we are all bloomin'


  満開の桜。鮮やかなピンクの花びらが、そよ風に流れ、芳佳とリーネを優しく包み込む。
  「綺麗だね、芳佳ちゃん」
  「本当だね、リーネちゃん」
  桜の木の下に腰掛け、肩を寄せる。
  「来年もこうやって、二人で一緒に桜、見られたら良いな」
  芳佳はリーネに微笑みかけた。
  リーネの顔が曇った。
  「それは、無理だよ。芳佳ちゃん」
  「え、どうして? 戦争が終わったら、離ればなれになるから?」
  「違うよ」
  リーネは立ち上がり、木の幹に触れた。
  「私ね。私はね……」
  巻き起こる一陣の風。散る花びらと共にリーネを包み込む。
  「どうしたのリーネちゃん」
  「私、今年の桜の花なの。だから、もう、芳佳ちゃんとは……」
  「え? どう言う事?」
  「芳佳ちゃんと会えて、私、幸せだったよ」
  花びらに包まれ、リーネの身体が、顔がぼやける。
  「何処行くのリーネちゃん? 待って!」
  彼女の姿はどんどん消えていき……
  「リーネちゃん!」

「芳佳ちゃん?」
「リーネちゃん!」
リーネに手を伸ばす。芳佳はリーネを確かに掴んだ。掴んだものは胸の膨らみだったが。
「ああ、リーネちゃん、消えてなかった。本物だぁ……」
「よ、芳佳ちゃん? こんな所で、だめ……あんっ」
芳佳はリーネの香りを胸一杯に吸い込み、ついでにたわわに実るふたつの果実に頬を埋める。
「こら、お前達。何をやっとるか」
苦い顔をして、溜め息をついたその人は、美緒。いつの間に現れたのか。
「あ、坂本さん」
「仮にも中庭で、丸見えだぞ。もう少し場をわきまえろ」
「す、すいません、少佐」
「でも、違うんです、坂本さん」
「何が違うんだ」
「リーネちゃんが……」

「ほう。それで、リーネが消える夢を見て、怖くなったから……と」
「そうなんです。でも良かった。リーネちゃん実在して」
「当たり前だ、馬鹿者」
呆れ顔で美緒に怒られ、しゅんとしてしまう芳佳。
「芳佳ちゃん……私を、桜の花の妖精とでも思ったの?」
「妖精? そう、桜の精だよ! とっても綺麗だったけど、消えるのは嫌だよ……」
「大丈夫、芳佳ちゃん。私はここに居るよ。いつでも、芳佳ちゃんと一緒だから」
そっと芳佳を抱き寄せるリーネ。芳佳は抱きついて、胸に顔を埋めた。
「有り難う、リーネちゃん」
「芳佳ちゃん」
「全く。二人で仲良く花見をしてるかと思えば……」
呆れて空を見る美緒。花びらが風に舞い、美緒の頬についた。指でつまみ取り、ふっと軽く息を吹いて飛ばす。
風に巻き込まれ、そのまま他の花びらと一緒に、何処かへと流れて行った。
「ところで、坂本さんもお花見ですか?」
「ん? ああ。もうすぐ散ってしまうからな。一人で花を愛でるのも悪くない、そう思った」
「さすが坂本さんですね」
「そうか?」
「でも、美しいですね。この色。淡いピンクかと思えば、陽の光によっては濃く見えたり……」
「リーネも分かるか? 我々扶桑の人間が桜を愛する理由が」
「何となくですけど、分かります」
「そうか」
ふっと笑う美緒。
「そうだ、ひとつ良い事を教えてやろう、リーネ」
「何でしょう?」
「実はな。桜の木の下には死体が眠っているんだ。それを養分にして、桜は色づく……おいリーネ、顔色が悪いぞ?」
「よ、芳佳ちゃん……怖い……」
「坂本さん、何て事言うんですか!? リーネちゃん恐がりなのに」
「ああ……すまん」
「芳佳ちゃん……行こう。怖いよぉ」
「リーネちゃん、部屋戻ろう。大丈夫、私が一緒だよ? 大丈夫、ここの桜の下には何も埋まってないし」
「ありがとう。……失礼します、少佐」
震えるリーネを連れ、芳佳は桜の木から立ち去った。

「ちょっと脅かし過ぎじゃなくて、坂本少佐?」
いつやって来たのか、ミーナが美緒の横に立っていた。
「いや、すまん。さっきのは扶桑の文人の言葉でな。まあ、ちょっとした怪談話的なものなんだが」
「リーネさん、大丈夫かしら。不必要に桜を怖がらなければ良いけど」
「宮藤が居るから大丈夫だろう」
「全く、貴方って人は……」
美緒はミーナを連れ、さっきまで芳佳達が座っていた木の下に揃って腰を下ろす。
「綺麗ね」
「ああ」
いっぱいに咲く花もやがては残らず散り……そして新緑の季節となる。
繰り返される事でも、やはり一瞬の美しさは例えようが無い。
風が一瞬強く吹いた。桜吹雪が二人を覆い隠す。
「ミーナ、花びらが」
「え?」
頬に手が触れ……そのまま美緒はミーナの唇を奪った。
いきなりの事に、びくりと身体を震わせ、頬を赤く染める。
唇を離し、小さく微笑む美緒に、ミーナは聞いた。
「どうして、いきなりキスなんか」
「桜にまみれるミーナが、たまらなく素敵に見えたんだ。許せ」
「許さないわ」
「何っ?」
「私にも、お返しさせないとね」
ミーナは美緒をそっと抱き寄せると、ゆっくり味わう様に、口吻した。
「良いのか? 皆が見ているかも知れないぞ?」
「最初は貴方がして来たんじゃない」
「そうだった。つい」
「これだから、扶桑の魔女は……」
呆れつつも、そっと身体を美緒に委ねるミーナ。ミーナをそっと腕で包み込むと、美緒は桜を見た。
風に乗った花びらが辺りを、二人を美しく彩る。
「綺麗だ」
「それは桜? それとも……」
「勿論決まっている」
美緒はそっと、ミーナに触れた。ミーナは目を閉じた。

end


前話:0954
続き:0963

コメントを書く・見る

戻る

ストライクウィッチーズ 百合SSまとめ