sister infection
part1
しとしとと雨が降るある日の午後。ミーティングルームでお茶を楽しむウィッチーズ。
美味しいお菓子とお茶で、会話も弾む。
「坂本さんですか? お姉ちゃんって感じではないですよね」
雑談の最中、芳佳が笑いながら言った。
「当たり前だ。あくまで、上官と部下だ」
呆れる美緒。何か琴線に触るものが有ったのか、トゥルーデがいつの間にか芳佳の横に座っている。
「でも少佐は、訓練とか……、特に剣のお稽古になると、お師匠様って感じですよね」
リーネが訓練の様子を思い出す。
「お師匠様……『師匠!』 みたいな?」
芳佳が美緒を試しに呼んでみる。
「師匠……と言われる程私は凄い訳ではないぞ」
苦笑いする美緒。
「私はどうなんだ宮藤? 501の隊員は何せ皆家族、だからな。私の事を姉だと思って……」
「ば、バルクホルンさん。……お師匠様?」
「な、何ぃ!? 『お姉ちゃん』だろそこは!?」
「トゥルーデ、大丈夫?」
エーリカがトゥルーデを宥める。
「……はっ! いかんいかん。つい」
「トゥルーデ、相変わらずだね」
「流石にバルクホルン程ではないな」
笑う美緒。
「じゃあ、お姉ちゃま?」
「何か違うぞ」
「あねぇ」
「おねえたま」
「お姉様」
「ねえたま」
「アネキ」
「姉上様」
「姉くん」
「姉君さま」
「姉チャマ」
「姉ゃ」
いつの間にか周りに隊員が集まり、色々な呼び方で美緒を呼んでみる。脇では必死に何かを堪えるトゥルーデの姿が。
その時、ミーナは美緒の異変に気付いた。
「坂本しょう……美緒、どうしたの? 何か今一瞬顔色が……」
「確かに、誰かの言葉に反応したよね?」
「何だ? どの呼び方だ?」
「アネキ……じゃあなさそうだなあ」
「姉上様」
ぽつり、とサーニャが言葉を繰り返す。
ごくり、と唾を飲み込む美緒を、一同は見逃さなかった。
「坂本さん!」「少佐!?」「美緒?」
「大丈夫だ。な、何でも……」
ティーカップを持つ手が震える美緒。芳佳の方を向き、声を掛ける。
「み、宮藤」
「はい、何でしょう?」
「私に、言ってくれないか? あ……『姉上』と」
「は、はいい!? どうしたんですか、坂本さん?」
「待てぇ! 宮藤は私の妹だ! 幾ら少佐でも渡す訳にはいかない!」
「退け、バルクホルン!」
「ちょっと、ふたりとも……」
「宮藤、私の事をもう一度……」
「宮藤は渡さん!」
「美緒、トゥルーデ、何やってるのよ貴方達は!」
「誰かとめてー」
part2
霧雨が降るある日の午後。ミーティングルームで歌の準備をするウィッチーズ。
マイクをセットし、その他音響設備も準備完了。美緒が隊員に位置を指示する。
「さて、まずエイラとサーニャはピアノの所へ。宮藤は私と一緒だ。サーニャ達の横に位置を取るぞ」
「了解」
ミーティングルームの階段を眺め、隊員に指さす。
「シャーリーとルッキーニは階段の上。その中段には、ミーナとバルクホルン、ハルトマン。
あとリーネとペリーヌ、宮藤はその下だ。良いな」
「は~い」
「よし、全員揃ったな」
辺りを見回し、頷いた。
「うむ。問題なし。ちゃんと十二人全員居るな」
「はい」
全員の声。
「……ん?」
「あれ?」
「ちょっと待った」
「一人多くないか?」
「え?」
「誰でしょうね? 坂本さん」
「イヤですよ、怪談じゃあるまいし。ねえ、坂本さん」
「お前だ、宮藤! 何故二人居る?」
全員の視線が、二人の芳佳に集中する。
「おワ? 何で二人?」
ぎょっとするエイラ。
「分裂した?」
「芳佳ちゃんが、ふたり……」
慌てるリーネ。
「どっちかお化けだったりして~」
忍び寄った“黒い悪魔”がリーネの背後で囁いた。
「……怖い!」
「心配しないで、リーネちゃん」
「大丈夫だよ、私がついてるよ、リーネちゃん」
左右から同時にステレオで聞こえる芳佳の声に、リーネはしゃがみ込んで頭を抱えた。
「何を脅かしてるんだ、エーリカ。宮藤が二人になっただけだろう」
「随分冷静ね、トゥルーデ」
ミーナが芳佳ふたりを一緒に腕で抱えるトゥルーデを見て言う。
「何せ妹が二人に増えたんだ。嬉しいじゃないか」
「そう言う問題かしら?」
「坂本さん、私どうすればいいんでしょう?」
「坂本さん、私どうすればいいんでしょう?」
「うっ……何か微妙に面倒だな……」
二人に迫られて困る美緒。
「どっちかは偽物?」
「影は二人とも有るから、化け物じゃあないね」
エーリカが二人の足元を見て言った。
「影の有無で分かるのか」
「吸血鬼は、影が無いとか言わなかったっけ?」
「さあ」
「芳佳ちゃんがバンパイア!?」
リーネはがくがくと震えた。
「ちょっとリーネさん、貴方大丈夫ですの?」
ペリーヌがリーネの顔を見た。
サーニャは試しにレーダー魔導針を出してみるが、区別が付かないと言った顔をしている。
「そうだ良いこと思い付いた。宮藤、少佐を姉だと思って呼んでみ?」
シャーリーが二人の芳佳の肩を持って、並べた。
「そこは私の役目だろ!?」
「はいはいお姉ちゃんお姉ちゃん」
「はっ離せリベリアン!」
シャーリーに肩を掴まれずるずると引きずられるトゥルーデ。
「えっと……お姉ちゃん!?」
「……姉上?」
それぞれ違う呼び方をする二人の芳佳。
「本物はこっちだ!」
“姉上”と呼んだ芳佳を指さすシャーリー。
「どうしてそうなるンダ?」
首を捻るエイラ。
「いや、この前姉上って呼ぶと……少佐?」
気付くと、「姉上」と呼んだ方の芳佳をお姫様抱っこしている美緒。
「宮藤、もう一度私を呼んでくれ」
「姉上」
「うむ、言い響きだ。何かこう、満たされるものがあるな」
「ウジャー 今度は少佐がおかしくなったよ」
「美緒、貴方の魔眼で分からないの?」
「いや、私はこっちで良い。そっちの宮藤はバルクホルンにやろう」
「あのね、美緒。話を……」
「いっそ二人貰えないか」
既にもう片方の芳佳を一人ゲットしているトゥルーデが不満そうに言った。
「一人で我慢しろ。皆それぞれが少し我慢して……これぞ三方一両損」
「はい?」
「何です、それ?」
「ちょっと違うか?」
「全然違うかと」
「で、どうすんのよこの二人」
end