゃない!! どうなってるの!
イヤ。 イヤ。 エイラが死ぬなんて、たとえ想像の中でも絶対イヤ。
ねぇ、どうして思い通りになってくれないの。 私の想像なんでしょ。 ねぇエイラ、もうやめて。
想像の中でここまでやる事ないよナって言って。 笑って。 お願いだから!!!

「泣かないで、サーニャ。 サーニャが泣くと私も悲しい。 大丈夫。 いつでも一緒だから。 今までも。 これからもサ。」
分かってる。 例え私の想像の中でも、エイラは私が考えるより先に、エイラとして動いていた。
だから分かる。 エイラの事なら誰よりも分かる。 エイラだったらきっとこういう風に。 最期の時でも笑うんだ。 わたしの、ために。
エイラが放った光と爆風に包まれて。 私は泣きながらベッドの上で目を覚ました。

何が起こったのか分からなかった。 深い悲しみだけが胸を埋め尽くして、暫くの間身じろぎもできなかった。
ようやく僅かに体を動かして、周りに視線をめぐらせる。 私の手元には相変わらず雑誌がある。 窓の外は相変わらず青い。
白昼夢! 想像に没頭しすぎた私は、いつの間にか白昼夢を見ていたのだ。 よかった。 本当によかった。

「たーだいまっト。 あれ、サーニャ? な、なんでまだ私の部屋にいるんだヨー。 仕方無いなー、モウ。」
「エイラ!!!」
「うわっ!? ささサーニャ!? いいいきなり抱きつい……あれ。 どうしたんだ?
 何で泣いてんダヨ!? なんだ? 誰に泣かされたんだ? ペリーヌか!? あんにゃロ!!」
帰ってきたエイラの胸に飛び込んで泣きじゃくる。 汗の匂い。 あぁ、エイラはここにいる。 神様!
想像におびえて泣きすがるなんて、あまりに子供でどうしようもないけれど。 今は無理。 自分を保てない。
エイラは確かにここにいるんだって、強く強く実感していたい。 困ったような顔で、エイラが私の背中を撫でてくれる。

「よかった。 エイラが本当にいなくなっちゃったかと思った。 凄く怖かった。
 これは現実だよね? エイラはここにいるんだよね? エイラがいなくなったら、私……。」
「え、えっ。 エエーー!? そそそれはどういう事なんダナ、サーニャ!? それが理由で泣いてんのカ?
 私が、いなかったから!? 訳が分からないけど……ひょっとして、今まさに私の人生のターニングポイントなのカー!?」
エイラの優しい手の平で、少しずつ心が落ち着きを取り戻してくる。 少しだけ上ずった優しい声がする。

「なぁサーニャ。 私はサーニャを残して何処かに消えたりしないゾ。 これはもう絶対! だって私はサーニャの事を、す、す……。」
「す……?」
「す、すっ……すごく大切な友達だと思ってるんだゾ! だから、いつだってサーニャの傍にいる。 そうだ。
 実は内緒でレジャーの計画してたんだヨ。 な、サーニャ。 一緒にテーマパークに行かないカ? きっとすっごく楽しいカラ!」
「 絶 対 に お 断 り よ !!! 」
「エエーー!!??」
反射的に拒絶してしまった。 思いっきり落ち込むエイラ。 いけない。 ようやく恥ずかしさが込み上げてきた。
一人で色々想像して、泣いて、慰めてもらって。 なのにこんな事言って。 これじゃいけないよ、私。

「困らせてごめんね、エイラ。 あのね、私、今日に限って全然眠れなかったの。 だからエイラごっこして暇潰ししてたの。」
「わ、私ごっこ!? サーニャが私の真似するのカ? ウーン。 見たいような、見たくないような……。」
「それで、エイラと私でこのテーマパークに行く、って設定にしたの。 一緒に観覧車に乗ろう、って約束したりして。」
「アー、なんだ。 サーニャもこの雑誌読んだのか。 で。 い、一緒に観覧車!? そ、それで! それからどうなったノ!?」
「そしたら、エイラがジェットコースターによじ登って自爆して。」
「エエーー!!??」

