無題


「こらーっ!待たんかエーリカぁー!」
「やーだよ~っ!」

部屋の外の廊下を、聞き慣れた声と騒がしい足音が通りすぎていった。
バルクホルンとハルトマンか。またハルトマンが何かやったのだろう。

…ん、バルクホルンがいるという事は…ミーナも帰ってきたのか。
そう頭に浮かんだその時、部屋のドアがノックされた。

「美緒、入ってもいい?」

どうやら考えていた人物張本人が来たらしい。

「ああ。開いているぞ」

私が応えると、がちゃりとドアが開きミーナが顔を出した。

「ふふ、只今戻りました、坂本少佐」
「お帰り。すまなかったな、ついていけなくて」
「大丈夫よ、すぐに終わったし」

少しおどけて帰還の挨拶をしたミーナは、持っていた書類を私に手渡した。ハルトマンの勲章授与についての書類だ。

「ふむ、次の休みの日か。予報では天気も良さそうだし、ちょうどいいな」
「問題は、ちゃんと主役が起きるかどうかね」

私が吹き出すと、ミーナもくすくすと笑った。

「しかし、ハルトマンの話じゃ…いつもより悪態をつかれたんじゃないのか」

そう尋ねると、華のようだったミーナの笑顔が少し曇った。

「…そう、ね」

ミーナは小さくため息を吐く。

「トゥルーデが、やっぱり許せなかったみたいで…凄く辛そうな顔してた。連れてかなきゃよかったって、ちょっと後悔したわ」
「そうか…」

何を言ったかは知らないが、あの連中の事だ。大体想像はつく。
バルクホルンはハルトマンの事を、とても…とても大事に想っている。怒るのも当然だろう。

「口を謹んで下さい、って思わず言いそうになっちゃったわ。…本当に困った人達ね」

ミーナは肩をすくめ、私の隣に腰を下ろした。

「…フラウの事もだけど…あなたの事を悪く言う人がいるのは、本当に許せないわ」

私の肩に、ミーナの頭がこつんとぶつかる。
腕を回して抱き寄せ、ミーナの肩をぽんぽんと叩いた。

「仕方ないさ。私はもうじき魔力がなくなる…あれこれ言うのにはちょうどいい口実なんだろう」
「でも…!あなたはいつだって勇敢に戦って、扶桑を…世界を守ってきたわ。魔力がなくなるからって、あんな言い方…」
「はっはっは…魔力のないウィッチなど、役立たずだと言いたいんだろうな」

その言葉を聞いたミーナは、ふっと顔を上げた。

「ミーナ…ん…」

そのまま突然口付けられる。そしてすぐに唇は離れた。

「美緒。そんな事言わないで」
「…ミーナ」
「美緒は私の、誰よりも大切な人よ。その人を悪く言うなんて、許さない。美緒を悪く言う人は…美緒でも許さない」

私を見つめる瞳は、僅かに潤んでいた。
…全く、私はどうも口が悪いようだな。

「すまない、ミーナ。ありがとう」
「わかればいいの」

頭を撫でると、ミーナはにっこりと笑った。

…あぁ、綺麗だ。
ミーナは、心も身体も…本当に美しい。

「…なぁミーナ、お前の通り名…フュルスティン、だったか」
「ええ…突然どうしたの?」
「扶桑の言葉では、“女公爵”という意味らしいが…」
「ん…そうね」

女性の公爵。
確かに、凛々しく聡明なミーナにぴったりな呼び名だ。
しかし…

「私の前でのお前は…公爵というより、姫君だな」

ミーナは目を2、3度ぱちぱちとさせ、次の瞬間自身の赤毛に負けないくらい真っ赤になった。

「なっ…な、何、言って…」
「今のミーナは、公爵にしては可愛すぎるからな」

顎に手をかけ、朱に染まった顔を持ち上げた。

「私の姫君。私が飛べなくなるまで…いや、飛べなくなった後も、側にいてくれるか?」

目の前の姫は、公爵の名に相応しくないなんとも可愛らしい表情ではにかんだ。

「も、もう…ばか、…もう…」

声を上擦らせ、私の胸を小さくぽかぽかと叩く。
その手を取り、甲にそっと口付けた。

「どうかな、お姫様(フュルスティン)」

拗ねたようだったミーナの顔が、また華のような笑顔になった。

「…喜んで…」



「ひゅーひゅー、お熱いことっ」
「!」

突然の声に、私たちは振り返った。
ドアからハルトマンが、悪戯っぽい顔を覗かせている。

「ふ、フラウ!見てたの!?」
「通りかかっただけですよー、お姫様っ」

いししし、と笑うハルトマン。ミーナはこれ以上ないくらい真っ赤になってしまった。

「ハルトマン」
「はい?」

私は恥ずかしがる姫をぎゅっと抱き締めた。

「これは私のだから、勝手に見てもらっては困るな」
「!ちょ、ちょっと美緒…」

一瞬ぽかんとしたハルトマンは、またいたずらっ子の笑みを浮かべた。

「お邪魔して申し訳ありませんでしたー」

「…エーリカーッ!!」

遠くからバルクホルンの叫ぶ声がする。

「うぉっ、見つかった!」
「エーリカ!いい加減片付けろ!」
「やだよー!」

バタバタと慌ただしく駆けていく二人。

「全く、仕方ないな」
「……あの、美緒…」
「ん?」
「…なんでもないわ…」

ミーナは私にしがみついたまま離れようとしない。ふふ、甘えん坊な姫君だ。

今日の埋め合わせだ。今夜は離してやらないぞ、ミーナ。


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