悲劇的ビフォーアフター


みなも。
私は水面が好きだ。 水中から水面を見上げる、その時。
人はもっとも天国に近付けるような気がする。

思えば人という生き物は、いつでも、誰しもが、本能的に浮上という行為を求めているのではないだろうか。
安らぎに満たされた海中。 でも、ひとたび顔を上げてしまえば、そこには、あまりにも美しく輝き揺らぐ水面があるのだ。

神性との邂逅。 真なるものへの惑溺。 抗う事すら許されない、根源的な感傷。
きっと人はそれに触れた時、水面の向こう側に何が待ち受けているのかも知らず、誰しもが水上を目指してしまうのだろう。
浮上という行為がもたらすもの。 それが己の分際に合うのかどうか、考えてもみずに。

「そうよ。 だから美味しいものを食べるという行為を、我慢する必要なんて無いの。 それが浮上だもの。 分かってくれるわよね?」
「ぜんぜん分かんない。」
「そんな事を言わなければ自分を納得させられないのか?」
幸福に浸りながらひとりごちる私を、冷たくあしらう友人たち。 リーネさんのビュッフェは毎度毎度パーティのような絢爛さ。
今日も食べ過ぎてしまったかしら……。 最近、とみにデスクワークが多くなってきたせいかもしれないけれど。
多分、きっと、絶対に気のせいなのだけど。 少しだけ、お腹がポヨポヨしてきたような気がするのよね。

まぁ、でも、気にしすぎね。 なんと言っても魔力溢れるウィッチだもの。 そう簡単にボディラインが崩れるはずもないわ。
あぁ幸せ。 そんな事を考えながらのんびりとベッドに転がっていると、フラウがひっついてきた。
あら、甘えたさんね。 にこにこ笑うフラウに、こちらも笑顔になる。 はずだった。 フラウの手が私のお腹に置かれる。

「大きくなれよー。」
ぶほっ! トゥルーデが盛大に噴き出した。 フラウの手は、すりすりと私のお腹を撫でている。
私の体から凄まじい殺気が漏れ出しているのが分かる。 ……こ、こらえるのよ、ミーナ。 フラウのいつものお茶目じゃないの。
横を向いてプルプル震えているトゥルーデ。 流石ね。 滅多な反応は道連れに繋がると分かっているんだもの……。

「ふふ。 くすぐったいわ、フラウ。 どうしたの?」
「別に、なんとなく。 ちょっと東洋の武術の真似したくなって。 そりゃ。 円の軌道。」
ぐぷしゅっ。 我慢の様相も空しく、トゥルーデから異音が漏れる。 山なりの軌跡を描くフラウの小さな手。 ……おほほ。
東洋の武術、ね。 「気」でベッドが鳴動しだしたのもそのせいね。 フラウったら、本当にブレーキの壊れたタイタニックなんだから。

「ねぇ、どういう意味だかよく分からないわ、フラウ。 私、もう少し詳しく聞きたいな。」
「ううん。 別に意味は無いよ? ミーナって、なんかお母さんみたいだなって。 特にここら辺。 ……あっ。 ……動いた……。」
……。 夜の宿舎に明るい笑い声が重なり合う。 トゥルーデはあえなくフラウの道連れとなった。

「はぁ……。」
「おっはよ! どうしたリーネ? 朝っぱらから溜息ついてちゃ、ラッキーが逃げていっちゃうぞ!」
「シャーリーさん。 あ、あのですね。 最近、私、むっ。 胸が小さくなっちゃって……。」
「は? なんだ、そんな事か。 そりゃ毎日こんだけ訓練してればなぁ。 ま、いいじゃん。 あんた、大きな胸嫌がってたっしょ?」
「そ、そうなんですけど! ……その、芳佳ちゃんが。 近頃、よそよそしいような気がして。」
「それって胸が萎んできたせいかも、と。 う、うーん。 それは無い!と断言できないのが悲しい所だねぇ……。」
「あら、丁度良かった。 そんな時にはダイエットよ、リーネさん。」
私の声にビクリと跳び上がる二人。 気配を殺して接近するだけでこの反応。 二人とも、まだまだね。

「び、ビックリした! ……あの、ミーナ中佐。 せっかくですけど私、痩せたいんじゃなくて、太りたいんです……。」
「はぁ!!??」
「ひぃ!!」
い、いけないわミーナ。 思わずイラッとしてしまったわ。 怯えた感じのリーネさんに、笑顔を浮かべて語りかける。

