エイラの献身


「エイラ、サーニャの胸を揉ませて!」
「・・・は?」
部屋に入ってくるなり、手を合わせて妙な頼みごとをし始めたエーリカの姿にエイラは片
眉を上げた。
「どうゆうことだよ、いきなり」
「だから、サーニャの胸を揉ませてってこと」
エーリカは下げていた頭を少し上げ、エイラの顔をチラリと見た。
「サ、サーニャの胸を揉みたいならサーニャ本人に頼めばいいだろ。ま、サーニャが“い
い”って言うわけないだろうけどな」
エイラは腕を組みながら何故か自慢げに話す。
「今日何の日か知ってる?」
エーリカは背筋を真っ直ぐに戻しながら尋ねる。
「え? ・・・ごめん、わかんない」
「私の誕生日」
「そうなのか。おめでとな」
「で!」
「で?」
「だ~か~ら~」
「・・・誕生日だから揉ませろってことか?」
「そうそう、そういうこと」
エーリカはニコニコとした顔を怪訝な表情をするエイラに向ける。
「私の誕生日なんだからさ~、今日ぐらいは認めてよ」
「認めろったって・・・だからサーニャに聞けよ・・・」
「サーニャが“いい”って言ってもエイラは邪魔するでしょ?」
「う! いや・・・まぁ・・・その・・・」
エイラは頭を掻きだし、その視線は思わず宙をさまよう。
「サ・・・サーニャが“いい”って言うなら・・・」
「いいの!!」
エーリカの瞳がキラキラと輝く。
「えっと・・・それは・・・」
(いくら、ハルトマン中尉のお願いだからって、サ、サーニャもさすがに断るよな・・・。
あぁ、で、でも、誕生日ってのを理由にされて、つ、強く頼みこまれたら・・・い、“い
い”って言っちゃうかも・・・)
エイラの頭の中では、エーリカに頼みこまれて首を縦に振るサーニャの映像が想起された。
(いや、多分それはない! 絶対に無い!)
そうは考えるものの、“もしも”という事態もありうる。そうなったらどうなるか?
(ま、万が一にだぞ、サ、サーニャの胸が揉まれるとしても、ふ、服の上からだよな・・・
は! ま、まさか直接! い、いくらハルトマン中尉でもそれは・・・いや、ハルトマ
ン中尉だからこそありうるのか・・・)
エイラはエーリカの顔をチラリと見る。そうして何故かエイラの頭の中では、はじらいと
恍惚の間に心揺れ、顔を赤らめる上半身が露わとなったサーニャの姿と、サーニャの胸を
揉む、何故かこちらも上半身が裸となったエーリカの姿を思い浮かべられ、
(サ、サーニャで変な想像すんなぁぁぁ)
と、その考えを打ち消そうと頭をブルブルと思い切り振った。

「で、いいの? ダメなの?」
エーリカの冷めた目が、奇妙な動きを取り続けるエイラに向けられる。
「う・・・、そ、その・・・やっぱりダメ!!」
当然の答えだった。だが、エイラの力強い答えにエーリカはがっくりと肩を落とし、うら
めしそうな目でエイラを見つめる。
「そ、そんな目で私を見んなよ・・・」
エイラがそう言うと、エーリカは何故か二の腕を目元へとやり、ぐすぐすと鳴き声を漏ら
した。
「な、なんだよ急に・・・」
「ぐす、そりゃ、勝手に揉もうとすれば怒られてさ、ぐす・・・許可を取ろうとしたら断
わられて、泣きたくもなるよ・・・」
「変な嘘泣きはやめろよ・・・、泣き落しになんて応じないぞ・・・」
エイラが呆れた表情でそう言うと、エーリカは顔を上げ火を吐いた。
「じゃあ、この雁字搦めの状態をどうすればいいのさ!」
「知るか!」
「だいたい、エイラだってあんまり人のことは言えないじゃん」
「それは・・・まぁ・・・そうだけど・・・」
すねるエーリカの問いかけにエイラは思わず黙り込んでしまった。
確かに人のことをとやかく言えるような立場ではなかったが、それとこれとは話が別だ。
どうにかサーニャの胸をエーリカの魔の手から守らなければならない。そう思って焦るあ
まり、エイラはついつい心にも無いことを口走ってしまった。
「そ、そんなに揉みたいっていうんなら、私のを揉めばいいだろ!」
「・・・え?」
「・・・あ!」
「え、え! いいの、いいの?」
「え・・・と・・・」
エイラは何となく口にしてしまった自分の言葉に戸惑う。だが、
(でも・・・これで、サーニャの胸が揉まれずに済むなら・・・)
そう考えると、
「・・・サ、サーニャのを揉まないって約束すんなら・・・」
と、エーリカにそう念を押し覚悟を決めた。エイラの気概を感じたエーリカは、神妙な
顔つきをしながらコクリとその言葉にうなずいた。


