無題


「エーリカ・ハルトマン中尉」
「…はい」

怖い。めっちゃ怖い。

私は今、執務室に呼ばれていた。その真ん中の机から、小さいネウロイなら倒せるんじゃないかと思う程の眼光で見据えてくるのは、隊長であるミーナだ。

あまりの迫力に冷や汗かきながら、自分が何をしでかしてしまったのか思い出す。
寝坊か?いやそれはいつもの事だし。ご飯のつまみ食い?…はルッキーニのが酷いし。部屋の片付け?…はトゥルーデが叱り役だし。

他に何かしたっけ。何言われるんだろ。

「今日から10日間、あなたに禁欲を命じます」
「……へっ?」
「つまり、トゥルーデ…バルクホルン大尉との性的接触を禁止します」
「えぇぇーっ!!」

思わず声を上げてしまった。
だってだってトゥルーデとヤっちゃいけないってなんだそれ!

「なんでそんなんミーナに言われなきゃなんないのさ!」
「…なんでかわからない?」

ミーナがにこっと笑ったので、私はちょっと身構えた。

「ここ最近、毎晩毎晩してるでしょう?あなたはいつも眠そうだしトゥルーデも疲れ気味みたいだし。おまけに時々、ドアをちゃんと閉めてない時もあって声が漏れてたりして…年端もいかない子もいるのに教育に悪いでしょう」

う…。毎晩楽しんでるのバレてたのか。
てゆうかドア開いてたってのがヤバい。トゥルーデにバレたらめっちゃ怒られるよ。

「大体、私だって我慢してるのに…」
「え?」
「…なんでもないわ。それより、わかった?10日間禁欲よ」
「…はぁーい…」

従っておかないと後が怖いし、私は力無く返事した。
あーぁ、10日もトゥルーデに触れないのかぁ。トゥルーデ不足で死んじゃうよ、私。


―――


禁欲を命じられて5日目…
私はなるべく、トゥルーデの近くにいないようにしていた。
だって側にいたら色々したくなっちゃうんだもん。胸揉んだりとかちゅーしたりとか抱きついたりとか胸揉んだりとか揉んだりとか。
当然そんな事したら我慢きかなくなっちゃうし。

今日も、私はトゥルーデから離れた席でご飯を食べていた。

「なぁハルトマン、堅物と喧嘩でもした?」

私の隣からシャーリーがそう聞いてきた。

「してないよ。隊長命令なの」
「は?」
「トゥルーデに欲情するな、って無理難題を吹っ掛けられてます」

シャーリーにだけ聞こえるように言ったら、彼女は吹き出した。

「あはは、そりゃあ大変だ。まぁ確かにあんたたち最近お盛んだったもんな」

う~ん…シャーリーにまでバレてるのか。

「でも、欲情するなはキツいね~。アイツ、結構フェロモン垂れ流してんもん」
「そうそう…ってトゥルーデをそんな目でみんな」
「お、どっかのヘタレみたい」

シャーリーはくすくす笑いながら、席を立ってトゥルーデの方へ歩いていった。

「お~い堅物~」
「うわっ!な、なっ、何をする!」
「乳マッサージをちょっとね~」
「馬鹿者!離せ、こらっ…」

…おいシャーリー。禁欲中だってわかってながら私の目の前で色良し張り良しを堪能するとは。
後で覚えてろよ。

「ごちそうさまー」

ご飯を食べきって立ち上がった。
ちらっとトゥルーデと目が合ったけど、私はそのまま食堂を出た。



「あ゛ーっ、もーダメだ~」

自室に帰り、ベッドに倒れ込んで一人言。
ほんとにもうダメだ、トゥルーデ不足の禁断症状が出始めてる。
さわりたいだきしめたいちゅーしたいっ!!
手足をバタバタさせたら、ベッドに乗っかってた何か固い物に腕をぶつけた。痛い…

「…ん?」

腕を擦ってたら、こんこんとドアを叩く音が。

「どーぞ~」

返事したら少し置いてドアが開いた。入ってきたのは…

「トゥ、トゥルーデ!?」

いつもの仏頂面のトゥルーデは、部屋に入るなりドアをばたんと締めて鍵をかけた。
密室だ。なんかやらしい響き。その密室にトゥルーデと二人きり。
キツいよ、これ。

トゥルーデはそのままずかずかと…足元の荷物はちゃんと避けながら、ベッドに向かってきた。

「なに、トゥルーデ…」
「エーリカ」

ベッドに手をついて、トゥルーデは私に詰め寄ってきた。
ちょっとちょっと。そんな近付かれたらヤバいんですけど。
心の中で焦ってると、トゥルーデは少し悲しそうな顔をした。

