夜の窓辺の暖かさ


 音速を超えて、飛翔体が大空を飛ぶ。特に誰かに記録されているわけでもないが、彼女が装着しているストライカーユニットには速度の記録装置が
オプションで取り付けられていた。今回の計測用につけたものだが、どうも速度が伸び悩んでいる。別に計測器が原因というわけではないのだが、音速を
突破するというひとつの目標点を越えたためいまいち調整の実感がわかないのだ。マッハ二を目指してセッティングするのも考えたが、これ以上は
プロペラでは無理だろう。近年、カールスラント等が盛んに研究を進めているジェットエンジン技術――あれが組み込めれば、随分と速度はあがるの
だろうが。
 幸い、彼女……シャーロットの装着しているP-51ムスタングはエアーインテークを備えている。これをうまく使用すれば、特に改装しなくとも
ジェット機化できる可能性があった。ただし、ジェットエンジンはその動作方式から空気の吸引力が非常に強い。そのため丈の長い服を着用することが
できないのがネックだ。シャーロットの制服は、あいにくジェット機を使用できる長さを超えてしまっている。着替えなくては装備することができない
のだ。それが面倒で今までジェットのテストは行っていなかったが、そろそろ速度は限界である。いい加減、ジェットエンジンのテストに参加しないと
これ以上は速くならなさそうだった。

「でもなぁ、ジェットエンジンってイマイチ信用できないんだよなぁ……プロペラ見えないし」
『気持ちは分からんでもないがな。誰かがやらねば、技術は進歩しない』
「まーねー。バルクホルンのもそうだったっけ?」
『ああ。その甲斐もあってか、ついに明後日にD-9型のテストが開始されるんだ。楽しみだなぁ、新しい機体への転換だ』

 シャーロットとしてはゲルトルートがスピードテストに興味を持っていること自体がありえないことだったが、文句があるのかと問われるとノーと
答えるしかない。まあ最近は芳佳なんかとも仲良くやっているようだし、大分ゲルトルート自身も変わったのだろう。今日は妙にテンションが高いのが
更に不思議である。
 いずれにしろ、明るい人や楽しい人が増えるのはいいことだ。シャーロットとしても同じ大尉仲間同士、仲良くやれればいいと思っている。

「んじゃ、一回戻るわ。これ以上出なさそうだし」
『なんだ、随分諦めが早いんだな』
「もう出力全開でぶん回してるけど景色が一向に変わらないんだ。きっと昨日と同じさ」
『そんなものなのか?』
「そんなものなんだよ。お腹減った、なんか作って」
『……はぁ、お前という奴は……私は知らん』

 といいつついつもイモを用意してくれるのがゲルトルートの良いところである。分かりきっているシャーロットはほくそえみながら機速を落とし、その
笑みが聞こえていたゲルトルートは何だその笑いはとシャーロットを問い詰めようとする。だが言うと本気で出してくれなさそうだったので、知らん振りを
することにした。
 ……さて、そろそろ起床時間である。速度試験を行うために早く起きたが、本来なら寝てる時間だ。つまりほかの人が起きてきているわけはない。
たまには、ゲルトルートと一緒に大尉らしい仕事でもするか―――そんなことを考えながら、シャーロットは滑走路にアプローチした。こちらに向かって
手を振っている茶髪のツインテールが、やけに新鮮に目に映った。
 ハンガーに機体を格納して工具を片付けている間も、ゲルトルートは傍でずっと見ている。……なんとも不思議な感覚だった。

「お前、今日熱でもあんの?」
「は? いきなり何を言い出す」
「いや、なんか朝からずっと付き合ってくれちゃってさ、まあ私としては嬉しいんだけど」
「……お前にも大尉としての仕事をしてもらわねばならんからな、時間になったら引っ張っていこうかと」
「あーハイハイ、建前はいいから」

 建前なんかではないと反論するゲルトルートだったが、シャーロットは適当に手をひらひらさせながらあしらう。普段真面目でなかなか横道に逸れようと
しないゲルトルートが、こんなにいつもと違う行動に出るのはどう考えてもおかしい。以前撃墜された時だって、芳佳にクリスを重ねたことで自分自身を
見失っていたのが理由だ。そのせいで戦闘機動が滅茶苦茶になって、普段しないようなミスばかりしていた。今回だってきっと、何かしらを負っているの
だろう。決して頼れる人が居ないわけではないのだろうが、あまり知っている人には知られたくないことなのかもしれない。
 ……普段が生真面目すぎる分、たまにこういうことがあると分かりやすいのはゲルトルートの特徴だった。それは良い面でもあるかもしれないし、悪い
面でもあるかもしれない。その辺りはシャーロットには良く分からないところだし、理解しようとするつもりもなかった。