「ねぇリーネさん。 胸が1センチ縮んでも、お腹が2センチ小さくなれば、結果的に前よりグラマーになるわよね。
 シャーリーさんのスタイルなんて、いい見本じゃないかしら? 体のためにも、単純に肉をつければいいわけではないと思うの。」
「ま、あたしは腹に肉がつかない体質だから、悩んだ事無いけどね……ウプス!?」
死角からズビシと水平チョップを叩き込む。 何事かとキョロキョロしてるシャーリーさんを尻目に、いよいよ本題に入る。

「そこでね。 私、空き時間でダイエット教室をやろうと思うの。 いくら軍人といっても、女の子だもの。
 戦いだけでなく、将来女性として困らないような知識を覚えてもらうのも、務めだと思うのよね。 二人とも、どうかしら?」
「ダイエット教室……ですか。 そう言えば、お姉ちゃんもそんなの始めたとか何とか……。」
「ふーん。 確かに大切なコンセプトって気がしますね。」

……ふ、ふ、ふ。 掴みは好感触だわ。 「ダイエット教室でいつの間にかシェイプアップ大作戦」のね!
全ては、美緒にバレずに痩せるため。 美緒に、こんなお腹を見せるわけには、絶対にいかない。
でも一人でダイエットなんてしてたら、遅かれ早かれバレてしまう。 その時の反応がどれだけお寒いかは、容易に想像できるわ。
そんな理由で美緒に笑われるなんて……私には、耐えられない。 木を隠すなら森。 インストラクターは私。
みんなでダイエットする事で、本当に痩せたがっているのは誰か、カムフラージュしたまま痩せられるという寸法よ!

「ダイエット? ふ。 わたくしの体、無駄なんて一切ありませんけれど……皆様方と違って。 うぐっ!?」
「ダイエットぉ~? 私、ちっとも太ってないゾ。 ……い、いや、でも、そういうサークル活動的なのも面白いかもナ。 ウン。」
リーネさん、シャーリーさんに加えて、ペリーヌさん、エイラさんも快く勧誘に乗ってくれた。
やっぱり武力は外交の欠くべからざるカードなのね……いつになったら人は言葉だけで分かり合えるようになるのかしら。
約一名、メガネの人がぐったりしているけれど、面子は揃った。 私はここに501統合ダイエット教室の発足を宣言します!

「はーい! 皆さん、準備はできましたかー? エクササイズを始めますよー。」
「うーい。」
「こ、これピチピチです……恥ずかしいよぉ。」
「できましたー。」
「な、なぜ私はここにいるんですの? 記憶が……。」
アブダクションされたかのようなペリーヌさんの言葉が笑いを誘う。 レオタードにポニーテール。
全員の格好が揃うと、さぁ、みんなでダイエットするぞ、と俄然やる気も湧いてくるというもの。

「ストレッチ等の基礎作りは日頃からやってますから、今日はシェイプアップを目的とした運動をやってみましょう!」
「はーい!」
ワン。 ツー。 ワン。 ツー。 音響から流れるリズミカルな音楽に合わせて、手本を踊る。
一糸乱れずついてくる隊員達。 流石は世界に誇る精鋭部隊だけはあるわね。 みんな余裕でプログラムをこなしているわ。
でも、ダイエットは甘くないのよ。 ここから先の動きについてこれるかしら? ぴぴー。 ……あれ。

「え、もう終わりですか? なんだか、全然運動になった気がしないです。」
「中途半端な運動は、逆に体を太くしてしまうのではないかしら……。」
日頃から体を鍛えている私達は、あっさりとメニューを終えてしまった。 こ、こんなはずじゃ! 慌てて他のテープを漁る。

「行き当たりばったりダナー、隊長。 冷静に考えて、私らにダイナミックなトレーニングは効果が薄い気がするぞ。」
「普段から今以上に激しく動いてるもんなぁ。 これ企画倒れですよ、中佐。」
ずーん。 浮かれていた気持ちが沈みこむ。 まさか、ウィッチが痩せるという事が、これほどハードルの高い事だったなんて。
普段のトレーニングをこなしていても痩せられないなら、どうやって痩せればいいというの?
あまりに落ち込む私を見かねたのか、みんなが慌ててフォローしてくる。

