triangular
リーネが三回目の極みに達し、またも気を失ってから小一時間後。
ふと目を開けると、芳佳がリーネを膝枕して介抱していた。
「芳佳ちゃん……」
「大丈夫? リーネちゃん」
リーネの顔を見、ほっとした表情をして、微笑む芳佳。
途端に、先程の“恐ろしい”出来事を思い出し、芳佳から離れ、ズサッとベッドの端に逃げるリーネ。
「どうしたの? リーネちゃん」
「芳佳ちゃん……あとの二人は?」
「へ? どう言う事?」
「だって、芳佳ちゃん三人居たのに……」
「そんな事無いよ。まあ……ちょっと私、この数時間の記憶が曖昧なとこあるけど。……私は私だよ?」
言葉がいまいち信用できないリーネは、ベッドの下、クローゼットの中、果てはタンスの引き出しまで調べてみた。
「居ない」
「虫じゃないんだから、そんなとこに私居ないよ」
苦笑する芳佳。
リーネはおどおどと、芳佳の横に座った。自分の身体を見る。芳佳が付けたと思しき、無数のキスマークやら痕が付いている。
「やっぱり……」
「私、こんなにリーネちゃんを……」
顔を赤く染める芳佳。
「違うの芳佳ちゃん。芳佳ちゃん三人居て、私を、その……」
「リーネちゃんをどうしたの?」
「な、何でもない!」
ぷいと横を向くリーネ。
「怒らないで、リーネちゃん。私、何かいけない事したのかな。なら謝るよ。ごめんね」
「……」
「私の知らない所でリーネちゃん傷付けて。……ごめんなさい。もう、しないから」
しゅんとする芳佳を見て、慌ててリーネは芳佳の肩に触れた。
「違うの、芳佳ちゃん」
「はい?」
「聞いて、芳佳ちゃん」
リーネは芳佳の手を握り、事の顛末を聞かせた。
“事情”を知った芳佳は、びっくりした顔をしている。
「私が三人に増えた? それでリーネちゃんを一斉に……あわわ……」
「私、その……」
「何でか分からないけど、ごめんね、リーネちゃん。でも私リーネちゃんで遊んだ訳じゃなくて……」
「芳佳ちゃん」
芳佳は言葉を選びながら、リーネの目を見て、言った。
「私、リーネちゃんが好きだから。だから……」
「芳佳ちゃん」
ゆっくりと腕を絡ませ、抱き合い、キスを交わす。
「芳佳ちゃんは一人で十分。二人も三人も要らないよ」
「私、たくさんいちゃダメ?」
「だめ。だって、私が独占出来なくなっちゃうもん」
「リーネちゃん……」
「芳佳ちゃん」
見つめあい、もう一度ぎゅっと抱き合い、熱いキスを交わす二人。
そんな二人をドアの隙間からそ~っと見つめる二人の姿が。
「ニヒャヒャ 実験成功ぅ~」
「効果持続時間もだいたい分かったし。早速やりますか~」
二人は持っていた小瓶に入った液体……一見すると目薬に見える……を、頭に振り掛けた。
視界が途端にぼやけ、聴覚が鈍る。
「オオオ……」
「なるほど、それでミヤフジは記憶がどうのって言ってた訳ね~……」
ペリーヌの部屋に、エイラがノック無しで入ってきた。
「おい、ルッキーニ知らないカ?」
「ちょっと、ノックくらい……って彼女がどうかしましたの?」
「アイツ……サーニャのズボンを持って逃げたンダ」
「だからと言って、まさかわたくしの部屋にルッ……ってルッキーニさん? 何故ここに?」
ぎょっとして振り返る。そこにはルッキーニが居た。
「!?」
エイラもつられて振り返る。ルッキーニがペリーヌのタンスをごそごそと漁っている。サーニャのズボンを右手に、ペリーヌのズボンを左手に持った。
「ちょ、ちょっとお待ちなさい! そのズボン、わたくしのですわ!」
「ルッキーニ、何やってンダ!」
「ウシャシャ これいただき~」
そそそとドアを抜け、廊下を走って逃げるルッキーニ。
「持ってって何に使う気ですの!? お待ちなさい!」
「待テ~!」
追い掛ける二人。すると二人の目の前を、呑気にリンゴを数個持ち、ひとつをうまそうにかじっているルッキーニが通り過ぎた。
「お退きなさい、ルッキーニさん!」
「邪魔だ退ケ! 逃がすカ!」
数歩走って、二人は足を止めた。
「あ、あら?」
「ルッキーニ?」
「ウニャ? あたしがどうかした?」
「オマエ……何でリンゴ食ってるんだヨ」
「わたくしのズボン、何処へやったんですの?」
「こっちこっち~」
振り向くと、ルッキーニが二人のズボンを振り回している。
「あたしがどうかしたぁ?」
後ろを見ると、リンゴを持ったルッキーニがぽかんと二人を見ている。
