好きなことするお休みの日
「やった~! ずっと待ってた本が遂に届いタ!!」
小躍りするほど喜ぶってよく言うけど、本当に踊ってる人は始めてみたよ、エイラ。
楽しみにしていた本が届いたのがそんなに嬉しいのか、
エイラは本を持ったまま食堂中をとび回っていた。
持った本には「世界の呪術・占い大百科」の文字。
エイラは本当に占いやおまじないが大好きなんだね……。
「本当に嬉しいナ。明日は一日中読もっト♪」
明日? 明日はお休みで、ずっと私と一緒にいる約束だよ?
エイラ、忘れたなんて言わないよね?
「エイラ、明日は私と一緒にいる日だよ?」
そういうとエイラはあっ、と思い出したような顔をした。
エイラ、やっぱり忘れてたんだ。
「そっ、ソウダナ。明日は一日中サーニャと一緒にいる日ダナ。
ワ、忘れるわけないダロ!?」
今はそう言ってるけど、本当に大丈夫かな……。
「ねぇ、エイラ、もう寝よう?」
「ン~、あと1ページ……」
もう、明日はずっと一緒にいられる日だから今日は早く寝たいのに。
あのあと、エイラは部屋に戻ってからずっと本を読み続けている。
いつもなら私に優しい声をかけてくれて、優しく毛布をかけてくれて、
一緒に寝てもくれるのに、今日は私のことをろくに見てくれさえしない。
椅子に座ったまま、じっと本とにらめっこ。
もう……、そんなに冷たいんだったら芳佳ちゃんに浮気しちゃうよ?
もちろん、そんなことしたらリーネさんにすごく怒られちゃうから
本当にはしないけど。
結局、その後エイラは朝までずっと本を読み続けていたみたいだった。
朝ごはんの時間になっても全然気がつかなかったから、
私が食堂までエイラを引っぱっていったんだけど、
そしたらみんなに「いつもと逆だな」って笑われた。
エイラ、私すごく恥ずかしかったんだからね。
そのエイラは部屋に戻ってきたなり、また本を読み始めている。
まるで私のことなんか全然気にしてないみたい。
「ねぇ、エイラ」
「ン~?」
私の呼びかけにエイラは気のない声で返事をした。
「今日はエイラとお話する日だよね?」
「ン~」
「なのに、朝から一言もエイラとお話してないんだよ?」
「ソウダナ~」
「ソウダナ、じゃないよ!エイラ、私の話聞いてる?」
「ン~」
だめだ。エイラは本に夢中で私の話なんか全然聞いてない。
まったく。エイラって人はどうしてこうなんだろう。
エイラと二人っきりで過ごす、本当に久しぶりのお休みを
私がどれだけ心待ちにしてたかなんて、エイラは全然気がついてない。
それどころか、私がエイラをどう思っているかってことさえ全然気にしない。
いじわるなエイラ。
どうしてエイラはこんなにいたずらっ子で、鈍感で、大切なときには意気地なしで、
それなのにいつもは気がついて、優しくて、かわいくて、格好いいんだろう。
もう知らない。エイラなんて……嫌い。好き。好き。嫌い。好き。大好き。
「――っ!!」
エイラの手から、分厚い本が床に落ちた。
それは、キスとは言えないような、軽い、軽い頬への口づけ。
「サ、サーニャ……」
顔じゅう真っ赤にしてにらんでくるエイラに、私はふふっと笑いかける。
「エイラは昨日からずっとエイラの好きなことばっかりしてたでしょ?
だから今日は、私がエイラと好きなことをするの」
「――//」
ごめんね、エイラ。でも、せっかくのお休みにずっと本を読んでるエイラも悪いんだよ。
私はエイラをぎゅっと抱きしめて、もう一つ、小さくキスをした。
fin.