「ちゃ、着眼点を変えてみませんか? 静的なエクササイズの方が、普段使ってない筋肉を使っていいんじゃないですかね?」
「う、うんうん! 何でしたっけ? 東洋の……ヨーガ! あれ、お姉ちゃんがお薦めしてました!」
「何か面白いスポーツの特徴を取り込むのもいいかもしれないぞ。 私、ボクササイズっての一回やってみたかったんダヨ!」
「歌ってダイエットなんてものも聞きますわよね。 中佐にピッタリではありませんこと?」

み、みんな……! 感涙で前が見えない。 持つべきものは可愛い部下だわ。
一人の時は浮かばなかったアイデアが次々と寄せられてきて、今再び私の目の前は明るく拓けはじめていた。

「ありがとう……そうね。 一回きりの失敗で諦めちゃ、501統合ダイエット教室の名が泣くわ。 みんな。 ついてきてくれる?」
「イエス・サー!!」
がしぃ。 重ね合わされる手と手。 一つになる心。 私達はアイデアを片っ端から試してみる事にしたのだった。

「ふぇ~、これがボクシングのグラブなんですね。 実物、初めてみました!」
「フックパンチ? これがお腹に効くみたいだね。」
まずはボクササイズから。 Tシャツとハーフパンツに着替え、整備スタッフにグラブも見せてもらって、気分は満点。
ダンスのステップから、フックパンチ! うん。 確かにこれは、お腹が締まりそう。 それに、結構面白いわ。

「ンー。 なぁーんか漫然とやってても飽きるなぁー。 なぁペリーヌ。 昼飯賭けて勝負しよーゼ!」
「はぁ? 嫌に決まってましてよ! ガリア貴族の私を、育ちの悪いスオミと一緒にしないでくだしゅぶっ!?」
きゃあ! 言い終わらない内に、エイラさんのボディブローが、ペリーヌさんのお腹にどすっとヒット。 あーあ。

「おー、いい手応え。 鍛えてるな、ツンツンメガネ! これ繰り返してたら、鋼の腹筋になるんじゃないくゎぶっ!?」
「……ほほほ。 あれで私をノックアウトしたつもりでして? 決闘よ! エイラ・イルマタル・ユーティライネン!」
「ちょ、ちょっと! あなたたち、女の子同士なんだから顔は叩かない事! いいわね?」
ぽかすかと殴り合いが始まる。 あれだけ接近していると予知のハンデも無いようで、互角に小競り合う二人。 はぁ……。

「困った連中ですね。 でも、確かに実戦の方が効果的ってのは、一理あるかも。 中佐。 あたしらも、いっときます?」
「え?」
返事をするよりも早く、シャーリーさんのボディブローが飛んできた。 ちょ、ちょっと待って! ぽよっ。 ……。

「す、すみません中佐! その、てっきりペリーヌみたいに、ガッチリ受け止めてもらえるのかなって……。」
「ぼ、ボクシングなんて野蛮ですよ! ヨーガやりましょう! ヨーガ!」
しくしくしく。 どすっ、ではなく、ぽよっ。 改めて現実に泣き濡れる私を気遣って、ボクササイズはあえなく中止となった。

「弓のポーズ!」
「船のポーズ!」
ぐぐぐぐ。 みししっ。 ぷるぷるぷる。 う、うぐぐ。 辛いわ! ヨーガって、思ってたよりずっとハードなのね……。

「こ、これまでの運動みたいに反動を使えないから、き、きついな……。」
「は、話しかけないでくださる? それどころじゃありませんの……。」
「ヨーガはですね、精神性も大切らしいです。 体をほぐすだけではなく、その先にある心の平静が重要という事ですね。」
「うおおお! リーネすげエーー!」
え? ぶほっ! リーネさんの方を見ると、左足を頭の後ろに回して、足指で右耳を掴んでいる。 凄い! 凄すぎるわ!

「私、体は柔らかいですからー。 コツさえ掴めば簡単ですよ? ミーナ中佐も是非どうぞ!」
え? ごき。 ちょっ。 ぐき。 そん!? 吊る! いいえ! 裂ける! 裂けるわ!! ぽぎゃーーー!!!
……無理。 これは無理。 痩せるより先に体が壊れるだろうと満場一致した私たちは、何の未練も無くヨーガを諦めた。

「ミーナは大きくなったら何になりたい?」
私? 私はねぇ……お父さんやお母さんが喜んでくれるような歌をいっぱい歌うの……って。 あれ。 あなた、は。
ぼんやりとした意識の中、聞こえたそれ。 あぁ。 なんて懐かしい声。 絶対に忘れるはずがない。 大切な、私の記憶。

