Der Teil von zwei einem
朝の陽光がウィッチーズの基地を包み始めた頃、エイラの部屋の扉は静かに開かれた。
そうして、銀色の髪を揺らしながら部屋の中へと入った彼女は、エイラが寝息を立ててい
るベッドの元へと歩み寄った。人の気配を感じたエイラは薄く目を開け、その姿を確認す
ると、口元を緩めながら再び目を閉じた。
(たく~、しょうがないな~今日だけだかんな)
それは、エイラにとっては馴染みの光景で・・・いや、馴染みの光景となるはずであった。
その瞬間が来るまでは・・・
パン!!
「えっ?」
静かな部屋には、乾いた音が響き渡った。一体何が起きたのか、エイラにも一瞬わけがわ
からなかった。しかし、じわじわと響いてくる頬の痛みと、目の前に立つ人物の姿を見て、
ようやく状況が飲み込めていった。
(そんな・・・嘘だろ・・・)
「出てって!」
「え?出てけって、ここは私の・・・」
「いいから早く!!」
半ばベッドから引きずり下ろされたエイラは、背中を小突かれるようにして廊下へと追い
出され、疑問を口にすることもできないまま、扉は固く閉ざされた。
「・・・おいっ!サーニャ!一体何なんだよ」
エイラはノブを回したが、カギは既に掛けられている。
「なぁサーニャ、ここ開けてくれよ、なぁ頼むよ・・・」
エイラは扉を叩き続けたが中からの反応は無かった。
「なんだってんだよ・・・サーニャ・・・」
エイラは呆然としたまま、目の前が暗くなっていくのを感じた。
「ふわぁーあ」
芳佳は大きなあくびをしながら、朝食の準備のために厨房へと向かおうとしていた。する
と、あるものが目に入ってきた。
「・・・エイラさん!!」
それは、自室の扉の前で膝を抱えたまま、うつむくエイラの姿であった。
「エ、エイラさん!どうしたんですか部屋の前で、それにそんな格好で・・・」
芳佳は、寝巻き姿のままのエイラの傍らに駆け寄って尋ねた。
「・・・たい」
「え?」
芳佳は、エイラのか細い声に耳を近付ける。
「死にたい・・・」
「ど、どうしたんですかエイラさん!しっかりして下さい!」
芳佳は、エイラの両肩を掴み、強く揺さぶったが、エイラの首が力なく前後に動き続ける
だけであった。埒が明かないと思った芳佳は、揺さぶるのを止め、エイラに正面から問い
ただした。
「一体何があったんですか?」
「・・・サーニャにぶたれた」
「サーニャちゃんに?何でですか?」
「わかんない・・・部屋に入ってきたら突然、それで出てけって・・・」
「それって・・・エイラさんが寝る部屋を間違えて、それをサーニャちゃんが・・・って
ことはないですね・・・」
芳佳は、目の前の扉を見て自分の考えを打ち消した。
「サーニャに嫌われたのかなぁ・・・」
エイラは頭をより深く膝の間に沈めていく。
「そ、そんなこと無いですよ。サーニャちゃんがエイラさんのことを嫌いになるなんて・・・」
「でも、ぶたれたんだぞ・・・」
だんだんとエイラの声が涙声になっていき、鼻をすする音も聞こえてくる。
「な、何か理由があるのかもしれませんよ・・・とっ、とりあえずサーニャちゃんに話を
聞いてみましょうよ」
「・・・うん」
しばらくの逡巡の後、エイラは首を弱弱しく縦に振った。
「サーニャちゃ~ん、芳佳だけどー」
芳佳はそう言いながら扉をノックしたものの、中からの返事は無かった。
「返事、無いですね・・・」
「・・・そうだな」
「どうしよ・・・あれ!」
「どうした?」
「カギ開きましたよ?」
何気なくノブに手をかけた芳佳は、エイラにそう伝えた。
「へ?ずっと閉められたままだったのに・・・はは、宮藤だから開けてくれたのかな」
エイラは自嘲するように力なく笑った。
「とっ、とりあえず入りますよ、え~と、サーニャちゃん入るよ~」
芳佳は扉を開け中を覗いた。
「あれ?」
「今度は何だ?」
「サーニャちゃんいませんよ・・・」
「え?」
芳佳の視線を受けて、エイラも部屋の中を覗く。
「本当だ・・・確かにベッドの所にいたはずなんだけど・・・」
二人は部屋に入ると、ベッドの傍らへと歩み寄った。
