無題
あくびをしながらエイラが食堂に入ると、そこに居たのは芳佳とリーネの二人だけだった。
芳佳とリーネが二人同時にエイラに「おはようございます。」と挨拶をする。
「おはよー。何ダ、リーネと宮藤二人だけか。」
エイラは椅子に座ると、皿に山盛りにされたポテトをひとつフォークを使って口へと運んだ。
「ミーナ隊長と坂本少佐、ペリーヌさんはもう食べ終わったみたいです。」
「あ~、そうなのか。」
エイラ達が遅いという訳ではなく、その三人が早いのだ。
ミーナは仕事あるため、坂本は訓練のために早めに朝食を済ませる。
ペリーヌは坂本の訓練に付き合うために朝早くに食べたのだろうな、とエイラは推測した。
「サーニャちゃん、一緒じゃないんですね?」
「ん?あぁ、夜間哨戒明けだからナ。多分昼過ぎまで部屋で寝てるよ。」
夜通し空を飛んでいるサーニャは、基地に帰ってくると疲れから朝食を取ることもなくすぐに
寝てしまう事が多い。たいていはそのまま昼過ぎまで寝ているのだ。
(部屋っても、私の部屋なんだけどな…)
いつもと同じように、今日も部屋を間違えて自分の部屋で寝ているサーニャを思い出し、
一人ニヤニヤとしながら食事を続けていたエイラは
「そういえば、エイラさんはサーニャちゃんと何処までいったんですか?」
「ブッ!」
芳佳からの唐突な質問に思いきり噴き出した。
「わ、エイラさん汚いですよ~。」
「いっ、いきなり何言い出すんだよお前!?」
「え?その、二人がとっても仲良しだから。リーネちゃんも気になるよね?」
聞かれたリーネはビクッと体を震わせた後、少し顔を赤らめて芳佳の方を向くと、
「わ、私?え、えっと、それは、気にならないと言えば、嘘になるけど…」と呟いた。
「何だ?随分と面白そうな話してるみたいじゃないか?」
「ふんふん、私もエイラとサーニャが何処までいってるのか興味あるな~」
三人の会話に割って入った声は、いつの間にか食堂に来ていたエーリカとシャーリーのもの。
「お、お前等…、私をソンナ目デミンナーッ!!」
涙目で叫ぶエイラに、エーリカとシャーリーと共に食堂に入ってきたゲルトが呆れた声を出した。
「お前達は全く…、食事位静かに出来ないのか?」
三人がそれぞれ席について食事を始める。
「バルクホルンさん、今日は珍しく遅かったですね。」
規則に厳しいゲルトが珍しく朝食の席に遅れた事への疑問を芳佳が口にすると、ゲルトが
ジトッとした目でエーリカを見る。
(あ~、ハルトマンさんを起こすのに時間が掛っていたのかな?)
ゲルトからの視線を感じたのか、エーリカは一瞬ゲルトの方を向いて顔をしかめると、
話題を変えるために再びエイラへと話を振った。
「そう!さっきの話だけど!エイラ、サーニャと流石にキス位はしたんでしょ?」
「キ、キス!?」
先程の話題から、早々に食事を終わらせて部屋に戻ろうと思い無言で黙々とポテトを食べていたエイラが、動きを完全に止めて顔を真っ赤にする。
「あれ、もしかしてまだキスもしてないの…?」
逆に驚いた様にエーリカが言うと、話を聞いていたシャーリーが不思議そうな顔をした。
「ん?あ、でもその時間帯ってサーニャは夜間哨戒中か?」
「どうしたのシャーリー?」
「この前夜中にエイラの部屋の前を通った時に、部屋の中から『サーニャ!サーニャ!』
ってエイラの叫び声が聞こえたから私はてっきり「ウワアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
エイラが突然叫び声をあげる。
「さっきから黙って聞いてれバ・・・!!あのナ、私は別にな、サーニャの事は、その、
そりゃあ大切に思っては居るけれド、好きとか、そういうのは・・・。」
段々と小さくなっていくエイラの声を聞いて、エーリカが嬉しそうに笑った。
そんなエーリカを訝しく思い、エイラが苛立ちながらナンダヨ?とエーリカに問う。
「いや、それならサーニャは私が貰ってもいいんだよね?」
「ハァ!?」「な゛!?」
その台詞に二人が同時に声をあげて反応する。一人はエイラ。もう一人はゲルトだった。
一切会話に参加せず黙って食事をしていたゲルトが、顔を引きつらせて手を止める。
「ハ、ハハハハハ、ハルトマン?一体、何の、冗談だ、それは?」
「サーニャを誰が、どうするっテ!?」
「いや、私実は今までエイラに遠慮してたんだ~。でもさ、そのエイラがサーニャに対して
特別な感情は別に持ってないって言うから。私がサーニャに告白して付き合っても何の問題もないよね?」
「なななな、告白!?付き合う!?」
ゲルトがエーリカの肩をガシッっと掴み、顔を近づける。
シャーリー、芳佳、リーネの三人が、普段絶対に見る事が出来ないゲルトの動揺する姿を見つつ、
自分達に火の粉が飛んでこないように静かに机の端へと移動していく。
「そもそもだ!女同士が付き合うなんておかしいだろう!?