「何か…私に怒ってるのか?」
「え?」
「…最近、避けられている気がして…」
「あ…ぁ、そのー…」

欲情しないように避けてます、なんて言ったら絶対怒られるよなー。

「理由だけでも言ってくれ」
「えっと…怒ってるとかじゃないんだけど~…」
「じゃあ何だ?…私が、嫌いになったのか?」
「そんなワケないじゃん!」

思いがけない言葉に、思わずトゥルーデの肩を掴んでしまった。

「違うの、嫌いになんかなんないよ。ちょっと訳有りで…」

なんて言おうか迷ってると、トゥルーデが頬を染めて微笑んだ。

「そうか…嫌いになったんじゃ、ないのか」

………。ダメだ、可愛い。もう限界。

「トゥルーデ…!」

今まで我慢していた分を込めて、トゥルーデをおもいっきり抱き締めた。

「エーリカ…?」
「ダメ、無理。トゥルーデ好き、大好きだよ」
「え、ちょ…んっ…」

戸惑うトゥルーデをベッドに引きずり込み、その唇を私は夢中で貪った。

「ん…は、ふ…」

舌を絡めながら、両手で体を撫で回す。
あぁ、柔らかい。

「エーリカ、待っ…」
「待てないっ」

脱がせるのももどかしくて、軍服とシャツを一気に首までたくしあげた。下着をずらして柔らかい乳房に頬擦りする。

「ひゃ…ん……っ、あぁっ…」

くすぐったそうな声は、胸の先端にしゃぶりついた途端甘い喘ぎに変わった。

「ん…トゥルーデ…」
「エー…リカぁ、あ…」

柔らかさを充分堪能してから、体を下にずらした。
引き締まったお腹に何度か口付け、ズボンを脱がせる。

「あ…」

トゥルーデの、すごい。
もしかしてトゥルーデも我慢してたのかな。
そう思ったら、愛しさが倍増した。

「トゥルーデぇ…」

甘ったるい声を出しながら、蜜が溢れるそこにそっと口付ける。
甘酸っぱいトゥルーデの味。久しぶりのその味に酔ってしまいそう。

「あ、ぁん…エーリカぁ…」

零れないように丁寧に舐めて啜っていると、トゥルーデがねだるように腰を揺らした。

「うん、トゥルーデ」

顔を上げ、濡れきったそこに指をゆっくり挿れていった。

「ふぁ…あぁッ…」
「トゥルーデ…気持ちいい?」
「ん、っ…あ、ぅ…」

こくこく頷きながら私にしがみつくトゥルーデは、ほんとに可愛くって。

「エ、…リカぁっ…ああぁんっ…!」
「トゥルーデ…!」

びくんと震えたトゥルーデと一緒に、私も絶頂を迎えたような気がした。

「はぁ…エーリカ…」
「トゥルーデ、もっと…」
「んっ…」

一度入ったスイッチは簡単に止まるはずなく。
私とトゥルーデは、何度も何度もお互いを求め合った。


―――


「禁欲を命じられた?」
「うん、そう」

いつの間にか二人とも裸の状態で寝転んだまま、私はトゥルーデに経緯を話した。

「リベリアンに、お前が何か怒ってるみたいだと聞いたんだが…くそあいつめ、でたらめを言いおって…」
「シャーリーが?」

それはちょっと感謝しないと。
これから一ヶ月ご飯からめぼしいオカズをかすめてやろうと思ってたけど、一週間にしといてやるか。胸触ったのは現行犯だし。

「それより問題は、命令違反しちゃった事だな~」

そう言うと、トゥルーデも頷いた。

「後で自己申告に行くぞ。勿論私も行く」
「えーやだー!期間延びるかもじゃん!」
「申告しないで後でバレた方が罪が重くなるぞ」
「うぅ…」

また一週間とか延びたらどうしよう…今度こそ耐えらんないよ…



私たちは少し休んでから、執務室に向かった。

「ん?」
「どしたの?」
「先客がいるようだ」

見ると、執務室へ入っていく少佐の姿が見えた。

「少し待つか」
「うん」

少佐の用が終わるまで外で待ってようと、壁に寄りかかっていたら。

「ミーナ、聞いたぞ。ハルトマンに禁欲を命じたらしいな」
「…えぇ、そうだけど」

微かに二人の会話が漏れてきた。内容が内容なだけに、耳をすまして会話を聞く。

「どうしてまたそんな事を命じたんだ?」
「…やりすぎは戦いに支障が出るでしょう」
「本当にそれが理由か?」

ガタッ、と小さな音。

「羨ましかったんじゃないのか?」
「な…何言ってるの、美緒…」
「お前は気張り過ぎだ。もっと私に可愛がられに来い。でないと私も限界だ」
「え、…ぁ、美緒っ…」

そして聞こえる、ミーナの甘い声。

「……申告しなくてもいいんじゃない」
「…そうかもしれないな」

私たちは静かにそこを離れる事にした。

次の日、私の禁欲命令は解除されましたとさ。
まぁ、要は欲求不満は危険って事で。
我慢が限界になるとみんな狼になっちゃうのを、うちの狼さんは知らなかったって話でした。


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