Love Love Nightmare 智子編
――私は女好きだった。
変わることのない衝撃の事実に気付いたのは最近だ。何故だか分からないがとにかく女が好きなのだ。
年上でも年下でも構わない。美人ならば尚良し。可愛い子を愛でるのはもはや至高。
実体がくっきりと浮かばない、煽動的な鼓動が高まる。夜中、閨から聞こえる智子の切ない声。昼間、アホネン隊長以下数名の肉体的触れ合い。それらが私を掻き立てたのだ。本能が呼び起こされ、女子を愛でろと煩く喚く。
一念発起し、朝食を食べ終えた私は行動に出た。
…最初に、誰を誘惑し、"ものにする"か。扱いやすいのは間違いなく智子だ。彼女は毎晩のように同じ扶桑の痴女に良いようにされているからだ。…ふ、今ではハルカのことを痴女などとは言えないかな。何故なら私は今、智子だけでなく、世界中の女子を愛でる自信があるから。
生まれつきのイケメン(イケてる面相)、男勝りな性格。渋い煙草にコーヒーの芳香。あぁ、なんと凶悪な性能なのか、私は。
智子。智子か…。あぁ、扶桑人は見た目が幼いからな。より可愛く見えるのだろう。小振りな胸も良い。キャサリンの豊満な胸もいつか私のものにしてみせよう。素晴らしい楽園計画が組み上がっていた。
全員同じの寝室に戻ると、智子がベッドを整えていた。シーツは洗濯でもするのだろう、剥ぎ取って新品と替えていた。
「智子、ちょっといいか」
「何? 珍しいわね、ビューリングから話しかけてくるなんて」
「たまにはそういう気分になるときがあるんだ。分かるだろう?」
「まあ分からないけど…。それで、なんの用?」
穴吹智子は雰囲気に弱い。流動性で、開発はハルカによって進められている。
ハルカには悪いが、智子は私が頂くぞ。
話を聞く体勢として智子はベッドに腰掛けたので、私はその隣にいつもより距離を狭めて座った。
「なぁ、智子。…私は美人だと思うか?」
「何なのよ突然…そんなこと」
「ちょっと、気になったんだ。私に、素質があるかどうか」
「ねぇ、話が見えないわ。はっきり話して頂戴」
他に誰もいない寝室で、二人きりだ。神は私に味方している。あぁ神よ、朝日が素晴らしいグラデーションを織り成していますわ。
「例えば…、こうして顔を近づけてみるんだ」
「っ?!」
すっ、と智子の顔面に接近して、真正面から黒い瞳を見つめる。私はと言えばなるべく智子の心に訴えられるように、目を潤ませることも忘れていない。
近付いた私から逃げるように背筋を仰け反らせた智子。お互いが離れるが、私は智子の肩に手を回して引き寄せ、状況を元に戻す。
「びゅ…りん、ぐ?」
きっと頭の中が真っ白なのだろう。あまりに突発的な行動に、"弱い"智子の理性は全てを放棄して本能に肉体を任せ始めるはずだ。
「こうやって間近で見てみると、ドキドキするかな?」
「す、するわよ…! び、美人、だもの…」
「そうか、それは良かった。…じゃあ私が仮に、"愛してる"と言ったら、智子は嬉しいかな?」
「あ、ああ愛ぃ?! ちょ、ちょとビューリング、まさかあなたまで、」
「ねぇ…嬉しいかな?」
私は自然と仰け反る智子を追いかけるように、視線が上からとなる。智子の姿勢は私の支えを無くせばベッドに押し倒されたようになるだろう。
「嬉しいけど! 嬉しいんだけどビューリング、その気持ちには答えられないわ…!」
「どうして?」
言葉は耳元で囁くように。一回一回、耳に向かって息を軽く吹きかけるのは忘れない。段々と、徐々に徐々に智子は体温が上がっていく。
「だ、だって…私はノーマルなのよ。友達としては嬉しいわよ、もちろん」
「じゃあ、どうしてハルカとあんなに仲良くしているんだ? ノーマルだと思っているのは君だけだぞ、智子」
「そんな…。それは……!」
「言い訳をするのか? そんな見苦しい真似をしてしまうより、認めた方が潔いぞ?」
「…レ、レズじゃないもん……」
口調が崩れた。理性はボロボロになり、退行し、素直になった証拠。もう一押しで、智子は堕ちる――!
智子を支えていた肩の手を離す。智子はベッドに落下し、情けない声を上げる。
「ひぅ…」
「智子は可愛いんだ。…愛しているよ、智子」
「んんー!!」
唇を塞ぐ。左右に揺れる頬を両手で押えて、さらに深く侵入していく。
「ん、ちゅ…ビューリング……待っ」
「…、うん…良い子だ」
頭を撫でてやると、智子は惚けたように瞳を揺らした。唇が艶かしく朝日を映す。
可愛い"いもうと"第一号として智子を選んだのは正解だった。アホネン隊長のごときエリザベス帝国建国までの道のりは明るい。智子を抱きしめながら、にやりと笑う私は、どこか活き活きしていた。
――
――目が覚めた。
「………」
しばらく何が何だか分からなくて天井を睨み付けていた。頭痛が眠気を除去し終わっていない内から、今の夢で起こっていたことを思い起こす。
「……」
まだ誰も起床していない明け方。智子の方を見やると、乱れた服のまま就寝している。
私がやったのではないという保証は無い。かといって私が夢遊病であるとも言い難い。
いや待て落ち着け、あれは夢の中での私だ。現実の私は決してそういう趣味ではないのだ。平静を保ってきた。そうだろう?
「…」
ふと、腕にかかる重みに気付く。向き直ると、左腕を枕に、キャサリン・オヘアが眠っていた。
「なんで…?」
引きつる口端を右手で押さえ込んで、ゆっくりと左腕を救出する。腕の分だけ落下した頭が少しだけ覚めたのか寝言が聞こえた。
「ビューリング…気持ち、いいね」
……どうしてこうなった。
私は酷く混乱していた。夢では智子を? 現実ではキャサリンを? 何故…!?
頭を抱えて暴れたくなる衝動を抑えて起き上がり、深呼吸を始めた。
脳に酸素が行き渡って思考もクリアになり、混乱も鎮静化した。動悸も少し荒いだけとなった。
寝癖でボサボサの髪をさらに掻き乱してから前髪を持ち上げて、額を大気に広く当てる。冷却されたものの、この問題の解決案は出てこない。
「どうしてしまったんだ私は…」
つづく?