ベッドの上は確かにもぬけの殻だった。
「おかしいな・・・私はずっと部屋の前にいたし・・・」
エイラは疑問を口にする。
「あ!ほら、前のルッキーニちゃんみたく窓から出てったとか」
「窓から?・・・とりあえず見てみるか・・・ムリダナ、カギはちゃんとかかってるから、
こっからは出られないよ」
窓を調べたエイラは、芳佳の方を振り向いた。
「え?じゃあ、サーニャちゃんはどこへ行っちゃたんですか?」
「・・・わかんない」
「・・・まっ、まさか幽霊とか?」
芳佳の顔が思わず青ざめる。
「幽霊?それもサーニャの姿をした?・・・どうかなぁ」
「だって、そうじゃないと、エイラさんの会ったサーニャちゃんはどこへ消え・・・」
ガチャ
背後の扉からの物音に二人は思わず振り向いた。
「サーニャ・・・」
扉の前に立っていたのは、サーニャだった。
「そ・・・その、とりあえずゴメン!!」
エイラはその姿を見て慌てて頭を下げた。
「・・・何が?」
「何がって・・・ほら、さっきサーニャが私の部屋に来た時のことだよ」
「さっきって・・・私は今戻ってきたところよ?」
?
エイラと芳佳は思わず顔を見合わせる。
「え・・・じゃあ、私が見たのは本当に・・・」
「・・・眠い」
「うわぁ!危ない!」
睡魔に敗れ、倒れこむサーニャを芳佳は慌てて抱きとめた。
サーニャは芳佳の腕の中で小さな寝息を立て始めた。
「えっと・・・、とりあえずサーニャちゃんの部屋に連れていきますね」
「・・・えっ!あ・・・そ、そうだな、うん、そうするべきだと思う」
よからぬ考え事に耽っていたエイラは、芳佳の提案に慌てて返事をした。
「じゃあ、ちょっと行ってきますね」
「う・・・うん」
「あ!それと、私、朝ごはんの準備をしなくちゃいけないんで、このことは朝ごはんの後
で話しましょう」
「ああ、そうだな」
芳佳は、サーニャの肩を抱き、足並みを揃えながら部屋を出て行った。
エイラは、それをただただ羨ましげに眺めていた。
「それにしても一体何だったんだろうな~」
朝食の後にエイラと芳佳は、エイラの部屋で朝の出来事について相談をしていた。
「本当に幽霊だったとか」
「やっぱりそれは無いと思う。実体の無い幽霊が人をぶつことなんて出来ないだろ?」
「あぁ、確かに・・・う~ん」
芳佳も腕を組んで考え込む。
「あ!サーニャちゃんがいつの間にか、分身する魔法を覚えたとか」
「2つも固有魔法を持ったウィッチなんて聞いたことないぞぁ」
「そうですか」
「それに、いくらサーニャの分身でも人のほっぺたを突然叩くような奴じゃな~」
(ああ、でも・・・)
「その、夜間哨戒一人でも大丈夫か?一緒に行こうか?」
「大丈夫に決まってるでしょ。一人で行くから」
「そうか」
「くっ強い、このままじゃ・・・えっ?」
「大丈夫か?」
「何しに来たの?」
「何しにって、助けに来たに決まってるじゃないか」
「く・・・来るのが遅いのよ」
「ふふ、ゴメンな」
「そ・・・その・・・」
「なんだよ?」
「べ、別にお礼なんて言わないから、でも・・・」
「でも?」
「私が危険な目に合わないように、いつも私のそばにいなさいよ・・・」
「サーニャ・・・」
(・・・ツンツンのサーニャも悪くないかも・・・)
「エイラさんどうしたんですか?急にニヤニヤして・・・」
芳佳は怪訝な眼差しをエイラに向けた。
「いや・・・なんでもない」
エイラはそう言いながら照れ隠しの咳払いをした。
「それに不思議ですよね~、エイラさんが会ったサーニャちゃんが煙みたいに消えちゃっ
たのも」
「そうなんだよな~、扉の前に私がいたし、窓にはカギがかかってたし・・・」
二人とも腕を組んで考え込むものの、答えは一向に浮かんでこなかった。
「他に何か覚えていることはないんですか?」
「そうだな~突然のことだったし、いきなりぶたれて動揺してたからなぁ・・・あ!」
「何ですか?」
「その時の服装を覚えているよ、確かクリーム色で腰にフリルの付いたやつだったな」
「今日サーニャちゃんが着ているのとは違いますね、じゃあやっぱりエイラ・・・」
バン!