「ま、もうすぐ始業だしさ。夜にでも話ぐらいは聞くよ」
「だから何の話を―――
「隠さなくてもバレバレだってば。なんか抱えてんだろ? ホラ、さっきお前が言ったみたいにあたしら同じ階級同士仲間なんだからさ」
「……全く、お前は余計なところで鋭いな……。すまない、頼んだ」

 素直なゲルトルートというのもなかなか見ていて面白い。今日一日は、彼女を見ていれば退屈しなさそうだ。にやりと笑うと、ゲルトルートが顔を
赤くしながら抗議してくる。ああ、コイツ飽きない。
 それから二人はそうしてじゃれながら、朝食として大量のイモを茹で上げた。丁度終わったころに起床の放送が流れたので、皿に盛るだけ盛って
起こしに回った。シャーロットが妙に積極的に仕事をするので、ゲルトルートが終始不思議そうに見ていたのはまた別の話である。

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 何か予定があると、一日が過ぎるのは割と早く感じる。楽しい予定がある場合はそうでもないかもしれないが、特に感情を抱くほどのものでもない
予定だとそれまでの時間は早い。嫌いな予定が入っているともっと早く感じるが、別にシャーロットにとって嫌いな用事ではない。むしろ、普段あまり
立ち入った話をしない相手と話すのは心が躍った。

「悪いな、わざわざ部屋を使わせてもらって」
「汚いけど大目に見てなー」
「フラウに比べれば全然マシだ……とはいっても、見ていると片付けたくなるがな」

 ともあれ日も暮れて一通りの業務を終えた二人は、暗くなった空を見上げながらシャーロットの部屋でくつろいでいた。シャーロットは愛飲している
コーヒーなんかを出してみたが、ゲルトルートも普通に飲んでいるので一安心だ。まあ納豆やら肝油やらのゲテモノを飲み食いさせられれば、大抵の
モノは美味しくいただけてしまうという悲しい面もあるが。

「そういや、バルクホルンって納豆好きだよな」
「ん? ああ、まあな……っていきなりどうした」
「いや、コーヒーって好き嫌い多いから大丈夫かと思ったんだけど」
「カールスラントでは飲めない人のほうが少ないと思うぞ」
「なんだ、そーなのか」

 窓際に椅子とテーブルを並べて、部屋の明かりは敢えて付けない。気分が沈んでいるわけではなく、単に夜の景色をより楽しみたいからというだけだ。
室内が明るいと、外は電気の明かりに負けて人の目には良く見えなくなってしまう。
 ……それに、ゲルトルートはあまり気分が良さそうではない。乗り気ではないという意味ではない、やはり何かで悩んでいるのだろう。こう見えても
ルッキーニの世話をしているからか、人の話を聞くのは得意だった。芳佳によく『シャーリーさんって心も大きいですよね』と言われるのは、きっと
この辺りなのだろう。ちゃっかり「も」とか言ってる辺り、どうしても芳佳の中から胸は抜けないらしいが。

「そんで? 何が今バルクホルンの中をぐるぐるしてんのさ」
「……まあ、大したことじゃないんだろうけどな」
「言ってみなよ。大丈夫だって、真剣に悩んでる人を前にして笑ったりなんてしないよ」

 ゲルトルートは机に両肘を突いて、腕をだらんと内側に垂らしている。ため息をひとつついてから―――少しずつ話を始めた。

 最初は、最近クリスと話す機会があまりないという話だった。病院に行っても、大抵芳佳やエーリカ、リネットやルッキーニやらその辺の仲良し連中が
一緒に行くため話しに入る隙がない。帰り際も一行を先に行かせてクリスと二人きりになっても、皆をあまり待たせるわけにはいかないため早々に
切り上げなくてはならないのだ。それにクリス自身も、たくさんの人と話せることが楽しいらしい。本人が楽しいと思っていることを、姉妹とはいえ
他の人間であるゲルトルートが取り上げることはできない。来るのがエーリカか芳佳だけなら良いのだが、二人以上一緒についてくるとどんな組み合わせでも
話が盛り上がってしまって付け入る隙がなくなる。妹大好きっ子なゲルトルートにとっては、なかなか辛いことだった。