「なっ!?」
「ちョッ!?」
「こらぁ~待てルッキーニ~!」
二人の目の前を、何かを持って駆け抜けて行くルッキーニ。それを追い掛けるシャーリー。
「お前ら、いいとこ居た。ちょっとルッキーニ捕まえるの手伝ってくれ。あたしのストライカーの部品持って逃げたんだ」
顔に焦りの色が見えるシャーリー。
「それはこっちのセリフですわ」
「ん? うわ!? 何でここにもルッキーニ?」
シャーリーがぎょっとしてルッキーニを見た。
「シャーリー、リンゴ食べる? 一個あげる。ニヒヒ」
「あ、ありがと……」
リンゴを一個貰い、とりあえずかじってみる。
「普通に美味い」
「そう言う問題じゃないと思うゾ」
「おい、あれ!」
シャーリーが指さした先には、ミーティングルームに移動するルッキーニの姿が。
台所から持ってきたらしいケーキを頬張ると、ソファーでごろって横になって寝息を立て始めた。
「こらー、待たんかルッキーニ!」
背後から聞こえる怒号。
振り返れば、向こうから全力で逃げるルッキーニを追っかけているのは美緒。
「ミーナの胸を揉みしだいた件、上官侮辱だぞ!」
今にも扶桑刀を抜刀しそうな勢いでルッキーニを追う美緒。
「ルッキーニならやりかねないな」
「てか、なんでこんなにルッキーニだらけなんダヨ?」
「わたくしに聞かれても」
「そう言えば、宮藤は元に戻ったんダッケ?」
「宮藤さんなら、今はリーネさんが“管理”してる筈ですけど」
「て言うか……」
目の前をちょろちょろと走り回るルッキーニを見て、シャーリーは呟いた。
「一体何人居るんだ、ルッキーニは……」
「何やら基地の中が騒がしいな」
一人訓練を終え、シャワーを浴び、何か飲み物は無いかと台所にやって来たトゥルーデ。
冷蔵庫に手を伸ばす。不意に現れたエーリカに右腕を掴まれた。
「ん? どうしたエーリカ」
「トゥルーデ、あ・そ・ぼ♪」
「あのなあ。昼間っから……」
「トゥルーデ、あ・そ・ぼ♪」
左腕をエーリカに掴まれる。
「だから……ん?」
左右を見る。エーリカが二人。
「な、なんだ?」
「トゥルーデ」「トゥルーデ」
「ええい、待て待て!」
トゥルーデは腕を振り解くと、腰に手を当て、冷静に言った。
「姉妹で私をからかおうとしても無駄だ。ウルスラ、いつ501に来た?」
「私はエーリカだよ」「私もエーリカだよ」「わ・た・し・も♪」
突然背後からエーリカに抱きつかれるトゥルーデ。腰に手を回され、ぎゅっと抱かれてしまう。
「おわっ!? さ、三人? どう言う事だ?」
「三人じゃないよ~」
ふとももをぺろっと舐められ、ぞくっとして転びそうになるトゥルーデ。足元を見ると、エーリカが居た。
「ちょっ!? よ、四人? 分身? ネウロイかっ!?」
「そんなんじゃないって」「分かってないなあ、トゥルーデ」「遊ぼうよ、トゥルーデ」「部屋いこ部屋」
「待て、お前ら!」
トゥルーデは群がるエーリカ達を集めた。
「一人以外、偽物だろ。指を見せろ、指を」
「もしかして、指輪の事?」
「ああ。私と同じ指輪をしているのが、本物のエーリカだ」
「「「「じゃじゃーん」」」」
揃って見せられた、四つの手。同じ指輪が煌めいている。
「な、なんだってー!?」
仰天するトゥルーデ。
「さ、行こうトゥルーデ」「楽しいよ、トゥルーデ」「ワクワクするよね、トゥルーデ」「何分保つかな、トゥルーデ」
御神輿宜しく四人のエーリカに担がれ、部屋に持って行かれるトゥルーデ。
「うわあ! 何でこんな事に! だっ誰か!」
「ミヤフジとリーネのプレイ見てたら、何かこう言うのもアリかな~って」「楽しそうだったよね」「きっとおもしろいよ」「そうそう、私達も楽しもうよ」
「ちょ、ちょっと待て」
「さっきはミヤフジとイイコトしてたんだよね、トゥルーデ」「私じゃダメなの、トゥルーデ?」「流石にあれは見ててちょっとイラッと来たよ、トゥルーデ」「お仕置きしないとね、トゥルーデ」
「エーリカ、待て、話を、てか何でエーリカがこんなに沢山居るんだ、っておい……うわあ!」
トゥルーデはエーリカ達に自室に連れ込まれた。間もなく、部屋の鍵ががしゃりと閉められた。
「ナア、ペリーヌ」
「何ですの? エイラさん」
「今、バルクホルン大尉ガ、ハルトマン中尉に担がれて行くのを見た様な気がスル」
「……気のせいですわ。ハルトマン中尉が四人も居ただなんて」
「オマエ見ているナッ!?」
end