「そんな、夢みたい。 あなたとこうしてまた逢えるなんて、えっと……クル……クル…………クルなんとか。」
「忘れてるじゃん!!!」
あ、あれ。 おかしいわね。 嘘じゃないのよ。 あなたとの思い出、とても大切にしてるのよ。
でも、クルトだったかしら? クルフだったかしら? なぜだか、あなたの名前がハッキリしないのよね……。

「ねぇ。 君は今、無理なダイエットをしているみたいだね。 おやめよ、ミーナ。 女の子は、自然なままが一番いいよ。」
「……相変わらず、優しいのね。 だからこそ分かるわ。 あなたの時は止まったまま。 一緒には、歩めない、って。
 私ね。 大切な人が、できたの。 その人の前で、目を伏せるような人間になりたくない。
 自然な私であるために、できる事をやりたいの。 二度と。 あの時、ああしておけばよかったなんて、後悔しないために。」

「……そうか、ミーナ。 強くなったんだね。 それが少しだけ悲しくて……誇らしいよ。」
「そんな、クルなんとか。 今適当に考えた理由に、あまり感心されても困るわ。 もう行かなくちゃ。 さよなら……。」
「適当なのぉ!!?」
くすり。 フッと意識が戻った。 軽く身じろぎ。 どうやら疲労でダイエット活動中に寝てしまっていたみたい。
ちらりと周りを窺えば、エイラさんの熱唱に合わせて、みんながリズムを刻んでいる。 歌ってダイエットの真っ最中ね。
すぐにでも輪に入ろうと思うのだけれど、なんだか身が入らない。 夢の余韻が残っていた。

大きくなったら……か。 あの頃は無邪気だったわね。 アイドルになりたいの?なんて聞かれたりもしたっけな。 ふふ。
私だって音楽を志した者の端くれ。 ワールドワイドな劇場で賞賛されるのを夢見た事が無いと言えば嘘になる。
アイドルかぁ……。 ……。 エイラさんの歌が終わり、私の番が来た。 憧れの、実現。 うん。 きっと、できるわ。 今の私なら。

「キラッ☆」
指を目に当てて、かわい子ぶったポーズでウィンク。 ギュルルル。 私の瞳から放たれた煌きが、談話室の壁を直撃する。
ドガァァァンンン!!!! 爆撃を想定して設計されたはずのその壁は、私のウィンク一撃で跡形も無く爆散した。

「ウオオオッ! スゲー!!」
「これが501統合戦闘航空団を束ねる魔女の実力かぁーー!!」
「ちょっと!! 失礼じゃないの!!!!」
予想外の事態に叫ばずにはいられない。 私はアイドルっぽくウィンクしたのよ!
もっとこう、可愛い星が飛ぶみたいなエフェクトとかあるでしょ! なんで錐揉み状の怪光線が出るのよ!
壁も壁よ! 女の子の流し目を受けて爆発四散するなんてどういうつもり? もっと気を遣いなさいよ!!!!

……談話室がオープンテラスになってしまったわ。 一分前まで壁だった場所から外を眺めながら、少しずつ平常心をかき集める。
冷静に考えてみたら、これどう考えても夢よね。 異常事態すぎるもの。 そうよ。 夢よ。 白昼夢よ!

「ゴートゥDMC!」   ※ディートリンデさん・マジ・クール
「ゴートゥDMC!」
「お願いだから夢と思わせてぇーー!!」
これまでに無い尊敬の眼差しで熱狂するシャーリーさんとエイラさん。
違うの! 私がしたかったのはこんな音楽じゃないのよぉー! 狂乱のさなか、開いた穴から宮藤さんがひょっこり顔を出した。

「あら宮藤さん。 嫌よね私ったら。 いくら夢とはいえ、自分で前線基地を破壊しちゃうなんて……。」
「そぉい!」
「あふん!!??」
いきなり横っ面を張り飛ばされた。 い、痛い! ガチビンタだわコレ!

