もしサーニャがルッキーニの部屋に間違って入ったら


「うにゃーぁぁ!!」
怖い夢を見た。
どういう夢だかはっきり覚えていないけど。
あまりの怖さに寝ていた格納庫のはりから落ちそうになって、
あたしは悲鳴を上げて慌ててしがみついたほどだ。
まだ胸がドキドキしてる。
こんなにドキドキするなんてどんな夢だったんだろ?
うーん、なにかに追っかけられる夢だったような。
なんなんだろ?
あたし、なにに追っかけられてたんだろ?
格納庫の天井近くにあるすりガラスを通してほんのり青い光が入ってくる。
まだ太陽が昇ってないじゃん。
寝直そう。
あたしは寝直すべく毛布を頭からかぶり(日は昇ってなくとも寝るにはちょっと明るすぎた)目をつぶった。

……眠れない。
起きた時間が悪かったのか、それとも怖い夢を見ちゃったからか。
ここを離れて別の秘密基地で寝直そうかな。
あぁ、でもだめ。
日は昇ってなくとも、外は明るい。
きっと訓練している坂本少佐に見つかりそうだ。
あたしを見つけたらきっと少佐はこう言う。
「なんだ。今日はやけに早いな、ルッキーニ。早く起きたのもなにかの縁だ。私と一緒に訓練していけ」
あたしは断るけど少佐にそれは通じない。
少佐は大きな声で笑ってから「なに、遠慮はいらん。訓練の終わった後の食事は格別うまいぞ」とかなんとか、あたしは強制的に訓練に参加させられてしまうだろう。
やだやだ、そんなのはやだ!
やっぱここにいよ。

あたしは再び頭から毛布をかぶった。
目は冴えていてなかなか眠れそうにない。
外からはかすかに人の声。
この声は少佐と芳佳かな。
やっぱり朝練してるんだ。
今、出て行ったら見つかっちゃうな。

少しして格納庫から離れて行ったのか、二人の声は聞こえなくなっていった。
二人の声が聞こえなくなると格納庫の中の静かさが感じられる……
というかなんだかあたしは心細くなってきた。
外を出てシャーリーのとこ行こうかな?

そう思ってあたしが身を起こすと目の横に青白い光が見えた。
そっちの方に目を移すとふわふわとハンガーの上に青白い光が浮いていた。
ゆーれい!
……じゃあなくて芳佳が言ってた扶桑のヒトダマ?

ゆらゆらと浮かぶヒトダマをぼうぜんと見ながら
あたしは寝ていたときに見た怖い夢を思い出していた。
ゆーれいに追っかけられては階段から落ちるところで目が覚めたんだ。
もしかしてこれって予知夢?

見ているうちにヒトダマはハンガーから離れてこっちへやってきた。
ヒトダマの下には光に反射してきらきらと輝く髪の毛があって……。
髪の毛?
あれ?なんだ、サーニャじゃん。
魔導針を出したまんま目をつぶってふらふら歩いてる。
寝ぼけてるのかな?

サーニャに呼びかけてみる。
「おーい」
サーニャはあたしの呼びかけに気づきもしない。
目をつぶったままゆらゆら歩き続けている。
なにかにぶつかりそうになって、あたしが「あ、危ない」と思うと
するりと器用に避けていく。
アンテナがあるから?
まぁ、いいや。

このままじゃなんなので、とりあえずサーニャを起こそう。
はりから飛び降りてサーニャのそばに寄ってみた。
一緒に歩いてサーニャをつついてみる。
「サーニャ危ないよ、起きなよ」
つつかれてからしばらくサーニャは歩いていたけど、不意に魔道針が消え、
膝から崩れ落ちた。
あわててあたしは服をつかんでサーニャがばったり倒れないよう支えた。
けど力の抜けたサーニャの身体は思った以上に重くて、
あたしは魔力を出して支えなくちゃならなかった。
ちょうどあたしが寝ていた梁のそばで良かった。
片手でサーニャを支えながら少し身体を伸ばして梁から垂れ下がっている毛布を引っ張っり、落ちてきた毛布の上にサーニャをゆっくりと横たえる。
よれてるところを直して、サーニャが寝やすいようにして……。
うんうん、こんなもんでいいかな。
毛布は汚れちゃうけど……あとで洗えばいいか。

サーニャが眠ってるのを見ていると
なんだか……あたしも眠くなってきちゃった。
あたしはサーニャの隣に寝ころんだ。
ちょうどハンガーが陰になって窓からの光を遮ってくれる。
寝るにはなかなかいいかも。
今度はサーニャも一緒だし怖い夢も見なさそうな気がする。
たぶん……シャーリーが来たら……起こしてくれるかな……?


その後。
あたしを起こしてくれたのはやっぱりシャーリーだった。
いつもの天井じゃなくて床で、しかもサーニャと一緒に
寝ていたからとても驚いたらしい。
「気がつかなくて危うく踏みそうになったよ」と困ったように笑いながら言われた。
今度床で寝るときは警告板でも置いていこう。



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