無題


最近、妙にサーニャと宮藤の仲が良い。それは、あの夜間哨戒がきっかけだったのだろうか。
サーニャの宮藤の呼び方も「宮藤さん」から、いつの間にか「芳佳ちゃん」に変わっていた。
宮藤と話している時の楽しそうなサーニャを思い出す。
私と居る時のサーニャは、…何だかいつも眠そうにしている。
宮藤と居るときに楽しそうに笑っている顔を、私と居る時のサーニャに見るコトは、あまり無い気がする…。
サーニャはきっと宮藤のコトが好きなんだろう。
そんなことを考えていると、悲しくなる。胸が苦しくなる。
何故こんな気持ちになるのだろう。…それは、きっと私がサーニャを好きだから。
でも、だからこそ、好きな人にはずっと笑っていて欲しい。幸せでいて欲しい。
宮藤は、サーニャのコトをどう思っているのだろうか。
それを確かめたくて、私は宮藤と話をしてみるコトにしたんだ。

ハンガーに近付くにつれ、魔道エンジンの音が少しずつ大きく聞こえてくる。
どうやら、丁度宮藤達の訓練が終わったみたいだ。まぁ、終わる時間を狙って来たんだけど。
「はーっ、はーっ。」
「今日の訓練はこれで終りだ!後は戻ってゆっくり休むといい。…ん?」
私の姿に気付いた少佐が、こちらを見て怪訝そうな顔をする。
ナ、ナンダヨ、何も変なコトは企んでネーヨ。
「どうしたエイラ?お前も一緒に訓練したかったのか。ん~…、だが残念ながら今日の訓練は終わってしまったんだ。
しかし夕食までは時間がある。お前がこれから自主的に訓練するならば私も付き合おうことにし」
「イヤ、違ウ違ウ。訓練しに来たワケじゃないッテ。」
私は少佐に苦笑いしながらそう答えると、宮藤の方を向く。
「エイラさん?どうかしたんですか?」
「いや、なんだ、その。訓練、疲れたカ?」
「あ、はい。疲れました。」
「そ、そうカ。」
いやいやいやいや、何だこの会話は。違うだろ私。
そりゃあ一日訓練して全然疲れない人間なんて、居るわけないだろう。私は準備していた台詞を宮藤にかけた。
「一緒にサウナでもどうダ?」


「サウナじゃなくて、お風呂にしませんか?私、今日はゆっくり湯舟に浸かりたい気分なんです。」
との宮藤の提案。断る理由も無い私はその提案を受け入れた。
浴場に続く道を二人で歩く。そういえば、宮藤と二人きりなんて、初めてかもしれない。
…何となく気まずい。何か喋ってくれよ、宮藤。
「今日は珍しくサーニャちゃん、一緒じゃないんですね?」
そんなコトを思っていた矢先に、宮藤が口を開いた。
「サ、サーニャは夜間哨戒があるから寝てんダ。起こすのも可哀相だし、誘わなかっタ。そっちこそ、今日は訓練、リーネが居なかったじゃないカ。」
サーニャのコトについて聞きたいのに、横にサーニャが居たら、恥ずかしくて聞けるハズないだろう。私はそう思いながら、宮藤に言葉を返す。
「リーネちゃん、ミーナ中佐の用事に付き合って出掛けてるんです。」
「ふーん…、そうだったノカ。」
またしばらくの沈黙。サーニャのコトについて聞きたいのに、私はイマイチその勇気を出せずにいた。
宮藤の答えを恐れていたんだ。だって、そうだろう?
その答えがもし、サーニャにとって良いものだったとしたら、それは私にとって…。

「わぁ…、やっぱりエイラさんも、サーニャちゃんと同じですっごい肌綺麗ですよね。」
邪魔にならないように髪の毛をタオルでまとめ、体にもタオルを巻く。
同じ様に体にタオルを巻いていた宮藤が、突然私に向かってそんなコトを言ってきた。
「ナ…!?あんま変な目でミンナヨ!はっ、早くサウナに入ルゾ!!」
心なしかさっきから宮藤の視線が私の胸に固定されて、動いてない気がする。
「オマエ…、さっきカラ、私の胸ずっと見てないカ?」
「きっ、気のせいですよ~!早く入りましょう!」
私の指摘に宮藤は慌てたのか、逃げる様に浴場へと走って行ってしまった。
「ア、おい、ちょっと待てヨ!」

