リバーシブルエイラ


明るい陽の光が海へと沈み、暗い闇夜の世界が音もなく空いっぱいに満ち広がる。
普段ならば、これからが私の生活時間なのだけれど、今日はちょっと咳をしただけなのに、心配性のエイラに部屋で休んでいる様に手配をされてしまった。
苦笑いのミーナ中佐に自室待機を命じられて、私は力無くベッドへと横になった。
かすかな音もなく、静寂だけがそっと忍び寄る私の部屋。
今日だけだかんナ、と言いつつも私を受け入れてくれるエイラは今は夜空の中。
この温か味のない孤独に、私はいつまで経っても慣れる事が出来ないでいた。
可笑しな話なのかもしれない。
唯一の年下であるルッキーニちゃんですら、ちゃんと一人で眠れるのに。
エイラと言う温かな居場所を知ってしまった私は、そこから抜け出す事を拒んでいるのだ。
 
「エイラ……」
 
呟いたのは、狂おしい程に愛しい貴女の名前。
いくら目を閉じていても、この暗い部屋に貴女の声が聞こえる事はないのに。
どうしようもなく優しくて、どうしようもないくらい意気地もなくて、でも、どうしようもないくらい私は貴女に惹かれている。
私がそっと伸ばした手に、貴女はいつも気付かない。
優しくて、温かくて。
でも、鈍くて、鈍感で、朴念仁で、ヘタレで、手も繋いでくれないし、私だって頑張ってアプローチしてるのに無反応だし……って。
……改めて考えたら、エイラはやっぱり意地悪だ。
うん、エイラが悪いんだ。
こうやって普段から私を甘やかせる癖に、私が一番して欲しい事はしてくれないんだから。
だから……
 
「……今日は、いいよね…?」
 
部屋は暗いし、一人だし、エイラはいないし。
なら、仕方ない。
私だって、ちょっとは頑張ったよね?
一人で眠れる様に努力はした。
我慢もした。
でも、限界だからいいよね?
 
「………ん、しょ…」
 
ここで取り出したのは、いつかエイラに貰ったネコペンギンのぬいぐるみ。
大切な大切な、私の宝物。
だけど、このネコペンギンは少し前にちょっとした事件を経て、真・ネコペンギンとなったのだ。
芳佳ちゃんとリーネちゃん協力の元、私の宝物は家宝へとジョブチェンジ。
……エイラには秘密で内緒の、私だけの宝物が完成したのだ。
私はネコペンギンの背中を撫でる様に探る。
すると、ネコペンギンの頭の近くで、固い金属がチャリ…と私の指に触れた。
私はソレを掴むとゆっくりと背中の方へと下ろしてゆく。

そう。
真・ネコペンギンには背中にファスナーが追加されたのだ。
勿論ファスナーだけが付いている訳じゃなくて、むしろ本番はここからだ。
一番下までファスナーを下ろすと、うにゅりん、と開いたファスナーの中を外に、ネコペンギンを内側になるようにひっくり返した。
そして、私はネコペンギンの中から現れたソレを見ただけで、頬が緩むのがわかった。
ボタンで現れたつぶらな瞳。
糸で造られた緩く微笑む口。
頬に付いた小さなワンポイントがより一層の可愛らしさを引き立たせる。
私はゆっくりとファスナーを閉じると、ぎゅぅっと抱きしめた。
 
「…………エイラッ」
 
芳佳ちゃんとリーネちゃんが作ってくれたのは、デフォルメされた二等身エイラ。
エイラに見つかったら、きっとまたオロオロしてヘタレてしまう。
だからこのエイラは私の秘密。
エイラが意地悪した時だけ、エイラの代わりに思い切りに甘えるのだ。
 
「……んふふ~…」
 
ふかふかのぬいぐるみエイラに、私は頬擦りをした。
時々エイラにネコペンギン状態で持って貰っていたので、微かにエイラの匂いがする。
私はきっと、どうしようもないくらい単純で、子供なのだと思う。
だって、もうさっきまで怖いだのなんだの言っていた暗闇も気分も、旅立ってしまって無くなった。
 
「………んっ……おやすみ、エイラ……」
 
きっと今日は、とっても幸せな夢が見れるに違いない。
私はいつまでもぬいぐるみエイラと戯れていたい気持ちを我慢して、その代わりと言ってはなんだけど、抱き抱える様にして目を閉じた。
いつかエイラ本人にしたい、おやすみの口付けをして。
数分も立たぬ内に、私は夢の世界へと旅立った。
 
その晩、サーニャは何故か501人のちっちゃなエイラ達とぬいぐるみの国を歩く夢を見たとか、見なかったとか。
そして翌朝、幸せそうに眠ったサーニャとサーニャに抱きしめられるデフォルメされた自分のぬいぐるみを見て、呆然としていたエイラがいたそうだが、それはまた別のお話。
 
 
おーわり


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