無題


ちっちゃいエイラ。
それは、エイラの頭の中で生息する空想上の生き物である。
総勢人数501人。
いついかなる時でも行われる脳内会議において、彼女達の過半数の賛同を得られた行動が、そのままエイラの行動になるのだ。
今日はそんなちっちゃいエイラ達の一日について観察してみよう。
 

 
ちっちゃいエイラ達の朝は早い。
というか空想上の生き物なので、寝ているかどうかすら定かではないが。
まぁ、とにかく、寝てたりごろごろしてたりするちっちゃいエイラ達の中から一人のちっちゃいエイラが立ち上がった。
すると彼女な何処からともなく現れたステージの上へと昇る。
とたんに静まり返るその場。
一応寝ているのという設定なので元より静かではあるが気にしてはいけない。
 
タン
 
明かりが落ち、暗闇の中に沈む一同。
 
タタン
 
今度はスポットライトが点き、ステージを明るく照らす。
ステージに立つちっちゃいエイラが手に持っていたタロットカードを振る。
すると、何と言う事でしょう。
そのタロットカードがマイクに変わったではありませんか。
何処からともなく流れてくる曲。
むくむくと起き上がるその他のちっちゃいエイラ達。
そして、ステージに立つちっちゃいエイラはすぅ、と小さく息を吸い込んだ。
ちっちゃいエイラの送る朝のリクエスト曲はもちろん!
エイラ・イルマタル・ユーティライネンで、GOOD MORNING!
 
――さぁ皆起きるんだ朝なんだぞ♪
 
周りのちっちゃいエイラ達も次々に歌いだす。
501人の大合唱。
けれども流石はちっちゃいエイラ達。
高低もズレも感じさせないハーモニーで歌い続ける様はとてもシュール。
……それにしてもこのちっちゃいエイラ達、ノリノリである。
 
――描いてみんだぞーっと♪
 
あ、終わった。
曲も終わりステージもいつの間にか消えて無くなっていた。
そんな中、ちっちゃいエイラ達は次々と一列に並び始めた。
 
ザッ、ザッ、ザッ。
 
全員が並び終わると同時に先頭にいるちっちゃいエイラが声高らかに号令を上げた。
 
「点呼ー!ムリダナ」
「ムリダナ」
「ムリダナ」
「ムリダ(ry
 
……ムリダナタイム発動中
 
ry)リダナ」
「ムリダナ」
「ムリダナ」
 
なんというムリダナ。
なんというゲシュタルト崩壊。
その時ちっちゃいエイラ達全員が叫んだ!
 
『ムリダナ!!』

実はこの時、サーニャがエイラのベッドに倒れ込んできたのだが、二度寝しようか否かの議決が行われたのだ。
満場一致でムリダナ。
今頃エイラはサーニャの服でも畳み始めているだろう。
それはさて置き、未だ一列に並んでいるちっちゃいエイラ達。
先頭のちっちゃいエイラがテンポよく足踏みを始めた。
すると流れてくるのは先程とはまた違った軽やかな曲。
 
一歩進んで、ムリダナー。一歩進んでムリダナー♪
 
曲に合わせて一歩ずつ歩みを進めるちっちゃいエイラ達。
どこかで聞いた事があるような、見た事のあるような体操の行進。
ちょこまかと前後左右に揺れる様に動くちっちゃいエイラ達。
と、和やかな雰囲気なんのその。
突然、ちっちゃいエイラ達の動きがピタゴラ…じゃねぇや、ピタリと止まった。
むむむ、と唸るちっちゃいエイラ達。
そして
 
『キョウダケダカンナー!』
『ムリダナー!』
 
意見が分かれた。
互いに顔を合わせるちっちゃいエイラ達。
最後のちっちゃいエイラは端数であぶれたので、何やらアンニュイな表情をしていた。
その後、ちっちゃいエイラ達の間で何やら活発に議論が行われている様に見えるが、やってることは交互にタロットをしているだけ。
そして結果が決まったのか、端数のエイラが高らかに宣言した。
 
「キョウダケダカンナー!」
 
すると突然、世界が揺れ始めた。
みんなが消える。
消えて無くなる。
ちっちゃいエイラ達も、タロットも気付いた時には何もなく、今ここにいるのはワタシだけ。
そうして気が付く。
今、ここにいるのは、ワタシだけ。
…………「ワタシ」…?
その時、「ワタシ」は、突如現れた光の中に吸い込まれた。
大丈夫だよ…と、こっちだよ、と包み込まれるように光な中へと導かれる。
そうして「ワタシ」は気付くのだ。
「ワタシ」はこの暖かな感覚を知っているのだから。
 
「……   、    」
 
そして私は、安心と嬉しさを全身で感じながら、小さく密かに呟いた。
 


「……ャ……ーニャ……サーニャ…」
「……ぅ、ん…」
 
陽も程よく昇ったお昼過ぎ。
ゆっくりと声のボリュームを上げながら、サーニャを起こす。
朝目覚めてから、いつもの様に私の横で何やら幸せそうな顔にて眠るサーニャを眺めながら時間を潰していたのだが、そろそろ起きないと今日の予定に差し支える。
本音を言えば、時折滅多に見れないサーニャの緩んだ微笑みを眺め続けていたかったのだけれども。
くぅ、と自分の口元が緩んだのがわかる。
サーニャの寝顔を見ているだけで私は幸せなんだ、とそう思えるから。
その時、サーニャの口が僅かに動いたのに気付き、耳を澄ました。
お寝ぼけさんのサーニャがゆっくりと意識を取り戻す前兆だから、普段通りの行動だったのだが……
 
「……エイラ、だいすき」
「……………………へ?」
 
呟きの様な声が聞こえた。
……何ですと?
幻聴か?…いや、幻聴だ。
そうに違いあるまいて!
いきなりの事に私は大混乱、目が点になっている気がする。
虚を取られた様にそろそろ、とサーニャの顔を見る。
ほにゃり、と微笑むサーニャの笑顔。
……ああ、駄目だ。
この笑顔の破壊力は駄目だ。
私は不本意ながらの二度寝に陥る直前、何やら頭の中で「ムリダナー!」と響く私の声を聞いた気がした。
 
おわーり


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