「今なんて言った?」
机を叩いたエイラは、顔を芳佳にぐっと近づけた。芳佳はこれに驚きながら、
「何って・・・エイラさんをぶったのはサーニャちゃんじゃないのかな・・・って」
「違う、その前だよ!」
「えっ、あぁサーニャちゃんが着ているのとは違うって」
「!」
「そっ、それと、ち、近いですよ」
芳佳は、顔を接近してくるエイラからそらしながら手を前に出して、わずかばかりの抵抗
を示した。
「サーニャのを見たのか?何で見たんだよ?」
「何でって・・・サーニャちゃんが寝るからって、自分からそうして・・・」
芳佳は顔を横に向けながら必死に答えた。
「んん・・・じゃあ・・・まぁしょうがないか、許す」
そう言って身を乗り出していたエイラは、椅子に腰を下ろした。
「はは、ありがとうございます・・・」
芳佳は力なく笑った。
そして、エイラは何事かを考え込むと、
「サーニャの部屋に行ってみるか」
「え?」
安心して気が抜けていた芳佳はキョトンとした顔をする。
「何しにですか?」
「とりあえず幽霊がいたか、いないかを確認しにだよ」
そう言うなりエイラは椅子から立ち上がった。
サーニャの部屋。部屋の主はスヤスヤと寝息を立てている中、二人は大きめのチェストの
前に立っていた。
「それで、何を調べるんですか?」
いまいち状況が掴めない芳佳は、エイラに小声で尋ねる。
「もし私が見たのが、幽霊か何かだったら実体のある服を着れるはずが無いだろ?逆に
、サーニャの服を着てたってことは、私を引っ叩いたやつは実体があるってことなんだ」
「なるほど」
「で、そいつが身に着けていたのがサーニャの服かどうかってことを確認しにきたってこ
と」
そう言いながら、チェストの取っ手に手をかけたエイラだが、思わずその手が止まった。
「どうしたんですか?」
「いや・・・その、宮藤、お前が見てくれないか」
「えっ?どうしてですか?」
「ほら、直接見ちゃうとさ、記憶とごっちゃになって、私が見たやつかどうかどうかわからなくなると困ると思ってさ」
本当はなんとなく恥ずかしいからだとは言えなかった。
「はぁ」
「とりあえず見てみろよ」
そう言うなり、芳佳の背後に回り背中を押した。
「うわぁ、わっわかりましたよ、え~と」
どうだ
「綺麗に整頓されてますね、それにすごく可愛い・・・」
「へ、変なとこばっか感心してんなよ!」
少々ボリュームを高くしすぎたと思い、エイラは慌てて部屋の主の方を振り向いたが、
主は気にすることなく夢の世界に浸っている。
「ほ、ほら、さっさとしろよ、私の言ったやつはないのか?」
エイラが小声で尋ねる。
「え~と」
芳佳はチェストの中を見渡す。
「無い・・・ですね、じゃあやっぱり幽・・・」
「じゃあこの基地の誰かの仕業だな」
「え?だって、エイラさんの言っていたやつは無いんですよ?」
「私が言ったやつは確かサーニャが持っていたはずだから、無いってことは誰かが持ち出
したってことなんだ」
「ああ、そうなんですか・・・でも誰が?」
「まぁ・・・見当はだいたいついてるけどな、って・・・」
「わぁ、サーニャちゃんて意外と・・」
「な、何ジロジロ見てんだよ!、ほっ、ほらさっさと行くぞ」
エイラは、チェストを閉じると、芳佳を強引に引っ張っていった。
一体どこから間違ったのだろう。あれを処分しなかったから?それとも、こんなことをし
たのがそもそもの間違い?でも、私にだって理由が・・・あるよねぇ?
