無題


4月19日、0:00。

「Herzlichen Gl¨ckwunsch zum Gebrutstag」

私は小さく呟いて、ワインを入れたグラスを持ち上げた。

もう消灯時間はとっくに過ぎてるから、灯りは小さなスタンドライトだけ。
ほんとはケーキを食べたいとこだけど、それは夜が明けるまで我慢。

私と、別の場所にいる私の半身の誕生日。
ウルスラと離れてからは、いつもこうやって0時ちょうどに一人でお祝いする。

「~っ、おいしっ」

くーっとワインを飲み干して呟く。前にミーナに分けてもらったワインだけど、甘くて美味しい。

あー、やっぱりケーキほしいなー。こういう時、自分で作れないのはネックだね。

――カチャ

「?」

静かにドアの開く音がして、振り向いた。
ドアの向こうから覗いた顔は、私の一番大好きな人。

「トゥルーデ?」
「…入ってもいいか?」
「もちろん、いいよ」

音を立てないようにしながら、トゥルーデが部屋に入ってきた。
正直、私はちょっとびっくりしている。
ほんとはトゥルーデと二人で誕生日を迎えたかったけど、規律にうるさいトゥルーデが深夜に付き合ってくれるとは思わなかったから声をかけていなかった。
トゥルーデの誕生日は私が勝手に部屋行ったけどね。

トゥルーデは私をじっと見つめて、言った。

「誕生日おめでとう、エーリカ」

…うわ。どうしよう、素直にすっごい嬉しい。

私がちょっと面食らっていたら、トゥルーデは目の前に何かを差し出した。
途端に香る、甘い匂い。

「…ケーキだ」
「小さいけど我慢しろよ。ちゃんとしたのは、後でリーネたちが作ってくれるだろうからな」

小さなお皿にちょこんと乗った、小さなケーキ。
チョコのプレートに、誕生日おめでとう、とカールスラント語で書かれていた。
作ってくれたんだ。私のために。

「あと…対した物じゃないが、これ…」

トゥルーデは更に、何かを2つ、差し出した。

可愛いくまのぬいぐるみが、木で出来た四角い額を持っていた。ちょうど、写真が一枚入るくらいの大きさの額だ。
右のくまは青いリボンを、左のくまは赤いリボンを首に巻いている。

「片方はウルスラに。パーティーの時にみんなで写真を撮るから、それを入れて贈ってやって……うわっ!」

言い終わらないうちに、私はトゥルーデに抱きついていた。
頬にぬいぐるみのふわふわした感触が伝わる。

「え、エーリカ…」
「トゥルーデっ…ありがとう!すっごい嬉しい!ほんとに…あ~もうっ!」

うまく言葉が出てこないや。胸がいっぱいでいっぱいで。
言葉の代わりに、私は思いっきり抱きついた。

「エーリカ、ぬいぐるみが潰れるだろう」
「ああ、そうだそうだ」

トゥルーデに言われて、私は力を抜いた。
顔を上げた私を、トゥルーデは少し不安そうに見つめる。

「…あの…私は、ぬいぐるみとかよくわからないから…これで良かった、か…?」
「当然だよ!私はトゥルーデに貰えるならなんでも嬉しいけどさ。でも堅物のトゥルーデにしちゃ可愛らしいチョイスだね」
「…実は、クリスに少し相談に乗ってもらったんだ。ちょうど、考えていたものにぴったりのものがこれで…」

相談?いつのまに。
でもそこまで真剣に考えてくれたんだ。私だけでなく、ウルスラの分まで。

「きっとウルスラも気に入るよ。ほんとにありがとう、トゥルーデ」

にっこり笑うと、トゥルーデも安心したように微笑んだ。

「ところで、この後も付き合ってくれるんだよね?」
「…今日だけ、だからな」

どっかのヘタレ冬将軍みたいに呟いたトゥルーデは、真っ赤になっちゃって可愛かった。
もっと赤くしてやろうと、にっと笑ってみせる。

「トゥルーデ。私だけへのプレゼントはないの?」

ほら、この前の誕生日のお返しだよ。
“プレゼントは…わ、た、し。”でしょ?
そう言ってやろうと思っていたら。

「…わ……私を、貰ってくれるか…?」
「……へ…?」

不意を突かれた。
まさかトゥルーデが自分から言ってくるなんて。
耳まで赤くなってぼそぼそっと呟く姿は、想像以上に可愛い。

「なっ、なんでもない!今のは忘れろ!」

つい反応出来なかった私にトゥルーデはそう言ったけど。
もう遅い。

「喜んでいただきまぁすっ!」
「うわっ!」

喜びと興奮が最高潮になって、その勢いで二人でベッドへ倒れ込んだ。
焦るトゥルーデを尻目に、ふくよかな胸をむにゅっと掴んで揉みしだく。

「あっ、…待っ、エーリカ…」
「待てません」

最高の感触を楽しみながら、トゥルーデの髪を結っているリボンを口で引っ張ってほどく。さらっとした茶髪がベッドに広がって綺麗な模様を作った。
服もさっさと脱がせて、プレゼントの開封終了。

「改めていただきます、トゥルーデ」

おでこに口付けると、トゥルーデはぴくんと震えた。

「…から…」
「ん?」

恥ずかしそうに身を縮めたトゥルーデが、小さく呟いた。

「今日は、エーリカの…好きにしていいから…」

…トゥルーデ、今日は爆弾持ち過ぎだ。
そんな真っ赤なリンゴみたいな顔で、好きにしてなんて言われたらたまんないよ。

「起き上がれなくなっても知らないよ?」
「さ、最低限の加減はしろ!」
「あんな誘い方したトゥルーデが悪いんだかんね」
「な…っ!エーリカッ…ぁ…」

この夜、私エーリカ・ハルトマンは5回以上の撃墜を達成。夜の“Ace in a day”となりました。



―――

「ほら、並んで並んで」
「ルッキーニはちっちゃいからこっちな」
「わ、私はサーニャの隣でいいよな?な?」

パーティーの準備が終わって。
リーネと宮藤が作ってくれたおっきなケーキを私が抱えて、真ん中に。
その私をみんなが囲んで、カメラの方を向いた。

「よし、行くぞ」

ちょっと疲れた顔をしたトゥルーデが、ファインダーから顔を離して整備員の人にシャッターを渡した。

私は隣に入ったトゥルーデを引き寄せ、ぴったり頬をくっつける。

「ちょ、エーリカ…」
「ほらほら、前向いて」

くっついた頬がほんのり熱くなった時、乾いた音が私達を写真に閉じ込めた。



ウルスラ、私は元気でやってるよ。大事な仲間と、大好きな人と。

可愛いくまに持たせて贈るから、お前も仲間と写真撮って、私にちょうだいね。

私と、私の大好きな人から。

誕生日おめでとう。


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