湯舟につかり、思い切り腕を伸ばす。たまには、風呂もいいもんだな。
しばらく二人で入っていても、私はまだサーニャのコトを宮藤から聞き出せずにいた。
その上宮藤との会話があまり弾まないので、気まずい。
「そろそろ出ようカ」と私が言おうとした時
「エイラさんは、サーニャちゃんが好きなんですか?」
宮藤からの唐突な質問に私は固まった。突然何を言い出すんだ。
「ナ、ななななな、わ、私は、えと、サーニャは、そういうンじゃ、ネェヨ…」
どうして宮藤がこんな質問をしてきたのかが分からない。私の気持ちに気付いているのか…?
「嫌いなんですか?」
「ソンナワケねーだロ!!」
反射的に大きな声を出してしまう。
「あっ…、いや、悪イ、大声出しテ。」
宮藤は私が出した大声に少し驚いた顔をしたが、すぐに小さく笑った。
「ふふっ…、エイラさんは、やっぱりサーニャちゃんが大好きなんじゃないですか。」
私の顔は真っ赤になっているコトだろう。そんなのはどうだっていい。
宮藤は何を考えているんだ?あからさまに動揺する私の姿を見て宮藤が再び笑う。
「何がオカシイんダヨ。」
私は宮藤を思い切り睨む。もし宮藤が私の気持ちをに少しでも気付いた上で笑っているのならば、コイツは何て嫌な奴なんだろう。
「いえ…、きっと、サーニャちゃんもエイラさんの事が好きだから。」

言葉を失う。違う。それは勘違いだ。サーニャが私の事を好きなんて有り得ない。
「そんなワケないダロ。サーニャが、サーニャが好きなのは…。」
きっと、お前なんだから。
「お前ハ…、随分と鈍感なんだナ。」
宮藤が頭にはてなを浮かべている。そこで私は、お前と一緒に居る時のサーニャはいつも笑顔で、楽しそうだ、と言葉を付け足した。
「エイラさん…?」
正直、私からこの事を宮藤に言うのは苦痛だった。
だって、それは、サーニャが宮藤を好きなんだという事を自分から認めるということだったから。
だけど、宮藤がサーニャのコトをどう思っているのか、それだけを私は確かめたかった。
聞かなきゃいけなかった。だから、私は宮藤と話を続ける。
「エイラさん。私とサーニャちゃんがいつもどんな話をしているか、分かりますか?」
「そんなもん、知るわけないダロ」
「何でサーニャちゃんが私と話をしている時、楽しそうなのか分かりますか?」
「まだ気付かないのカ?それとも、分かってて、ワザといってるのカ?」
ぶっきらぼうに返す。二人がしている会話なんて、私とサーニャがしている時の会話と、さして差異などないだろう。
何でもない、他愛の無い話。今日の天気がどうだとか、隊の皆がどうだ、とか。
ただそこにある決定的な違いは、隣に居る人が好きな人かどうかというコト。
「お前は、サーニャのコト、どう思ってんダ?」
私は核心に触れる。

だが、私の問いを無視して宮藤は自分の話を続ける。
「サーニャちゃん、私と居る時、いつも楽しそうに話してくれるんです。」
私は別にそんな話が聞きたいわけじゃない。
サーニャが私と居る時、彼女から口を開くコトは少ない。宮藤と居る時だけ、サーニャが宮藤にする話。
「いつも同じ話。楽しそうに、笑いながら――――」
私は思わず湯舟から立ち上がる。
「いい加減にしロ!私の質問に答えロ!」
「エイラさんの話を。」
「……ハ…ァ?」
間抜けな声が出た。
「サーニャちゃん、エイラさんが好きなんですよ。」

