どんとこい"lazy"


そよそよ。 開け放した窓から、優しいそよ風が吹き込んでくる。
ふわふわと浮き上がるレースのカーテンが、早すぎる初夏の陽射しを和らげてくれる。

「ここをこうして、こうやって……。 あー。 ちょっとウーシュ。 まだ動いちゃ駄目だってば。」
読んでいる本から目を離さずに、ウルスラがこくりと頷く。 お行儀良く揃った膝。 その右足だけをぴょこりと持ち上げてる私。

「でーきた! やった! かんぺき! 自信作! 見て見てウーシュ! 可愛いね!」
「……ありがとう、姉さま。」
表情は変わってないけれど、私には伝わる。 ううん。 よく見れば、ほっぺがほんのり染まっている。
ニコニコしながら隣に腰掛けて、ぴたっと足をつける。 ウルスラも本から視線を外して、足元に落とした。
お揃いのペディキュア。 ウルスラの方がちょっぴり出来がいい気がするのは、もちろん私の足を実験台にしたから。
二人で顔を見合わせてにっこり。 星の砂のような綺麗なラメ。 二人の足を並べると、穏やかな潮騒が聞こえてきそう。

「台所借りるぞ、ハルトマン。 スイカを貰ってきた。」
中々の出来映えに悦に入っていると、お邪魔しまーすも言わないで、トゥルーデが上がりこんできた。
いつもの事。 ひょこひょこ台所までついていく。 たん、たん。 慣れた手つきでスイカを切り出す様を、ぼんやりと見やる。

「スイカなんて珍しいねぇー。 わ! しかも四角い! ますます珍しいですな。 誰から貰ったの?」
「宮藤だ。 みんなで食べてくれ、だとさ。」
「さっすが宮藤。 気がきくね! ところでさ、トゥルーデ。 ほりほり。 私、いつもとどっか違ってると思わない?」
「ん? どっか違ってるか? えーと……。 あ。 ……シャツを裏表に着ていない?」
「なわけあるか!!! 普段から着てないよ!」
「お邪魔しまーす。」
まったくもー! ちっとも気付かないニブちんにイライラしていると、ちゃんとご挨拶のできるニブちんジュニアがやってきた。

「クリス、ちゃーす。 あれあれあれ? なんというセクシーギャル! そのキャミ、新しく買った?」
「エーリカさん、ちゃーす。 えへへ。 週末に、芳佳ちゃんとアウトレット行ってきたから。 一足早くサマーガールでっす!」
サンダルを脱ぎながら、伸ばしてポニーに結った髪の毛をかきあげるクリス。 おぉ!
なんだその仕草! 色っぽいぞ!! 年下の癖に、生意気な奴めー。
玄関先で靴を履いたり脱いだりする時って、その人の女の子らしさがモロに出るよねー。 私も可愛く靴を脱ぐ練習しよっかな?

「あ。 そのネイルかわいー。 これから足、見られまくる季節ですもんね。 抜かりなしなんだぁ、エーリカさん。」
おぉう。 めざとい! めざといね! やっぱりクリスはよく気が付くいい子だねー。 お姉ちゃんとは大違いだよ!

「クリスにもやったげよっか……とと。 ごめん。 せっかくのお揃いを人に分けるの?ってウーシュがむくれてるから、また今度ね。」
「……別にむくれてません。」
「ウルスラさんのやきもち妬きー。」
ポーチをぽーいとソファの上に放り投げると、カーペットの上に大の字になってくつろぐクリス。
ムスッとしながら、足先でクリスをぐりぐりするウルスラ。 ニコニコそれを眺めてると、トゥルーデがお皿を持ってやってきた。

「スイカ切ったぞ。 四角いわ、種は無いわ、妙ちきりんな感じだがな。」
しゃく、しゃく。 窓際に四人並んで腰掛けて、スイカをかじる。 うーん。 確かに甘いし、汁気たっぷりなんだけど。
いつもはあんなに煩わしい種なのに、無いと何だか物足りない。 これが宮藤の言う「フゼイ」かな?
誰よりも早く食べ終えて、ごろりーんと床に寝っ転がる。 庭の青葉でちょうど木陰。 木漏れ日、眩しい。 涼しぃ~。

「あーあ、そろそろ中間テストか。 ウィッチだった頃は、試験勉強なんてしなくてよかったのになぁ。」
「戦いよりはテストの方がずっといいだろう。 ふ。 とは言っても、テストの度にウルスラと比較されるんじゃ、堪らないか。」
「そうだよ! 双子って損だよねぇー。 幸せは二人で分かち合いましょう。 苦労は一人でしょいこみましょう! だもん!」
「……そんな台詞は、自分だけで宿題を終えられるようになってから言って。」
うぎゅ。 い、言うじゃない。 さっきの事、根に持ってるな? エーリカお姉さまの偉大さを思い知らせてやる必要があるねー。
ウルスラをからかって敬語を剥ぎ取る遊びを始めようとしたら、んぐ。 クリスがお腹の上に乗っかってきた。

「私も芳佳ちゃんも中の中なんですよねー。 一夜漬けなんて、とても無理。 こつこつやらないと、危ないし。
 エーリカさん、本気になったら凄いんだし? 一緒にお勉強会やりましょうよ! そのまま、お泊り会になってもいいし。」
にっこり。 おおぉ。 優しい。 本当にクリスは優しいね! 出来の悪い姉をニコニコ支える……これぞ理想の妹だよ!

「いいなー。 やっぱりクリスいいなー。 ね、トゥルーデ。 クリス、私のお嫁にしてもいい? この子、家庭の必需品だよ!」
「誰がやるか!! ダメだダメだ! 特にお前だけは絶・対・ダメ! クリスは誰にもや・ら・ん・ぞ!!!!」
「えぇー。 私、エーリカさんのお嫁になりたいなぁー。」
二人でけらけらと笑う。 憮然とそっぽを向くトゥルーデのへの字口に感じる、あたたかな感情。 そっと手を重ねて、にっこり言う。

「しょーがないなー。 クリスが駄目だって言うなら、トゥルーデで我慢したげよう。 トゥルーデ。 幸せにしてね?」
「……片付けてくる。」
あっはっはっ、怒っちゃった。 ふふふと笑ってたら、あれ。 腰を上げて、歩き出そうとした、そのほんの一瞬。
きゅ。 トゥルーデが、周りには分からないくらいの加減で、私の手を握り返してきた。
ちらりと私の目を見たトゥルーデは、ふん、と鼻を鳴らして台所へと消えていった。 ……ぷっ。 ふふ。 あはははは。
じゃれてくるクリスの髪の毛をくしゃくしゃとしながら、声をたてて笑う。
難しい奴! 参ったねぇ、ウーシュ。 どうやら私、お嫁の貰い手にだけは、困らないみたいだよー。
そんな事を考えながらウルスラを見たら、これが双子の魔力というものでありましょうか。 ぽつり、ばっさり。

「姉さまは、どこにもお嫁にやりません。 ……世間様に、迷惑ですから。」
それきり、本を取って背を向けるウルスラ。 ぽかんとそれを見る私とクリス。 ……あのさぁ、後ろからでも丸分かりだよ。
耳が真っ赤。 目が字を追ってない。 ……本当にまぁ、この子も、トゥルーデも。 く。 くくく。
クリスが先に笑い出して。 つられて私も大きな波が来た。

あぁ、なんと平和な昼下がり。 戦いの日々も今はむかし。 そよ風が髪の毛を優しく撫でる。
若葉のような私たち。 明日になれば、忘れるような。 どってことない日の午後なのでした。

おしまい


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