「そうなの。 生身の体でジェットコースターに立ち向かったエイラは、相手を倒そうと自爆して木っ端微塵になったの! 私悲しくて……。」
「私もせつねーヨ……なんか涙出てきた。」

「私、怖いの。 想像が現実になるんじゃないかって。 テーマパークに行ったら、エイラが木っ端微塵になるんじゃないかって。
 怖くてたまらないの。 だから、行けない。 ごめんねエイラ。 私。 どうしてもエイラの最期が忘れらない……。」
「さっ、サーニャ……。 いや、忘れろ! そんな酷い奴の事は忘れちまエ!」
「えっ。 無理だよ! エイラの事を忘れるなんてできないよ!」
「できるサ! サーニャを残して逝くなんて。 そんな私、許せないヨ! 私だったら絶対にサーニャを泣かせたりしない!
 木っ端微塵になって髪の毛一本残らなかったとしても。 そこから必ず再生して、サーニャを迎えに行ってみせル!!」
「ええーー!!??」
まさか、自爆だけじゃなく再生までできるって言うの? 泣き濡れる私を見かねたのか、エイラの目は真剣そのものだった。

「で、でも、自爆自体が嫌なの。 リアルエイラはきっと妄想エイラと同じ事をするよ。 それがリアルエイラだもん……。」
「いーや! リアル私だったら絶対そんな事しない! そもそも自爆のやり方なんてサッパリ分からネー!!!
 信じて、サーニャ。 私は妄想私とは違う。 サーニャが見た場面だって変えてみせる!
 それが私のチカラ。 未来を知るチカラ。 変えるチカラ。 サーニャの、幸せな未来を守るチカラなんだゾ。」
「……エイラ。 うん。 信じてみる。 ううん、信じる。 私。 リアルエイラの事、信じるよ!」
「リアルサーニャァ!!」
ひしと抱き合う私たち。 伝わる。 信じられる。 私の頭の中で、私の思い通りにならないくらい、確かな形を持っていたエイラ。
でも、それよりももっと、目の前にいるエイラの方が、ずっと素敵な今をくれるんだね。 これが、本物のエイラなんだね。

ぶっきらぼうに見えて、でも誰よりも繊細に人の事を気遣って。 どこにいたって私に真っ先に駆け寄って抱きしめてくれる人。
あぁ。 私、ようやく分かった。 私が、悲しい眠りに落ちたとしたって。 私を奏でてくれる人がいるの。
優しく揺り起こしてくれる人がいるの。 あまりに自然すぎて、気付けなかった。 かけがえのない人が。 いつも私の隣にいる。
ふと。 急速に眠気が襲ってきた。 それで唐突に理解した。 どうして、今日はちっとも眠くならなかったのか。
どうしてあれほどヒマに感じられたのか。 それって、きっと。 この人がいなかったからなんだ。

「ありがとう、エイラ。 やっぱりエイラは優しいね……。」
「な、何だよ。 別にそんなんじゃねーっテ! ほら。 今日夜間哨戒だろ。 ちゃんと休んでおけよナ。」
「うん。 ねぇエイラ。 寝付くまで傍にいてくれる?」
「エ!! そ、そりゃまぁ、しょーがないって言うか。 ウン。 今だけだかんナー。」
「ふふ。 ……私ね、はっきり分かった。 私にとって、エイラはとても特別な人。 きっと私、エイラのこと。 ……す……。」
「へ? なな何? す? 今、すって言った? え、サーニャ? つつ続きは!? す、何なんダーー!?」
すぅ。 意識が眠りの淵に沈んでいっている。 エイラが騒いでいるのが聞こえる。 でも、エイラの声ならうるさくない。
……そ、そこで切るなんて反則ダヨーー!! エイラが何か言っている。 反則? 私、何かしちゃったのかな。 ごめんね、エイラ。

外は青空。 木々がそよ風に揺れている。 私はと言えば、とても眠い。 そんな当たり前の事が、こんなに幸せ。
ねぇエイラ。 次のお休みになったら。 一緒に観覧車、乗ろうね……。

おしまい


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