Un sogno
星の明るい夜。
あたしは、ルッキーニに呼び出されてテラスへとやって来た。
「おう、どうしたんだルッキーニ」
海の方を向いていたルッキーニは、こちらを振り向くとこう言った。
「……お別れの挨拶をしようと思って」
「……え?」
「今まで本当にありがとう、シャーリー」
「な、何で!? どうして!?」
「もう、だめなんだよあたし達……」
「そ、そんな! あたしが何か悪いことをしたのか!?」
「シャーリーは悪くないよ。でも、もう遅いんだ……」
そういうと、ルッキーニは空へと飛び出した。
「バイバイ、シャーリー」
「ま、待ってくれよルッキーニ、あたしはこれからどうやって生きていけば良いんだ!!」
慌てて追いかけようとするが、ルッキーニは空の向こうへと消えていってしまった。
「あたしを1人にしないでくれ! ルッキーニ!!」
「ルッキーニー!!」
目が覚めると、そこはあたしの部屋だった。
「な、なんだ、夢か……」
あたしはハァ、とため息をついた。
動悸が激しく、汗がびっしょりと背中を濡らしている。
外は大雨だった。
いつの間に降り始めたのだろう。雨風が窓を叩き、雷が鳴り響いている。
「さっきの、夢にしてはリアルだったな……」
しかし、まるで末期のカップルみたいな会話だったな。
あたしとルッキーニはただの友達だ。
それだけのはずなのに、なんだろう、この何ともいえない気持ちは……。
と、突然扉がドンドンと叩かれた。
時計を見ると午前2時40分。こんな時間にあたしの部屋を訪ねるなんて、誰だろう?
「はいはーい、今開けるぞ。……ってルッキーニ! どうしたんだその格好!?」
扉を開けると、そこには全身がドロドロになったルッキーニが立っていた。
「木の上で寝てたら雨が降ってきてこんなになっちゃった~」
「あらら、大丈夫か?」
「大丈夫じゃない~」
「ほらほら泣くなって。そうだ、一緒に風呂に入りに行くか?」
「……うん」
当たり前だが、風呂には誰も入っていなかった。
雨と土で汚れた服を脱がせる。
これは全部洗濯だな。朝になったら、宮藤にでも頼んでおこう。
「ほら、洗ってあげるからおいで」
「うじゅー」
頭と体を丹念に洗ってやり、ついでに自分の汗も流す。
「ありがとーシャーリー」
「どういたしまして。雨が降りそうな日は外で寝ちゃダメだぞ? こんなふうになっちゃうからな」
「そんなのわかんないよー! 夜は晴れてたのに!!」
そういえばそうだっけ。
というか、自分の部屋で寝ればいいのにといつも思う。
湯船に浸かると、ルッキーニはうとうととし始めた。
「まあ、こんな時間だし仕方ないか……って、あたしの胸を枕にするな!」
「シャーリーのおっぱい、気持ちいい……」
「はぁ……まあいいか」
頭をなでてやる。寝顔もかわいいなルッキーニは。
その体を、そっと抱きしめてみる。
「……ん? どうしたのシャーリー」
「いや、突然抱きしめたくなった」
ルッキーニがこちらを向き、不思議そうな顔をする。
「あれ? シャーリー、泣いてるの?」
気がつくと、目から涙がこぼれ落ちていた。
「あ、あはは、どうしたのかな、あたし」
突然涙を流すなんて、どうしちゃったんだろうあたし。
そして、なんだろう、この気持ちは。
「シャ、シャーリーどうしたの!? 泣かないで!」
「あ、ああ、ごめんなルッキーニ」
「どうしたの? 私に起こされちゃったから泣いてるの?」
「そうじゃないんだ、そうじゃないんだ……」
ルッキーニの体を、しっかりと抱きしめる。
その体は年相応に小さい。
顔が胸に押しつけられる形となった。
「く、苦しいよシャーリー」
「……夢を見たんだ」
「夢?」
「ある日突然、お前があたしから離れていってしまう夢。こうして毎日一緒にいることが当たり前のようになってるけどさ、それでもいつか別れる時が来てしまうんだ、って思うとな……」
「…………」
「悲しくて、涙が止まらなくなってしまうんだ」
やっと、気づくことができた。
ルッキーニと過ごす内に芽生えた、1つの感情。
混じりけのない思い。
自分の気持ちを裏切ることなんてできっこない。
「あたし、ルッキーニのことが好きみたいだ」
恥ずかしくて、手で顔を覆う。
「……ごめんな、変なこと言っちゃって」
すると、ルッキーニが、あたしの体に手を回してきた。
「バカバカバカ!! あたしがシャーリーから離れるわけないじゃない!!! あたしとシャーリーは、ずうっと一緒だよ!!!」
そして、
あたしの唇にやわらかいものが触れた。
それがルッキーニの唇だということに気づくのに時間はかからなかった。
「あたしも大好きだよ、シャーリー」
そう言うと、ルッキーニはにっこりと笑った。
あたしとルッキーニは、しばらく抱き合ったままだった。
次の日。
「はいシャーリー、あーん」
「あーん」
パクッ、とじゃがいもを1口でほおばる。
「ほら、お返しだ。あーん」
「うにゃーん」
ルッキーニにも食べさせる。
そして、2人で笑う。
あたしとルッキーニは、ずっと一緒だ。
不器用なあたしだけど、幸せにするってことだけは保証できる。
だからさ、あたしについてきてくれよ、ルッキーニ。
――その頃
「おお、熱いねえあの2人」
「まったく、人前で恥ずかしいとは思わないのか」
「ほいトゥルーデ、あーん」
「な、何をするんだエーリカ!」
「……食べてくれないの?」
「は、恥ずかしいじゃないか!」
「……食べてくれないんだ」
「……あ、あーん」
END