対面する二人の距離は僅かなもので、エイラの胸はエーリカの手が伸びればすぐの場所に
あった。
「その、キョ、今日だけだかんな!」
そう言うと、エイラは直立したままギュっと目をつぶった。
他人のは揉み慣れているものの、流石に自分のを揉まれる経験はほとんどなかった。
頬はわずかに赤みを帯び、体もかすかに震えてくる。エイラはその震えを抑えようと、拳
をギュッと握る。早く終わってくれることを願って。しかし、
(・・・あれ?)
予想に反して、自身の胸に何も起こらないことを不審に思ったエイラは薄くまぶたを開い
た。視界には、今にも揉みかかろうとするものの、その格好のまま何故か固まっているエ
ーリカの姿が映る。
「・・・何やってんだよ?」
「いや、いざいいって言われてタ、タイミングが・・・」
お互いに見つめ合ったままの姿で、妙な時間が流れる。
「や、やるならさっさとしろよ」
「うん、じゃあ・・・いただきます」
「そんな言い方はやめろぉぉぉぉ」
エイラの叫びが部屋中に響いた。


「エイラ?」
「うわぁ!!」
突然の訪問者に二人は思わず飛びのき、エーリカは出しかけた手を体の後ろに隠し、エイ
ラは思わず自分の胸を手で隠した。
「何してるの?」
サーニャの怪訝な眼がエイラに向けられる。
「え? あっ・・・なっ、なんでもない」
エイラは苦笑いを浮かべながら、胸から急いで外した両手をサーニャに向けて振った。
「で? 何か用か?」
「ハルトマンさんを探してて、でもここにいたから」
「えっ、私に用?」
エーリカは自分の顔を指差す。
「はい・・・これ、お誕生日プレゼントです。」
そう言って、サーニャは包みをエーリカに手渡した。
「あの・・・中身はお洋服です。たぶん似合うと思いますけど・・・」
「あっ、ありがとう」
エーリカは素直に礼を述べる。
「じゃあ・・・私はこれで・・・」
サーニャが部屋を出ていくと、エイラとエーリカだけがぽつんと部屋に取り残された。
「・・・サーニャっていい子だね・・・」
「・・・そうだろ」
そう言いながらエイラは、さっきの続きはどうするのかとチラリとエーリカの顔をうかが
う。その視線の意味に気付いたエーリカは、
「今日はもういいよ、こんなプレゼントももらっちゃったしさ」
そう言って、包みをエイラに向ける。それを聞いて、
「そっ、そうか」
とエイラは安心に胸をなでおろした。
「それにさ、誕生日ってのを理由にするって、やっぱり卑怯っぽいよね」
「そうだな」
エーリカの言葉にエイラはコクコクとうなずく。
「やっぱりさ・・・」
「ん?」
エーリカの意味ありげな言い方に、エイラの視線は思わずエーリカの顔に注がれる。
「エイラの警戒網をくぐり抜けてこそ価値があると思うんだ! サーニャの胸を揉むこと
ってさ!!」
そう言って、エイラの瞳を見つめ返すエーリカの瞳はキラキラと輝き新たな決意に燃えて
いるように見えた。
「そんな変な目標見つけんなよ! そ、それに、私がいる限り、サ、サーニャには指一本
触れさせないかんなぁぁぁ!!」
エイラの叫びは、部屋の中にいつまでもエコーし続け、言葉を発した本人は肩で息をして
いる。
「あのさ・・・」
「なんだよ」
「今の声、廊下にまで聞こえたんじゃない?」
「・・・あ!」
エーリカの指摘を受けるなり、エイラは部屋の扉へと走り寄って、いきおいよくその扉を
開けると、
「い、今のは・・・その、なんていうか、いきおいで・・・いや! そ、そればっかりじ
ゃないけど・・・」
と、誰に言うわけでもなく言い訳を始めた。
エーリカはその姿を見ながら、ただニヤニヤとしているだけだった。

fin


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