「おい!聞いてんのかよハルトマン中尉」
「え?あー聞いてる聞いてる」
エーリカは思わず頭をかいた。
食堂のテーブルの上には、くちゃくちゃになったサーニャの服とサーニャの髪を模したカ
ツラが置かれ、エーリカの目の前ではエイラがエーリカの顔を睨みつけ、傍らには芳佳が
事の成行きを見守っていた。
「これが中尉の部屋から出てきたんだ、言い逃れはできないぞ」
「大変でしたね、あの部屋の中を探すの・・・」
その時の情景を思い出し、芳佳は思わずため息をついた。
「でもさあ、それがあったからって私がエイラのことを引っ叩いた証拠にはならないじゃ
ん」
エーリカがふくれっ面をする。
「この基地であんなことをするのは、中尉かルッキーニか・・・私ぐらいなもんだろ。で、
私じゃないし、ルッキーニの肌の色じゃ、いくら寝起きの私でも気が付いていたはずだ
から、そうなるとハルトマン中尉しか残っていないんだよ」
そう言いながら、エーリカへと詰め寄っていく。
「う~・・・はいはい、降参、降参、私の負けだよ~」
そう言って、エーリカは両手を上げた。
「で、なんでこんな事したんだよ」
「え~と・・・ほら、エイラって私とサーニャが一緒にいるとちょくちょく邪魔しに来る
じゃん。それで、今日エイプリルフールでしょ?ちょっと驚かそうかなぁ~って」
エーリカは悪びれる様子もなく答え、むしろエイラの方が、ばつの悪そうな顔をしてい
る。
「で、でもハルトマン中尉はどこに消えちゃったんですか?」
場に妙な沈黙が流れ始めたため、芳佳は慌ててエーリカに尋ねた。
「ああ、あれ?あれは・・・」
「私たちが部屋に入った時にはまだ中にいたんだよ、たぶん扉の影になる辺りに。で、
私たちが窓やベッドの方を向いている隙にこっそり抜け出したんたんだろ?」
エイラはエーリカに代わって芳佳の質問に答えた。
「はは、正解。エイラってすごいね~」
「別におだてたって許すわけじゃないからな」
そう言って、エイラはエーリカを睨む。
「ちぇ~」
エーリカは口をすぼめた。
「でも、あの時は本当に緊張したよ~逃げ切れるかな~って」
「なんで、あの場でエイラさんに本当のことを言わなかったんですか?」
芳佳は再び疑問を口にする。
「エイラが本当に落ち込んじゃったみたいだったからさぁ、ちょっと言いにくくなっち
ゃて・・・それで」
「まぁ・・・確かにな・・・」
エイラは当時の状況を思い出して、顔が曇った。
「あ!私も一つわかんないんだけど、なんでこんなのは用意したのに、服はサーニャのを
着たんだよ、そっちも用意すればよかっただろ?」
エイラは、サーニャの髪を模したカツラを持ち上げながら尋ねる。
「う~ん・・・まぁ、リアリティの追及かな?やっぱり本人が普段着ているやつの方がぽ
いかな~って。あ!あのね、サーニャのやつって着心地がすごい良いんだよ!エイラも
着てみたら?」
「なっ!何言ってんだよ!」
エイラの顔が思わず赤くなる。
「これあげるからさ~許してよ~、ね?」
「あげるって・・・これはもともとサーニャの・・・って、おい!」
エイラの話が終わる前に、エーリカは一目散に逃げ出して行った。
人気の無い食堂には、エイラと芳佳がポツンと取り残された。
「え・・・と、追わなくていいんですか?」
「もういいよ、あの人にはなんとなく勝てない」
そういってエイラはため息をついた。
「それに、朝のがサーニャじゃなかったってのがわかっただけで、まぁいいかなぁって・・・
って何ジロジロ見てんだよ・・・は!わ、私は別に着たりなんかしないぞ!ちゃ、ちゃ
んとサーニャに返すからな!」
自分を見つめる芳佳の視線に対して、エイラはあたふたと答える。
