変化球は曲がらない
はむ…やっぱり自分のよりエイラのスプーンのが美味しい。
なんでかな。
ふふ、そりゃあ大好きな人との間接キスがスパイスになってるからだよね。
私、こんなにしあわせでいいのかしら…。
でも…ひとつ問題が…。
「ねぇエイラ」
「なっ、ナンダ!?」
「食べないの?」
エイラったら私が使い始めてから一口も食べてないし…。
これじゃだんだん私のになっちゃうじゃない。
どうしましょう。
「いっ、イヤもうおなかいっぱいなのカナ~って…」
「……おなか鳴ってるよ?」
積極性をもって、ってさっき言ったばかりなのに…。
「うぅ…。だってサーニャと間接…キスだなんて…」
「はぁ…。そんなに私とじゃいやなのかしら…」
「ちっ、違っ! イヤなんじゃなくテ心の準備ってもんが…」
なんでもかんでも心の準備ばっかし。
それを信じて待っていたらずっと準備してるじゃない。
それじゃだめ。
人生っていうのはいつも準備不足の連続だってどこかの魔女さんの言葉もあるわよ?
「じゃあこうしよう」
「え? ナ、なに?」
「エイラが自分で食べれないなら私が食べさせてあげる」
「はぁ!? イヤマテマテマテ!」
「はぁい、エイラあーんして~」
こうでもしないと本当に先に進めないんだもん。
間接キスくらい普通にしてもらえるようにならないと大人のキスなんてできやしないし。
「だから…サーニャ? あの…私…」
「あーんして、エイラ」
「えぅ…」
「あーん…」
「……」
なんかもう怒ってもいいぐらいよね。
私だって怒るんだから。
赤くなって恥ずかしがってる顔も可愛いからって許されることじゃないわ。
「エイラ、いい加減に食べて」
「でも…」
「お願い」
「う…。本当に食べなきゃ…ダメカナ?」
「だめだよ」
だめに決まってるじゃない。
私から逃げられるとでも思ったの?
「わ、わかっ…た…。頑張ル…」
「うん、エイラいい子。はい、あーん」
「あ、あー…」
ふぅ、これでやっと目的達成かな。長かった…。
まったく、エイラにはもうちょっと自信持ってもらいたい…。いくら大好きアピールしても反応が無いんだもん。
恥ずかしがったりするのはいいんだけどね。
ふふ、ぷるぷる震えてかわいー。
「あー…、…や、やっぱりダメ! ゴメンサーニャ!」
な…。
まさかそこまで嫌がるとは思わなかったわ…。
エイラ、あなたは悪い子。
悪い子にはお仕置きをしなくちゃ…。
「ゴメン…、ゴメンサーニャ…。間接キスでも…私ハ…」
「もういいわ、エイラ。できないんじゃしょうがないもの」
「ゴメンナ…」
「だから私が代わりを用意してあげるね」
「え? それって新しいスプーンってことカ…?」
いいえ。
スプーンなんて必要ない。
直接エイラに食べさせてあげる…。
「なっ!? まてサーニャ! それは本当に待ってクレ!」
「……」
いやよ…。
間接がいやなら直接…。当然でしょう?
どうせいつかやるつもりだったのよ。
それが早まっただけ…。
「サーニャ? サーニャ!? オイ――ッ!!」
いただきます。
そして、
ごちそうさま。
END