「まあ、さっきも言ったがクリスが楽しんでるんだ。私がどうこうできる話ではないんだが、それでもな……」
「仕方ないさ。バルクホルンにとって妹さんの存在はどんなものよりも一番大切だろ? その交流の時間を奪われるってのは、誰だって辛いもんさ」
「……だからと言って、本当に独り占めするわけにもいかないから……」
「まーねー。そこはお姉ちゃんとして、我慢することを妹さんに教える場面でもあるかもね」

 クリスだって、ゲルトルートがどれだけクリスのことを想っているかは知っているはずだ。だからこそ、ゲルトルートがぐっと我慢して堪えることで、
クリスに『我慢することも必要』であることを教えてやれる。まだまだ幼いクリスにとっては、その辺りも教えてやらないといけないことなのだ。
 ゲルトルートは苦い顔のまま、コーヒーを啜りながらどうしたもんかと口を動かし続ける。クリスと二人きりで話す時間が欲しいが……なんとかならない
ものかと。シャーロットとしてはひとつ案を思いついたのだが、言う隙もなくゲルトルートが話すので言わないことにした。それに余計な事を言うよりは、
ゲルトルート本人にどうすべきか判断させたほうがいいかもしれない。いくらこの基地の副官を務めたり飛行隊長を務めるようなエースウィッチとはいえ、
ゲルトルート・バルクホルンは未だ十八歳。成人すらしていないのだ。彼女もまた、成長するべき時期にあると言える。
 それからしばらく話していると、だんだん話の方向性が変わってくる。ルッキーニの奔放ぶりに頭を抱えることが多かったり、エーリカのセクハラに
悩まされたり。日常生活の中でそういう小さな苦労がいくつもあって、ゲルトルートとしては副官として悩まされてばかりである。ミーナが半分容認して
いるのが、更にたちの悪いところだった。そうして話を聞いていくうち、ゲルトルートは基地内のことに関して次々と文句を言い始める。今までずっと
溜めてきた不満が、愚痴や文句の形をとって少しずつ出てきたのだ。別にシャーロットも聞いてて飽きないし退屈でもないし、自分のことを言われても
大体自分の言動は把握しているので特になんとも思わなかった。まあそれが今こうしてゲルトルートが愚痴を言う原因にもなっているのだが、シャーロットは
気づいていながら見て見ぬフリで流すことにする。そのほうが自分も気楽である。どちらにしろ自分かゲルトルートかどっちかが不満を持つのだから、
ならば不満や文句の受け皿になれるほど余裕のある自分は余裕を維持したほうがいい。その場はゲルトルートに背負ってもらって、後で溜まったときに
こうして一気にぶちまけてもらえばいい。ルッキーニを世話している経験から、こういうのに慣れて常に余裕を持っていられるのはシャーロットにとって
大きなプラスだった。

「はぁ、全く……言い出せばキリがないな、本当に……ミーナもミーナだ、なんでこんな状態で放任なんてしていられるのか」
「それで戦果が上がってるから隊長としては文句も出ないんじゃないか? 下手に締め付けて戦果がなくなるよりはマシだろ」
「そこが部隊長としての技量の見せ所だろうに。ミーナもまだまだ未熟だ」
「ハハハ、そう言ってやんなよ。中佐は中佐なりに必死なんだよ、きっと」
「少佐も咎めようとしないからな……部隊内で仲が良すぎると、それぞれ妥協に走るからいけないんだ」

 まるで酒が入ったかのように、ゲルトルートはひたすら今まで溜まったものを吐き出していく。普通の人ならもう分かったとでも言って中断したくなる
ほど延々と続くが、シャーロットは自分の負担にならないようにそれをさらさらとたやすく受け流していく。ゲルトルートとしては、自覚はないものの
言えば楽になるのでそれでいい。双方にとって重荷になっていないため、愚痴や文句の溜まり場だというのに不思議とムードは和やかだった。