「いえ・・・、ちょっとそのカツラをかぶってみたいな~って」
「え?ああ、なんだそっか・・・じゃあ、ちょっとかぶってみろよ」
そういって芳佳にカツラを手渡した。芳佳はエイラに背を向けながら、カツラを付け始め
た。
「それにしても、ハルトマン中尉も結構物好きだよな、人だますためにわざわざこんなも
の用意するなんて」
エイラは芳佳がカツラをかぶる横で一人ごちた。
「どうです?サーニャちゃんぽいですか?」
カツラをかぶった芳佳は、振り向きながらエイラに尋ねた。
それを見て、エイラは見下し気味の目になり口元を緩めた。
「ふ、全然だな。宮藤じゃ、サーニャの魅力には逆立ちしたって近づけないよ」
「そんな~、私もちょっっとおしとやかになって、肌がもっと白くなったら・・・少しは
サーニャちゃんに似るかもしれませんよ?」
「ほ~そういうことを言うのか~」
そう言うなり、エイラは芳佳のほほを両手でつねった。
「いひゃはは、にゃ、にゃにするんでひゅか?」
「ほら、ほら~、どんなに頑張ってもサーニャの魅力には敵いませんって言ってみろ~」
「わ、ひゃかりましたよ~、ひょんなにがんはっても、シャーニャちゃんのみひょくには
きゃないません」
「どうした~ちゃんと聞こえないぞ~」
「それぇは、エイニャしゃんのせいでひゅよ~」
人気のない食堂には、芳佳をからかって楽しむエイラの笑い声と、いつもどおりのエイラ
の姿にどこか安心する芳佳の戸惑いの声だけが響いていた。
「ねぇ・・・なんで私とハルトマンさんが話をしているのをいつも邪魔しようとするの?」
「え、その、なんかサーニャをとられちゃいそうに感じてさ・・・ちょっと、不安になる
んだよ」
「エイラ・・・バカ」
「何だよ・・・バカって・・・」
「私はいつでもエイラと一緒にいるわ・・・」
「サーニャ・・・そうだな、ずっと一緒にいような」
「エイラ?・・・何してるの?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ、さ、さささ、サーニャ、なっ、なな、何しに来てんだよ!」
「何しにって・・・夕食の時間になったから呼びに・・・ベッドの下に何隠したの?」
「えっ!いや・・・なんでもない、は、早く行こう、腹減ってんだ・・・ははは」
二人は連れ立って食堂へと向かった。
(ま・・・まさか見られてないよな・・・)
「なっ、なぁサーニャ」
「何?」
「その、さっき私の部屋に入ってきたときに何か見たか?」
「え?・・・ううん何も」
サーニャは首を横に振った。
「なんだ・・・そうか・・・良かった」
エイラは胸をなでおろした。
(あのカツラを使って、サーニャの真似をしていたなんて、言えないよな・・・)
「あっ、でも・・・」
「何だ?」
「私の真似は・・・あんまりしないで・・・恥ずかしい」
エイラの顔から思わず血が引いていった。
「・・・え?い、今何もみていないって、いい言ったじゃないか!」
エイラはサーニャの思わぬ発言に狼狽する。
「ごめん・・・ほら、今日はエイプリルフールでしょ?それで・・・」
「つ、ついていい嘘と、ついちゃいけない嘘があるだろ!それで、ど、どこから見てたん
だ?
「私はいつでもエイラと一緒にいるわ・・・、のとこかな」
「・・・頼む、お願いだ!忘れてくれ」
エイラは両手を合わせてサーニャに頭を下げた。
「・・・どうしょうかな」
サーニャは背中で両手を組み口元に笑みを浮かべながら、エイラの横を軽やかに通り過ぎ
ていく。
「お、おい、サーニャ、待ってくれよ~」
エイラは小走りで去ろうとするサーニャを慌てて追いかけていった。