無題


運ぶ。
揃える。
積み上げる。
 
この単純な作業を幾度繰り返しただろうか。
有限かつ無限とも言えるその時間の中で、私達は今日も運んで、揃えて、積み上げる。
 
一つ、また一つ。
 
ズレる事なく、歪む事もなく。
私達は積み上げる。
 
時には二人掛かりで持ち上げる。
時には肩車をして積み上げる。
時にはテコを使ってみたりもする。
 
バランスを違える事なく。
形を間違える事もなく。
今日も私達は形造る。
 
私達が運ぶのは何かの箱的な物体。
と、言うかなんでもいい。
今私達が運んでいるものが、例え木であれ、レンガであれ、段ボールであれ、別になんだっていいのだ。
大事な事とは、運んで、揃えて、積み上げる。
ただそれだけでいいのだ。
 
私達は一蓮托生。
私達は一心同体。
私達はサーニャ命。
 
えっちら、おっちらと形が出来上がる。
徐々に全体像が出来上がる。
 
そう言えば、いつからこんな事をしていたのだろう。
どうして、こうまでしてコレを作っているのだろう。
私にはわからない。
 
そうして眺めている内に、遂にそれは完全した。
 
感慨に浸っているのか、出来上がったソレを見上げている彼女たち。
 
滑らかに揃えられた、なだらかなライン。
隙間なくきっちりと積み上げられたそのフォルム。
 
しばらくの後、彼女達はソレの前に立ち並んだ。
総勢501人のちっちゃいエイラ達がずらりと並ぶ。
そして、端数のちっちゃいエイラが一人、他のちっちゃいエイラ達の前に躍り出た。
そのちっちゃいエイラは完成したソレに背を向けて、他のちっちゃいエイラ達に向かって視線を巡らせる。
 
ザッ、ザッ!
 
500人のちっちゃいエイラ達が綺麗に揃って回れ右。
1000と2つの瞳がこちらを、私を捕らえる。
そうして、彼女達は宣誓するのだ。
声を高らかに、胸を張って、宣誓するのだ。
 
彼女達の後ろに建てられた4つの文字型オブジェを。
そう、それは――
 
『ムリダナー!!』
 
なんて堂々とした宣誓なのだろう。
501人のステレオ宣誓。
どこか自慢気な顔をしているのは気のせいなのかな?
フフン、と笑っている気がするのは気のせいなのかな?
まぁ、そんな事は割りとどうでもよくて……
 
ふらり、と。
 
私はちっちゃいエイラ達の余りの可愛らしさに、赤い色をした世界へと沈んでいったのであった。
 


目を覚ますと一番始めに薬品の臭いがツンと鼻をついた。
医務室かな?
身体を起こそうとした時、ふと左手が誰かに握られていることに気がついた。
ん…、と私が動いた事で起きてしまったのか、ゆっくりと目を開くエイラ。
 
「………おはよう、エイラ」
「………うん、おは……さ、サー、ニャ゛!!?」
「え、エイラ!?」
 
目を開けるエイラに、私は覗き込む様視線を合わせたのだけれど、いきなり慌て出したエイラは椅子ごと後ろにひっくり返った。
 
「だ、大丈夫だ……それよりサーニャは大丈夫なのか!?」
「…私?」
 
ガバッ、と起き上がってきたエイラは私に事の次第を説明してくれた。
それによると、エイラが朝食を取りに部屋を離れて、戻って来た時、私はエイラのベッドの上で鼻血の海に沈んでいたらしい。
それでいて、私は幸せそうな顔をしてたらしく、何故かエイラが坂元少佐やミーナ中佐に色々詰問されたそうだ。
なんだか、疲れた様子のエイラを見ていると、段々と先程の夢の事を思い出してきた。
夢の中でのちっちゃいエイラ達と、今ここにいるエイラ。
私はエイラに囲まれて幸せだなぁ、と頬が緩むのを止められない。
 
「ねっ、エイラお願いがあるの」
「な、なんだよ、いきなり……」
 
ああ、胸の鼓動が高鳴ってきた。
ドキドキと、バクバクと、加速をし続ける様な私の鼓動。
ぎゅっ、と握りしめたエイラの両手に更に力を込める。
私は今どんな顔をしているのかな?
エイラは今何を考えているのかな?
私は、エイラの目をしっかりと見つめて、お願いをした。
 
「エイラ、「ムリダナ」って言って」
「む、ムリダ……………はぇ?」
 
何故か目を点にしているエイラ。
でも、言ってくれるまでは離さないよ?
ちっちゃいエイラ達だって、頑張ってるんだから。
 
それは、エイラが知恵熱を出して倒れる、5分前のお話だった。
 
 
おーわり


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