そ、それにこの隊の皆は家族、そう、家族だ!お前は家族と付き合う気か!?」
エーリカの体を激しく揺さぶり、ゲルトが焦ったようにそう問い詰める。
「ぢょ、きもぢわるいっで!トゥルー、デ!」
「あ!す、すまん・・・。」
「それにさぁ~、私が誰と付き合おうとトゥルーデには関係ないでしょ? 女同士だって愛があったら関係ないしね~。」
軽い口調で言うエーリカに、反論が無くなって完全に固まるゲルト。
エーリカがエイラの方をチラと見てニヤリと笑った瞬間、
「フザケンナ!!」
エイラが机を思いきり叩いてそう叫んだ。エーリカ以外が驚いてエイラの方へと注目する。
「サーニャのコトを良く知りもしないクセに付き合うなんて許されるカ!!」
「知らない所は付き合ってから知ればいいじゃん。
それにさぁ、エイラに私がする事あれこれ言われる筋合いないんだけど?」
「う・・・。」
黙り込むエイラに、誰にも気づかないように小さくエーリカが溜息を吐いた。
と、小さくエイラの口から言葉が漏れる。
「ダ・・・。」
「え?」
「私だっテ、サーニャが好きなんダ!世界の誰よりも一番!!だから、だからその・・・!」
「・・・エイ・・・ラ・・・?」
少女の声。その声で食堂の空気が凍りついた。
たった今その少女への愛を叫んだエイラは、ゆっくりと声がした食堂の入口へと振り向く。
「サ、サー・・・ニャ・・・。」
「あの、えっと、部屋で寝てたら大きな声がが聞こえてきてね。その、それで・・・。」
耳まで真っ赤にしたサーニャが俯いてボソボソと何事か呟く。
口をパクパクとさせているエイラを見て、先程からずっと笑うのを堪えていたシャーリーが思いきり噴き出した。
「ぶっ、は~っはははは!あははははは!最高!エイラ、本当に面白い!」
「さ、ちが、これはその、違うんだサーニャ!」
「何が違うの・・・?」
「うぇ・・・、えっと、う、うわあああああああああああああ!!」
小さく首を傾げて上目遣いでそう聞かれたエイラが、そのまま叫びながら食堂を飛び出して行った。
もう一度嬉しそうにエーリカが溜息を吐くと、下を向いてモジモジとしているサーニャの所へと歩いていき、軽く肩を叩く。
「ね、サーニャ。追いかけてきな?」
その言葉でサーニャはハッとしたようにエーリカを見て、「はい」と静かに頷きエイラの後を追う。
未だ状況を理解していないゲルトが口を開けてポカンとしている姿を見て、再びシャーリーが大爆笑した。
「ハルトマンさんもお人好しですねぇ。」
「私結構サーニャと話をするんだけどね。きっとこのままじゃ一生あの2人の関係は変わらないと思って。」
「私は、きっといつかは必ずエイラさんが告白すると思ってましたけど。」
「そうかなぁ、いらぬお節介ってヤツだったか。でもサーニャの話を聞いてるとどうしてもなぁ・・・。」
「でも、あんまりバルクホルンさんを虐めちゃダメですよ。ハルトマンさんの言ってた事、本気にしていたみたい。」
「まぁ別に今日位いいじゃん?ねぇ、宮藤。今日は何月何日か知ってる?」
「えっと、四月一日・・・ですよね。」
「そう、エイプリルフール♪」