 ……そんな時間が、ずっと流れて。いつの間にか、就寝時間を大幅に過ぎていた。

「っと、やば」
「ん、どうした」
「時間時間! もう三十分も過ぎてる」
「な!? ……しまった、すまん」
「いやいや、全然いいけどさ。そっちが大変じゃないか?」

 話し始めたのは二時間以上前だった気がするが、どうやら本気でそれだけ話し込んでいたようだ。振り返ってみるとあっという間の気がして、結論から
言えば充実した時間だったのかもしれない。シャーロットとしてもただ聞き流しているだけの時間だったように思えたが、それでも不思議と退屈はしなかった。
それで、皆がゲルトルートを愛する理由がなんとなく分かった。カタブツなのは確かだが、話が弾み始めるとなかなか止まらない。それはきっと、どんな
分野でも同じなのだろう。だから軍の意識なんて欠片もない芳佳とも、ああやって仲良く話せるのだ。
 本当に『なんとなく』のレベルではあったが、ゲルトルートの魅力に少し気づいた気がする。もっと立ち入った話ができれば、きっといい相棒に
なるだろう。戦闘面でも互いの不足はカバーできる技量は持ち合わせているため、シャーロットとしてはなかなか面白い展開である。

「ごめんな、話切っちゃって」
「いや、こっちこそすまない。ずっと愚痴ばかりで……つまらなかっただろう、申し訳ない」
「そんなに畏まるなって。つまんなかったらとっくに追い出してるよ」
「そ、そうか……まあこれ以上眠る時間を削るのはもっと悪い、これで失礼する」

 本当に、どこまでもカタブツだ。シャーロットは内心苦笑しながら、でもそれがコイツの良いところなんだと思った。確かに軍規だのどうのと厳しくて
『委員長』だが、それ故に相手に対する気遣いも完璧なのだ。きっと愚痴を言っている間も、無意識のうちにシャーロットに気を使っていただろう。
それでもストレスが発散できる辺り、本当に器用な奴だと心底感心する。どこかゲルトルートの力の理由を知った感じがした。

「また明日にでも続き話すか?」
「いや、いい。またお前に文句を言うだけになりそうだからな」
「良いんだよ、それで。まだ山のようにあるんだろ? そんなのずっと一人で抱え込んでたら、いつか爆発するぞ」
「……それもそうだが、だからといって―――
「ハイハイ、分かったから。んじゃ明日も待ってるからな」

 ……本当に。どこまでも、気を使いすぎる女だ。少しは図々しくなった方が良いんじゃないかと思うぐらい、根は優しくて臆病。だからシャーロットも、
なんとなく守りたい気持ちに駆られる。表はまるで違うが、その性質はルッキーニと似たり寄ったりだ。シャーロットにはやりやすい相手である。

「すまないな、本当に助かる。お前が仲間で良かった」
「大げさだっての。それより、明日は宮藤の訓練じゃなかったっけ?」
「っと、そういえばそうだったな……忘れるところだった、助かったよ。コーヒーも美味しかった、本当に今日はありがとう」
「良いって。そんじゃお休みな」
「ああ、おやすみ」

 ――最後まで遠慮しながら、ゲルトルートは部屋を後にした。残ったシャーロットは、もう少し話していたかったなぁと今になって思う。まあ時間が
押しているのだ、これ以上遅らせるわけには行かない。気持ちを入れ替え、マグカップをお盆に載せていつでも運べるようにしてからベッドにもぐった。
どうやら明日は、始業のベルで起きることになりそうだ。……それでも起きなかったら悲惨だが。

「ま、ルッキーニじゃないしねー」

 多分大丈夫だろう。あくまで楽観的な思考を崩さず、シャーロットは眠りについた。

 - - - - -


「どう、少しは良くなった?」
「のわ!? み、ミーナっ!?」

 シャーロットの部屋から出て、自室へ急ごうとしたそのときに後ろから声をかけられる。全く心臓に悪いが、就寝時間を超過して話し込んでいたのは
事実なので文句は言えなかった。それに……下手をしたら聞かれていたかもしれない。それはなかなか恐ろしかった、上官への侮辱で罪に問われるかも
知れない。

「き……聞いていたか?」
「流石に何を話してるかまでは聞こえなかったけれど、概ね基地内の不満を洗いざらいってとこかしら?」
「う……」
「きっとその中には私の話も入ってたんでしょうね、ふふ」

