beauty parlour
静かなサロンに、ピアノの旋律が軽やかに流れる。
それぞれの持ち場についたまま、メロディをなぞり、リズムを取る隊員達。
その時、ピアノを弾いていたサーニャの手が止まる。耳と尻尾が生え、レーダー魔導針が輝く。
「目標、来ます」
ドアが開いた。控えめに鳴るドアベルの音。
入って来たペリーヌは絶句した。
そこに居る隊員全員がタキシード姿……いや、背広は脱いでいるが、蝶ネクタイに、ぱりっとノリの利いたシャツを着ている。
そして下は、すらりと伸びるスラックスを履き、サスペンダーできちっと留めている。
「いらっしゃいませ。今日は如何致しますか?」
前に出て来たヤケにオトコマエな美緒が、ペリーヌの眼鏡をそっと外し、耳元で囁いた。
「あ、あの……カットと、トリートメントを」
ペリーヌの言葉を聞いたミーナは、全員に号令を掛けた。
「ストライクウィッチーズ、これよりカットとトリートメントを行う。作戦開始! バルクホルン、ハルトマン前衛、行動開始」
「了解」
「了解~」
戸惑うペリーヌの肩をがっしりと掴み、セット面にご案内。
「あ、あの、もうちょっと丁寧に……」
「ふむ、先端に癖毛が少々……」
「枝毛も結構有るね」
観察する二人。
「ですから、数センチばかりカットして頂きたいと」
「了解した」
「シャーリーとルッキーニ、シャンプー開始だ」
美緒の命令が下る。
「了解~」
ペリーヌをシャンプー台に引き連れ、椅子に腰掛ける。
「これより椅子を下降させる。機体は背面を向けるぞ」
がくんと椅子が曲がり、思わず声が出そうになるペリーヌ。
「ちょっと熱いかもね~ ニヒヒ」
じょばじょばと髪にシャワーを当て、濡らして行くルッキーニ。。その次はシャーリーがわっしわっしとペリーヌの髪を
クレンジングシャンプーで泡立て、すかさず洗い流す。乾ききらないうちに、ペリーヌは椅子を引き起こされた。
「目標を発見、これよりカットに移る」
「了解。気を抜かないでね」
トゥルーデとエーリカが待ち構えている。
「少佐、枝毛の位置は?」
トゥルーデの問いに、美緒は魔眼を煌めかせ、ペリーヌの髪をじっと睨み付けた。
「今確認している……有った、左側面から右下方に掛けてだ! 距離は……長さにして約二十ミリ」
「了解」
「久し振りだね。しかし随分荒れてるね~」
「これはやりでが有るな。勲章の大盤振る舞いだ」
髪を手に取り、慣れた手つきでチャキチャキとすいて行くエーリカ。
一方のトゥルーデはカールスラント製の小型電動バリカンを持ち出した。
「ちょ、ちょっと! それで何を!?」
「面倒だ、一気にカタを付ける」
「ええっ? ここ美容室じゃ……」
カリカリと小気味良い音を立て、毛先を丁寧に削っていくトゥルーデ。その横から舐める様にすすーっとすいて行くエーリカ。
「よし、カット完了。これよりリラクゼーションシャンプーに移行する。宮藤、リーネ」
「了解」
「了解です」
優しく髪を洗うリーネ。横で治癒魔法を使い、ほんわかと光を当てる芳佳。
「少し気持ち良いですけど……」
納得行かず、何か言いたそうなペリーヌ。
「次はトリートメントだ! 気を抜くな!」
無色透明のトリートメント剤を丁寧に塗布し、その後ドライヤーを当てながら、髪を整えていくトゥルーデ。
「よぉし、おまけに、シュトルム~!」
横でエーリカが嵐を巻き起こす。片方の髪はトゥルーデが丁寧に仕上げ、もう片方は逆立った感じになってしまう。
「何てことなさいますの! これじゃあ……」
「ミーナ、カットとトリートメントを完了」
「了解。作戦終了です。皆さん、ご苦労様」
ペリーヌを椅子から立たせる。
「お疲れ様、ナンダナ。料金は四ポンド九十五ペンスダゾ?」
エイラがカウンターでペリーヌに告げた。
「……受け取りなさい」
ペリーヌは髪が片方ぼさぼさのまま、五ポンド紙幣を差し出した。
「うむ。やはりペリーヌ様は金髪が美しいですな、はっはっは!」
美緒がそっとペリーヌに眼鏡を掛け、肩を叩く。
「そ、それはどうも! ありがとうございます!」
「また、どうぞ……」
サーニャのか細い声に見送られ、ドアを開け、外に出た。
数歩歩いて、はたと気付いたペリーヌ。
「お釣り貰ってませんわ!」
end