開いた口が塞がらないとは、まさにこの事だった。そんな事は有り得ない。私はいつも彼女を見ているんだ。
宮藤と居る時のサーニャは、いつも笑っていて、楽しそうで…。
「サーニャちゃんが自分から何か話をする時は、いつもエイラさんの事ばっかり。」
エイラはカッコイイんだよ。エイラは凄いんだよ。エイラは優しいんだよ。エイラはね、エイラはね。
「いつもエイラさんのコト、私に教えてくれるんです。
エイラさんがネウロイを撃墜した時も、自分の事のように嬉しそうに私に教えてくれます。」
鈍感なのはどっちですか、もう、と宮藤は笑う。
「エイラさん。エイラさんは、サーニャちゃんが好きなんでしょう?」
宮藤が真剣な顔で、私の目を見てそう聞いてきた。何故かは分からないけど、ごまかしちゃいけないような気がした。
「…好きダ。私は、サーニャが、好き。」
私の答えに満足したように宮藤は小さく頷いた。
「いいですか?エイラさん。黙っていたって、伝わらないんです。
言葉にしないと、分からないことって、いっぱいあるんです。」
その言葉には妙な迫力があった。言葉にしないと伝わらないコトがある。その通りだった。
「自分に、正直にならないと。」
言い終えると宮藤はふぅ、と大きく息をついた。そして、偉そうな事言ってすみません。
でも二人を見てると何だかもどかしくて、と顔に照れた笑いを浮かべた。
だけど、私はそんな宮藤に小さな違和感を覚えていた。

「そろそろあがりましょうか。のぼせちゃいます。」
気付けば長い時間入ってたようだ。私も頭がぼーっとしてきた。
「あ、アァ、そうだナ…。」
私が立ち上がると、同じ様に宮藤も立ち上がった。
「それにしても結構入ってたよな…。」
「そうですね~。私、こんなに長くお風呂に入ってたの、初めてです…っ、とと」
宮藤がふらつく。のぼせたのだろう。そういう私も結構足元が…
「って、おイ!?」
私はそのまま後ろに倒れそうになる宮藤の手をとっさに掴む。
私も一緒になって倒れないように魔力を解放して腕に力を込める―――が
ゴンッ…
一瞬遅かった。そのままの勢いで一緒に倒れてしまった。
「うっ、わぁ。いい音したァ…。大丈夫かヨ、宮藤…?」

気絶してる…?
「お~い、宮藤ー…?…!!」
そして私は唐突に気付く。冷静に考えたら、この状況は大分まずい。いや、大分ドコロじゃない。
魔力を解放して宮藤に覆いかぶさっているというのは、見様によっては私が力ずくで宮藤を押し倒したようにも見える。
…いや、第三者から見たらそうにしか見えないんじゃ…。
「ん、んん…、は、はれ?わ、わわわっ、エ、エイラさん!?」
おい。おいおいおい。何だその反応は。
「宮藤、落チ着ケ。取り敢えず、落ち着いてクレ。」
何故か異様に動揺する宮藤。コイツ、何かとんでもない勘違いしてんじゃないのか…?
「あのっ、私っ、困ります!そのっ…。だって、エイラさんにはサーニャちゃんが…」
何可愛い反応してんだよ!宮藤は頬を赤く染めて、息遣いを荒くしている。とにかく、顔が、近い。
「あ、あの、こういうこと、私したコトないですから、えっと…」
何故か私は動けなかった。早くどかなきゃいけないのに。どくべきなのに。
体が動かない。目の前の宮藤から目が離せないんだ。
「だから、その、やさっ、優しくしてくださいっ!!」
彼女はそういうと目をつむった。何なんだよ、ホントに…。何でこんな可愛いんだよ…。
「…エイラ?」

彼女が次に言葉を発するまでの時間が無限に感じられた。
今のこの状況を一番見られてはいけない人に見られてしまった。

「エ、エイラ…と芳佳ちゃん…。え?う、嘘…だよね?
 二人ってそういう…、ぁ、え、エイラの、バカーーーーーーーーッ!!」

その後の話。私は宮藤に言われた通り、自分に素直になり、サーニャに自分の思いを伝えるコトにした。
私が気持ちを告げた時、その時のサーニャの顔を私は一生忘れる事はないだろう。
それから私は今まで以上にサーニャと一緒にいるコトが多くなった。
正直、宮藤にはかなり感謝している。アイツが居なかったら、私はサーニャに思いを伝えるコトは無かったんじゃないだろうか。
認めたくないけれど、私は「ヘタレ」らしいから。
だけど、私は宮藤のコトがずっと気にかかっていた。
彼女は明らかに何かを私に隠している様な気がした。
「自分に正直にならないと。」と、そういった彼女自体が何かを我慢しているように、私には見えたんだ。
…そして、何よりあの時、風呂場での弱々しく、そして可愛らしい宮藤が、私の頭に焼き付いて、離れないんだ。
私は、確かに、サーニャが、好きなのに。


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