 特に意味を持たなさそうな笑みだったが、その意図するところが分からないゲルトルートはなお恐ろしかった。聞こえていないとは言っているが、
きっとどんな内容を話していたかは察しが着いていることだろう。まだ固有魔法で聴力を上げて全部聞き取ってやろうとかそんなことをしなかった
だけでも、むしろ感謝するべきかもしれない。
 そんな心臓バクバクのゲルトルートを見て、ミーナもぷっと小さく吹き出した。

「あはは、大丈夫よ。なにも怒ってないし、怒ろうとも思わないわ。だってトゥルーデだもの」
「ミーナ……」
「親友同士でも不満を持つのは当然よ。むしろ、親友同士だからこそ不満を持つの。その不満をどんな形で処理するかがポイントね」

 下手に本人に聞こえるような処理の仕方をしたら、関係が悪化するのは避けられない。ルッキーニなんかに相談したら一瞬で全部筒抜けになるだろう。
そういう意味では、シャーロットに相談したのは正解だったといえる。まあゲルトルートも、そう思ったからシャーロットを頼ったわけだが。ともあれ、
ミーナも今回の件は理解してくれているようでゲルトルートからすれば大助かりである。

「もし良かったら、今度聞かせて。今後の参考にするわ」
「あまり本人を前にしては言いたくないな……後が怖い」
「大丈夫よ、トゥルーデがそんな酷いこと言うとも思えないし。貴女が文句を言うっていったら、大体運営関係でしょう?」
「……はあ、本当にお前には何も隠せないな」
「だってもう大分長いからね。規則正しい生活を好む貴女からしたら、ここの居心地はあまり良くないと思うけれど」

 我慢させることにはなるが、現状から軍規を意識した生活に変えていくのは相当に至難の業と言える。今までの生活ができなくなると聞いて、ウィッチ隊が
賛成するのは果たして何人居るだろうか。片手だけでも残るぐらい……つまり五本の指を数えるのに使えるぐらい、要は五人でも居てくれれば検討もする。
だが検討したところで、ミーナにはどう変えていけばいいかが具体的には分からない。いきなり規則だらけのキツキツの生活を強要しても、ついてくるのは
二~三人が関の山だろう。
 ミーナがそう説明すると、ゲルトルートも納得せざるを得ない。

「その能力不足は私も認めるわ。まだ十八だもの、仕方ないわ……って言うと、言い訳になっちゃうわね」
「……まあ、私もいろいろと不足は多い。お前と同じことをやれといわれてできる自信はないからな。私も、我侭を言ってしまっている」
「いいのよ、むしろトゥルーデはもっと我侭になってもいいぐらいだわ」

 よく言われるが、私はこれで十分だ。ゲルトルートがそう返事すると、ミーナは困ったような顔で意地っ張りだと抗議する。そうして二人は談笑しながら、
その後自分の部屋へとそれぞれ戻っていった。





 翌朝、シャーロットが遅刻寸前に起きてきたのはまた別の話。朝食の席は、いつにもまして賑やかであった。





 fin.






「いやー、昨日ちーっと夜更かししちゃってさー、アッハハ」
「夜更かしって……まさかストライカーの整備でもしてたのか?」
「いやいや少佐、そんなハンガーで音立ててたら少佐だって気づくでしょう」
「……シャーリー、昨日は――――
「寝たくないからって眠気覚ましにコーヒー飲んだら飲みすぎちゃってさ、胃がたぷんたぷんになっちゃって」
「もうシャーリーってばなにやってんのー」
「ルッキーニに言われるなんて私も末期だなぁ、アッハハ!」
「あの、シャーリー、それは――――
「……トゥルーデ。やめなさい」
「ミーナ、でも」
「いいのよ、これで。シャーリーさん、すごく楽しそうにしてるでしょう」
「……まあ、そうだけど……」
「貴女のこと庇ってあげられるのが嬉しいのよ。それを邪魔する気?」
「……」
「ほら、食べましょ? せっかく宮藤さんとリーネさんが作ってくれたのに冷めちゃうわ」
「……すまないな、ありがとう。本当に、私は一人では生きていけないな」
「だから我侭になれって言ってるのよ。もっとほかの人を頼らないと、貴女持たないわよ?」
「……考えてみる」


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