「いたた……ぶった手が痛い。 夢じゃないんだ、これ。」
「ちょっと! 確かめるなら自分の頬をつねってちょうだい! ムチウチになるかと思ったわよ!!」
「気持ち、分かります。 でもここで私達が争ってもしょうがないじゃないですか。 この怒りはネウロイにぶつけましょう!!」
「なに勝手な事ばかり言ってるのよ!! ぶったのはあなたでしょ!!!」
「落ち着けヨ、隊長。 DMC、いい映画じゃないカ。 いきものがかりも絶賛してたゾ。」
「 だ か ら D M C っ て 何 よ !!! 」
「なんだこれは。 一体何の騒ぎだ?」
美緒! 野外教練だったのだろうか。 宮藤さんの横から、今もっとも顔を合わせたくない人がひょっこり顔を出した。

「み、美緒。 違うの。 あのね、これは……。」
何か言い訳をしたいのだけれど、しどろもどろになってしまう。 それはそうよね。 間違いなく私が壁を壊したんだもの。
……。 ど、どうしたのかしら。 意外にも、美緒は怒鳴り散らすでもなく、じっと私の事を見つめている。

「な、なに、美緒? 私の顔に何か付いて……。」
むにっ。 おもむろに。 ごく自然に伸ばされた美緒の手が、私の脇腹のお肉をつまんだ。 ……。 …………。
むに、むに。 何を言うでもなく、美緒の手が私の脇腹を弄ぶ。 無言の時間が過ぎる。
……ふ、ふふ。 終わった。 全てが終わったわ。 この世から旅立つ時が来たのよ、ミーナ。 さよなら、501のみんな。
さよなら、生きとし生けるもの。 後の事はお願いね、トゥルーデ。 美緒。 愛していたわ……。

気絶しそうになりながら、コンマ一秒の間に遺言まで考えてしまった私、なのだけど。 すりすり。 ふにっ。 ……?
美緒は特に何をコメントするでもなく、私の両脇腹をさすり続けていた。 え……ちょ、ちょっと。 何? どうしたの、美緒?

……その、ね。 女の子の脇腹って、敏感でしょ? 私は特に、人一倍。 こんな風に触られてたら、その……こ、困るの!
ショック状態から抜けてきた私は、自分が置かれた状況が、とても心もとなく恥ずかしいものに感じられて、思わず美緒に訴えた。

「み、美緒! その……何? あ、あのね、あまりそんな風にされるとね、その……。 みっ、みんな見てるからっ!」
「え? ……はっ。 わ、私は何を? ……い、いや、その。 すまん!!!!!」
我に返ったように手を離す美緒。 真っ赤になって、つい美緒から隠すように、自分の体を抱き締める私。
むー、と恥ずかしさへの抗議を込めて見つめていると、美緒が居心地悪そうに呟いた。

「その……なんだ。 ダイエット教室をしてると聞いたんだが、ミーナ。 ……絞って、しまうのか?」
「え?」
「いや……あのな。 わ、私は、だな。 今の、ミーナが、その……一番。 魅力的だと、思う。 ……のだが。」
へ。 え。 ……えっ? 耳まで赤くなるのが分かる。 えっ。 えっ、今っ、美緒っ。 ……えーーーっ!?

「さっ。 坂本少佐!? そんな!!!?」
「ふふ。 少佐、ふくよかな人がタイプだったんだ。 よかった、ミーナ中佐。 ねっ。 よかったねっ、芳佳ちゃん。」
「……じーっ……。 えぇ。 そっスね。 ビショップさん。」
「…………。」
宮藤さんがリーネさんの胸を見つめながら何か言ってるけれど、私の耳には入らない。 だって。 もう美緒しか見えないんだもの……。


……。 ふぁ。 小さな欠伸が漏れる。 左。 右。 ……エイラ、いない。 綺麗に畳まれた服だけが、私を待っていた。
首をゆっくり回す。 服を着ながら、エイラどこかなって、ぼんやり考える。 別に用事は無いのだけれど。
寝起きにエイラがいないと、不思議と空虚な気分になる。 とて、とて。 廊下を歩いて、エイラを探す。
?? 賑やかな声が聞こえる。 談話室の方だわ。 エイラも、いるかな。 とてとて。 とてとてとて。 とて。 ……到着。
……。 なに、これ。

「ミーナ……。」
「美緒……。」
「うわぁぁぁぁん! 芳佳ちゃんのばかぁぁぁぁ!」
「しょ、少佐! わたくし、少佐のためならこのぐらい……うぷっ。」
「ゴートゥDMC!! ゴートゥDMC!!」
なぜか壁がなくなっていて、丸見えの芝生。 物凄い勢いでご飯をかきこむリーネさんとペリーヌさん。
延々とミーナ中佐の脇腹をなでなでしている坂本少佐。 何かを叫びながらトランスしているシャーリーさんとエイラ。
……。 分からない。 分からなくていい。 私は、この基地に来て初めて、談話室の防火シャッターを閉めた。

おしまい


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